居抜き店舗には、厨房機器、エアコン、ダクト、照明、カウンター、什器など、さまざまな設備が残っています。
閉店する側では「この設備も造作として売れるだろう」、入居する側では「居抜きで引き継ぐなら自分の設備になるだろう」と考えやすいところです。
しかし、店舗内に置かれていることと、その設備を現在のテナントが所有していることは同じではありません。
自社で購入した設備もあれば、前テナントから譲り受けたもの、貸主から使わせてもらっているもの、リース・レンタル品、所有関係が分からないまま残っているものもあります。
所有関係を確認しないまま造作譲渡・買取・撤去を進めると、契約直前に譲渡対象から外すことになったり、貸主や契約先との調整が必要になったりすることがあります。
この記事では、居抜き店舗の設備を誰のものか確認する方法と、造作譲渡や退去前に何を整理すればよいかを説明します。
居抜き設備の所有者は一律には決まらない
居抜き店舗にある設備は、大きく次のように分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 例 | 退去・造作譲渡時の確認 |
|---|---|---|
| 現在のテナントが所有 | 自社購入した厨房機器・什器など | 売却・譲渡対象にできるか確認 |
| 前テナント等から譲り受けたもの | 造作譲渡で取得した設備など | 取得時の契約・対象物を確認 |
| 貸主所有 | 建物付帯設備、貸主から貸与された設備など | 自社判断で売却・撤去しない |
| リース・レンタル・貸与品 | 厨房機器、POS、複合機など | 契約先・返却条件を確認 |
| 所有者・経緯が不明 | 以前から店舗に残っている設備 | 契約資料等で確認してから扱う |
「居抜きだから設備はすべて前テナントのもの」「最初から店内にあったからすべて貸主のもの」といった決め方は避けます。
1.自社で購入した設備
現在のテナントが自社資金で購入し、自社が所有している厨房機器、家具、什器などは、造作譲渡や設備買取の候補になります。
例えば飲食店なら、次のような設備です。
- 業務用冷蔵庫・冷凍庫
- 製氷機
- 食器洗浄機
- フライヤー・ガスレンジ
- テーブル・椅子
- 食器・調理器具
- POS周辺機器
ただし、「自社で代金を払った」という記憶だけで判断せず、購入請求書、領収書、振込履歴、設備台帳などを確認できると整理しやすくなります。
これらの資料は所有関係を確認する手掛かりになりますが、帳簿に記載されていることだけをもって、すべての法的な所有関係が確定するわけではありません。
高額設備や所有関係に争いがある場合は、取得時の契約まで確認します。
2.前テナントから造作譲渡で取得した設備
居抜きで入居した店舗では、自社が設置していない設備でも、自社が所有している場合があります。
代表的なのが、前テナントとの造作譲渡によって取得した設備です。
この場合は、入居時の造作譲渡契約書や設備目録を確認します。
例えば契約書に、
- 冷蔵庫
- 製氷機
- 厨房フード
- 客席テーブル
- カウンター造作
などの対象が具体的に記載されていれば、今回の退去時にも所有関係を確認しやすくなります。
反対に「造作一式」などの表現しかなく、貸主設備やリース品が混在している場合は、あらためて一つずつ整理する必要があります。
造作譲渡契約書については、造作譲渡契約書の記載事項と賃貸借との関係も確認してください。
3.無償で引き継いだ設備は誰のもの?
造作や厨房機器を「0円で引き継いだ」「前の店舗からそのまま使っている」というケースもあります。
この場合、無償だったという理由だけで所有権がないとは限りません。
反対に、無償で使えると言われただけで、自社へ所有権まで移っているとも限りません。
確認したいのは、金額ではなくどの設備を、どのような条件で引き継いだのかです。
入居時の資料で、
- 前テナントから無償譲渡されたもの
- 貸主所有設備を無償で使用しているもの
- 単に残置されたまま使用しているもの
を分けます。
無償で取得した設備を今回の造作譲渡に含めたい場合も、現在の自社に譲渡できる権限があることを確認してから募集します。
4.貸主所有の設備
店舗内には、貸主が所有している設備が含まれていることがあります。
例えば、物件によっては次のようなものがあります。
- 空調設備
- 給湯器
- トイレ
- 照明
- 電気設備
- 給排水設備
- 建物側の換気設備
ただし、「エアコンだから貸主所有」「建物に固定されているから貸主所有」と設備名だけで判断することはできません。
同じ種類の設備でも、ある物件では貸主設備、別の物件では前テナントが設置した造作ということがあります。
賃貸借契約書、重要事項説明書、設備表、工事区分表、入居時の引渡資料などを確認します。
貸主所有の設備を現在のテナントが造作譲渡価格へ含めたり、自社判断で撤去したりしないよう注意が必要です。
5.リース・レンタル・貸与品
厨房機器、POS、複合機、通信機器などには、リース・レンタル・貸与品が混ざっていることがあります。
見た目では自社所有品と区別できないこともあります。
リース品等については、機器に貼られた管理ラベルだけでなく、契約書、請求書、口座引落し、契約先への確認まで行います。
特に確認したいのは、
- 契約先
- 契約期間
- 残期間
- 中途解約条件
- 退去時に返却するのか
- 後継者へ契約を引き継げるのか
- 契約終了時に所有権が移転する契約なのか
です。
「長年使っている」「支払いがかなり進んでいる」という理由だけで、自社所有と判断しないようにします。
リース設備については論点が多いため、別記事で契約終了・返却・後継者への引継ぎまで詳しく扱います。
「残置物」は所有者を表す言葉ではない
居抜き店舗では「これは残置物です」と説明される設備があります。
ここで注意したいのは、残置物という呼び方だけでは、誰が所有しているか、誰が自由に処分できるかまでは判断できないことです。
残置物という言葉は、店舗内に残されているものを表すために使われることがありますが、所有関係は別に確認する必要があります。
例えば、前テナントが置いていったエアコンでも、貸主が引き取って貸主設備として扱っている場合があります。
反対に、貸主が「設備として保証しない」という意味で残置物と説明している場合もあります。
呼び方だけで判断せず、賃貸借契約・設備表・貸主への確認を組み合わせます。
エアコン・ダクト・給排水など建物と一体に見える設備は要注意
所有関係を判断しにくいのが、建物と一体化している設備です。
例えば、
- 天井カセット型エアコン
- 排気ダクト
- 厨房フード
- 給排水配管
- 電気設備
- 造作壁・造作天井
- 看板用設備
などです。
こうした設備は「固定されているから貸主のもの」「前テナントが工事したから前テナントのもの」と外観だけで判断しない方が安全です。
設置時の工事内容、誰が費用を負担したか、賃貸借契約、工事区分、貸主の承諾内容、造作譲渡契約などを確認します。
退去時の原状回復範囲とも直接関係するため、所有関係と撤去義務はセットで整理します。
詳しくは居抜き店舗の原状回復義務とスケルトン返し契約も確認してください。
所有者と「撤去費を負担する人」は同じとは限らない
設備の所有者が分かったら、次に撤去・修理・処分費を誰が負担するかを確認します。
例えば貸主所有の設備だからといって、現在の借主が一切費用を負担しないとは限りません。
借主の故意・過失、契約上の撤去条件、設備の改造状況などによって負担関係が問題になる場合があります。
反対に、借主所有の設備であっても、貸主が残置を認めて引き取ることで撤去しないケースもあります。
「誰のものか」と「誰が撤去するか」を別の項目として確認すると整理しやすくなります。
所有者と「修理する人」も分けて考える
居抜きで設備を使用していると、エアコンや給湯器、厨房機器などが故障することがあります。
このときも所有者だけで修理負担を決めず、賃貸借契約や設備に関する特約を確認します。
特に貸主設備と残置物では、故障時の扱いが異なる条件になっていることがあります。
入居する側は、設備が「使えるか」だけでなく、故障したとき誰が修理・交換する契約なのかまで確認しておくと、入居後の費用を把握しやすくなります。
居抜き設備の所有権を確認するための資料
一つの資料だけでなく、複数の資料を照合します。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 賃貸借契約書 | 貸主設備、造作、撤去・返還条件 |
| 重要事項説明書・設備表 | 貸主側が物件設備として扱っているもの |
| 造作譲渡契約書 | 前テナントから取得した対象 |
| 設備目録 | 譲渡対象のメーカー・型番・数量など |
| 購入請求書・領収書 | 設備の購入経緯 |
| 固定資産台帳 | 自社が資産として管理している設備の手掛かり |
| リース・レンタル契約書 | 契約先、所有関係、期間、返却条件 |
| 工事見積・工事契約書 | 誰がどの設備を設置したか |
| 入居時写真・図面 | 入居前から存在した設備 |
| 貸主・管理会社とのメール等 | 個別に合意した設備の扱い |
設備数が多い場合は、店舗内を一周しながら設備一覧を作る方法が効率的です。
設備一覧は「所有者」の列を作る
造作譲渡を予定している場合は、設備一覧に所有者の欄を追加しておくと後工程が楽になります。
| 設備 | 所有者 | 根拠資料 | 譲渡対象 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 業務用冷蔵庫 | 自社 | 購入請求書 | 候補 | 動作確認予定 |
| 製氷機 | リース会社 | リース契約書 | 要確認 | 契約先へ確認 |
| 天井エアコン | 貸主 | 設備表 | 対象外 | 貸主設備 |
| カウンター | 要確認 | 前回造作契約確認中 | 保留 | 確定まで募集価格へ含めない |
この一覧を作れば、「譲渡できるもの」「確認が必要なもの」「譲渡対象外」を分けられます。
所有者不明の設備を造作価格へ先に含めない
造作譲渡を急いでいる場合でも、所有者が分からない設備を最初から「売却対象」として価格へ含めるのは避けます。
例えば、査定時には高額な厨房機器がある前提だったのに、契約直前にリース品だと判明すれば、買主から見た造作価値が変わります。
結果として、価格の再交渉や契約延期につながることがあります。
所有関係が未確認の場合は、「所有者確認中」「譲渡対象となるか確認中」と分けた方が安全です。
造作価格の考え方は造作譲渡価格の決め方、設備自体の評価は造作譲渡の査定ポイントで整理しています。
設備を単体で売却する場合も所有関係を先に確認する
居抜き退去が成立しない場合や、後継者が設備を必要としない場合には、厨房機器・什器などを単体で買取業者へ売却する方法もあります。
この場合も所有関係の確認が先です。
自社所有と確認できた設備であれば、造作譲渡だけでなく設備買取も比較できます。
一方で、貸主設備・リース品・レンタル品などは、自社所有品と同じ扱いで査定・売却を進めないようにします。
設備売却については設備・什器買取の進め方も確認してください。
居抜き退去前に行う所有権確認の手順
- 店内設備を一覧化する
厨房、空調、家具、什器、電気、給排水などを現物ベースで洗い出します。 - 自社購入品を確認する
購入資料、固定資産台帳などと照合します。 - 入居時の造作譲渡資料を確認する
前テナントから何を取得したか確認します。 - リース・レンタル・貸与品を分ける
契約書と毎月の支払先を確認します。 - 貸主設備を確認する
賃貸借契約、設備表、管理会社への確認を行います。 - 所有者不明品を保留にする
分からないものを自社所有と仮定しません。 - 譲渡対象一覧を作る
所有者、型番、数量、状態を明記します。 - 貸主・後継者と残置・撤去条件を調整する
所有権と原状回復条件を連動させます。
貸主との居抜き調整は、居抜き退去で貸主の承諾を得る際の確認事項も参照してください。
造作譲渡契約では所有者確認済みの設備だけを明確にする
造作譲渡契約を締結する段階では、「店舗内設備一式」とまとめるより、譲渡対象を設備目録で特定します。
少なくとも、
- 設備名
- メーカー
- 型番
- 数量
- 状態
- 所有関係
- リース等の有無
- 譲渡対象かどうか
を確認しておくと、新旧テナント間の認識を揃えやすくなります。
「店内に置いてあったから売主のものだと思った」という状態を避けることが目的です。
よくある質問
居抜き店舗にある設備はすべて前テナントのものですか?
そうとは限りません。前テナント所有の設備だけでなく、貸主設備、リース・レンタル品、さらに以前のテナントから残っている設備などが混在していることがあります。
前テナントが設置したエアコンなら前テナント所有ですか?
設置者だけでは判断できません。設置後の所有権に関する合意、賃貸借契約、工事条件、造作譲渡の経緯などを確認します。
無償で引き継いだ厨房機器を次のテナントへ売れますか?
無償で取得したというだけでは判断できません。自社に所有権が移っていることを確認できれば譲渡候補になりますが、貸主所有設備を無償で使っているだけのケースなどもあるため、入居時の契約内容を確認します。
固定資産台帳に載っていれば自社所有と考えてよいですか?
確認資料の一つにはなりますが、帳簿上の処理だけで所有権を最終判断するのは避けます。購入資料や契約書、譲渡書類なども合わせて確認します。
リース品は造作譲渡できますか?
現在のテナントが所有しているとは限らないため、まずリース契約を確認します。後継者による契約承継が可能か、返却が必要か、契約終了時に所有権がどうなるかなどは契約によって異なります。
「残置物」と書いてあれば自由に捨ててもよいですか?
残置物という呼び方だけで処分権限まで判断しない方が安全です。誰が所有しているのか、貸主との契約上どう扱うのかを確認してから撤去・廃棄します。
貸主所有の設備でも造作譲渡価格に含められますか?
現在の借主が所有していない設備を、自社所有設備と同じように造作価格へ含めるのは避けます。貸主設備を次のテナントが利用できるかどうかは、貸主側の契約条件として別に整理します。
設備の所有者がどうしても分からない場合は?
賃貸借契約、設備表、入居時の造作譲渡契約、購入記録、リース契約、工事資料などを確認し、貸主・管理会社・前テナント・契約会社へ照会します。それでも権利関係が争いになる場合は、専門家への確認も検討します。
造作を売る前に「誰の設備か」を確定する
居抜き退去では、造作価格を決めたり後継テナントを探したりする前に、店内設備の所有関係を整理しておくと、その後の交渉が進めやすくなります。
確認するべきなのは、「店内にあるか」ではなく、「誰が所有し、誰が譲渡・撤去できるのか」です。
自社所有品、前テナントから譲り受けたもの、貸主設備、リース・レンタル品、所有者不明品を一つずつ分類し、確認できたものだけを造作譲渡や設備買取の対象として整理します。
そのうえで、貸主の居抜き承諾、原状回復条件、後継テナントとの造作譲渡契約を連動させます。
設備の所有関係や造作譲渡の範囲が複雑で、「何を残せるのか」「何を売却対象にできるのか」を整理したい場合は、店舗・オフィスの退去について相談するから相談できます。
