店舗やオフィスの退去が決まり、原状回復の見積を取ると、「この金額は高いのか」「坪単価はいくらなら妥当なのか」と判断に迷うことがあります。
ただし、事業用物件の原状回復費用は、単純に「坪数×相場」で決まるものではありません。契約でどの状態まで戻すことになっているか、撤去する造作や設備がどれだけあるか、貸主指定の施工会社を使う必要があるか、夜間工事や搬出条件があるかといった条件で金額は大きく変わります。
そのため、最初に確認したいのは相場表よりも、契約上の返還状態と、見積に含まれている工事範囲が一致しているかです。
原状回復費用は「坪単価×面積」だけでは決まらない
原状回復工事では坪単価が目安として使われることがあります。しかし、坪単価は最終的な工事総額を床面積で割った数字でもあり、工事内容が違えば同じ面積でも大きな差が出ます。
たとえば、同じ50坪でも、ほとんど造作のないオフィスと、厨房・給排水・ガス・ダクトを設置した飲食店では撤去や復旧の内容が異なります。大型ビルや商業施設では、施工会社、作業時間、搬出経路、養生方法などが指定されることもあります。
| 確認項目 | 費用への影響 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 返還状態 | どこまで撤去・復旧するかが変わる | 賃貸借契約書・特約 |
| 入居後の造作 | 間仕切り、床、電気、設備等の撤去量が変わる | 入居時図面・現況図 |
| 指定業者・工事区分 | 施工会社の選択方法や価格構造が変わる | 工事区分表・ビルルール |
| 店舗設備 | 厨房、給排水、ガス、ダクト等で工事が増える | 設備図・現地確認 |
| 施工条件 | 夜間作業、搬出制限、養生等が加算要因になる | 館内工事規則 |
| 退去期限 | 比較や仕様調整に使える時間が減る | 解約通知・明渡日 |
店舗とオフィスでは原状回復費用の構造が違う
オフィスで費用が発生しやすい項目
オフィスでは、間仕切り、タイルカーペット、OAフロア、電気配線、通信配線、照明、天井、空調などが主な確認対象になります。
入居時に会議室や個室を増設している場合は、間仕切りや建具の撤去だけでなく、天井・床・照明・空調まで連動して復旧が必要になることがあります。
また、ビルによっては貸主側の指定施工会社が工事を行う区分があります。業者を自由に選べるとは限らないため、見積を取る前に契約と工事区分を確認しておく必要があります。
施工会社を選べる案件では、オフィス原状回復業者の選び方もあわせて確認してください。
店舗では設備撤去が費用を左右しやすい
店舗では、内装だけでなく業態特有の設備が費用へ影響します。
- 厨房機器
- 給排水設備
- ガス設備
- 排気・ダクト
- グリストラップ
- 看板
- 造作カウンター
- 床・壁・天井の仕上げ
特に飲食店、美容室、クリニックなどは、物販店と比べて設備工事が多くなる場合があります。
閉店時の原状回復全体については、店舗閉店時の原状回復も参照してください。
原状回復費用の見積には何が含まれるのか
見積金額を確認するときは、総額だけを見るのではなく、何の工事に、どの数量と単価が使われているかを確認します。
1.内装・造作の解体撤去
間仕切り、造作壁、カウンター、棚、建具などを撤去する費用です。店舗では厨房区画や造作什器、オフィスでは会議室や個室の間仕切りが対象になりやすい項目です。
2.床・壁・天井の復旧
タイルカーペット、長尺シート、クロス、塗装、天井材などの復旧です。
全面交換が必要なのか、一部補修でよいのかは、単純に汚れているかどうかではなく、契約上の返還条件も含めて確認します。
3.電気・空調・給排水などの設備工事
照明、コンセント、分電盤、配線、空調、給排水、ガスなどを入居時の状態へ戻す工事です。
設備工事は建物側設備との接続があるため、内装解体業者だけで自由に施工できない場合があります。
4.看板・サイン・外部設備の撤去
店舗看板、袖看板、入口サイン、窓面シートなどが対象になります。撤去後の穴や外壁面の復旧まで求められることもあるため、撤去だけの金額で判断しない方が安全です。
5.廃材・残置物の搬出と処分
解体した内装材や設備、残置物を搬出・処理する費用です。
廃棄できるものの中に売却可能な厨房機器、家具、什器、OA機器などが混ざっている場合は、解体前に買取可能性を確認した方がよいケースがあります。
6.養生・搬出・仮設費
共用部の養生、エレベーター使用、搬出経路の確保、仮設設備などにかかる費用です。
高層ビルや商業施設では、施工そのものよりも建物側の施工条件が費用を押し上げることがあります。
7.現場管理や諸経費
現場管理、施工管理、各種調整、書類作成などの費用です。
「諸経費があるから高い」と即断するのではなく、どの工事項目に対して何が含まれているかを確認します。
原状回復費用を大きく左右する6つの条件
- 契約で求められている返還状態
- 入居後に変更した内装・設備の量
- 貸主指定業者やB工事の有無
- 建物や商業施設独自の施工条件
- 夜間・休日作業や搬出制限
- 退去日までに残された期間
この中でも、工事会社へ見積を依頼する前に確認すべきなのは契約と工事区分です。
原状回復の範囲が確定していない状態で複数社から見積を取ると、各社が違う範囲を見積もり、金額だけを比較できない状態になりやすくなります。
坪単価・平米単価はどう見ればよいか
坪単価や平米単価は、異なる案件の金額感を比較するための補助指標としては使えます。
1坪は約3.3058㎡なので、概算では次のように換算できます。
- 坪単価 ≒ ㎡単価 × 3.3058
- ㎡単価 ≒ 坪単価 ÷ 3.3058
ただし、単価を比べる前に工事範囲をそろえる必要があります。
たとえば、片方の見積には廃棄物処理、電気工事、夜間作業、管理費まで含まれており、もう片方には内装撤去しか含まれていなければ、坪単価だけを並べても比較になりません。
また、店舗とオフィスでは設備構成が違うため、同じ坪単価相場を当てはめるべきではありません。
見積を受け取ったら確認する順番
1.賃貸借契約書と特約を確認する
どの状態まで戻す契約なのか、貸主指定業者や工事区分に関する条項があるかを確認します。
2.工事範囲を確認する
契約書だけでは具体的な施工範囲がわからない場合は、貸主や管理会社と返還状態を確認します。
「原状回復」という言葉だけで双方が同じ状態を想定しているとは限りません。
3.工事項目を分けて見る
「原状回復工事一式」という総額だけではなく、解体、内装、電気、設備、廃棄、管理費などに分けて確認します。
4.数量を確認する
床や壁の面積、撤去する間仕切りの延長、照明や設備の台数など、数量の根拠を確認します。
5.単価と仕様を確認する
数量が合っていても、必要以上の仕様になっていないか、契約上必要な復旧なのかを確認します。
6.施工会社を選べるか確認する
貸主指定業者やB工事の場合、借主が自由に施工会社を変更できるとは限りません。
指定業者の見積が高いと感じる場合は、原状回復の指定業者が高い場合の確認方法を参照してください。
7.明渡し日から逆算する
金額だけを調整していて工事開始が遅れ、明渡しに間に合わなくなるのは避ける必要があります。
比較や見積確認に使える期間と、実際の工事期間を分けて考えます。
住宅向けの「原状回復ガイドライン」を事業用へそのまま当てはめない
原状回復について調べると、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」がよく見つかります。
このガイドラインは民間賃貸住宅を想定した資料です。店舗やオフィスなどの事業用賃貸借に、その内容をそのまま当てはめるのは適切ではありません。
賃貸借終了時の原状回復については民法上の一般原則がありますが、事業用物件では賃貸借契約、特約、工事区分、ビルルールなどの確認が特に重要です。
「経年劣化だからすべて貸主負担」「通常損耗だから店舗やオフィスでも借主は払わなくてよい」と一律に判断しないようにします。
原状回復費用を抑えるなら、先に工事範囲を確認する
見積金額を下げたい場合、最初から単価交渉だけを行うより、まず工事範囲・数量・仕様が契約と一致しているかを確認した方が整理しやすくなります。
確認する順番は次のようになります。
- 本当に必要な工事か
- 数量は合っているか
- 仕様は必要以上になっていないか
- 重複計上がないか
- 施工会社を選択できる契約か
- 他社見積や第三者査定を利用できるか
一方で、法令対応、安全対策、必要な廃棄物処理などまで削減対象として扱うべきではありません。
具体的な見直し方法は、原状回復費用を抑える方法で詳しく整理しています。
見積が想定より高かった場合は、原状回復費用が高額になる理由も確認してください。
原状回復費用についてよくある質問
原状回復費用の坪単価はいくらが相場ですか?
店舗・オフィスをまとめて全国一律の坪単価を設定することはできません。物件用途、設備、返還状態、ビルグレード、工事区分、指定業者、施工時間などで条件が変わるためです。
坪単価は参考値として使い、最終的には工事範囲と見積内訳を確認してください。
原状回復費用はすべて借主負担ですか?
一律には決まりません。まず賃貸借契約書と特約を確認し、何を借主負担としているのかを確認します。
国土交通省の原状回復ガイドラインは店舗やオフィスにも使えますか?
国土交通省のガイドラインは民間賃貸住宅を想定しています。事業用物件では参考情報と契約上のルールを分けて考え、契約書、特約、工事区分などを確認してください。
指定業者の見積が高い場合、別の業者へ変更できますか?
契約やビルルールによります。指定業者だから必ず変更できないとも、自由に相見積もりできるとも言えません。
施工会社を変更できない場合でも、工事範囲、数量、仕様、見積内訳を確認する余地はあります。
原状回復の見積はいつ確認すればよいですか?
退去期限直前ではなく、契約上の返還条件を確認できた段階で早めに進める方が、見積内容の確認や調整に使える時間を確保しやすくなります。
原状回復の見積は「総額」より先に条件をそろえる
原状回復費用を比較するときは、「坪いくらか」だけを見るのではなく、契約上どこまで戻す必要があり、そのために何の工事が見積へ入っているかを先に確認します。
特に事業用物件では、店舗とオフィス、一般ビルと大型ビル、自由発注と指定業者では前提条件が異なります。
手元の見積が高いのか、不要な工事が含まれていないか、工事範囲そのものを確認したい場合は、契約書・工事区分・見積書をそろえたうえで確認すると整理しやすくなります。
