店舗を閉店・退去するとき、内装解体やスケルトン工事の見積を受け取っても、「この金額が高いのか安いのか分からない」と感じることがあります。
店舗解体の見積は、総額や坪単価だけでは判断できません。
同じ30坪の店舗でも、壁・床・天井だけを撤去する見積と、厨房設備、ダクト、給排水、看板、残置物まで撤去する見積では内容がまったく違います。
さらに、廃材処理、共用部養生、夜間作業、石綿の事前調査などが別料金なら、最初に提示された金額から最終支払額が増えることもあります。
店舗解体の見積を見るときは、「いくらか」より先に、「その金額でどこまで物件を返せるのか」を確認します。
この記事では、店舗退去に伴う内装解体・スケルトン工事の見積を発注前に確認する8項目を整理します。
なお、ここでは建物そのものを取り壊す建物解体ではなく、テナント退去時の内装解体・スケルトン工事を主に扱います。
店舗解体の見積で確認する8項目
- 貸主が求める返還状態と解体範囲が一致しているか
- 工事項目・数量・単位・単価が分かるか
- 電気・空調・給排水・厨房・看板など設備撤去が含まれるか
- 廃材の搬出・運搬・処分費が含まれるか
- 養生・搬出・夜間作業など現場条件が反映されているか
- 石綿の事前調査・分析・除去費の扱いが明確か
- 見積除外項目と追加費用が発生する条件が分かるか
- 工期・貸主検査・是正工事まで含めて退去期限に間に合うか
1.貸主が求める返還状態と解体範囲が一致しているか
見積金額を確認する前に、そもそも何を壊す必要があるのかを確認します。
店舗退去では、物件によって、
- 内装だけ撤去する
- 借主が設置した設備だけ撤去する
- 入居時の状態へ戻す
- 床・壁・天井まで撤去する
- スケルトン状態まで戻す
など、必要な返還状態が違います。
貸主が求めていない部分まで見積に入っていれば、不要な工事へ費用を払うことになります。
反対に、契約上撤去する必要があるものが見積から漏れていれば、工事後に追加工事が必要になる可能性があります。
まず契約書と貸主・管理会社の指示を確認する
解体業者へ依頼する前に、
- 賃貸借契約書
- 原状回復特約
- 退去工事要項
- 管理会社からの指示書
- 入居時図面
などを確認します。
返還条件が曖昧なら、図面や現地写真を使って貸主・管理会社と撤去範囲を確認します。
原状回復範囲の確認方法は、店舗閉店の原状回復はどこまで必要?で詳しく整理しています。
「解体一式」でも内容が同じとは限らない
例えば、2社から次の見積が出たとします。
A社:内装解体工事 一式 100万円
B社:内装解体工事 一式 80万円
数字だけ見ればB社が安く見えます。
しかし、B社には、
- 厨房土間撤去
- ダクト撤去
- 廃材処理
- 共用部養生
が含まれていなければ、単純比較はできません。
まず両社の「完成状態」が同じかを確認します。
2.工事項目・数量・単位・単価が分かるか
見積書では、できる範囲で工事内容が項目別に分かれている方が確認しやすくなります。
例えば、
- 間仕切壁撤去
- 天井撤去
- 床仕上げ撤去
- カウンター撤去
- 厨房土間撤去
- 電気設備撤去
- 給排水設備撤去
などです。
さらに、
- ㎡
- m
- 台
- 人工
- t
- 台数
などの数量・単位が書かれていれば、金額の根拠を確認しやすくなります。
「一式」があること自体が問題ではない
実務上、細かく数量化しにくい工事を「一式」で計上することはあります。
そのため、一式表記があるだけで不適切な見積とはいえません。
ただし、金額が大きい項目まで、
「解体工事 一式」
「廃材処分 一式」
だけでは、何を前提に積算したのか分かりにくくなります。
大きな項目については、対象・数量・積算条件を確認します。
見積明細の細かな読み方はART-247「内装解体の見積内訳」で扱います。
3.設備撤去がどこまで含まれているか
店舗の解体費用は、内装仕上げだけでは決まりません。
特に飲食店、美容室、クリニックなどでは設備撤去の範囲が総額へ大きく影響します。
電気設備
- 照明
- コンセント
- 分電盤
- 配線
- 看板電源
空調・換気
- エアコン
- 換気扇
- 排気ダクト
- 給気設備
給排水・ガス
- シンク
- 給水管
- 排水管
- ガス管
- グリストラップ
厨房
- 厨房機器
- 厨房土間
- 防水
- フード
- ダクト
看板・外部設備
- 袖看板
- 壁面看板
- ウインドウシート
- 屋外設備
これらについて、
「機器だけ外すのか」
「配管・配線まで撤去するのか」
「撤去後の穴や床まで補修するのか」
を確認します。
厨房機器を売るなら解体見積から外す
閉店店舗では、厨房機器を中古買取できる場合があります。
買取予定の冷蔵庫や製氷機まで「厨房設備撤去処分」として解体見積へ入っているなら、二重に手配することになります。
先に、
- 売るもの
- 次店舗で使うもの
- 居抜きで残すもの
- 処分するもの
を分け、その後に解体範囲を確定します。
閉店時の厨房機器売却については、飲食店の閉店で厨房機器は買取できる?をご覧ください。
4.廃材の搬出・運搬・処分費が含まれているか
内装を解体すると大量の廃材が発生します。
例えば、
- 木くず
- 石膏ボード
- 金属くず
- ガラス
- プラスチック
- コンクリートがら
- 混合廃棄物
などです。
見積では、解体作業費とは別に、
- 廃材搬出
- 積込
- 収集運搬
- 中間処理・処分
などが計上されることがあります。
解体費が安くても処分費が別なら総額は変わる
例えば、
A社:解体費60万円、処分費30万円
B社:解体費70万円、処分費込み
なら、解体費だけを比較しても意味がありません。
最終的に店舗から廃材がなくなるまでの総額で比較します。
廃棄物の量・種類が見積の前提になっているか
「廃材処分 一式」とある場合は、何をどの程度想定しているか確認します。
例えば、
- 想定トラック台数
- 重量
- 容積
- 主な廃棄物の種類
などです。
実際の廃材量が見積前提より大きく増えた場合、追加費用が発生する契約になっていることもあります。
建設工事の廃棄物処理は元請業者の責任も確認する
内装解体などの建設工事に伴って発生する廃棄物では、原則として発注者から直接工事を請け負う元請業者が排出事業者となります。
発注者側としても、
- 誰が元請なのか
- 廃棄物処理をどのように行うのか
- 処理費が見積に含まれているのか
を確認しておくと、極端に安い処分見積を見分けやすくなります。
5.養生・搬出・夜間作業など現場条件が反映されているか
同じ内装量でも、現場条件で解体費は変わります。
例えば1階の路面店で、店舗前にトラックを停められる現場と、商業施設の上階で夜間しか搬出できない現場では作業条件が違います。
確認する項目には、
- 共用部養生
- エレベーター養生
- 搬出距離
- 階段作業
- 車両費
- 交通誘導員
- 夜間・早朝割増
- 休日作業
- 管理会社への申請
- 警備員立会い
などがあります。
商業施設は工事規則を業者へ渡す
商業施設や大型ビルでは、施工可能時間、搬出ルート、養生方法、工事申請などが細かく決められていることがあります。
見積後にそれらが分かると追加費用になりやすいため、管理会社から工事規則を取得し、見積前に施工会社へ共有します。
6.石綿の事前調査・分析・除去費の扱いを確認する
内装解体や改修工事では、石綿(アスベスト)の事前調査が必要になります。
建築物の解体・改修工事では、工事規模の大小にかかわらず、工事対象となる材料について石綿使用の有無を事前に調査する必要があります。
一定規模以上の工事では、調査結果を行政へ報告する制度もあります。
そのため見積では、
- 石綿事前調査費
- 分析調査費
- 調査結果報告
- 石綿含有建材が見つかった場合の除去費
がどう扱われているか確認します。
「石綿が見つかった場合は別途」の条件を確認する
見積時点では石綿の有無が確定していない場合があります。
その場合、
「石綿含有建材が確認された場合は別途見積」
となっていることがあります。
これ自体が不自然とは限りません。
ただし、事前調査そのものが見積に含まれているのか、分析が必要になった場合の費用はどうなるのかを確認します。
古い建物だから石綿がある、と自己判断しない
築年数だけで石綿の有無を決めることはできません。
対象建材や改修履歴も関係するため、必要な資格を持つ調査者による事前調査を前提にします。
7.見積除外項目と追加費用が発生する条件を確認する
解体見積では、書かれている項目だけでなく、書かれていない項目も確認します。
例えば、
- 石綿除去
- 地中・床下の埋設物
- 想定外の二重壁・二重床
- 貸主から追加指示された工事
- 夜間変更
- 残置物の増加
- 特殊設備撤去
などが別途扱いになっていることがあります。
追加費用が出る条件を書面で確認する
発注前に、
「どのような場合に追加費用が発生しますか」
と確認します。
さらに、追加工事が必要になった場合は、勝手に施工して後から請求するのではなく、発注者へ内容・金額を確認してから進める運用か確認します。
見積有効期限も確認する
廃棄物処理費、労務費、工期などの条件が変われば、見積金額が変わる場合があります。
見積書に有効期限がある場合は、発注予定日が期限内か確認します。
8.工期・貸主検査・是正まで退去期限に間に合うか
価格が安くても、契約終了日までに物件を返せなければ問題です。
解体工事では、
- 着工
- 内装・設備解体
- 廃材搬出
- 清掃
- 工事完了
- 貸主・管理会社確認
- 指摘箇所の是正
- 最終確認・明渡し
まで時間を取ります。
工事完了日を契約終了日と同日にすると、貸主検査で追加工事を指示された際に時間がありません。
工期には工事申請期間も含める
ビル・商業施設では、工事開始前に管理会社への申請が必要なことがあります。
例えば、着工の1週間前など期限が決まっている場合、施工会社が空いていてもすぐ工事できないことがあります。
見積と同時に最短着工日も確認します。
店舗解体の見積を坪単価だけで比較しない
内装解体やスケルトン工事では、坪単価が一つの目安として使われます。
しかし、坪単価には会社ごとに含む項目が違う場合があります。
例えば、
- 廃棄物処分込み
- 廃棄物処分別
- 設備撤去込み
- 厨房土間は別
- 養生費別
- 夜間費別
などです。
そのため、
「A社は3万円/坪、B社は5万円/坪だからA社」
という比較だけでは判断できません。
内装解体の坪単価についてはART-245で詳しく扱います。
見積が高いと思ったら、値下げ交渉より先に範囲を確認する
見積総額が想定より高い場合、すぐに、
「あと20万円下げてください」
と単価交渉するより、何に費用がかかっているのかを確認します。
例えば、
- 本来残せる設備が撤去対象に入っている
- 売却できる厨房機器が処分対象になっている
- 貸主が求めていない部分まで撤去している
- 残置物量が実際より多く見積もられている
- 施工時間の条件が違う
なら、工事範囲を直すことで総額が変わる可能性があります。
高い見積への対処は、次のART-273「内装解体の見積が高いときは?」で詳しく扱います。
相見積もりでは同じ条件を渡す
複数社から見積を取る場合、各社へ違う条件を伝えると金額比較ができません。
少なくとも、
- 返還状態
- 撤去図面
- 残す設備
- 処分する設備
- 残置物
- 施工可能時間
- 搬出条件
- 工事期限
を揃えます。
相見積もりについてはART-278で詳しく整理します。
安すぎる見積にも確認が必要
見積が安ければ発注者にとって有利に見えます。
ただし、他社と比べて極端に安い場合は、
- 廃棄物処理費が含まれているか
- 設備撤去が入っているか
- 養生費が入っているか
- 石綿事前調査が入っているか
- 貸主指定範囲まで工事するのか
を確認します。
見積漏れがあれば、契約後に追加され、最終的には他社より高くなることもあります。
店舗解体の見積前チェックリスト
- 賃貸借契約の返還条件を確認した
- 貸主・管理会社と解体範囲を確認した
- 残す設備と撤去設備を分けた
- 売却する厨房機器を解体見積から外した
- 残置物量を確認した
- 工事規則を施工会社へ渡した
- 施工可能時間を伝えた
- 搬出経路を伝えた
- 石綿事前調査の扱いを確認した
- 廃棄物処分費が含まれているか確認した
- 追加費用の条件を確認した
- 貸主検査・是正期間を確保した
店舗の解体見積についてよくある質問
店舗解体の見積はどこを見ればよいですか?
まず解体範囲が契約上必要な返還状態と一致しているか確認します。そのうえで、工事項目・数量、設備撤去、廃材処理、養生・搬出、石綿調査、追加費用条件、工期を確認します。
内装解体の見積で「一式」と書かれていても問題ありませんか?
一式表記自体が問題とは限りません。ただし金額が大きい項目については、何をどの程度含んだ金額なのか確認すると比較しやすくなります。
坪単価が安い業者を選べばよいですか?
坪単価に含む工事範囲が会社によって違うことがあります。廃棄物処分、設備撤去、養生等まで含めた総額と完成状態で比較してください。
廃棄物処分費は解体費に含まれますか?
会社・見積形式によります。解体作業と廃棄物処理を別項目で計上する見積もあります。搬出・運搬・処分のどこまで含むか確認します。
店舗の内装解体でもアスベスト調査は必要ですか?
建築物の解体・改修工事では、規模の大小にかかわらず対象材料について石綿使用の有無を事前に調査する必要があります。また、一定規模以上の工事では調査結果の報告も必要です。
見積後に追加請求されることはありますか?
現地で確認できなかった構造、石綿含有建材、残置物増加、貸主からの追加指示などで追加工事が発生する場合があります。発注前に追加費用となる条件を確認してください。
指定業者の見積でも確認してよいですか?
指定業者だから見積内容を確認できないということではありません。契約上指定施工が必要でも、工事範囲、数量、処分費、追加条件などを確認することはできます。
店舗解体は相見積もりを取った方がよいですか?
契約上自由に業者を選べる場合は、比較材料として相見積もりを取る方法があります。指定業者制でも、参考見積を取得して工事範囲・価格を確認できる場合があります。
店舗解体の見積は「工事後に何が残るか」で判断する
店舗の内装解体・スケルトン工事では、最も安い見積を選ぶことが目的ではありません。
確認したいのは、
- 貸主が求める状態まで戻るか
- 必要な撤去工事がすべて含まれているか
- 廃材が適切に搬出・処理されるか
- 見積外の追加費用条件が明確か
- 退去期限までに貸主検査・是正まで完了できるか
です。
見積金額だけを並べるより、工事完了後の状態と追加費用を含む最終総額を揃えて比較した方が判断しやすくなります。
店舗・オフィスの撤去・廃棄全体については、撤去・廃棄ガイドをご覧ください。
店舗を返すための退去費用全体については、店舗の閉店・退去費用は何にかかる?で整理しています。
受け取った見積について、解体範囲・廃棄物処理・設備撤去・追加費用のどこを比較すればよいか整理できない場合は、お問い合わせから退去条件と見積状況をご連絡ください。
