店舗を閉店するとき、物件を貸主へ返すまでには原状回復工事以外にもさまざまな費用が発生します。
営業を終了した後も賃貸借契約が続いていれば家賃が発生し、店内には厨房機器、什器、看板、配管、ダクトなどの撤去が残っていることがあります。
さらに、工事後の貸主・管理会社の確認で追加の是正工事が必要になる場合もあります。
そのため店舗の退去費用を考えるときは、「原状回復工事はいくらか」ではなく、最終営業日から物件を正式に返還するまでに何へ支払うのかを整理することが重要です。
閉店全体に必要な費用については、店舗の閉店費用はいくら?で、人件費や各種契約の終了費用まで含めて整理しています。
店舗の退去費用は大きく6つに分けて考える
店舗を物件返還するまでに発生しやすい費用は、主に次の6つです。
- 契約終了・明渡しまでの家賃や共益費
- 原状回復・内装解体・スケルトン工事
- 厨房・空調・看板など設備の撤去費
- 残置物・廃棄物の搬出・処分費
- 養生・搬出・工事管理などの付帯費用
- 貸主検査後の是正・追加工事費
店舗によっては、このほかに指定業者費用や各種設備の停止・閉栓工事が発生します。
1.契約終了・明渡しまでの家賃や共益費
店舗の最終営業日と賃貸借契約の終了日は、必ずしも同じではありません。
例えば9月末で営業を終了しても、賃貸借契約が11月末まで続いているのであれば、その期間中の賃料等が発生することがあります。
さらに、原状回復工事を行うために物件を使用している期間も、まだ貸主へ明け渡していない状態です。
まず契約書で、
- 解約予告期間
- 解約通知日
- 契約終了日
- 明渡し期限
- 原状回復完了期限
- 家賃
- 共益費
- その他固定費
を確認します。
最終営業日だけで退去スケジュールを作らない
退去では、次の日付を別々に管理します。
- 最終営業日
- 在庫・設備搬出日
- 原状回復着工日
- 工事完了日
- 貸主・管理会社検査日
- 是正工事完了日
- 鍵返却・明渡日
- 契約終了日
営業を停止した後も、物件を返すまでに時間がかかれば、それだけ固定費が残る可能性があります。
2.原状回復・内装解体・スケルトン工事
退去費用の中で大きな割合を占めやすいのが原状回復工事です。
ただし、店舗の原状回復は物件によって内容が大きく異なります。
例えば、
- 借りたときの内装状態へ戻す
- 借主が作った造作だけ撤去する
- 床・壁・天井まで復旧する
- 内装・設備をすべて撤去してスケルトンへ戻す
- 貸主が承認すれば一部の設備を残せる
などがあります。
「店舗を閉店するなら全部スケルトンにする」と最初から決めず、賃貸借契約書や原状回復特約を確認します。
店舗の原状回復は住宅の退去ルールだけでは判断しない
住宅の賃貸では、通常損耗や経年変化に関する原状回復の考え方が広く知られています。
一方、店舗などの事業用建物では、契約でより広い原状回復義務を定めている場合があります。
例えば契約に、
- 床を全面復旧する
- 天井・壁を指定仕様へ戻す
- 借主設置設備をすべて撤去する
- スケルトン状態で返還する
などの特約が明確に定められていることがあります。
そのため、住宅向けの一般論だけで工事範囲を判断せず、自店舗の契約書を確認します。
店舗・オフィスの原状回復全体については、原状回復ガイドをご覧ください。
スケルトン返しと原状回復は完全な同義ではない
スケルトン返しは、一般に内装や設備を撤去し、建物の躯体が見える状態に近づけて返還する方法です。
原状回復は契約で求められる返還状態へ戻す行為全体を指すため、必ずスケルトン返しになるわけではありません。
例えば元々内装付きで借りた物件なら、その状態への復旧を求められることもあります。
スケルトン返しが必要かどうかは、ART-016「店舗閉店のスケルトン返し」で詳しく扱います。
退去工事費は坪単価だけで決めない
店舗の内装解体・スケルトン工事では坪単価が使われることがあります。
ただし公開されている相場にもかなり幅があります。
費用が変わる主な要因は、
- 業態
- 店舗面積
- 造作量
- 厨房設備
- 排気ダクト
- 給排水設備
- ガス設備
- 残置物量
- 搬出経路
- 夜間・休日施工
などです。
特に飲食店、美容室、クリニックなど設備が多い業態では、単純な物販店より撤去対象が増えることがあります。
3.厨房・空調・看板など設備の撤去費
原状回復見積とは別に、設備撤去が必要になる場合があります。
店舗で確認したい主な設備には、
- 厨房機器
- 冷蔵・冷凍設備
- 空調設備
- 排気ダクト
- 給排水設備
- ガス設備
- 電気設備
- 照明
- 看板・サイン
- 防犯・セキュリティ設備
などがあります。
単純に機器を持ち出せば終わるとは限りません。
撤去後に、
- 配管を処理する
- 配線を撤去する
- 穴を補修する
- 床・壁を復旧する
- 屋外看板の取付跡を補修する
必要が出る場合があります。
厨房機器は撤去費を払う前に売却可能性を確認する
業務用冷蔵庫、製氷機、フライヤー、ガスレンジ、作業台などは、中古市場で価値が残っている場合があります。
原状回復会社へ一括で撤去・廃棄を依頼すると、本来売却できる設備に処分費を払うことになる可能性があります。
工事を正式発注する前に、買取可能な設備を分けておきます。
設備・什器の売却については、設備・什器買取ガイドをご覧ください。
空調・冷凍冷蔵設備は単純廃棄できない場合がある
業務用空調機や冷凍冷蔵設備には、冷媒としてフロン類が使用されているものがあります。
対象機器を廃棄する場合は、必要な回収・処理を行う必要があります。
「撤去だけ」「処分だけ」の安い見積を選ぶのではなく、対象設備について必要な処理が含まれているか確認します。
看板・サインの撤去も忘れやすい
店内を空にしても、外部の看板やサインが残っていれば明渡しが完了しないことがあります。
例えば、
- 袖看板
- 壁面看板
- 入口サイン
- ウインドウシート
- 共用部サイン
などです。
看板撤去後の壁面補修や電気配線処理まで必要か確認します。
4.残置物・廃棄物の搬出・処分費
閉店後の店舗には、工事で発生する廃材とは別に多くの残置物が残ることがあります。
例えば、
- テーブル・椅子
- 棚
- 食器
- 販促物
- 段ボール
- 在庫
- 事務用品
- 什器
などです。
これらを原状回復業者へまとめて依頼できる場合もありますが、見積では工事廃材と残置物処分が別料金になっていることがあります。
確認したいのは、
- 何を撤去対象とするか
- 数量
- 搬出費を含むか
- 運搬費を含むか
- 処分費を含むか
です。
撤去・廃棄については、撤去・廃棄ガイドで詳しく整理しています。
「残置物一式」は中身を確認する
例えば、見積に、
「残置物撤去処分 一式 400,000円」
としか書かれていない場合、それだけでは金額の妥当性を判断しにくくなります。
大きな金額の場合は、
- 主な対象物
- 物量
- 車両台数
- 人員
- 処分対象
など、積算の前提を確認します。
5.養生・搬出・工事管理などの付帯費用
原状回復工事そのもの以外にも、施工するための費用があります。
例えば、
- 共用部養生
- 搬出経路養生
- エレベーター養生
- 搬出車両費
- 現場管理費
- 工事申請費
- 夜間・休日割増
- 警備・立会い
- 諸経費
などです。
特に商業施設、駅ビル、大型ビルなどでは、営業中に工事できず、夜間に作業しなければならない場合があります。
路面店と商業施設内の店舗を単純に坪単価だけで比較できない理由の一つです。
廃材処分費が解体費に含まれているか確認する
見積書では、
- 内装解体
- 廃材搬出
- 廃材運搬
- 廃棄物処分
が別項目になっていることがあります。
解体費が安く見えても、処分費が大きければ総額は高くなります。
複数見積を比較するときは、何を含む金額なのか条件を揃えます。
6.貸主検査後の是正・追加工事費
工事が終わった時点で、必ずそのまま明渡し完了になるとは限りません。
貸主や管理会社が完了確認を行い、
- 撤去漏れ
- 補修不足
- 清掃不足
- 仕様違い
- 設備復旧不足
などを指摘する場合があります。
その場合、追加の是正工事が必要になります。
工事完了日と明渡日を同日にしない方がよい場合がある
退去工程をぎりぎりに組むと、貸主検査で是正を求められたときに作業時間が残りません。
可能であれば、
- 原状回復工事完了
- 社内確認
- 貸主・管理会社確認
- 是正工事
- 最終確認
- 明渡し
のための時間を確保します。
工期不足で明渡しが遅れると、工事費以外の負担につながる可能性があります。
保証金・敷金は「退去費用を安くするお金」ではない
店舗の契約では、保証金・敷金を預けている場合があります。
退去時には、契約に基づき、
- 未払賃料
- 原状回復費
- その他精算額
- 契約上の償却
などを差し引いたうえで返還額が決まることがあります。
原状回復費が保証金から控除される場合でも、原状回復費そのものがなくなるわけではありません。
例えば100万円の工事費が保証金から控除されたなら、振込は不要でも、本来戻る保証金が100万円減ることになります。
保証金の返還時期と支払時期は別に見る
原状回復業者への支払いが10月、保証金の返還が12月というように、支出と入金の時期がずれる場合があります。
最終的な損益だけでなく、物件返還までのキャッシュフローを確認します。
居抜き退去なら工事を省ける可能性がある
店舗では、次の借主へ内装・設備を引き継ぐ居抜き退去ができる場合があります。
居抜きが成立すれば、
- 内装解体
- 設備撤去
- 廃棄物処分
の一部または多くを省ける可能性があります。
ただし、現在の賃貸借契約でスケルトン返しが定められている場合、借主だけで「居抜きにします」と決めることはできません。
貸主・管理会社の承認と、後継テナントとの条件調整が必要です。
居抜きについては、居抜き・造作譲渡ガイドをご覧ください。
居抜きを検討するなら原状回復発注前に動く
居抜きの選択肢を残したい場合は、原状回復工事を正式発注する前に確認します。
工事業者へ、
- 厨房設備撤去
- 造作解体
- 廃棄処分
を発注した後では、次の借主へ引き継げる資産そのものがなくなってしまいます。
店舗退去費用を見積もる順番
退去費用を把握するときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 契約終了日・明渡日を確認する
- 返還状態を契約書で確認する
- 居抜きが可能か確認する
- 売却できる設備・什器を分ける
- 原状回復範囲を確定する
- 設備撤去範囲を確認する
- 残置物を確定する
- 工事・撤去見積を取る
- 貸主検査・是正期間を確保する
いきなり解体業者へ「全部撤去」で依頼しない
店舗を早く空にしたいからといって、最初に店内のすべてを撤去対象にすると、費用面で不利になることがあります。
本来は、
- 居抜きで残せる内装
- 売却できる厨房機器
- 買取可能な什器
- 自社で再利用する設備
が含まれている可能性があります。
先に「残す・売る・持っていく・捨てる」を分け、その後に撤去工事を確定します。
相見積もりでは同じ返還状態で比較する
原状回復会社を比較するときは、同じ条件で見積を依頼します。
A社はスケルトン返し、B社は内装だけ撤去、C社は設備撤去を別途としているのであれば、総額を並べても比較できません。
最低でも、
- 返還状態
- 撤去対象
- 設備処理
- 残置物処分
- 搬出条件
- 施工時間
を揃えます。
退去費用が高いときは単価より範囲を見る
見積が高い場合、すぐに単価だけを値下げしてもらうより、
- 本当にスケルトンまで必要か
- 撤去対象は正しいか
- 売却できる設備が処分対象になっていないか
- 残置物の数量は正しいか
- 工事条件に変更余地がないか
を確認します。
工事範囲そのものが変われば、単価交渉より総額へ大きく影響する場合があります。
店舗の閉店・退去費用についてよくある質問
店舗の退去費用はいくらですか?
店舗面積だけでは決まりません。原状回復条件、業態、設備量、残置物、搬出条件、指定業者、施工時間などによって大きく変わります。契約上の返還状態を確認したうえで見積を取ります。
20坪の店舗なら退去費用はいくらですか?
同じ20坪でも、造作の少ない物販店と厨房・ダクト・給排水設備の多い飲食店では工事内容が違います。坪単価は初期目安として使い、実際には撤去範囲と設備を確認してください。
閉店後も原状回復中は家賃がかかりますか?
契約が終了しておらず、まだ物件を明け渡していない期間は賃料等が発生する可能性があります。契約終了日・明渡し条件を確認してください。
居抜きなら退去費用はかかりませんか?
原状回復・設備撤去費を大きく減らせる可能性はありますが、賃料、清掃、一部撤去などが残る場合があります。また、貸主承認と後継テナントの成立が必要です。
厨房機器はすべて撤去する必要がありますか?
契約上の返還状態によります。撤去が必要な場合でも、中古価値がある設備は廃棄前に買取査定を行う方法があります。
看板も原状回復の対象ですか?
借主が設置した看板・サインについて撤去を求められる契約は多くあります。撤去後の外壁・配線補修まで必要か確認してください。
保証金から原状回復費を引いてもらえますか?
精算方法は契約によります。保証金から控除される場合でも、費用が消えるわけではなく、返還額が減る形になります。
貸主検査後に追加費用が発生することはありますか?
撤去漏れ、仕様違い、補修不足などがあれば是正工事を求められる場合があります。明渡し直前ではなく、検査後に修正できる工程を確保しておく方が安全です。
店舗の退去費用は「物件を返せる状態になるまで」で考える
店舗閉店時の退去費用は、原状回復工事費だけではありません。
主に、
- 契約終了までの賃料・共益費等
- 原状回復・スケルトン工事
- 設備撤去
- 残置物・廃棄物処分
- 養生・搬出・工事管理等
- 貸主検査後の是正・追加工事
を確認します。
そして、工事を正式発注する前に、
- 居抜きで残せるもの
- 売却できる設備
- 自社で持ち出すもの
- 本当に撤去するもの
を分けます。
この順番を逆にすると、本来価値が残っていた設備まで処分費を払って撤去してしまう可能性があります。
店舗閉店全体に必要な支出については、店舗の閉店費用はいくら?をご覧ください。
店舗閉店全体の進め方は、店舗閉店ガイドで整理しています。
原状回復、居抜き、設備買取、撤去処分のどの順番で進めれば退去コストを抑えられるか判断できない場合は、お問い合わせから現在の状況をご連絡ください。
