店舗やオフィスを退去するとき、貸主や管理会社から指定された施工会社の原状回復見積が、想定より大幅に高いことがあります。
しかも「原状回復は指定業者で施工してください」と言われていると、他社へ自由に変更できず、「この金額を受け入れるしかないのか」と感じやすくなります。
ただし、指定業者を利用することと、最初に提示された見積を内容確認せず承認することは別の問題です。
指定業者を変更できない案件でも、契約上の工事範囲、数量、仕様、一式項目、施工条件などを確認し、必要に応じて再見積を依頼できる場合があります。
この記事では、店舗・オフィスの原状回復で指定業者の見積が高いと感じたときに、正式発注前に確認したい項目を整理します。
原状回復そのものの範囲や退去実務から確認したい場合は、先に店舗・オフィスの原状回復ガイドをご覧ください。
指定業者だから高い、とは一律に判断できない
指定業者の見積が一般的な内装会社より高く見えることはあります。
指定施工では、借主が複数の施工会社を自由に競わせにくいため、通常の発注より価格競争が働きにくい面があります。
一方で、指定業者には、
- 建物設備を熟知している
- 過去の工事履歴を把握している
- 共用部や他テナントへの影響を管理する
- 建物指定仕様を把握している
- 工事責任を一元管理する
といった役割がある場合もあります。
また、夜間施工、搬出入制限、共用部養生、設備停止、管理会社との調整など、一般的な小規模工事にはない条件が見積へ含まれることもあります。
したがって、
「指定業者だから高い=不当」
と決めるのではなく、何が金額を押し上げているのかを分けて確認します。
発注前に確認する7項目
指定業者の見積が高いと感じたら、次の順番で確認します。
- 指定業者を使う根拠
- 借主が負担する原状回復範囲
- 指定業者でなければならない工事範囲
- 数量
- 仕様
- 一式・管理費・諸経費の中身
- 他社比較や第三者査定で確認できる余地
単価や値引き率だけから確認を始めないことが重要です。
1.なぜ指定業者を使う必要があるのか確認する
最初に、今回の原状回復工事で指定施工会社を使う根拠を確認します。
例えば、
- 賃貸借契約書
- 原状回復特約
- 工事区分表
- 館内工事規則
- 施工要領
です。
契約書に「原状回復工事は貸主指定業者が施工する」と明確に定められている場合もあれば、設備工事だけ指定で、内装解体などは借主側で施工会社を選べる場合もあります。
「指定業者です」と言われただけで工事全体が指定なのだと考えず、何の工事が指定対象なのかを確認します。
2.そもそも借主が負担する工事なのか確認する
指定施工かどうかを確認した後は、見積に入っている工事が契約上の原状回復範囲なのかを確認します。
店舗・オフィスの事業用賃貸借では、原状回復について広い特約が定められていることがあります。
例えば、
- 床材を全面張り替える
- 壁・天井を全面復旧する
- 照明器具を指定仕様へ戻す
- 借主が設置した造作をすべて撤去する
- 入居時の標準仕様へ戻す
といった内容です。
一方で、貸主側の設備更新や、契約上借主負担とは読めない工事まで含まれている場合は、その理由を確認します。
「指定業者の単価が高い」という問題と、「そもそもその工事を借主が負担する必要があるのか」という問題は分けて考えます。
住宅向け原状回復の考え方をそのまま使わない
原状回復について調べると、通常損耗や経年劣化は借主負担ではないという説明が多く見つかります。
民法上も、通常の使用によって生じた損耗や経年変化は原則として原状回復義務の対象外です。
ただし、店舗・オフィスなどの事業用賃貸借では、契約によって通常損耗まで含む広い原状回復義務が特約として定められていることがあります。
そのため、住宅向けの原状回復ガイドラインだけを根拠に「この工事は払わなくてよい」と判断するのではなく、今回の賃貸借契約・特約を確認します。
3.指定業者でなければならない工事を分ける
原状回復工事全体を一つの仕事として考えると、すべて指定業者へ発注しなければならないように見えることがあります。
しかし実際には、
- 内装解体
- 床復旧
- 壁・天井
- 電気
- 空調
- 消防設備
- 給排水
- クリーニング
など複数の工種があります。
そのうち、建物の基幹設備や共用設備へ関係する部分だけ指定施工で、それ以外は借主側の施工会社へ発注できる場合もあります。
例えば、
- 空調設備との接続は指定業者
- 消防設備は指定業者
- 内装解体は借主側業者
- 仕上げ工事は借主側業者
という分担です。
物件によって区分は異なるため、工事区分表を確認します。
B工事については、B工事・指定業者の総合ガイドでも整理しています。
原状回復の指定業者とB工事は必ずしも同じではない
ここは混同しやすい部分です。
B工事は一般に、費用を借主が負担し、貸主側が指定する施工会社で行う工事を指す実務上の区分として使われています。
一方、「原状回復業者が指定されている」という契約は、原状回復工事全体の施工会社を貸主側が指定している場合があります。
つまり、指定された原状回復工事のすべてがB工事とは限りません。
見積書を確認するときは、
- 原状回復全体の施工会社指定
- A・B・Cなどの工事区分
を別々に確認します。
4.数量を図面・現況と照合する
指定業者を変えられないとしても、数量の確認はできます。
例えば、
- 床面積
- 壁面積
- 間仕切り延長
- 照明器具数
- コンセント数
- 空調設備数
- 消防設備数
- 配管・配線距離
などです。
数量が大きくなれば、そのまま見積総額も上がります。
図面上では200㎡程度に見える床工事が、見積では300㎡になっているのであれば、単価を値切る前に数量算定を確認します。
「この数量はどの範囲を対象にしていますか」と具体的に確認します。
5.指定仕様が本当に必要なのか確認する
数量が正しくても、材料や施工仕様によって金額は変わります。
例えば、
- 床材
- 壁仕上げ
- 照明器具
- 設備部材
- 塗装仕様
などです。
建物側の標準仕様へ戻す必要がある場合は、その指定品を使う合理的な理由があります。
一方で、同等性能の代替品が認められる場合や、全面交換ではなく部分復旧で契約条件を満たせる場合は、再見積の余地が生まれることがあります。
指定業者へ、
「この仕様でなければならない理由はありますか」
「同等仕様の別材料で再見積できますか」
と確認します。
6.「一式」「管理費」「諸経費」の中身を確認する
指定業者の見積が高いと感じる案件では、明細を見ると大きな一式項目が含まれていることがあります。
例えば、
- 電気設備工事一式
- 空調設備工事一式
- 解体工事一式
- 現場管理費一式
- 諸経費一式
です。
これらが存在すること自体を問題にする必要はありません。
ただし、金額が大きいのに何を含んでいるか判断できない場合は、
- 施工範囲
- 主要数量
- 使用材料
- 施工費
- 搬出・処分
- 管理業務
- 別途項目
を確認します。
原状回復見積の各費目については、原状回復見積の内訳はどこを見る?で詳しく整理しています。
指定業者の見積でも「一式だから仕方ない」とは考えない
指定業者であっても、発注者側が何の工事に費用を払うのか理解できることは重要です。
特に高額な一式項目については、施工会社へ主要な内容を確認します。
「一式」という表記そのものの確認方法は、原状回復の見積で「一式」と書かれていたら?で解説しています。
7.他社見積・第三者査定で比較材料を作る
指定業者しか施工できない物件では、相見積もりを取っても別会社へそのまま発注できないことがあります。
それでも、他社見積や第三者査定が全く無意味とは限りません。
同じ条件で他社に見積もってもらえば、
- 工事範囲
- 数量
- 仕様
- 工事項目
- 単価
に大きな差がないかを確認する材料にできます。
ただし、一般の内装会社による見積には、ビル指定の夜間作業、設備停止、管理条件などが反映されていない場合があります。
そのため、総額だけを比較して、
「他社は半額だから、この指定業者も半額にするべきだ」
という使い方は適切ではありません。
価格差が大きい工事項目を特定し、その理由を確認する材料として使います。
相見積もりの具体的な取り方は、原状回復の相見積もりはどう取る?をご覧ください。
指定業者から変更できるかだけに集中しない
指定業者の見積が高いと、最初に「別の会社へ変えたい」と考えやすくなります。
もちろん、変更可能か確認することは一つの選択肢です。
しかし、契約上変更できない場合でも、
- 工事範囲を減らす
- 指定工事と借主工事を切り分ける
- 数量を修正する
- 仕様を変更する
- 施工条件を調整する
- 一式項目を明確化する
ことで見積が変わる場合があります。
施工会社変更の可否については、B工事の指定業者についてB工事の指定業者は変更できる?でも基本的な確認方法を整理しています。
管理会社と施工会社の役割を分けて確認する
原状回復の見積について、指定業者だけに質問しても変更できない項目があります。
例えば、
- 原状回復範囲
- 建物指定仕様
- 工事区分
- 別業者使用の可否
は、貸主・管理会社の判断が必要な場合があります。
一方、
- 数量
- 工法
- 材料
- 施工人員
- 工事金額
などは施工会社へ確認する項目です。
「施工会社が決めること」と「貸主・管理会社が決めること」を分けると、確認が進みやすくなります。
「相場より高い」だけでは再見積の根拠として弱い
原状回復費用には、坪単価などの相場情報があります。
しかし、同じ100坪でも、
- 一般事務所
- 会議室が多数あるオフィス
- 厨房設備のある飲食店
- 研究設備のある事業所
- 高層オフィスビル
では工事内容が違います。
さらに、夜間作業、共用部養生、設備工事などによって金額は変わります。
そのため、
「坪単価がネット相場より高いので下げてください」
だけではなく、
- この工事範囲は必要か
- この数量は正しいか
- この仕様は必要か
- この一式には何が入るか
と具体的に確認します。
再見積を依頼するときの伝え方
指定業者へ再見積を求める場合は、「高すぎるので安くしてください」だけで終わらせず、変更・確認したい項目を一覧にします。
例えば、
- 床全面張替えが契約上必要か再確認したい
- 壁面積の算定根拠を確認したい
- 電気工事一式の主要内訳を確認したい
- 指定仕様以外の同等品が使えるか確認したい
- 内装解体を借主側業者へ分離できるか確認したい
- 廃棄物処分数量の根拠を確認したい
といった形です。
変更する条件が整理できれば、「条件変更後の金額」として再積算を依頼できます。
退去期限を無視して見積精査を長引かせない
指定業者の見積が高い場合でも、価格だけに集中してはいけません。
原状回復工事には期限があります。
相見積もり、査定、貸主との協議、再見積を続けているうちに施工期間がなくなれば、選択肢は急速に減ります。
確認したいのは、
- 退去日
- 原状回復完了期限
- 指定業者への発注期限
- 着工可能日
- 必要工期
- 貸主検査日
- 是正期間
です。
価格を見直すことで得られる金額より、明渡し遅延による損失の方が大きくならないようにします。
正式発注前の方が確認できることは多い
疑問がある場合は、できるだけ正式発注前に確認します。
発注後には、
- 資材発注
- 職人手配
- 工事枠確保
- 申請
- 設備停止手配
などが進みます。
その後で工事を削除・変更すると、キャンセル費や変更費が生じる場合があります。
「承認してください」と見積が届いた時点が、確認を始める重要なタイミングです。
指定業者が高いときに避けたい対応
指定業者だから何も確認せず承認する
施工会社を選べない場合でも、見積内容の確認までできないわけではありません。
指定業者だから不当だと決めつける
建物管理上必要な工事条件や管理費が含まれている場合があります。
他社の総額だけをぶつける
工事範囲・仕様・施工条件が違えば比較できません。
単価だけを値切る
先に工事範囲、数量、仕様を確認します。
無断で別業者へ発注する
契約や建物ルールに反する場合、工事停止・やり直し・退去遅延につながる可能性があります。
交渉を長引かせて工期を失う
退去期限から逆算して、確認・再見積の期限を設定します。
原状回復の指定業者が高い場合によくある質問
指定業者の見積が高ければ断れますか?
高いと感じることだけで、契約上の指定を一方的に無効にできるとは限りません。まず賃貸借契約、特約、工事区分表などを確認し、指定の範囲と見積内容を整理します。
指定業者の見積はそのまま承認しなければなりませんか?
指定施工会社を利用することと、最初の見積を無条件に承認することは別です。工事範囲、数量、仕様、施工条件などについて疑問があれば説明や再確認を求めます。
他社へ相見積もりを依頼しても意味がありますか?
直接その会社へ発注できない場合でも、現在の見積の工事範囲・数量・仕様などを比較する参考資料として使えることがあります。
指定業者なら必ず相場より高いのですか?
必ず高いとは言えません。建物固有の施工条件や管理業務が費用へ含まれている場合があります。市場価格との単純比較ではなく、見積条件を分解して確認します。
原状回復業者を別会社へ変更できますか?
契約内容や貸主・管理会社の承認条件によります。指定業者を全面的に変更できない場合でも、一部工事を借主側施工へ切り分けられる可能性があります。
指定業者との価格交渉はできますか?
見積内容について具体的な確認事項があれば、再見積や仕様変更を協議できる場合があります。ただし、一定割合の値下げが必ず認められるわけではありません。
住宅の原状回復ガイドラインを使って拒否できますか?
国土交通省の原状回復ガイドラインは民間賃貸住宅を主な対象としています。店舗・オフィスの事業用賃貸借では個別の契約・特約が重要になるため、住宅向けルールをそのまま当てはめないようにしてください。
指定業者の見積が高いときは「業者を変えられるか」だけで考えない
店舗・オフィスの原状回復で指定業者の見積が高いと感じたら、次の順番で整理します。
- 指定業者を使う契約上の根拠を確認する
- 借主が負担する原状回復範囲を確認する
- 指定施工が必要な工事だけを分ける
- 数量を確認する
- 仕様を確認する
- 一式・管理費・諸経費の中身を確認する
- 他社見積や第三者査定で比較材料を作る
指定業者そのものを変更できなくても、工事範囲や見積条件まで一切確認できないわけではありません。
原状回復見積全体の確認方法については、原状回復の見積書の見方をご覧ください。
見積内訳を工種ごとに確認したい場合は、原状回復見積の内訳はどこを見る?で詳しく整理しています。
複数見積を使って現在の見積を比較したい場合は、原状回復の相見積もりはどう取る?をご覧ください。
契約書・工事区分表・指定業者見積を見ても、自社だけでは原状回復範囲や金額の妥当性を判断できない場合は、お問い合わせから現在の状況をご連絡ください。
