居酒屋を閉店・移転するとき、厨房設備や客席をすべて撤去して原状回復する前に、現在の店舗を居抜きで次の出店者へ引き継げる可能性があります。
居酒屋は厨房だけでなく、排気ダクト、グリストラップ、ガス・給排水、カウンター、テーブル席、個室など、飲食営業のために多くの設備・造作を整えている店舗があります。
次の出店者がこれらを再利用できれば、スケルトン状態から店舗を作る場合に比べ、開業工事を減らせる可能性があります。
一方で、「厨房機器がたくさん残っている」「内装工事に多額の費用をかけた」という理由だけで高く売却できるとは限りません。
居酒屋の居抜き売却では、次の借主が既存の厨房・排気・客席・設備をどこまでそのまま使えるかを整理して見せることが重要です。
居酒屋の居抜き売却は一般店舗と何が違う?
居酒屋でも、基本的な居抜き売却の流れは一般店舗と同じです。
現在の借主が所有する内装・設備・什器などを造作として譲渡し、後継テナントは貸主との新たな賃貸借契約等を成立させます。
ただし、居酒屋では買い手が確認する設備が多くなりやすい点が特徴です。
たとえば、
- 業務用冷蔵庫・冷凍庫
- 製氷機
- フライヤー
- 焼き台・ガスレンジ
- 食器洗浄機
- シンク・作業台
- 排気フード・ダクト
- グリストラップ
- 給排水設備
- ガス・電気設備
- カウンター
- テーブル・椅子
- 掘りごたつ
- 個室造作
- 空調
- 看板
などがあります。
厨房と客席の両方を次の店舗で再利用できるほど、居抜きとして検討しやすい状態になります。
店舗売却全体の基本は、店舗を居抜きで売却する方法も参照してください。
居酒屋の居抜き査定で確認したい8項目
1.厨房機器のメーカー・型番・年式・動作
居酒屋の厨房には多数の機器があるため、査定前に一覧を作ります。
| 確認項目 | 例 |
|---|---|
| 機器名 | 冷蔵庫、製氷機、フライヤー、焼き台等 |
| メーカー | 銘板で確認 |
| 型番 | 査定・仕様確認に使用 |
| 年式 | 製造年・製造番号 |
| 動作状態 | 正常・故障・不明 |
| 所有者 | 自社・貸主・リース・貸与等 |
次の買い手が同じ居酒屋やダイニング業態なら、厨房一式を再利用できること自体が価値になる場合があります。
ただし、機器が古い、故障している、買い手のメニューに合わないといった場合は、残っていることが必ずしもプラスにはなりません。
閉店前で電気・ガス・水道を使用できるうちに、機器の動作と銘板を記録しておくと査定を進めやすくなります。
2.排気フード・ダクトと臭気対策
焼き物、揚げ物などを扱う居酒屋では、排気設備が買い手側の重要な確認項目になります。
確認したいのは、
- 排気フードの位置
- ダクトの経路
- 排気口の位置
- ファンの状態
- ダクトの清掃状態
- 油汚れ
- 臭気に関する過去の問題
などです。
「現在も居酒屋として営業している」という情報だけでは、次の買い手の調理内容に必要な排気能力があるかまでは分かりません。
炭火、鉄板、焼鳥など、現在より煙や臭気が多くなる業態へ変更する場合は、追加工事が必要になる可能性があります。
売主側で将来の営業可否を保証するのではなく、現在の設備仕様・経路・状態をできるだけ正確に伝えます。
3.グリストラップ・給排水の状態
飲食店では給排水設備も重要です。
特に居酒屋では複数のシンク、食器洗浄機、厨房機器等を使用するため、買い手は既存設備をどこまでそのまま使えるか確認します。
確認項目には、
- 給水位置
- 排水位置
- シンク数
- 給湯設備
- グリストラップの有無
- グリストラップの容量・状態
- 排水詰まり・漏水等の不具合
があります。
グリストラップがあるというだけでなく、清掃状態や実際に利用できる状態かも見られます。
内見前に通常の清掃で整えられる部分は整理しておくと、買い手も現状を判断しやすくなります。
4.ガス容量・電気容量を整理する
居酒屋は厨房機器の種類が多く、ガス・電気設備の条件が次の業態選択へ影響する場合があります。
分かる範囲で、
- ガス設備
- メーター・配管
- 分電盤
- 契約電力
- 三相電源の有無
- 厨房機器ごとの電源
を整理します。
既存の居酒屋より火力の大きな調理設備を使いたい買い手では、追加工事が必要になる可能性があります。
反対に、既存設備で営業計画を組める買い手であれば、工事負担を抑えやすくなります。
5.カウンター・テーブル・個室など客席造作
居酒屋では厨房だけでなく、客席そのものも居抜き価値の一部になります。
たとえば、
- カウンター席
- 2名・4名テーブル
- 掘りごたつ
- 小上がり
- 個室
- 可動式間仕切り
- 宴会対応席
などです。
同じ面積でも、客席構成によって次の買い手が想定する営業スタイルは変わります。
内見資料には、総席数だけでなく、カウンター何席、テーブル何席、個室何室という形で分けて記載すると判断しやすくなります。
また、固定造作なのか、移動・撤去できる家具なのかも整理します。
6.酒類設備・リース・貸与品の所有権を確認する
居酒屋では、店舗内にある設備がすべて自社所有とは限りません。
特に注意したいのが、
- ビールサーバー
- 一部の冷蔵設備
- 製氷・飲料関連設備
- POS
- 通信機器
- リース厨房機器
などです。
酒類メーカー、卸会社、リース会社等から貸与されている設備であれば、現在の借主が造作として自由に売却することはできません。
募集前に、設備を次のように分けます。
| 区分 | 対応 |
|---|---|
| 自社所有 | 譲渡候補 |
| 貸主所有 | 貸主へ確認 |
| リース | リース会社へ確認 |
| 貸与品 | 所有者へ返却・承継可否を確認 |
| 所有者不明 | 契約・過去資料を確認 |
買い手へ「全部残します」と案内した後で譲渡できない設備が判明すると、条件を組み直すことになります。
7.貸主条件・営業時間・深夜営業条件を確認する
居酒屋では、「飲食店可」「重飲食可」といった募集表示だけで次の営業ができると判断しない方が安全です。
物件ごとに、
- 認められる業態
- 営業時間
- 深夜営業
- 臭気・煙
- 騒音
- 看板
- ゴミ出し
- 設備変更
- 貸主による後継者審査
などの条件を確認します。
現在の借主が夜遅くまで営業している場合でも、後継者が同じ条件で当然に営業できるとは限りません。
また、深夜に酒類を提供する営業では、営業方法によって警察への届出等が必要になる場合があります。
東京都の警視庁では、午前0時から午前6時に酒類を提供する一定の飲食店営業について「深夜における酒類提供飲食店営業」の届出制度を案内しています。
居酒屋ならすべて同じ届出が必要という意味ではないため、買い手側は営業内容・所在地に応じて所轄警察等へ必要手続きを確認します。
貸主との居抜き調整については、居抜き退去で貸主の承諾を得る方法も参照してください。
8.不成立時の原状回復へ切り替える期限を決める
居酒屋は厨房、ダクト、グリストラップ、客席造作など撤去項目が多く、通常退去へ切り替えた場合の工事期間が必要です。
そのため、居抜き売却を退去期限ぎりぎりまで待ち続けることは避けます。
不成立の場合には、
- 厨房機器の売却・搬出
- リース・貸与品の返却
- 残置物処分
- 客席造作撤去
- 厨房設備撤去
- 内装解体
- 原状回復
- 貸主検査
- 是正工事
が必要になる可能性があります。
解約日から必要期間を逆算し、「この日までに買い手が固まらなければ通常退去へ切り替える」という期限を設定しておきます。
居抜き募集を始める時期については、居抜き売却はいつから始める?を確認してください。
居酒屋の造作譲渡価格は何で決まる?
居酒屋の居抜き売却に、全国一律の「坪○万円」という価格基準はありません。
造作価格へ影響するのは、たとえば次のような要素です。
- 厨房機器の状態・年式
- 排気設備
- グリストラップ
- 給排水
- ガス・電気設備
- 空調
- 客席造作
- 席数
- 他業態への転用しやすさ
- 立地
- 賃料・保証金等の賃貸条件
- 後継テナント需要
- 売却までに残された期間
開業時に高額な内装費をかけていても、次の出店者が大半を撤去するのであれば、その工事原価がそのまま譲渡価値になるわけではありません。
反対に、内装費そのものは高額でなくても、厨房、排気、給排水、客席をそのまま使える店舗なら、買い手にとって開業工事を減らせる可能性があります。
造作価格全般は、造作譲渡価格の決め方も参照してください。
同じ居酒屋へ売却した方が高くなりやすい?
同じ居酒屋業態なら、既存の厨房・客席・排気設備を利用できる可能性が高くなる場合があります。
ただし、売却先を「居酒屋だけ」に限定する必要があるとは限りません。
既存設備によっては、
- 和食店
- ダイニングバー
- バル
- 焼鳥店
- 中華料理店
- アジア料理店
- レストラン
など、近い設備条件を必要とする他業態でも活用できる可能性があります。
実際に居酒屋から別の飲食業態へ引き継がれた売却事例もあります。
「現在と同じ業態か」より、既存設備と客席を次の営業計画でどこまで使えるかで候補を考えます。
居酒屋の査定前に準備しておく資料
査定会社や買い手が判断しやすいよう、次の資料を整理します。
- 店舗平面図
- 厨房図面
- 客席レイアウト
- 店内写真
- 厨房写真
- 主要厨房機器一覧
- メーカー・型番・年式
- 設備の銘板写真
- ダクト・排気設備の情報
- グリストラップの情報
- ガス・電気・給排水情報
- リース・貸与品一覧
- 席数内訳
- 賃貸借契約の原状回復条件
- 解約予告日・退去期限
厨房写真だけでなく、カウンター、テーブル配置、個室、入口から客席までの導線なども撮影します。
居抜きを検討中なら厨房機器を先に売らない
閉店を決めた後、換金できる厨房機器をすぐ買取会社へ売却したくなる場合があります。
ただし、居抜きとして買い手を探すのであれば、主要厨房機器を先に撤去すると店舗全体の価値が変わる可能性があります。
たとえば、冷蔵庫、製氷機、フライヤー等が一式残っていることを前提に内見したい買い手に対し、機器を先に売却すれば追加投資が必要になります。
進め方としては、
- 居抜き可能性を確認する
- 譲渡対象設備を整理する
- 店舗全体の査定をする
- 居抜き募集を行う
- 居抜きで残さない設備を個別買取へ回す
- 買取できない物を処分する
という順番にすると選択肢を残せます。
厨房機器を個別売却する場合は、閉店時の厨房機器買取も参照してください。
客席と厨房は清掃・状態確認をしてから内見へ
居酒屋では油汚れや臭気が買い手の判断へ影響する場合があります。
大規模な修繕をしてから売る必要はありませんが、通常の営業清掃で改善できる部分は整えておく方が現状を確認してもらいやすくなります。
特に、
- 厨房床
- 排気フード周辺
- 冷蔵庫内部
- グリストラップ周辺
- カウンター
- テーブル
- 個室
- トイレ
などを整理します。
故障している機器や設備不具合は隠さず、買い手が追加工事を見積もれるよう伝えます。
居酒屋の居抜き売却と事業売却は別
「居酒屋を売る」という情報の中には、造作譲渡ではなくM&A・事業譲渡も含まれます。
| 居抜き・造作譲渡 | 事業譲渡等 |
|---|---|
| 内装・厨房設備・什器等を中心に引き継ぐ | 事業そのものの承継を扱う |
| 後継者は自らの店舗として営業を始める形が中心 | 屋号・顧客・従業員・取引関係等を含む場合がある |
| 造作と賃貸借条件の調整が中心 | 財務・契約・事業価値等の確認も必要 |
この記事では、現在の内装・設備・什器を残して退去する居抜き・造作譲渡を扱っています。
居酒屋の居抜き売却についてよくある質問
居酒屋は居抜きで売却しやすいですか?
一律には言えません。
厨房、排気、グリストラップ、客席造作等を次の買い手が再利用できれば価値になる可能性がありますが、立地、賃料、貸主条件、設備状態、募集期間等でも成立しやすさは変わります。
ビールサーバーも造作譲渡できますか?
自社所有であれば譲渡候補になり得ます。
ただし、酒類メーカーや卸会社等から貸与されている設備であれば、自社の判断で売却できません。
所有者を確認してください。
リース中の厨房機器は売れますか?
自社に所有権がない場合、借主の判断だけで造作譲渡することはできません。
リース会社へ返却・買取・契約承継等の条件を確認します。
「重飲食可」の店舗なら次の居酒屋も営業できますか?
表示だけでは判断できません。
貸主が認める業態、排気・臭気・火力、営業時間、設備条件等を具体的に確認してください。
後継テナントについて改めて審査・承諾が必要になる場合もあります。
午前0時以降も酒類を提供できますか?
物件の営業時間条件に加えて、営業方法によって警察への届出等が必要になる場合があります。
後継者は所在地と営業内容をもとに、所轄警察等へ必要手続きを確認してください。
高額な内装工事をした店舗なら高く売れますか?
工事原価だけでは決まりません。
次の買い手が内装・設備をそのまま利用できるか、追加工事がどの程度必要か、賃貸条件や募集期限なども造作価格へ影響します。
居抜きなら原状回復費はゼロになりますか?
必ずゼロにはなりません。
貸主が残置を認めない設備、看板、私物、貸主指定工事、部分補修等が残る場合があります。
また、買い手が決まらなければ契約上の原状回復を行う必要が生じる可能性があります。
営業中でも売却募集できますか?
営業中から査定・募集を進められるサービスはあります。
従業員、取引先、顧客等へ閉店情報が早期に伝わることを避けたい場合は、匿名募集や情報公開範囲を確認します。
居酒屋は「厨房+排気+客席」を一体で見せて売る
居酒屋を居抜きで売却するときは、厨房機器の中古価格だけで店舗価値を考えません。
買い手が確認したいのは、
- 厨房機器を再利用できるか
- 排気・ダクトを利用できるか
- グリストラップ・給排水を使えるか
- ガス・電気設備が営業計画に合うか
- 客席造作を活かせるか
- 譲渡設備の所有権が整理されているか
- 希望する営業時間・業態を貸主等が認めるか
- 退去期限までに契約・引渡しできるか
という点です。
居酒屋は厨房・設備だけでなく、カウンターや個室を含む客席まで含めて店舗として完成していることがあります。
閉店を決めた段階で設備を先に撤去・処分せず、まず現在の店舗をそのまま利用できる買い手がいないか確認してから、居抜き、設備買取、原状回復の順番を決めると選択肢を残しやすくなります。
