店舗を閉店するときに必要なお金は、原状回復工事費だけではありません。
営業を終了した後にも、賃貸借契約が終わるまでの家賃、原状回復、設備や在庫の処分、従業員への支払い、水道光熱費などが残ります。
その一方で、保証金・敷金の返還、厨房機器や店舗什器の売却、造作譲渡など、閉店時に回収できるお金もあります。
そのため店舗の閉店資金を考えるときは、単に「原状回復はいくらか」を調べるのではなく、閉店前後に出ていくお金と、回収できるお金、そしてそれぞれの入出金時期を分けて考えることが重要です。
この記事では、店舗を閉店するときに発生しやすい7つの支出と、閉店資金の組み方を整理します。
閉店から物件返還までの全体的な進め方については、店舗閉店ガイドをご覧ください。
店舗は「営業をやめた日」で支払いが終わるわけではない
店舗閉店で特に注意したいのが、最終営業日と支払い終了日が一致しないことです。
例えば、9月30日を最終営業日にしたとしても、
- 賃貸借契約は11月末まで続く
- 10月から原状回復工事を行う
- 従業員への最終給与は翌月支払い
- 電気・ガス・水道の最終請求が後から届く
- 廃棄物処分費の請求が工事後になる
ということがあります。
閉店日だけを基準に資金計画を立てると、営業収入がなくなった後に支払いだけが残る可能性があります。
店舗閉店で発生しやすい7つの費用
- 契約終了までの家賃・共益費等
- 原状回復・内装解体費
- 残置物・廃棄物の撤去処分費
- 在庫・厨房機器・什器の整理費
- 従業員に関する費用
- リース・通信・各種サービスの終了費用
- 水道光熱費・違約金などの最終精算
一つずつ確認します。
1.契約終了までの家賃・共益費等
店舗を閉めても、賃貸借契約がその日に終了するとは限りません。
事業用物件では、契約に解約予告期間が定められていることがあります。
「3か月前」「6か月前」という契約例はありますが、すべての店舗に共通する期間ではありません。
自店舗の賃貸借契約書を確認します。
確認する項目は、
- 解約予告期間
- 解約通知日
- 契約終了日
- 家賃
- 共益費
- 看板使用料
- 駐車場代
- 倉庫等の付帯契約
などです。
営業を終了してから原状回復工事を行う場合、その期間は売上がないにもかかわらず賃料が発生する可能性があります。
最終営業日と契約終了日を別々に決める
閉店計画では、少なくとも次の日付を分けます。
- 解約通知日
- 最終営業日
- 什器・設備搬出日
- 原状回復着工日
- 工事完了日
- 貸主検査日
- 物件明渡日
- 契約終了日
この日程を一本の工程表にすると、営業終了後に何か月分の家賃が残るのか把握しやすくなります。
2.原状回復・内装解体費
店舗閉店時の大きな支出になりやすいのが原状回復です。
ただし、「閉店=必ずスケルトン返し」ではありません。
必要な状態は契約によって異なります。
例えば、
- 入居前の状態へ戻す
- スケルトン状態へ戻す
- 指定された内装仕様へ戻す
- 一部設備を残してよい
- 後継テナントが決まれば居抜きを認める
などがあります。
そのため、施工会社へ見積を依頼する前に、賃貸借契約書・原状回復特約・貸主の退去条件を確認します。
原状回復全体については、店舗・オフィスの原状回復ガイドで詳しく整理しています。
坪単価だけで予算を決めない
店舗原状回復では坪単価が紹介されることもありますが、実際の費用は、
- 店舗面積
- 業態
- 内装造作
- 厨房設備
- ダクト
- 給排水
- ガス
- 施工時間
- 搬出条件
などで変わります。
特に飲食店・美容室・クリニックなど設備の多い業態は、物販店より工事内容が増える場合があります。
3.残置物・廃棄物の撤去処分費
原状回復とは別に、店舗内に残っている物品を撤去・処分する費用が必要になることがあります。
例えば、
- 棚
- 什器
- 家具
- 食器
- 厨房用品
- 梱包資材
- 看板
- 販促物
などです。
店舗から出る廃棄物は、家庭ごみと同じ方法で自由に捨てられるとは限りません。
事業活動に伴って発生する廃棄物については、事業者側に適正処理の責任があります。
処分する物の種類を確認し、適切な許可・処理ルートを持つ事業者へ依頼します。
撤去・廃棄については、店舗・オフィスの撤去・廃棄ガイドも確認してください。
4.在庫・厨房機器・店舗什器の整理費
閉店時に店舗内にあるものは、すべて「捨てるもの」ではありません。
ここで対応を誤ると、本来売れるものを処分費を払って捨てることになります。
まず、
- 売れるもの
- 次の事業で使うもの
- 譲渡できるもの
- 廃棄するもの
に分けます。
在庫
商品在庫は、
- 閉店セール
- 他店舗への移動
- 業者への売却
- 返品
- 廃棄
などを検討します。
売れ残った在庫は、仕入代金が回収できないだけでなく、商品によっては廃棄費まで必要になります。
厨房機器・什器
飲食店であれば、
- 業務用冷蔵庫
- 製氷機
- フライヤー
- ガスレンジ
- シンク
- 作業台
などに中古価値が残っている場合があります。
物販店でも、陳列棚、ショーケース、レジ周辺設備などが買取対象になる可能性があります。
原状回復業者へ「全部処分」で依頼する前に査定する方が選択肢を残せます。
設備・什器については、設備・什器買取ガイドをご覧ください。
5.従業員に関する費用
従業員がいる店舗では、閉店費用を物件関係だけで計算しないようにします。
例えば、
- 最終給与
- 残業代等の未払賃金
- 退職金制度がある場合の退職金
- 会社規程に基づく支給
- 解雇に伴う費用
などがあります。
特に、店舗閉店に伴って従業員を解雇する場合、単に「店を閉めるので明日まで」という処理ができるとは限りません。
労働基準法では、労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前の予告が必要で、予告期間が不足する場合はその不足分について解雇予告手当が必要となります。
また、解雇そのものにも合理的な理由・相当性が求められ、有期契約では別の制限もあります。
詳しい雇用対応は、厚生労働省等の最新情報を確認し、必要に応じて社会保険労務士や専門家へ相談してください。
6.リース・通信・各種サービスの終了費用
店舗運営では、物件賃貸借以外にも多くの契約があります。
例えば、
- 厨房機器リース
- POSレジ
- 複合機
- 電話・インターネット
- 決済端末
- 警備サービス
- BGM・有線放送
- 予約システム
- 清掃・マット交換
- ウォーターサーバー
などです。
これらには、
- 最低契約期間
- 中途解約金
- 機器返却費
- 撤去費
が設定されていることがあります。
閉店日だけでなく、それぞれの契約終了日を一覧にします。
7.水道光熱費・違約金などの最終精算
営業を止めた後にも、水道・電気・ガスをすぐ止められるとは限りません。
原状回復工事で電気や水道を使用することがあるためです。
そのため、
- 営業終了日
- 工事終了日
- 電気停止日
- 水道停止日
- ガス停止日
を分けて管理します。
また、契約内容によっては、
- 中途解約違約金
- 解約予告不足分
- 保証金・敷金の償却
- 未払費用との相殺
などが最終精算へ影響します。
何が発生するかは契約によるため、「閉店すると必ず違約金がかかる」とは考えません。
保証金・敷金の返還は「閉店費用」と分けて管理する
店舗閉店では、「保証金が戻るから閉店費用は払える」と考えるケースがあります。
しかし、保証金・敷金は、
- 償却
- 未払賃料
- 原状回復費
- その他契約上の精算
などを控除した後に返還される場合があります。
さらに、返還時期が原状回復業者や従業員への支払期限より後になる可能性もあります。
そのため、返還予定額を閉店当日の現金として扱わないようにします。
閉店費用は「総額」より支払時期を並べる
例えば閉店関連支出が合計500万円だとしても、500万円を一日に支払うわけではありません。
反対に、最終的には保証金などが戻るとしても、支払いが先で入金が後なら、その間を埋める運転資金が必要です。
閉店資金表では、最低でも、
- 支払項目
- 概算額
- 確定額
- 支払予定日
- 入金予定額
- 入金予定日
を分けます。
閉店に必要な手元資金は「差額」だけでは決めない
考え方としては、
閉店前後の支出 − 回収できる資産・返還金
が最終的な負担額に近づきます。
ただし、回収するお金が後から入る場合があります。
そのため実際の資金繰りでは、
支払いが先に発生する最大時点で、手元資金が不足しないか
を見る必要があります。
閉店前に「売れるもの」を処分しない
閉店費用を考えるとき、原状回復業者や撤去業者を最初に手配すると、店舗内のものがすべて撤去対象として扱われることがあります。
しかし、
- 内装造作
- 厨房機器
- 店舗什器
- 家具
- 一部設備
には価値が残っている可能性があります。
処分契約を結ぶ前に、居抜き・造作譲渡や設備買取の可能性を確認します。
居抜きが成立すると閉店収支が大きく変わる場合がある
店舗閉店では、次のテナントへ内装・設備を引き継ぐ居抜きが成立する場合があります。
居抜きが貸主から認められ、後継テナントが見つかれば、
- 原状回復工事を減らす
- 設備撤去を減らす
- 廃棄費を減らす
- 造作譲渡代金を得る
- 退去までの期間を短縮する
可能性があります。
一方で、後継テナントが決まる保証はなく、貸主の承認も必要です。
「居抜きで売れる前提」だけで閉店資金を組むのではなく、成立しなかった場合の原状回復案も残します。
居抜きについては、居抜き・造作譲渡ガイドをご覧ください。
閉店費用を計算するときの順番
閉店を検討し始めたら、次の順番で概算を出します。
- 賃貸借契約を確認する
- 解約予告日と契約終了日を確認する
- 原状回復条件を確認する
- 撤去・処分対象を一覧化する
- 売却・譲渡できる設備を分ける
- 従業員への対応と支払時期を整理する
- リース・通信・各種サービスを一覧化する
- 保証金等の返還条件を確認する
- すべてを月別の資金表へ入れる
「10坪ならいくら」と面積だけで閉店費用は決められない
閉店費用は、店舗の広さだけでは決まりません。
例えば同じ20坪でも、
- 物販店
- 美容室
- カフェ
- 重飲食店
では原状回復・設備・廃棄物の量が違います。
さらに、従業員数、解約予告期間、リース契約、在庫量などは面積と関係ありません。
「坪単価×面積」で把握できるのは閉店費用の一部分だけです。
閉店費用を抑えるなら順番が重要
費用を抑えるために最も避けたいのが、先にすべて撤去・廃棄してしまうことです。
順番としては、
- 契約条件を確認する
- 居抜きの可否を確認する
- 売却できる設備・在庫を確認する
- 原状回復範囲を確定する
- 残ったものだけ撤去・廃棄する
方が選択肢を残せます。
閉店費用を抑える方法については、ART-020で詳しく扱います。
店舗閉店費用についてよくある質問
店舗を閉店するのにいくら必要ですか?
一律の金額はありません。家賃、原状回復、店舗規模、業態、在庫、設備、従業員数、各種契約によって大きく異なります。まず自店舗の支出項目を洗い出します。
店舗を閉めた後も家賃はかかりますか?
賃貸借契約が終了していなければ、営業終了後も賃料・共益費等が発生する場合があります。解約予告期間と契約終了日を確認してください。
解約予告は6か月前と決まっていますか?
一律ではありません。事業用物件では契約ごとに中途解約条件・予告期間が設定されているため、賃貸借契約書を確認します。
閉店すると従業員をすぐ解雇できますか?
閉店だけを理由に労働法上の手続きを省略できるわけではありません。解雇の場合は原則30日前の予告または解雇予告手当などのルールがあり、契約形態による違いもあります。
保証金が戻るなら閉店資金は不要ですか?
保証金等は原状回復や未払費用などの精算後に返還される場合があり、返還時期も支払いより後になる可能性があります。返還前に必要な支出を賄える手元資金を確認します。
厨房機器や店舗什器は処分した方が早いですか?
中古価値が残る機器・什器もあるため、処分前に買取査定を行った方がよい場合があります。売却できれば処分費を減らし、現金化できる可能性があります。
居抜きなら閉店費用はゼロになりますか?
ゼロになるとは限りません。居抜きが成立しても、賃料、従業員、在庫、各種契約の精算などは残ります。また、貸主承認や後継テナントとの合意が成立しなければ原状回復が必要になる場合があります。
店舗閉店では「いくらかかるか」と「いつ払うか」を同時に確認する
店舗閉店時に確認したい主な支出は、
- 契約終了までの家賃・共益費
- 原状回復・内装解体
- 残置物・廃棄物処分
- 在庫・厨房機器・什器の整理
- 従業員関連費用
- リース・通信・各種サービス
- 水道光熱費・違約金等の最終精算
です。
そして、
- 保証金・敷金の返還
- 造作譲渡
- 厨房機器・什器買取
- 在庫売却
などの回収可能額を別に管理します。
重要なのは、最終的な差額だけではありません。
支払いが先、保証金返還や売却代金の入金が後になる場合に、途中で資金が不足しないか確認することです。
店舗閉店全体の進め方は、店舗閉店ガイドをご覧ください。
物件の明渡しだけにかかる費用については、次のART-018「店舗の閉店・退去費用」で詳しく整理します。
店舗を閉めることは決まっているものの、原状回復・居抜き・設備買取・廃棄のどれから着手すればよいか整理できていない場合は、お問い合わせから現在の状況をご連絡ください。
