原状回復の指定業者は変更できる?店舗・オフィスで確認する7項目

店舗やオフィスを退去するとき、「原状回復工事は貸主指定の業者で行ってください」と言われることがあります。

指定された業者の見積が高い、以前から付き合いのある施工会社へ頼みたい、別会社ならもっと安く施工できるといった事情から、業者を変更したいと考えることもあるでしょう。

ただし、原状回復業者を変更できるかは、単純に「借主が費用を払うから自由に選べる」とも、「貸主が指定したから絶対に変更できない」とも一律には決まりません。

確認する起点は、賃貸借契約書・特約・工事区分表・ビルルールに、施工会社について何が定められているかです。

目次

原状回復の指定業者を変更できるかは契約内容で変わる

原状回復業者に関する契約は、大きく分けると次のような形があります。

契約・ルールの状態 借主側業者への変更 最初に確認すること
貸主または貸主指定業者が施工すると明記 借主判断だけでの変更は難しい 貸主承諾・指定範囲
貸主が承認する業者で施工できる 承認を得られれば可能性あり 承認条件・必要資格・施工体制
借主が原状回復を行うとのみ記載 借主側業者を使える余地あり 別紙・工事区分表・ビルルール
契約書には記載がなく管理会社から口頭指定 書面上の根拠を確認 特約・館内工事規則・工事区分表

契約書本文だけではなく、別紙特約、工事区分表、施工要領、館内工事規則などに指定業者について書かれていることもあります。

「指定業者です」と説明されたら、その場で変更できる・できないと判断する前に、どの書面のどの条項を根拠にしているのか確認します。

なぜ原状回復業者が指定されるのか

貸主側が施工会社を指定する理由は、価格だけではありません。

オフィスビルや商業施設では、原状回復工事が建物全体の設備や安全に影響することがあります。

  • 空調設備
  • 電気設備
  • 分電盤
  • 防災設備
  • スプリンクラー
  • 給排水設備
  • ガス設備
  • 共用部
  • 建物躯体

こうした部分では、建物の仕様を理解している施工会社へ限定したいという貸主側の事情があります。

また、高層ビルや商業施設では、工事申請、養生、搬出、作業時間、警備、火気使用などのルールも複雑です。

そのため、「指定業者である=不当に高い」と決めつけるのではなく、まず指定の対象範囲と理由を整理します。

オフィスで指定業者になる仕組みについては、オフィス原状回復の指定業者とは?も参照してください。

原状回復業者を変更したいときに確認する7項目

1.賃貸借契約書の原状回復条項

最初に確認するのは、原状回復工事を誰が行うことになっているかです。

たとえば、契約書に次のような趣旨の記載がある場合があります。

  • 貸主が原状回復工事を行う
  • 貸主が指定する施工会社が工事を行う
  • 借主は貸主指定業者へ発注する
  • 貸主が承認する業者で工事を行う
  • 借主の責任と費用で原状回復を行う

これらは似て見えますが、意味は同じではありません。

特に「指定する業者」と「承認する業者」では、借主側から施工会社を提案できる余地が違う場合があります。

2.特約・工事区分表・ビルルール

契約書本文だけを読んで業者を自由に選べると判断しないようにします。

オフィスや商業施設では、別紙の工事区分表に、空調・電気・防災等について貸主側施工会社を使うことが記載されている場合があります。

原状回復の内装工事全体が指定なのか、設備工事だけが指定なのかによっても対応は変わります。

3.指定されている工事の範囲

「原状回復は指定業者」と言われても、すべての作業が指定範囲とは限りません。

たとえば案件によっては、建物設備に関係する部分は指定業者、家具・什器・残置物の撤去は借主側業者、と分けられる場合があります。

反対に、内装解体から設備復旧まで一括で指定されている契約もあります。

業者を変更できるかという質問をする前に、どこからどこまでが指定範囲なのかを明確にします。

4.貸主が別業者を承認できる条項になっているか

指定業者以外の施工を希望する場合、貸主へ承認を求められる契約もあります。

この場合は、「安い業者を見つけたので変更したい」という価格だけの話ではなく、候補会社について次の情報をそろえて相談した方が進めやすくなります。

  • 施工実績
  • 建設業許可等の必要な許認可
  • 保険加入状況
  • 施工管理体制
  • 工程表
  • 工事内容・仕様
  • 安全管理体制
  • 廃棄物処理体制
  • 貸主検査への対応

貸主側にとって問題になるのは、工事費だけでなく建物への損傷や工事後の責任です。

5.B工事とC工事を分けて考える

店舗・オフィスではA工事・B工事・C工事という呼び方が使われることがあります。

ただし、これらは全国共通の法定区分ではなく、物件ごとの契約書や工事区分表で内容を確認する必要があります。

たとえば、空調・防災・電気など建物側設備に関係する工事だけを指定施工会社が担当し、それ以外を借主側業者へ切り分けられる場合もあります。

B工事の指定会社そのものを変更したい場合は、B工事の指定業者は変更できる?で別に整理しています。

6.変更した場合の工期と責任を確認する

別業者へ変更できたとしても、価格だけで発注先を決めるべきではありません。

原状回復は通常、契約終了日や明渡期限までに完了する必要があります。

新しい業者の承認、現地調査、見積、工事申請、施工、貸主検査、是正工事まで考えると、業者変更によって工程が長くなる場合があります。

また、借主側が選んだ施工会社による工事で建物設備を損傷した場合の責任や、貸主検査で不合格になった場合の再施工についても確認しておく必要があります。

7.変更承認は口頭ではなく書面で残す

貸主や管理会社から「その業者で大丈夫です」と言われても、施工開始前に承認内容を書面で確認します。

少なくとも、次の内容を残しておく方が安全です。

  • 承認された施工会社
  • 施工できる範囲
  • 指定業者が施工する範囲
  • 使用する仕様・材料
  • 工事期限
  • 検査方法
  • 是正工事の扱い

原状回復後に「その工事まで任せるとは言っていない」という認識違いが起きないようにします。

指定業者の変更を相談できる可能性があるケース

次のような場合は、少なくとも変更可否を確認する余地があります。

契約に施工会社の指定がない

契約上、借主が原状回復する義務だけが記載され、施工会社について指定がない場合です。

ただし、工事区分表やビルルールに別途指定がないかも確認します。

「貸主が承認する業者」と書かれている

貸主が承認すれば借主側から施工会社を提案できる構造になっている場合です。

承認基準が契約に書かれていなければ、候補会社の施工実績・資格・保険・施工計画等を提示して確認します。

指定業者が施工できない

指定業者が工期内に対応できない、必要な工事を施工できないといった事情があれば、貸主側で別会社を承認・指定するケースも考えられます。

貸主が変更に合意した

契約上は指定業者となっていても、貸主と借主の双方が合意すれば施工条件を変更できる場合があります。

ただし、管理会社の担当者との口頭合意だけで着工せず、貸主側の正式な承認権限を確認します。

指定業者の変更が難しいケース

契約で指定業者施工が明確に定められている

貸主または貸主指定業者が原状回復工事を行うと明確に定められている場合、借主が一方的に別業者へ変更するのは難しくなります。

見積が高いという理由だけで、契約上の施工会社指定が自動的になくなるわけではありません。

建物設備へ影響する工事

空調、電気、防災、給排水など建物全体へ影響する設備工事は、指定会社以外へ切り替えにくい場合があります。

商業施設・大型ビルの施設ルールで施工会社が限定されている

商業施設や大型ビルでは、安全管理・施工管理上の理由から工事会社を限定している場合があります。

退去期限が迫っている

貸主承認や新規業者の現地調査に時間がかかると、原状回復完了が明渡期限に間に合わない可能性があります。

変更できる可能性だけを追い続けて、工事開始そのものが遅れないよう注意します。

指定業者を変更できなくても確認できることはある

指定施工会社を変更できないからといって、提示された見積を確認せずそのまま発注するしかない、という意味ではありません。

変更できない場合は次の順番で確認します。

  1. 契約上必要な工事範囲か
  2. 数量は現地・図面と一致しているか
  3. 仕様は必要なものか
  4. 「一式」の内訳を確認できるか
  5. 見積外・追加工事は何か
  6. 指定業者しか施工できない範囲はどこか
  7. 借主側業者で対応できる工事を分離できないか
  8. 参考見積を価格確認に使えるか

見積が高いこと自体が問題である場合は、原状回復の指定業者が高いときの確認方法を先に確認してください。

複数社の価格を比較する場合は、原状回復の相見積もりも参照してください。

すでに見積を受領し、再見積や価格協議を進めたい場合は、原状回復費用の交渉方法で手順を分けています。

貸主承認なしで別業者へ工事を依頼するリスク

指定業者を使う契約になっているにもかかわらず、借主判断で別業者へ施工させると、価格削減以上の問題が生じる可能性があります。

  • 貸主が工事を承認しない
  • 工事のやり直しを求められる
  • 建物設備を損傷した場合の責任が問題になる
  • 貸主検査に合格できない
  • 明渡期限までに是正できない
  • 原状回復義務を履行したか争いになる

候補業者が「うちなら安くできます」と言っているだけでは、貸主側との契約関係は変わりません。

業者を切り替える場合は、施工前に貸主・管理会社側との承認手続きを完了させます。

国交省の住宅向けガイドラインを店舗・オフィスへそのまま使わない

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のQ&Aには、原状回復工事を借主側業者へ依頼できるかという項目があります。

そこでは、契約で貸主または貸主指定業者が施工すると定めている場合には、その契約に従うことが基本とされています。

一方、このガイドラインは民間賃貸住宅を想定した資料です。

店舗・オフィスなどの事業用賃貸借では、住宅向けガイドラインだけで「指定業者を断れる」「絶対に断れない」と判断せず、賃貸借契約書、特約、工事区分表、施設規則を確認します。

民法には原状回復義務についての一般原則がありますが、事業用物件では個別契約で具体的な返還条件や施工方法を定めている場合があります。

原状回復業者の変更についてよくある質問

原状回復の指定業者は断れますか?

契約内容によります。

貸主または貸主指定業者が施工すると明確に合意している場合、借主が一方的に断って別業者へ変更できるとは一般化できません。

まず契約書・特約・工事区分表を確認し、貸主承認による変更余地があるか確認してください。

指定業者の見積が高ければ変更できますか?

見積が高いことだけで施工会社を変更できるとは限りません。

変更可否と価格の妥当性は別の問題です。

施工会社を変更できない場合でも、工事範囲、数量、仕様、単価、諸経費などを確認し、再見積を依頼できる場合があります。

契約書に指定業者の記載がなければ自由に業者を選べますか?

契約書本文に記載がなくても、別紙特約、工事区分表、ビルルールなどに施工会社指定がある場合があります。

すべて確認したうえで貸主・管理会社へ施工会社選定条件を確認してください。

管理会社から口頭で指定業者と言われた場合は?

どの契約条項・施設規則を根拠に指定しているのか確認します。

口頭説明だけを理由に勝手に別業者へ依頼するのではなく、書面上の条件を確認したうえで対応します。

指定業者以外から相見積もりを取ってもよいですか?

他社へ直接発注できない場合でも、工事範囲・数量・仕様・価格を確認する参考資料として見積を取得できるケースがあります。

ただし、参考見積が安いから指定業者に同額で施工する義務が生じるわけではありません。

工事を発注した後でも業者を変更できますか?

発注前より難しくなります。

すでに契約が成立している場合、キャンセル条件、発注済み材料、施工準備費、工期への影響などを確認する必要があります。

業者変更を検討する場合は、見積承認・発注前に確認する方が選択肢を残しやすくなります。

B工事の指定業者変更も同じですか?

重なる部分はありますが、B工事では工事区分そのものの確認が必要です。

B工事・C工事の切り分けや指定施工会社の変更については、B工事の指定業者変更で別に解説しています。

指定業者を変えたいときは「誰を使うか」の前に契約を確認する

原状回復業者を変更できるかを判断するときは、最初から新しい施工会社を探すのではなく、次の順序で確認します。

  1. 契約書・特約を確認する
  2. 工事区分表・ビルルールを確認する
  3. 指定されている施工範囲を確認する
  4. 貸主承認による変更余地を確認する
  5. 借主側業者へ分離できる工事を確認する
  6. 変更時の工期・責任を確認する
  7. 貸主承認を書面で残す

指定業者を変更できない場合でも、原状回復範囲や見積内容まで確認できなくなるわけではありません。

「業者を変更できるか」と「提示されている工事内容・価格が妥当か」を分けて整理することで、取れる選択肢が見えやすくなります。

原状回復の契約条件、指定業者の範囲、見積内容をまとめて確認したい場合は、契約書・工事区分表・見積書をそろえたうえで確認すると整理しやすくなります。

原状回復の見積・工事範囲について相談する

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