飲食店の閉店や改装、業態変更で厨房を撤去するとき、「厨房機器を運び出せば終わり」とは限りません。
厨房には、冷蔵庫やシンクなどの機器だけでなく、給水・給湯・排水、ガス、電気、排気フード・ダクト、グリストラップ、厨房土間、防水などが組み合わされています。
退去時には、これらをどこまで撤去するかによって工事内容も見積金額も大きく変わります。
一方、厨房だけを入れ替える改装であれば、店舗全体をスケルトンにする必要はありません。何のために厨房を撤去するのかを先に決め、その目的に必要な範囲だけ施工することが基本です。
厨房撤去は「何のために撤去するか」で範囲が変わる
厨房撤去といっても、工事の目的は一つではありません。
| 目的 | 主な撤去範囲 |
|---|---|
| 厨房機器の入れ替え | 対象機器と接続部分を中心に撤去 |
| 店舗改装・業態変更 | 機器、造作、必要な配管・設備を部分撤去 |
| 居抜き引渡し | 不要設備のみ撤去し、承継する厨房設備を残す |
| 原状回復 | 契約上求められる状態まで厨房設備を撤去・復旧 |
| スケルトン返し | 厨房設備に加えて床・壁・天井・配管等まで広く撤去する場合がある |
したがって、業者へ「厨房を全部撤去してください」とだけ依頼するのではなく、工事後にどの状態にするのかを明確にする必要があります。
店舗全体をスケルトンへ戻す場合は飲食店のスケルトン工事、客席を含む内装解体全体については飲食店の内装解体も確認してください。
厨房を壊す前に買取できる機器を分ける
閉店・改装で厨房を撤去するときは、最初からすべてを廃棄物として扱わない方がよいでしょう。
業務用冷蔵庫、冷凍庫、製氷機、食器洗浄機、コールドテーブル、ガスレンジ、フライヤー、作業台、シンクなどは、年式・状態・メーカー・需要によって中古買取の対象になる場合があります。
撤去工事で機器を乱暴に解体したり、配管を切断してしまったりすると、売却できた設備の価値を失う可能性があります。
厨房撤去では、次の順番で整理すると進めやすくなります。
- 所有権・リース・レンタルを確認する
- 居抜きで残す設備を決める
- 売却できる厨房機器を査定する
- 移設する設備を分ける
- 残った設備を撤去・処分対象にする
買取と処分が混在する場合は厨房機器の買取と処分を同時に進める方法も参考になります。
厨房撤去で確認する主な設備
| 設備・部位 | 撤去時の主な確認点 |
|---|---|
| 厨房機器 | 買取・移設・廃棄を先に仕分ける |
| シンク・作業台 | 固定方法、給排水接続、造作との一体化を確認 |
| 給水・給湯 | 機器接続部だけか、既存配管接続部まで戻すか |
| 排水 | 床排水、配管、排水トラップ、閉塞方法を確認 |
| ガス設備 | 機器接続、配管、閉栓位置を確認 |
| 電気設備 | 100V・200V、専用回路、配線、ブレーカー等を確認 |
| フード・ダクト | 店内・外部・屋上・共用部の撤去境界を確認 |
| グリストラップ | 所有者、撤去・清掃残置・埋戻し等を確認 |
| 厨房土間・床 | 床上げ、防水、排水、コンクリート撤去範囲を確認 |
| 冷凍冷蔵設備 | 買取可否、冷媒、フロン回収の要否を確認 |
厨房機器本体と設備配管は分けて考える
厨房機器を撤去する工事と、建物側へつながる設備を撤去する工事は同じではありません。
たとえば業務用食器洗浄機を外す場合、本体を搬出するだけなら比較的限定的な作業ですが、給水管・給湯管・排水管・専用電源まで原状回復するとなれば工事範囲が広がります。
見積では、
- 機器本体の取り外し
- 搬出
- 給排水の切離し
- ガスの切離し
- 電源の切離し
- 配管・配線の撤去
- 床・壁の補修
を必要に応じて分けて確認します。
給水・給湯・排水は「どこまで戻すか」を決める
厨房では、シンク、製氷機、食器洗浄機、給湯設備などへ多くの配管が接続されています。
機器を取り外すだけなら接続部で止水・処理するケースがありますが、原状回復では借主が増設した配管自体の撤去を求められる場合があります。
確認したいのは、
- 機器直下まででよいか
- 床下配管も撤去するか
- 壁・天井内の配管を撤去するか
- 建物側の既存配管との接続位置まで戻すか
- 床・壁の開口部をどの状態まで復旧するか
です。
配管の撤去境界は物件ごとに異なるため、施工業者だけでなく貸主・管理会社とも確認します。
ガス設備は厨房機器撤去と同時に処理範囲を決める
ガスレンジ、フライヤー、ゆで麺器、オーブンなどを撤去するときは、ガス設備の切離しも必要になる場合があります。
機器を外した後に配管を残すのか、借主施工部分を撤去するのか、どの位置で安全に閉栓するのかを事前に決めます。
ガス設備は自己判断で配管を切断せず、設備条件に応じた専門事業者へ確認して施工します。
200V・動力設備などの電気も撤去範囲を確認する
大型の厨房機器では、100Vだけでなく200Vや動力電源が使われていることがあります。
機器撤去後に、
- コンセントを残すか
- 専用配線を撤去するか
- ブレーカーを残すか
- 借主が増設した分電盤を撤去するか
などを確認します。
店舗改装で次の設備を同じ場所に設置するのであれば、使える電源をわざわざ撤去する必要がない場合もあります。
退去であれば、貸主が求める返還状態に合わせます。
フード・排気ダクトは厨房とは別に撤去境界を確認する
厨房の排気設備は、フードから店内ダクト、天井裏、外壁、屋上まで続いている場合があります。
厨房を撤去するからといって、その排気経路すべてを自動的に撤去するとは限りません。
共用設備へ接続している場合や、建物側設備として残す部分があるためです。
反対に、借主が設置した屋外ダクトまで原状回復対象となっている場合は、店内のフードだけ外しても工事が完了しません。
詳しくは厨房ダクトはどこまで撤去するかで確認してください。
グリストラップは所有者と返還状態を確認する
グリストラップは、厨房撤去で判断が分かれやすい設備です。
物件によって、
- 借主が設置したもの
- 入居時から存在していたもの
- 建物・貸主側の設備
があります。
退去時も、撤去する場合だけでなく、内部を清掃して残す、埋設部分を処理する、床を復旧するなど、指定される完成状態は物件によって異なります。
「厨房だからグリストラップも撤去」と決めつけず、設置経緯と契約を確認します。
厨房土間・防水まで撤去するかで工事量が大きく変わる
飲食店では、厨房床にコンクリートの土間や床上げ、防水、排水設備が施工されていることがあります。
厨房機器だけを撤去する工事と、厨房土間まで斫ってスケルトン状態へ戻す工事では、作業量も発生する廃材量も大きく異なります。
見積前には、
- 床仕上げだけ撤去するのか
- 防水層まで撤去するのか
- 厨房土間を斫るのか
- 排水溝・側溝を撤去するのか
- 床の開口や段差を補修するのか
を確認します。
厨房のみの設備交換であれば、既存の土間や防水を再利用できるケースもあるため、目的に必要な範囲だけ施工します。
業務用冷蔵庫・冷凍庫・製氷機は冷媒も確認する
厨房には業務用冷蔵庫、冷凍庫、コールドテーブル、製氷機など冷凍冷蔵設備があります。
まだ使用できる機器であれば、まず中古買取や移設の可能性を確認します。
廃棄する場合、フロン類を冷媒に使用する業務用冷凍冷蔵機器は、フロン回収等の手続が必要になるため、通常の厨房什器と同じようにそのまま解体・処分するものではありません。
詳しくは業務用冷蔵庫の廃棄とフロン回収で整理しています。
厨房だけ部分撤去することもできる
厨房撤去は、店舗閉店時だけに行うものではありません。
たとえば、
- 飲食店から物販店舗へ業態変更する
- 厨房を縮小する
- テイクアウト設備へ変更する
- 厨房レイアウトを変更する
- 老朽設備だけ更新する
場合には、店舗全体を解体せず厨房部分だけ施工することがあります。
この場合は「どこまで壊すか」だけでなく、次の工事で再利用する配管・電源・ダクトを残せるかも確認します。
不要な撤去をすると、次の設備工事で再び配管や電源を新設することになり、二重工事になる可能性があります。
厨房撤去の費用は機器の台数だけでは決まらない
厨房撤去費用は、厨房機器が何台あるかだけで判断できません。
費用へ影響しやすいのは次の条件です。
- 厨房機器の台数・重量
- 機器の分解が必要か
- 給排水・給湯配管の撤去範囲
- ガス設備の処理
- 電気・動力設備の処理
- フード・ダクトの撤去範囲
- グリストラップの構造
- 厨房土間・防水の撤去範囲
- 冷凍冷蔵設備の冷媒処理
- 階数・階段・エレベーター
- 搬出距離
- 共用部養生
- 夜間・休日作業
- 貸主指定業者・指定工事
- 解体する建材と石綿対応
- 発生する廃材量
そのため、「厨房一式○万円」という数字だけでは比較せず、何が含まれているかを確認してください。
見積では「厨房撤去一式」の内訳を確認する
厨房撤去の見積が一式表記だけの場合は、工事範囲を確認します。
| 見積項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 厨房機器 | 撤去だけか、搬出・処分まで含むか |
| 配管 | 給水・給湯・排水をどこまで撤去するか |
| ガス | 切離し・閉栓・配管撤去の範囲 |
| 電気 | 配線・コンセント・分電盤・動力設備の範囲 |
| 排気 | フード・ダクト・ファンの範囲 |
| グリストラップ | 清掃・撤去・埋戻し等の範囲 |
| 床 | 仕上げ・防水・土間・排水の範囲 |
| 廃材 | 積込・運搬・処分まで含むか |
| 復旧 | 穴塞ぎ、床・壁補修、清掃等を含むか |
見積全般については店舗解体見積の確認方法、費目別の確認は内装解体見積の内訳も参考になります。
壁・床・天井を壊す場合は石綿事前調査も確認する
厨房機器を搬出するだけで建材を解体・改修しない場合と、厨房土間、壁、天井、ダクト周辺の建材まで解体する場合では、必要な確認が異なります。
建築物の解体・改修を伴う場合は、工事対象部分について石綿含有建材の有無を事前に調査します。
工事規模が小さいから自動的に事前調査が不要になるわけではありません。
詳しくは内装解体のアスベスト事前調査で確認してください。
厨房機器と解体工事の廃材を混同しない
厨房撤去では、営業中から使用していた厨房機器と、工事によって発生する配管・床材・壁材などの廃材が同時に出ることがあります。
使用できる厨房機器は買取・再使用できる可能性があります。
一方、工事によって発生した建設廃棄物は、施工体制に沿って適正処理する必要があります。
見積では、「買取品」「処分する既存設備」「解体工事で発生する廃材」を分けておくと費用構造を確認しやすくなります。
建設工事由来の廃棄物については内装解体と産業廃棄物も確認してください。
厨房撤去を進める順番
- 工事後の完成状態を決める
- 契約・貸主・管理会社の指定を確認する
- 厨房設備の所有者を確認する
- 居抜き・再利用できる設備を決める
- 売却できる厨房機器を査定する
- 撤去する厨房機器を確定する
- 給排水・ガス・電気の切離し位置を決める
- フード・ダクト・グリストラップ・床の範囲を決める
- 必要な法令対応・事前調査を確認する
- 同じ工事範囲で見積を比較する
- 厨房機器を搬出する
- 設備・造作・床等を撤去する
- 必要な閉塞・補修・清掃を行う
- 改装または原状回復の次工程へ進む
店舗厨房の撤去でよくある質問
厨房機器だけ撤去すれば原状回復は完了しますか?
必ずしも完了しません。借主が増設した配管、電気、ガス、ダクト、厨房土間などが原状回復対象になっている場合があります。契約と貸主側の完成条件を確認してください。
シンクや作業台は売却できますか?
材質、サイズ、状態、メーカー、中古需要などによって買取できる場合があります。廃棄する前に厨房機器とまとめて査定する方法があります。
給排水管は全部撤去しますか?
物件ごとに異なります。機器接続部までか、借主増設配管を既存接続部まで戻すのかを確認します。
ガス管は自分で切ってもよいですか?
自己判断で切断せず、設備条件に応じて専門事業者へ切離し・閉栓方法を確認してください。
200Vの厨房機器を外した後の電源はどうしますか?
次の設備で再使用するのか、退去で撤去するのかによって変わります。専用回路や分電盤も含めて工事範囲を決めます。
グリストラップは必ず撤去しますか?
必ずではありません。借主設備か建物設備か、退去条件が撤去・清掃残置・その他の状態のどれかを確認します。
厨房土間は必ず斫りますか?
改装なら残して再利用する場合があります。退去・スケルトン返しでも、契約上どの状態まで戻すかによって異なります。
業務用冷蔵庫や製氷機は普通に廃棄できますか?
フロン類を冷媒に使用する業務用冷凍冷蔵機器を廃棄する場合は、フロン回収等の手続を確認する必要があります。中古品として再利用できるなら、先に買取可否を確認してください。
厨房だけ撤去して客席を残すことはできますか?
できます。改装や業態変更では厨房区画だけを部分撤去する場合があります。次の設備工事で利用する配管・電源・ダクトを残すかもあわせて設計します。
厨房撤去でもアスベスト調査は必要ですか?
厨房機器を運び出すだけなのか、壁・床・天井など建築材料の解体・改修を伴うのかで確認内容が変わります。建築物の解体・改修を伴う場合は工事対象部分の石綿事前調査を確認します。
厨房撤去は「機器を運び出す工事」だけではない
店舗厨房の撤去では、厨房機器の搬出だけに目を向けると、配管・ガス・電気・ダクト・グリストラップ・床などが後から残ることがあります。
反対に、改装で再利用できる設備まで一度すべて撤去してしまえば、次の工事で余計な再施工が発生します。
工事前に、
- 売る設備
- 移設する設備
- 残す設備
- 撤去する設備
- 撤去後に復旧する部分
を分け、厨房区画全体で工事範囲を決めることが重要です。
閉店に伴って店舗全体を解体する場合は飲食店の内装解体、スケルトン返しまで必要な場合は飲食店のスケルトン工事もあわせて確認してください。
厨房機器・配管・グリストラップ・ダクトなど、どこまで撤去すべきか分からない場合は、お問い合わせから店舗の状況、撤去目的、設備内容、退去・工事期限などをお知らせください。
