店舗やオフィスの原状回復見積を受け取ったとき、金額が妥当か確認する方法の一つが相見積もりです。
ただし、複数社から金額を集めれば比較できるわけではありません。
A社は内装解体・廃棄・電気工事まで含み、B社は内装工事だけ、C社は夜間作業費やB工事を別途としているのであれば、総額を並べても正しい比較にはなりません。
相見積もりで大切なのは、同じ工事範囲・数量・仕様・施工条件を各社へ提示し、何を含む金額なのかを揃えることです。
この記事では、店舗・オフィスの原状回復で相見積もりを取るときの依頼方法、比較項目、指定業者がいる場合の使い方まで整理します。
すでに見積を受け取っているものの、内容の読み方が分からない場合は、先に原状回復の見積書の見方を確認してください。
原状回復で相見積もりを取る意味
相見積もりの目的は、一番安い施工会社を探すことだけではありません。
複数の見積を比べることで、
- 工事範囲が各社で違っていないか
- 数量が大きく違う項目がないか
- 仕様に違いがないか
- 一式項目が極端に大きくないか
- 特定の工種だけ価格差が大きくないか
- 別途扱いになっている工事がないか
を確認できます。
例えば3社の床工事が、
- A社:300㎡
- B社:300㎡
- C社:450㎡
となっていれば、単価を比較する前にC社の数量算定を確認すべきだと分かります。
相見積もりは価格表を集める作業ではなく、現在の見積条件に違いがないかを見つける作業でもあります。
最初に原状回復範囲を確定する
相見積もりを依頼する前に、どこまで施工するのかをできるだけ整理します。
確認に使う資料としては、
- 賃貸借契約書
- 原状回復特約
- 工事区分表
- 入居時図面
- 現在のレイアウト図
- 入居時写真
- 貸主・管理会社からの原状回復指示
などがあります。
例えばA社には「スケルトン返し」、B社には「入居時の事務所仕様へ復旧」と伝えてしまえば、見積金額が違うのは当然です。
比較する前に、各社が同じ完成状態を前提にしていることを確認します。
各社へ同じ資料を渡す
相見積もりを取るときは、できるだけ同じ情報を各社へ渡します。
例えば、
- 物件住所
- 用途
- 面積
- 図面
- 原状回復範囲
- 工事区分表
- 希望工期
- 退去期限
- 作業可能時間
- 搬出入条件
- 管理会社の施工条件
などです。
片方の会社だけ詳しい図面を持ち、もう片方は現場を短時間見ただけでは、見積条件が揃いません。
比較の精度を上げたい場合は、現地調査についても同じ範囲を確認してもらいます。
既存の見積書をそのまま仕様書代わりにしない
すでに管理会社や指定業者から見積を受け取っている場合、その見積を別会社へ渡して「これより安くしてください」と依頼したくなることがあります。
しかし、それだけでは適正な相見積もりにならないことがあります。
元の見積に、
- 不要な工事
- 数量の誤り
- 過剰な仕様
- 工事区分の誤り
が含まれていれば、その前提をそのまま他社へ引き継ぐことになるからです。
既存見積は参考資料として使いつつ、契約書・図面・現況から必要な工事範囲を確認します。
比較するときは総額ではなく同じ項目を横に並べる
各社の見積が揃ったら、まず総額だけを並べるのではなく、工種ごとに比較します。
例えば次のような項目です。
- 内装解体
- 床
- 壁・天井
- 電気・照明
- 空調・換気
- 給排水
- 消防・防災
- 廃棄物処分
- 仮設・養生
- クリーニング
- 現場管理費
- 諸経費
例えば、総額ではA社500万円、B社450万円でも、B社には空調工事80万円が入っていないのであれば、実質的にはB社の方が高くなる可能性があります。
見積の内訳については、原状回復見積の内訳はどこを見る?で詳しく整理しています。
数量を揃えて比較する
同じ工事項目でも、数量が違えば金額は比較できません。
例えば床工事なら、
- A社:300㎡ × 4,000円
- B社:250㎡ × 4,500円
という見積があった場合、総額だけを見るとB社が安く見えるかもしれません。
しかし、施工範囲が本当に250㎡なのかを先に確認する必要があります。
相見積もりで価格差が大きい項目を見つけたら、
- 数量が同じか
- 単位が同じか
- 施工範囲が同じか
- 仕様が同じか
の順で確認します。
仕様を揃えないと単価は比較できない
例えば壁の復旧でも、
- 量産クロス
- 指定品
- 塗装
では費用が違います。
床材、照明設備、空調部材なども同じです。
A社は貸主指定品、B社は安価な代替品で見積もっているのであれば、単価差があって当然です。
相見積もりでは、同じ仕様で依頼するか、各社が使用する仕様を明示してもらいます。
「一式」の金額はそのまま比較しない
見積の中に、
- 解体工事一式
- 電気工事一式
- 設備工事一式
- 諸経費一式
などがある場合、その金額だけを横に並べても比較できません。
例えばA社の「解体一式」には廃棄物処分まで含まれ、B社では処分費が別項目になっている可能性があります。
主要な一式項目については、含まれる施工内容を確認します。
一式表記の確認方法については、原状回復の見積で「一式」と書かれていたら?をご覧ください。
「別途」「含まず」を比較表に入れる
相見積もりでは、金額の書いていない部分も重要です。
特に、
- 別途
- 見積外
- 含まず
- 実費精算
- 追加協議
と書かれている項目を拾います。
例えばA社が550万円、B社が480万円でも、B社に、
- 廃棄物処分費別途
- 夜間費用別途
- 消防工事別途
と書かれていれば、最終的にB社が安いとは限りません。
比較表には、「金額」だけでなく「含まないもの」の欄を作ると確認しやすくなります。
工期と退去期限も比較する
原状回復工事では、価格だけでなく工期も発注条件です。
例えば、
- A社:400万円・3週間
- B社:350万円・5週間
だったとしても、退去まで4週間しかなければB社へ発注できない可能性があります。
確認するのは、
- 着工可能日
- 工事期間
- 検査日
- 是正期間
- 引渡可能日
です。
安い見積を選んだ結果、明渡期限を超えてしまえば、工事費以外の損失が発生する可能性があります。
価格以外に施工体制も比較する
相見積もりは価格競争だけに使うものではありません。
例えば、
- 事業用物件の原状回復実績
- 店舗・オフィスの施工経験
- ビル管理会社との調整経験
- 夜間・休日施工への対応
- 工程管理
- 追加工事時の承認方法
- 担当窓口
なども比較します。
特に退去期限が厳しい案件では、価格差より工程管理能力が重要になることがあります。
最安値だけで発注しない
相見積もりを取ると、最も安い会社に目が行きます。
しかし、極端に安い見積では、
- 施工範囲が足りない
- 必要な工事が別途
- 仕様が違う
- 廃棄費を含まない
- 工期条件が違う
場合があります。
金額が大きく違う場合は、「安い会社を選ぶ」のではなく、なぜ差が生じているのかを確認します。
指定業者が決まっている場合でも相見積もりに意味はある
大型オフィスビルや商業施設では、原状回復工事の施工会社が貸主・管理会社から指定されている場合があります。
この場合、他社から見積を取っても、その会社へ直接発注できないことがあります。
それでも比較見積に意味がないとは限りません。
同じ条件で他社に積算してもらえば、
- 工事範囲
- 数量
- 仕様
- 工事項目
- 単価
に大きな差がないかを確認する材料になります。
ただし、別会社の見積は、建物指定の施工条件を完全に反映できない場合があります。
そのため、指定業者へ「他社はこの金額だから同じ金額にしてください」と単純に要求するのではなく、差のある項目について算定条件を確認する使い方が適しています。
B工事を含むかどうかは必ず確認する
相見積もりで特に注意したいのがB工事です。
例えば、
- 空調
- 電気
- 消防設備
などの一部がビル指定業者によるB工事の場合、借主側の原状回復会社では見積できないことがあります。
A社の見積がB工事込み、B社がB工事別途なら、総額比較はできません。
各見積で、
- B工事を含むか
- 別見積になるか
- 管理会社から別途請求されるか
を確認します。
現地調査なしの概算見積は最終比較に使わない
初期段階では、図面や写真だけで概算金額を出してもらえる場合があります。
概算見積は、予算感や候補会社を絞るには便利です。
ただし、正式発注の比較には、可能な限り現地確認後の見積を使います。
現地では、
- 図面と実際の施工状況の違い
- 設備の変更
- 搬出経路
- 作業スペース
- 建物側の施工条件
などが判明することがあるためです。
比較表を自社で作ると違いが見えやすい
施工会社ごとに見積書の書式が違うため、そのまま横に並べても比較しづらいことがあります。
そこで、自社側で簡単な比較表を作ります。
項目としては、
- 工事項目
- A社数量
- A社金額
- B社数量
- B社金額
- C社数量
- C社金額
- 仕様差
- 別途項目
- 確認事項
などです。
これだけでも、総額だけでは見えなかった差が分かります。
価格差が大きい項目から質問する
見積を比較すると、すべての項目に少しずつ差があることもあります。
その場合、最初からすべて確認する必要はありません。
まず、
- 金額差が大きい項目
- 数量が大きく違う項目
- 一式で中身が分からない項目
- 片方だけに存在する項目
から確認します。
総額への影響が大きい部分を整理してから、細かな違いへ進みます。
相見積もりを取る時期は早い方がよい
原状回復で相見積もりを取るなら、退去期限直前ではなく、できるだけ時間に余裕がある段階で行います。
相見積もりには、
- 現地調査
- 見積作成
- 比較
- 質問
- 再見積
- 貸主・管理会社との確認
が必要になることがあります。
退去期限まで時間がなければ、安い会社が見つかっても着工できない可能性があります。
相見積もりで避けたい進め方
各社へ違う条件を伝える
工事範囲や仕様が違えば、価格比較はできません。
総額だけを比較する
見積に含まれる工事や別途項目を確認します。
最安値だけで決める
施工範囲・工期・品質管理まで含めて判断します。
指定業者がいることを伝えず見積を取る
直接発注できない場合があります。比較目的なのか、実際に施工会社を変更できるのかを分けて整理します。
退去直前まで比較を続ける
値下げできても、工期不足で明渡しに間に合わなければ損失が拡大する可能性があります。
原状回復の相見積もりについてよくある質問
原状回復では相見積もりを取った方がよいですか?
施工会社を自由に選べる場合や、提示された見積の妥当性を確認したい場合には有効です。ただし、同じ工事範囲・仕様・施工条件で比較する必要があります。
何社から見積を取ればよいですか?
社数だけで適正性が決まるわけではありません。十分に比較できる複数社から、同じ条件で見積を取得することの方が重要です。退去期限や現地調査にかかる時間も考慮して決めます。
指定業者がいる場合でも相見積もりできますか?
他社へ積算を依頼できる場合はあります。ただし、その会社へ直接発注できるとは限りません。比較資料として使うのか、施工会社変更まで可能なのかを契約・工事区分から確認します。
一番安い会社へ発注すればよいですか?
総額だけでは判断できません。工事範囲、数量、仕様、別途工事、工期などを揃えて比較してください。
他社の見積を指定業者との価格交渉に使えますか?
比較材料にはできますが、施工条件が同じかを確認する必要があります。総額をそのままぶつけるより、差が大きい工事項目について算定根拠を確認する方が実務的です。
現地調査なしの見積でも比較できますか?
概算比較には使えますが、正式な発注判断では現地確認後の見積の方が条件を揃えやすくなります。
原状回復の相見積もりは「安い会社探し」ではなく条件を揃える作業
店舗・オフィスの原状回復で相見積もりを取るときは、次の順番で進めます。
- 契約上の原状回復範囲を確認する
- 各社へ同じ資料を渡す
- 同じ完成状態・仕様で見積を依頼する
- 工事項目ごとに比較する
- 数量を比較する
- 仕様を比較する
- 別途・見積外項目を確認する
- B工事の扱いを確認する
- 工期を確認する
- 価格差の大きな項目から理由を確認する
総額だけを並べるのではなく、条件を揃えることで初めて「どこが高いのか」「なぜ差があるのか」を確認できます。
原状回復見積の各項目について詳しく確認したい場合は、原状回復見積の内訳はどこを見る?をご覧ください。
見積書全体を見る順序については、原状回復の見積書の見方で整理しています。
原状回復全体については、店舗・オフィスの原状回復ガイドをご覧ください。
すでに複数の見積を受け取っているものの、工事範囲や数量が揃っておらず比較できない場合は、お問い合わせから現在の状況をご連絡ください。
