店舗を閉店するとき、内装・厨房設備・什器を壊す前に、居抜きで引き継いでくれる後継テナントを探す方法があります。
後継テナントが決まれば、原状回復工事を減らしたり、造作・設備を譲渡したりできる可能性があります。
ただし、居抜きは「ネットに店舗情報を載せて、買いたい人を見つければ完了」という取引ではありません。
貸主が居抜きを認めること、次の借主が店舗条件に合うこと、貸主の入居審査を通ること、造作譲渡と新しい賃貸借が成立することまで揃って、初めて安全に引き継げます。
この記事では、閉店・移転する店舗が居抜きで後継テナントを探す方法を、募集前の準備から契約成立まで順番に整理します。
まだ居抜きで退去するか原状回復するか決めていない場合は、先に店舗閉店は居抜きと原状回復のどちらを選ぶ?をご覧ください。
後継テナント探しは「募集を出すこと」から始めない
居抜きで次のテナントを探したいと思ったとき、最初に物件情報を公開するのはおすすめできません。
先に確認したいのは、現在の貸主・管理会社が居抜き退去を認める可能性があるかどうかです。
現在の契約でスケルトン返しや原状回復が定められているのであれば、後継者を見つけただけでその義務がなくなるわけではありません。
また、貸主によっては、
- 認める業態
- 営業時間
- 残してよい設備
- 後継テナントの審査条件
- 募集に利用する仲介会社
などに条件があります。
先にこの条件を確認しておけば、貸主が認めない候補者を探し続ける無駄を減らせます。
貸主への相談方法については、居抜き退去で貸主の承諾を得るには?で詳しく整理しています。
後継テナントが決まるまでの7ステップ
- 貸主・管理会社へ居抜き募集を相談する
- 物件・造作・設備情報を整理する
- 募集ルートを決める
- 造作譲渡条件を決める
- 問い合わせ・内見で候補者を絞る
- 貸主の入居審査を進める
- 造作譲渡と新しい賃貸借を成立させる
1.貸主・管理会社へ居抜き募集を相談する
居抜き募集を始める前に、現在の契約書を確認し、貸主・管理会社へ相談します。
確認したいのは、
- 居抜き募集をしてよいか
- 残してよい造作・設備
- 募集できる業態
- 次のテナントに求める条件
- 募集期限
- 居抜き不成立時の原状回復条件
です。
この時点で次の借主が決まっている必要はありません。
まず「居抜きで後継テナントを募集してよいか」という事前確認を取ります。
閉店情報をどこまで公開してよいかも決める
営業中の店舗では、後継テナント募集を公にすると、従業員・顧客・取引先へ閉店予定が伝わる可能性があります。
まだ閉店を公表していない場合は、募集方法を選びます。
例えば、
- 店舗名を公開しない
- 詳細住所を候補者だけに開示する
- 写真から店舗が特定されないようにする
- 条件が合う出店希望者だけへ個別紹介する
といった方法があります。
完全公開で広く募集する方が候補数は増えやすい一方、閉店情報が外部へ出るリスクもあります。
募集スピードと秘密保持のどちらを優先するか決めます。
2.物件・造作・設備情報を整理する
後継テナント候補は、店舗の見た目だけで出店を判断するわけではありません。
少なくとも、
- エリア
- 最寄駅・立地
- 店舗面積
- 階数
- 現在の業態
- 賃料
- 共益費等
- 退去予定時期
- 希望する造作譲渡条件
- 厨房・設備の内容
などを整理します。
ただし、次のテナントの賃貸条件は最終的に貸主との契約で決まります。
現在の賃料を「次の人も必ず同額で借りられる」と確約しないようにします。
設備一覧を作る
飲食店など設備価値が大きい店舗では、設備情報が後継テナントの判断に直結します。
例えば、
- 冷蔵庫・冷凍庫
- 製氷機
- フライヤー
- ガスレンジ
- オーブン
- 食洗機
- シンク
- グリストラップ
- 排気ダクト
- 空調
- 客席家具
などです。
分かる範囲で、
- メーカー
- 型式
- 年式
- 所有者
- 動作状態
も整理します。
店内写真だけでなく設備が分かる写真を用意する
店舗写真では、きれいに見える客席だけでなく、後継者が出店費用を判断できる写真も用意します。
例えば、
- 厨房全体
- 厨房機器
- ダクト
- グリストラップ
- バックヤード
- 分電盤
- 空調
- 入口・ファサード
です。
居抜きの価値は、見た目より「次の業態がどこまで既存設備を使えるか」で変わります。
ガス・電気・排気などの設備条件も確認する
特に飲食店では、次のテナントの業態が既存設備で営業できるかが重要です。
例えばラーメン店・焼肉店などでは、
- ガス容量
- 電気容量
- 排気能力
- ダクト経路
- 給排水
が不足すると、次の借主側で大きな追加工事が必要になります。
「飲食店居抜き」とだけ募集するより、設備条件を具体的に示した方が、合わない候補からの問い合わせを減らせます。
3.後継テナントを探すルートを決める
後継テナントを探す方法はいくつかあります。
居抜き・造作譲渡を扱う専門会社
居抜き店舗を探している出店希望者へ直接紹介できることが強みです。
特に飲食店など、造作・厨房設備の価値を含めて募集したい場合に向いています。
店舗専門の不動産会社
店舗物件を探している顧客を抱えているため、賃貸条件と造作譲渡を同時に進めやすい場合があります。
貸主・管理会社との調整や入居審査まで一連で進められるか確認します。
現在の貸主・管理会社の募集ルート
貸主側がすでに次のテナントを募集している場合があります。
そのネットワークから、現在の造作を使いたい候補者が見つかる可能性もあります。
取引先・同業者などのネットワーク
飲食店であれば、仕入先、設備会社、同業経営者などから出店希望者の情報が出る場合があります。
ただし、候補者を直接見つけた場合でも、貸主審査や新しい賃貸借契約は別に必要です。
SNSだけで募集を完結させない
SNSや知人経由で後継候補を探すこと自体はできます。
ただし、SNS上で、
- 次の賃料
- 入居可能日
- 貸主の承諾
- 賃貸条件
まで確定したように案内するのは避けます。
店舗を借りられるかどうかは貸主との新しい賃貸借契約が成立して決まります。
複数ルートで募集する場合は情報を揃える
複数の仲介会社・居抜きサービスへ相談すると候補者への接点は増えます。
一方で、媒体によって、
- 造作譲渡額が違う
- 退去予定日が違う
- 賃料表示が違う
- 設備情報が違う
状態になると、候補者や貸主が混乱します。
募集窓口を増やす場合も、公開する基本条件を統一します。
4.造作譲渡条件を決める
後継テナント探しでは、造作譲渡額も候補者数へ影響します。
出店希望者から見ると、
物件を借りるための初期費用+造作譲渡額+追加工事費
が実際の出店負担です。
そのため、造作譲渡額だけを高く設定すると、内装や設備に価値があっても候補者が減る可能性があります。
反対に、退去期限まで時間がなく、原状回復費を避けることを優先するなら、譲渡額を下げて成立速度を優先する判断もあります。
造作譲渡額の詳しい決め方は、次のART-179「造作譲渡の査定」で扱います。
「自分が内装にかけた金額」で値段を決めない
例えば出店時に1,500万円の内装費をかけた店舗でも、数年後に1,000万円で譲渡できるとは限りません。
次の借主が評価するのは、
- 既存設備を使えるか
- 設備の残存年数
- 希望業態に合うか
- 改装費をどれだけ減らせるか
- 立地・賃料条件
です。
過去の投資額ではなく、現在の買い手側の価値で考えます。
5.問い合わせ・内見で候補者を絞る
問い合わせがあったら、全員を同じように内見へ案内する必要はありません。
まず、
- 予定業態
- 開業希望時期
- 希望エリア
- 必要な店舗規模
- 既存設備との相性
- 出店予算
などを確認します。
現在の店舗条件と大きく合わない候補者を先に除くことで、営業中の内見対応を減らせます。
内見では「使えるもの」と「使えないもの」を隠さない
造作譲渡を成立させたいからといって、設備状態を良く見せすぎると、契約後のトラブルにつながります。
例えば、
- 故障している機器
- 異音のある空調
- 古い冷蔵庫
- 修理歴
- 漏水跡
- 次の業態では使えない設備
など、分かっている情報は整理します。
中古設備を新品同様の保証付きで引き渡すわけではない場合でも、現状を把握している範囲で説明した方が条件交渉を進めやすくなります。
営業中の内見は時間と導線を管理する
閉店を公表していない段階では、通常営業時間中の内見が難しい場合があります。
例えば、
- 開店前
- 閉店後
- 定休日
- 客数の少ない時間帯
などにまとめて対応します。
従業員にもまだ閉店を伝えていない場合は、内見の実施方法を仲介会社と事前に調整します。
6.有力候補は早めに貸主・管理会社へつなぐ
造作価格の交渉だけを長く続けても、貸主の入居審査に通らなければ居抜きは成立しません。
有力な候補者が見つかったら、貸主・管理会社が指定する手順に従って入居申込みへ進めます。
貸主側では、例えば、
- 事業内容
- 業態
- 法人・個人情報
- 資力・信用
- 保証会社
- 営業時間
- 店舗利用方法
などを審査します。
現借主側だけで「この人に決定」と確定するものではありません。
現在の賃料を次の借主へ約束しない
後継候補から、
「今の家賃はいくらですか」
と聞かれることはあります。
現在の条件を参考情報として伝えることはできますが、次の契約条件を決定するのは貸主側です。
更新時の賃料、保証金、契約期間などが変わる可能性があります。
現在の借主が、次テナントの賃貸条件まで保証しないようにします。
7.造作譲渡と新しい賃貸借を連動させる
貸主審査に通ったら、次テナントとの造作譲渡条件と、貸主との新しい賃貸借契約を詰めていきます。
ここで避けたいのが、
「造作譲渡は成立したが、新しい賃貸借契約が成立しなかった」
という状態です。
そのため、
- 賃貸借契約成立
- 造作譲渡成立
- 引渡日
- 代金支払日
- 現借主の退去完了
の関係を整理します。
個別の契約書については、必要に応じて専門家へ確認してください。
譲渡対象を明細化する
「店内一式を譲渡」だけでは、後から認識がずれることがあります。
例えば、
- 有償譲渡する設備
- 無償で残す設備
- 現借主が持ち出すもの
- 貸主所有物
- リース品
- 撤去するもの
を分けます。
写真・設備リストを使って対象を残すと確認しやすくなります。
後継テナント探しと原状回復準備を並行する
居抜きで最も危険なのは、
「もうすぐ次のテナントが決まりそうだから」
という理由で原状回復の準備を完全に止めてしまうことです。
候補者がいても、
- 入居審査に通らない
- 賃料条件が合わない
- 造作価格で折り合わない
- 出店計画が中止になる
ことがあります。
そのため、居抜き募集と並行して、
- 原状回復範囲
- 原状回復見積
- 必要工期
- 工事発注期限
も把握しておきます。
後継テナント探しの終了期限を決める
居抜き募集には締切が必要です。
例えば原状回復工事に3週間、貸主検査・是正に1週間必要なら、契約終了日の数日前まで後継者を探し続けることはできません。
「いつまで探せるか」は、物件ごとの原状回復期間から逆算します。
後継テナント探しに確保する期間については、ART-181で詳しく扱います。
候補者が多いときは「譲渡額が高い人」だけで決めない
複数候補がいる場合、造作譲渡額の高い候補を選びたくなります。
ただし、居抜き成立には貸主の賃貸借契約も必要です。
例えば、
- 造作譲渡額は高いが資金計画が不明確
- 業態が貸主条件に合わない
- 開業時期が遅い
- 必要な追加工事が大きい
候補より、譲渡額は少し低くても契約成立の可能性が高い候補の方が、最終的には有利な場合があります。
造作譲渡額だけでなく「退去期限までに成立するか」で判断します。
後継テナント探しで避けたい失敗
貸主へ相談する前に募集する
居抜き自体が認められなければ、候補者を探しても成立しません。
造作譲渡額を高く設定しすぎる
買い手側の初期投資総額が高くなり、候補者を狭める可能性があります。
設備情報をほとんど用意しない
候補者が追加工事費を判断できず、内見後に離脱しやすくなります。
閉店情報を必要以上に公開する
営業中の店舗では、従業員・顧客・取引先への影響を考えて公開範囲を決めます。
候補者が見つかっただけで原状回復を止める
貸主審査・契約成立までは不成立になる可能性があります。
賃貸条件を現借主が確約する
次のテナントの賃貸条件は貸主との契約で決まります。
退去期限ぎりぎりまで募集する
不成立になったときに原状回復する時間がなくなります。
居抜きの後継テナント探しについてよくある質問
後継テナントはどこで探せますか?
居抜き・造作譲渡の専門会社、店舗専門の不動産会社、貸主・管理会社の募集ルート、業界ネットワークなどがあります。店舗の業態や地域、閉店情報をどこまで公開できるかによって使い分けます。
自分で後継テナントを探してもよいですか?
知人や取引先などから候補者を探すことはできます。ただし、候補者が物件を借りるには貸主の審査と賃貸借契約が必要です。貸主・管理会社への事前相談は行ってください。
SNSで募集してもよいですか?
候補者探しの手段にはなります。ただし、閉店情報が広く知られることや、未確定の賃貸条件まで確定情報として伝えないことに注意します。
閉店を公表する前でも後継者を探せますか?
店舗名や詳細住所を公開せず、条件に合う出店希望者へ限定して紹介する方法もあります。秘密保持が重要なら、募集前に仲介会社へ公開範囲を伝えます。
造作譲渡額はいくらに設定すればよいですか?
設備の状態、内装の汎用性、次の借主が削減できる工事費、立地、退去期限などによって変わります。出店時にかけた内装費だけでは決められません。
候補者が見つかったら原状回復をキャンセルしてよいですか?
候補者が見つかった段階ではまだ早い場合があります。貸主審査、新しい賃貸借契約、造作譲渡条件が成立する見通しを確認しながら判断します。
複数の仲介会社へ相談してもよいですか?
可能な場合はあります。ただし、募集条件や譲渡額が会社ごとに違わないよう整理し、契約形態や手数料、他社募集の可否を事前に確認してください。
次のテナントが見つからなかったらどうしますか?
契約上必要な原状回復へ切り替えます。そのため、募集開始時点から原状回復の見積・必要工期を把握し、切替期限を決めておくことが重要です。
後継テナント探しは「募集数」より成立までの流れを作る
居抜きで後継テナントを探すときは、単純に多くの人へ店舗情報を見せればよいわけではありません。
進める順番は、
- 貸主へ居抜き募集を相談する
- 物件・設備・造作情報を整理する
- 募集ルートを決める
- 造作譲渡条件を決める
- 問い合わせ・内見で候補者を絞る
- 貸主の入居審査へ進める
- 造作譲渡と新しい賃貸借を成立させる
です。
そして、これと同時に原状回復の費用と工期も把握しておきます。
居抜きが成立すれば、原状回復費・設備撤去費を減らし、造作を資産として譲渡できる可能性があります。
一方、成立しなければ現在の契約どおり物件を返す必要があります。
後継テナント探しの目的は「問い合わせをたくさん集めること」ではなく、退去期限までに貸主・現借主・次借主の条件を揃えて契約を成立させることです。
貸主との調整については、居抜き退去で貸主の承諾を得るには?をご覧ください。
居抜きか原状回復かを比較したい場合は、店舗閉店は居抜きと原状回復のどちらを選ぶ?で整理しています。
居抜き・造作譲渡全体については、居抜き・造作譲渡ガイドをご覧ください。
閉店期限が決まっており、後継テナント募集・造作譲渡・原状回復のどれを先に進めるべきか判断できない場合は、お問い合わせから現在の店舗状況・退去期限・貸主との確認状況をご連絡ください。
