店舗やオフィスから退去するときは、解約通知を出して荷物を運び出せば終わりではありません。
賃貸借契約の確認、解約予告、原状回復、指定業者との調整、設備やリース品の整理、ライフラインの終了、明け渡し、敷金・保証金の精算まで複数の作業がつながっています。
特に注意したいのは、解約通知を出した時点から退去までの残り時間が確定していくことです。
居抜きで後継テナントを探したい、原状回復見積を確認したい、厨房機器やオフィス家具を売却したいという場合も、退去期限までに実行できなければ選択肢を失います。
このページでは、会社の廃業や税務申告そのものではなく、店舗・オフィスという事業拠点を退去するための実務に絞って整理します。
退去を決めたら最初に賃貸借契約書を確認する
最初に確認するのは工事会社の見積ではなく、現在の賃貸借契約です。
少なくとも次の項目を確認してください。
- 契約期間
- 普通借家か定期借家か
- 中途解約ができるか
- 解約予告期間
- 解約通知の方法
- 違約金・解約金等の規定
- 原状回復の範囲
- スケルトン返しの有無
- 指定業者に関する規定
- 造作・設備の扱い
- 敷金・保証金
- 償却に関する規定
- 明け渡し条件
契約書のほかに、原状回復仕様書、工事区分表、館内工事規則などの別紙が存在することもあります。
一般的な解約予告期間や原状回復の相場より、自社が締結している契約の内容を先に確認します。
「退去したい日」と「解約できる日」は同じとは限らない
例えば3月末に退去したいと思っても、その日を自由に契約終了日にできるとは限りません。
賃貸借契約に解約予告期間が定められていれば、その条件に従って解約通知を行う必要があります。
また、期間の途中で自由に中途解約できる契約なのか、違約金等の条件があるのかも確認します。
そのため移転・閉店の予定が出た段階で、
希望する退去日 → 契約上必要な通知期限
を逆算してください。
解約通知は契約で指定された方法を確認する
解約の意思を電話で伝えただけでは、契約上の正式な解約通知として扱われない場合があります。
契約によって、
- 所定の解約通知書
- 書面
- 管理会社の指定フォーム
- その他指定された方法
などが決められていることがあります。
通知先も、貸主なのか管理会社なのか確認します。
提出後は、
- 提出日
- 契約終了予定日
- 明け渡し予定日
- 受領されたことが分かる記録
を残しておくと、後から日付について認識が食い違うのを防ぎやすくなります。
解約通知を出す前に居抜きの可能性を確認した方がよい場合がある
店舗の場合は、解約通知を出す前後のタイミングも重要です。
居抜きで後継テナントへ引き継ぎたい場合、後継者を探せる期間が短すぎると成立しにくくなります。
一方、解約通知を遅らせれば、その間の賃料負担も続きます。
そこで、
- 貸主が居抜き退去を認める可能性があるか
- 後継テナントを探せる期間
- 後継者が決まらなかった場合に原状回復へ切り替える期限
を確認してから全体スケジュールを決めます。
詳しくは居抜き・造作譲渡ガイドを確認してください。
退去日までのスケジュールを作る
解約日が決まったら、次の日付を別々に管理します。
- 最終営業日
- 引越し日
- 設備・什器搬出日
- 残置物撤去日
- 原状回復工事開始日
- 原状回復工事完了予定日
- 貸主・管理会社の確認日
- 是正工事予備日
- 鍵の返却日
- 契約終了日・明け渡し日
「閉店日」や「引越し日」だけでは退去工程を管理できません。
工事が終わった後に貸主側の確認が入り、修正を求められる可能性も考えて余裕を持たせます。
原状回復の範囲を確定する
契約書を確認したら、貸主・管理会社と原状回復範囲を確認します。
主な確認事項は、
- 何を撤去するのか
- 何を残してよいのか
- 床・壁・天井をどこまで戻すか
- 設備をどこまで復旧するか
- スケルトン返しなら具体的にどの状態か
- 指定業者を使う必要があるか
- B工事・C工事をどう区分するか
です。
「原状回復してください」「スケルトンにしてください」という言葉だけでは、具体的な工事範囲が分からない場合があります。
可能な範囲で図面や書面で確認しておくと見積を照合しやすくなります。
詳しくは原状回復ガイドで解説しています。
指定業者がいるか確認する
オフィスビルや商業施設では、退去工事の全部または一部について指定業者が設定されていることがあります。
その場合は、
- どの工事が指定対象か
- 借主側で業者を選べる範囲
- B工事に該当する範囲
- 見積取得までの日数
- 工事申請期限
- 施工可能日時
を確認します。
指定業者だからといって、見積の工事範囲・数量・仕様を確認できないという意味ではありません。
詳しくはB工事・指定業者ガイドを確認してください。
敷金・保証金はいくら戻るか、契約を確認する
店舗・オフィスでは、契約時に敷金や保証金を預けていることがあります。
退去時には、
- 預けている金額
- 償却の規定
- 未払い賃料等の有無
- 原状回復費との精算方法
- その他契約に基づく控除項目
- 返還時期
を確認します。
民法上の「敷金」は名称だけでなく、賃貸借から生じる金銭債務を担保する目的で貸主へ交付した金銭として定義されています。
その性質を持つ敷金については、賃貸借が終了し物件が返還された場合などに、賃貸借に基づく債務を差し引いた残額を返還する仕組みが定められています。
ただし、実際の店舗・オフィス契約では「保証金」「償却」など独自の条件が設定されていることがあります。
「保証金を○か月預けているから、その金額がそのまま戻る」と考えず、契約書の精算条件まで確認してください。
敷金・保証金を原状回復費と同じものとして考えない
例えば保証金100万円を預けていて、原状回復見積が80万円だったとしても、必ず20万円返ってくるという単純な計算になるとは限りません。
契約上、
- 保証金の償却
- 未払い賃料等
- 原状回復費
- その他の精算項目
が存在する可能性があります。
原状回復費と敷金・保証金は、それぞれの根拠を分けて確認します。
原状回復費を「敷金から引かれるから」と放置しない
敷金・保証金の範囲内で工事費が収まる場合、現金を追加で振り込まなくてよいことがあります。
しかし、それは原状回復費が発生していないという意味ではありません。
本来返還される可能性があった資金が減るため、事業者にとっては同じく退去コストです。
請求書が届く場合だけでなく、敷金・保証金から控除される費用も内容を確認することが重要です。
リース・レンタル契約を一覧にする
店舗・オフィス内にある機器には、リースやレンタルで利用しているものがあります。
例えば、
- 複合機
- 電話設備
- POS
- PC・サーバー関連機器
- 厨房機器
- 美容機器
- ウォーターサーバー
- 自動販売機
などです。
退去前に、各契約について、
- 移設する
- 返却する
- 契約を終了する
- 新拠点でも継続する
のどれにするか確認します。
所有物ではない機器を買取業者へ売却したり、撤去業者へ廃棄させたりしないよう注意します。
設備・什器は退去前に整理する
自社所有の設備や家具については、
- 新拠点へ移設するもの
- 居抜きで残すもの
- 売却するもの
- 廃棄するもの
に分けます。
売却できる設備を先に処分してしまうと、資産価値を失ったうえに処分費までかかる可能性があります。
厨房機器・店舗什器・オフィス家具については設備・什器買取ガイドで詳しく整理しています。
残置物と内装解体の範囲を分ける
退去前には、家具や備品などの残置物撤去と、造作壁や床などの内装解体が発生することがあります。
これらを別業者へ発注する場合は、
- 誰が家具を搬出するか
- 誰が設備を取り外すか
- 誰が内装を解体するか
- 誰が廃棄物を処理するか
を整理します。
同じ設備に複数業者の撤去費が入らないよう、見積範囲を照合します。
詳しくは撤去・廃棄ガイドを確認してください。
電気・ガス・水道は工事が終わる前に止めない
退去するからといって、最終営業日の翌日にすべてのライフラインを止めればよいとは限りません。
原状回復工事で、
- 電気
- 水道
- 場合によってはガス
が必要になることがあります。
停止日は工事会社や管理会社と確認して決めます。
閉店日、工事終了日、契約終了日は別の日になる可能性があります。
電話・インターネットも早めに確認する
オフィス移転では、固定電話やインターネット回線の移設に時間がかかることがあります。
旧拠点側では、
- 契約終了日
- 撤去工事の有無
- レンタル機器返却
を確認します。
新拠点へ移転する場合は、新回線の開通日も逆算します。
引越し当日にインターネットが利用できないと事業運営に直接影響するため、オフィス移転では早めに進める項目です。
看板・広告物・外部表示も忘れず確認する
店舗の場合、室内だけでなく、
- 袖看板
- 壁面看板
- 入口サイン
- 窓面シート
- 案内板
などを設置している場合があります。
これらが借主設置物なら、契約終了までに撤去・復旧を求められることがあります。
看板撤去が原状回復見積に含まれているかも確認します。
営業許可や届出がある業種は、所管機関への手続きを確認する
飲食店、美容所、診療所など、営業に許可・届出等が関係する業種では、閉店・移転に伴って所管機関への手続きが必要になる場合があります。
必要な手続きは業種、自治体、移転なのか廃止なのかによって異なります。
そのため、
「店舗を退去したから自動的に許可関係も終了する」と考えず、各制度の所管機関へ確認してください。
このサイトでは個別業種の許認可手続きを一律に断定せず、店舗退去に必要な確認項目として扱います。
会社の登記・税務・社会保険等は別工程として管理する
本店や事業所を移転する場合は、住所変更に関連して登記、税務、社会保険、労働保険などの手続きが必要になることがあります。
また会社自体を廃業する場合は、単なる店舗退去とは別に、法人の解散・清算や税務等の手続きが関係することがあります。
これらは内容によって専門的な判断が必要になるため、このサイトでは詳細な法律・税務手続きそのものを中心テーマにはしません。
必要に応じて司法書士、税理士、社会保険労務士、弁護士、行政機関等へ確認してください。
明け渡し前に貸主側と確認すること
原状回復工事が終わったら、貸主・管理会社による確認が行われることがあります。
その前に、
- 契約上の原状回復工事が完了しているか
- 借主所有物が残っていないか
- 貸主所有設備を誤って撤去していないか
- 工事で破損した箇所がないか
- 必要な清掃が完了しているか
などを確認します。
可能であれば、工事完了時の室内を写真で記録しておきます。
退去立会いではその場で分からない内容を無理に判断しない
明け渡し時に、修繕や追加工事について指摘される場合があります。
その場で内容が判断できない場合は、
- 何が不足しているのか
- 契約上の根拠は何か
- どの部分を修正するのか
を確認します。
追加工事が必要なら、明け渡し期限に間に合うかも同時に確認します。
鍵・カード・入館証を返却する
退去時には、
- 鍵
- カードキー
- セキュリティカード
- 入館証
- 駐車場関係のカード
など、貸主・管理会社から貸与されているものを確認します。
社員へ複数枚配布している場合は、退去直前に探すのではなく早めに回収状況を確認しておくと安全です。
明け渡し後に敷金・保証金の精算を確認する
物件を返還した後、契約条件に従って敷金・保証金等の精算が行われます。
返還明細が届いたら、
- 預託していた金額
- 償却額
- 原状回復費
- 未払い費用
- その他控除項目
- 最終的な返還額
を確認します。
不明な控除があれば、項目と算出根拠を確認してください。
退去完了まで保存しておきたい資料
少なくとも次の資料は、精算まで保管します。
- 賃貸借契約書
- 特約・別紙
- 解約通知書
- 原状回復見積書
- 工事区分表
- 工事契約・発注書
- 貸主・管理会社とのやり取り
- 工事前後の写真
- 明け渡し関係書類
- 敷金・保証金の精算書
解約通知を出したからといって、賃貸借契約書をすぐ処分しないようにします。
店舗・オフィス退去のチェックリスト
契約確認
- 契約期間を確認した
- 中途解約条件を確認した
- 解約予告期間を確認した
- 解約通知方法を確認した
- 違約金等の条件を確認した
- 敷金・保証金の精算条件を確認した
原状回復
- 原状回復範囲を確認した
- スケルトン返しの範囲を確認した
- 指定業者の有無を確認した
- B工事・C工事を確認した
- 見積内容を確認した
- 工期を確認した
設備・什器
- 新拠点へ移設するものを分けた
- 売却するものを分けた
- 居抜きで残すものを分けた
- リース・レンタル品を確認した
- 廃棄するものを決めた
各種契約
- 電気を止める日を確認した
- ガスを止める日を確認した
- 水道を止める日を確認した
- 電話を確認した
- インターネット回線を確認した
- 警備・セキュリティ契約を確認した
- 保守契約を確認した
- リース契約を確認した
明け渡し
- 工事完了確認を行った
- 室内写真を残した
- 残置物がないか確認した
- 鍵・カード類を回収した
- 貸主側の確認を受けた
- 明け渡しを完了した
精算
- 最終賃料等を確認した
- 原状回復費を確認した
- 敷金・保証金の精算明細を確認した
- 返還額と返還時期を確認した
退去時に起きやすい順番の失敗
解約通知を出してから契約を詳しく読む
通知を出す前に、原状回復、居抜き、敷金・保証金なども含めて確認します。
最初に全部処分する
売却・移設・居抜きで残せるものを確認してから廃棄します。
原状回復見積を退去直前に確認する
見積の再確認や工事範囲の調整ができる時間を残します。
閉店日と明け渡し日を同じものとして扱う
閉店後に設備搬出・内装解体・原状回復が必要になることがあります。
敷金から引かれる費用だから確認しない
敷金からの控除も退去コストです。明細を確認します。
退去するときは「契約→残すもの→工事→明け渡し」の順で考える
店舗・オフィス退去の全体は、次の順番で整理すると分かりやすくなります。
- 契約を確認する
- 退去期限を確定する
- 居抜き・移設・売却で残せるものを確認する
- 本当に撤去するものを決める
- 必要な原状回復工事を行う
- 明け渡す
- 敷金・保証金等を精算する
店舗閉店の全体像は店舗閉店ガイド、オフィスの場合はオフィス退去・移転ガイドも確認してください。
目的別に詳しく確認する
- 店舗閉店の全体工程を確認したい → 店舗閉店ガイド
- オフィス移転・退去の全体工程を確認したい → オフィス退去・移転ガイド
- 原状回復の範囲・見積を確認したい → 原状回復ガイド
- B工事・指定業者を確認したい → B工事・指定業者ガイド
- 居抜きで退去できるか確認したい → 居抜き・造作譲渡ガイド
- 設備・什器を売却したい → 設備・什器買取ガイド
- 内装解体・廃棄を確認したい → 撤去・廃棄ガイド
解約通知を出す前から、退去コストは決まり始めている
退去費用は、原状回復工事の見積が届いたときに初めて決まるものではありません。
どのタイミングで解約するか、居抜きを検討するか、設備を売るか、どこまで指定工事なのかによって、最終的な支出は変わります。
まだ工事や処分を発注していない段階なら、比較できる選択肢も多く残っています。
