居抜き退去は、原状回復工事や設備処分を減らせる可能性がある一方、通常の退去より関係者が増えるため、途中でもめることがあります。
特に問題になりやすいのが、貸主との返還条件、後継テナントの入居審査、造作の所有権、設備故障、造作譲渡代金、退去期限です。
トラブルが起きたときに最も避けたいのは、原因を整理しないまま設備を撤去したり、修理費を支払ったり、相手の主張をそのまま受け入れたりすることです。
居抜き退去のトラブルでは、まず「誰と誰の、何の契約・合意が問題なのか」を分けます。
現在の借主と貸主の問題なのか、現在の借主と後継テナントの問題なのか、後継テナントと貸主の問題なのかによって、確認する契約も対応も変わります。
この記事では、居抜き退去で起きやすい8つのトラブルと、すでに問題が起きている場合に何から確認すればよいかを整理します。
すでにトラブルが起きているなら、最初に6つ確認する
設備故障や契約トラブルが起きると、すぐに「誰が払うのか」「契約を解除できるのか」という話になりがちです。
その前に、次の順番で事実関係を固定します。
1.安全上必要な対応を除き、不可逆な作業を急がない
問題となっている設備をすぐ撤去・廃棄してしまうと、後から状態を確認できなくなります。
また、内装を先に解体すると、居抜き状態を維持したまま問題を解決する選択肢を失うことがあります。
ただし、漏水、漏電、火災のおそれなど安全上の問題がある場合は、安全確保を優先し、貸主・管理会社や専門業者へ連絡します。
2.写真・動画・書類を残す
設備故障や引渡し状態でもめている場合は、現状を記録します。
- 設備全体の写真
- メーカー・型番・製造番号
- 故障状態が分かる動画
- エラー表示
- 引渡し時の写真
- 造作・設備一覧
- 契約書・覚書
- メール・チャット
- 修理会社の点検結果
などを保存します。
口頭のやり取りだけにせず、後で経緯を確認できる状態にします。
3.トラブルの当事者を分ける
居抜きでは、複数の契約関係が同時に動きます。
| 関係 | 主に問題になること |
|---|---|
| 現在の借主 × 貸主 | 原状回復、居抜き返還、残置設備、退去期限 |
| 現在の借主 × 後継テナント | 造作譲渡対象、価格、設備状態、支払い、引渡し |
| 後継テナント × 貸主 | 入居審査、新しい賃貸借条件 |
| 現在の借主 × リース会社等 | 所有権、返却、中途解約、契約承継 |
例えば、設備故障でも「貸主設備の故障」と「現借主が後継者へ売却した厨房機器の故障」では、確認する契約が違います。
4.期限を確認する
居抜きトラブルでは、金額以上に期限が重要になることがあります。
確認するのは、
- 現在の賃貸借契約終了日
- 原状回復工事に必要な期間
- 貸主の検査日
- 造作譲渡代金の支払期限
- 設備の引渡日
- 後継テナントの契約予定日
などです。
トラブルの解決を待っている間にも、現在の借主の退去期限は進みます。
5.重要な回答は書面で確認する
「そのままで大丈夫です」「設備は全部引き継ぎます」「後から修理します」といった重要な条件を口頭だけで処理すると、後で認識が変わることがあります。
メール、覚書、契約書、設備一覧など、後から確認できる形にします。
6.法的な争いになっている場合は個別に専門家へ確認する
造作代金の返還請求、損害賠償、契約解除、原状回復費用の負担などについて当事者間で主張が対立している場合は、一般的な居抜き仲介だけで判断できないことがあります。
契約内容・金額・証拠を整理したうえで、不動産や契約問題を扱う弁護士などへの確認を検討します。
トラブル1.貸主が居抜き退去を認めていなかった
居抜き退去でも特に大きな問題になりやすいのが、現在の借主と後継者だけで話を進め、最後に貸主から認められないケースです。
例えば、
- 賃貸借契約ではスケルトン返しだった
- 貸主に相談せず後継者を募集した
- 残す予定の設備を貸主が認めなかった
- 次の業種が物件条件に合わなかった
- 現在の借主が想定していた返還条件と貸主の認識が違った
といったケースがあります。
後継者との造作譲渡がまとまっても、現在の借主が貸主に対してどの状態で物件を返す義務を負っているかは別問題です。
貸主の居抜き了承が得られていない場合は、現在の賃貸借契約・特約を確認し、原状回復へ戻る場合の工事期限も同時に確認します。
居抜き退去で貸主へ確認する事項も参照してください。
トラブル2.後継テナントが決まったのに入居審査が通らない
「後継者が見つかった」ことと「居抜き退去が成立した」ことは同じではありません。
典型的な居抜きでは、後継候補者が貸主へ申込みを行い、新たな賃貸借契約について審査・条件調整を行います。
この段階で、
- 保証会社の審査
- 貸主の審査
- 業種・用途
- 賃料等の条件
- 保証金
- 営業時間
などが合わず、契約に至らないことがあります。
そのため、後継者との造作譲渡契約を先に確定させる場合は、「新しい賃貸借契約が成立しなかった場合にどう扱うか」を確認しておく必要があります。
居抜きの後継テナントの探し方もあわせて確認してください。
トラブル3.売る予定だった設備が自社所有ではなかった
居抜きでは、店内設備の所有者が混在していることがあります。
例えば厨房機器や空調の一部が、
- 貸主所有
- リース会社所有
- レンタル品
- メーカー等からの貸与品
だったというケースです。
後継者へ「この設備も含めて譲渡する」と案内した後に所有者が違うと分かれば、価格や契約条件を変更する必要があります。
設備は造作譲渡契約を締結する前に、所有者と譲渡権限を確認します。
詳しくは居抜き設備の所有権の確認方法と居抜き店舗のリース品の処理で整理しています。
トラブル4.引渡し前後に設備が故障した
厨房機器、空調、給排水、給湯設備などの故障は、居抜きで起きやすいトラブルの一つです。
ただし、故障したからといって「必ず旧テナントが修理する」「中古だからすべて新テナント負担」と一律には判断できません。
確認するのは、
- その設備が本当に譲渡対象だったか
- 契約時にどのような状態と説明していたか
- 故障を売主が把握していたか
- 引渡し前に動作確認したか
- 「現状有姿」等の特約があるか
- いつ故障したのか
- 故障原因は何か
です。
売買した設備が契約で合意した種類・品質・数量に適合していなければ、契約不適合として問題になる場合があります。
一方で、中古設備についてどの状態まで保証する契約だったのかによっても結果は変わります。
故障が発覚した場合は、設備をすぐ廃棄するのではなく、状態を記録し、契約書・設備表・説明内容を確認します。
トラブル5.「現状有姿」の意味について認識が違う
造作譲渡契約では、「現状有姿」「現況有姿」といった表現が使われることがあります。
これを「どのような故障があっても売主は一切責任を負わない」という意味だと考えるのは危険です。
反対に、中古設備なのに新品と同じ性能を当然に保証すると考えるのも適切ではありません。
何をどの状態で引き渡す合意だったのか、既知の不具合をどのように説明したのか、責任を限定する特約をどう定めたのかを確認します。
例えば、
- 冷蔵庫:現在稼働中、温度確認済み
- エアコン:異音あり
- 製氷機:動作未確認
- 給湯器:交換推奨と説明済み
のように、設備ごとの状態を残しておけば認識を合わせやすくなります。
トラブル6.造作譲渡の対象・金額・引渡し条件が食い違った
「店内一式30万円」のような曖昧な取り決めは、引渡し時にもめやすくなります。
例えば、
- 冷蔵庫を含むと思っていた
- POSは持ち出す予定だった
- 看板も譲渡対象だと思っていた
- 代金に消費税等が含まれると思っていた
- 撤去費用をどちらが負担するか決めていなかった
という認識違いです。
譲渡対象は設備目録等で特定し、対象外の設備も必要に応じて記載します。
金額、支払い時期、引渡し日、撤去・修理負担、不成立時の扱いも造作譲渡契約書で整理します。
造作譲渡契約書の記載事項も確認してください。
トラブル7.造作代金の支払い・契約解除でもめる
後継者が決まった後に、
- 造作代金が支払われない
- 契約後に買主が撤回した
- 貸主審査が通らず取引を中止したい
- 手付金・預り金をどう扱うかでもめた
- 設備故障を理由に代金返還を求められた
といったトラブルが起こることがあります。
この場合は、賃貸借の申込み、新しい賃貸借契約、造作譲渡契約を混ぜずに確認します。
例えば、新しい賃貸借契約が成立しなかった場合に造作譲渡も解除するという条件になっていたのか、それとも独立した契約だったのかで整理が変わります。
金額が大きい、契約解除や損害賠償の主張が出ている場合は、契約書と経緯を整理して法律の専門家へ確認することも検討します。
トラブル8.居抜きが決まらないまま退去期限が迫った
居抜き退去で最終的に大きな損失につながりやすいのが、後継者探しを続けすぎるケースです。
退去期限直前まで買い手を探したものの成立せず、そこから原状回復を発注しようとして、
- 工事会社を確保できない
- 貸主指定業者の工期が取れない
- アスベスト等の事前調査に時間が必要
- 設備撤去が間に合わない
- 貸主検査・是正期間が足りない
という問題が起こることがあります。
居抜きで退去したい場合でも、通常の原状回復へ切り替える「最終期限」を設定しておくことが重要です。
後継候補者がいるだけではなく、貸主審査、賃貸条件、造作条件、新しい賃貸借契約までどこまで進んでいるかを見て判断します。
居抜きで後継テナントを探す期間も確認してください。
居抜きトラブルでは4つの契約・合意を別々に確認する
問題が複雑になる原因の一つは、居抜き全体を1つの契約だと考えてしまうことです。
実際には、少なくとも次の関係を分けます。
現在の借主と貸主
現在の賃貸借契約の終了、原状回復、返還状態、居抜き返還の合意を確認します。
現在の借主と後継テナント
造作・設備・什器の譲渡対象、価格、支払い、引渡し、設備状態等を確認します。
後継テナントと貸主
後継テナントの入居審査、新しい賃貸借契約を確認します。
現在の借主とリース会社等
リース・レンタル・貸与品について、返却、契約終了、承継等を確認します。
この4つを分けるだけでも、「誰に何を確認するべきか」が整理しやすくなります。
本当に賃借権を譲渡・転貸する場合は貸主承諾が別途問題になる
居抜きについて、「現在の賃貸借契約をそのまま次のテナントへ渡す」と説明されることがあります。
しかし、典型的な居抜きでは、現在の借主との契約を終了し、後継テナントが貸主と新たな賃貸借契約を結ぶ形もあります。
一方、実際に賃借権そのものを第三者へ譲渡したり、転貸したりする場合は、貸主の承諾が問題になります。
「居抜き」という言葉だけで契約方式を判断せず、現在の契約を終了するのか、契約上の地位を承継するのかを確認します。
トラブルを防ぐために契約前に確認したいチェックリスト
- 現在の賃貸借契約・原状回復条件を確認したか
- 貸主・管理会社へ居抜きの相談をしたか
- 後継者が入居審査を通る前提で話を進めていないか
- 造作・設備ごとの所有者を確認したか
- リース・レンタル品を分けたか
- 譲渡対象を設備一覧にしたか
- 設備のメーカー・型番・状態を記録したか
- 故障・不具合を把握している場合は説明したか
- 譲渡価格と支払日を明確にしたか
- 引渡日を決めたか
- 新しい賃貸借が不成立の場合の扱いを決めたか
- 居抜き不成立時の原状回復切替期限を決めたか
トラブルが起きたときに、誰へ相談する?
問題の種類によって相談先を変えます。
| 問題 | 主な確認先 |
|---|---|
| 返還状態・貸主との調整 | 貸主、管理会社、必要に応じ不動産・法律の専門家 |
| 後継テナント・居抜き成立 | 居抜き仲介、店舗不動産 |
| 設備所有権 | 契約資料、貸主、リース会社等 |
| 設備故障 | 設備業者、メーカー、契約当事者 |
| 造作譲渡契約・代金紛争 | 契約当事者、必要に応じ弁護士 |
| 原状回復工期 | 貸主、管理会社、原状回復会社 |
「居抜き業者にすべて任せればよい」というより、問題ごとに契約当事者と専門分野を分けることが重要です。
よくある質問
居抜きで大家ともめた場合はどうすればよいですか?
まず現在の賃貸借契約、特約、貸主との居抜きに関する合意内容を確認します。後継者との造作譲渡が成立していても、それだけで貸主への返還義務が変わるとは限りません。退去期限と原状回復への切替期限も同時に確認してください。
後継テナントが決まったのに居抜き退去できないことはありますか?
あります。後継候補者が見つかっても、貸主の入居審査、新しい賃貸条件、業種条件などで契約に至らない場合があります。候補者がいることと新しい賃貸借が成立することは分けて考えます。
居抜きで譲渡した設備がすぐ壊れた場合、旧テナントが修理しますか?
一律には決まりません。譲渡契約の内容、設備状態の説明、故障を把握していたか、動作確認、責任限定の特約、故障原因・発生時期などを確認します。
「現状有姿」と契約書にあれば、故障していても売主は責任を負いませんか?
「現状有姿」という文言だけで、あらゆるケースの責任が自動的になくなると考えない方が安全です。何をどの状態で引き渡す契約だったのか、既知の不具合をどのように説明したか、免責特約の内容などを確認します。
リース品を間違って造作譲渡の対象にしてしまった場合は?
まずリース会社との契約と設備所有者を確認し、自社判断でそのまま引き渡さないようにします。後継者への契約承継が可能か、返却が必要かなどをリース会社へ確認し、造作譲渡条件の修正が必要か検討します。
造作譲渡契約を結んだ後に後継者が審査に落ちたら?
造作譲渡契約で、新しい賃貸借契約の成立をどのように条件付けていたか確認します。不成立時の解除や代金返還について条項がない場合は、個別の契約解釈が必要になることがあります。
居抜きのトラブルを解決している間に退去期限が来そうです
トラブル対応と並行して、現在の賃貸借終了日、原状回復工事の必要期間、貸主検査日を確認してください。居抜き成立を待つことで契約どおりの返還が間に合わなくなる場合は、通常退去への切替も検討する必要があります。
相手と話がまとまらない場合はどの段階で弁護士へ相談しますか?
解除、損害賠償、造作代金の返還、設備修理費の請求など、法的な請求について双方の主張が対立している場合は早めの確認を検討します。契約書、設備一覧、写真、メール、時系列をまとめておくと相談しやすくなります。
居抜きトラブルは「責任者探し」より先に、契約・証拠・期限を分ける
居抜き退去でトラブルが起きると、「誰が悪いのか」「誰が払うのか」を先に決めたくなります。
しかし、居抜きでは貸主、新旧テナント、リース会社など複数の契約が同時に動いているため、先に事実関係を整理する方が解決しやすくなります。
現状保存 → 証拠確保 → 当事者と契約の切り分け → 期限確認 → 書面での条件確認 → 必要に応じ専門家への相談という順序で整理します。
特に退去期限が近い場合は、トラブルの解決だけに集中せず、居抜きが不成立だった場合の原状回復も並行して準備します。
居抜き退去で貸主・後継者・設備・造作譲渡のどこを整理すればよいか分からない場合は、店舗・オフィスの退去について相談するから相談できます。
