店舗やオフィスを退去するとき、原状回復工事の見積に「B工事」が含まれていることがあります。
一方で、内装解体会社へ相談すると「この部分は当社で施工できます」と言われることもあり、どこまでがB工事で、どこからC工事として借主側で発注できるのか分かりにくくなります。
ここで注意したいのは、「原状回復=すべてB工事」「内装解体=すべてC工事」と一律に分けることはできないという点です。
A工事・B工事・C工事の具体的な範囲は、物件ごとの賃貸借契約、工事区分表、ビルルールなどで異なります。
退去時は、先に解体業者を決めるのではなく、返還状態と工事区分を確認してから、B工事とC工事を分けて見積・工程を組む必要があります。
B工事と原状回復工事は同じものではない
B工事は、一般に借主が費用を負担し、貸主側が指定・管理する施工会社によって行われる工事を指します。
ただし、A工事・B工事・C工事は全国一律に法律で工事項目が決められた分類ではありません。
実際の区分は物件ごとに決められているため、「空調は必ずB工事」「壁の撤去は必ずC工事」と工事項目の名前だけで判断しない方が安全です。
原状回復では、借主が入居中に変更したものを撤去・復旧する過程で、B工事とC工事の両方が発生することがあります。
A・B・C工事の基本的な考え方については、B工事・指定業者の基本も参照してください。
退去時の原状回復でB工事になりやすい部分
原状回復でB工事になりやすいのは、単独のテナント区画だけでは完結せず、建物側の設備や安全管理へ影響する部分です。
| 工事項目 | B工事になることがある例 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 空調 | 室内機移設、ダクト変更、建物側空調への接続変更 | 設備所有者・系統・指定施工会社 |
| 電気 | 分電盤、幹線、建物側電源設備に関わる復旧 | 電源境界・容量・ビル側設備との接続 |
| 防災 | スプリンクラー、感知器、非常放送等の移設復旧 | 防災設備への影響・検査方法 |
| 給排水 | 建物側配管へ接続した給排水設備の撤去・復旧 | 接続位置・閉塞方法・漏水リスク |
| ガス | 建物側供給設備につながる配管の撤去・閉塞 | 供給境界・安全確認 |
| 天井設備 | 空調・照明・防災設備と連動する天井復旧 | 内装工事と設備工事の取り合い |
たとえば、借主が会議室を作るために間仕切りを設置し、その結果として空調吹出口やスプリンクラー、照明を移設していたとします。
退去時には、間仕切りの撤去はC工事として借主側業者が施工できても、空調・防災設備の復旧はB工事になる、といった分かれ方があります。
反対に、物件によっては内装部分を含めて指定業者が一括施工する場合もあります。
内装解体でもB工事になる部分がある
「内装解体なら解体業者へ全部頼める」と考えると、工事区分と合わなくなる場合があります。
店舗やオフィスの解体では、次のような作業が混在します。
- 間仕切り・造作壁の撤去
- 床材の撤去
- 天井材の撤去
- 造作家具・カウンターの撤去
- 照明・配線の撤去
- 空調設備の撤去・復旧
- 防災設備の撤去・復旧
- 給排水・ガス設備の撤去
- 看板・サインの撤去
このうち、専有部内の内装や借主所有の造作はC工事として扱える場合があります。
一方、建物設備へ接続している電気、空調、防災、給排水などはB工事として指定施工会社による作業が必要になる場合があります。
したがって、内装解体の見積を取る際には「解体一式」ではなく、B工事部分とC工事部分を分けて確認することが重要です。
原状回復でB工事とC工事を分ける7つの確認項目
1.退去時にどの状態まで戻す契約か
最初に確認するのは工事会社ではなく、返還状態です。
賃貸借契約書、特約、入居時の図面・写真、原状回復仕様書などを確認し、何を撤去し、何を残し、どの状態まで復旧する必要があるのか整理します。
返還状態が決まっていなければ、B工事とC工事を正しく分けることもできません。
原状回復全体の確認方法は、原状回復の総合ガイドも参照してください。
2.工事区分表を確認する
オフィスビルや商業施設では、A工事・B工事・C工事の範囲を工事区分表で定めている場合があります。
確認したいのは、単に「B工事」と記載されているかではありません。
空調、電気、防災、給排水、内装、サインなど、工種ごとに誰が施工会社を選び、誰が費用を負担するのか確認します。
B工事とC工事の基本的な切り分けは、B工事とC工事の分け方で詳しく整理しています。
3.借主設備と建物設備の境界を確認する
工事区分を判断するときは、「その設備を誰が付けたか」だけでなく、どこで建物設備と接続しているかを見る必要があります。
たとえば借主が設置した設備でも、建物側の電源、空調、給排水、防災設備と接続していれば、撤去時に貸主指定業者による切離しや復旧が必要になる場合があります。
設備図や施工図が残っていれば、現地確認と合わせて境界を整理します。
4.B工事とC工事の「取り合い」を確認する
原状回復では、B工事とC工事が完全に別々に施工できるとは限りません。
たとえば、C工事で間仕切りを撤去する前にB工事で設備を切り離す、内装撤去後にB工事で設備を復旧し、その後C工事で天井や壁を仕上げる、といった順序になることがあります。
この境界部分を実務上「取り合い」として調整することがあります。
誰がどこまで施工するかだけでなく、どちらが先に施工するのかまで確認しておきます。
5.B工事とC工事の見積を分ける
原状回復見積が一式で提示されている場合、どこまでがB工事か分かりにくくなります。
可能な範囲で、工事区分ごとに次の内容を確認します。
- 工事項目
- 数量
- 仕様
- 施工会社
- 費用負担者
- 諸経費
- 施工時期
B工事見積が高いと感じた場合は、B工事の見積が高いときの確認方法も参照してください。
工事内容や価格自体を第三者視点で確認したい場合は、B工事見積の査定も判断材料になります。
6.工事工程と貸主検査まで整理する
B工事とC工事を分けると、施工会社も複数になります。
そのため、価格だけを見て工事を分けすぎると、工程調整が複雑になる場合があります。
退去時には、少なくとも次の流れを確認します。
- B工事設備の停止・切離し
- C工事による内装・造作撤去
- B工事による設備復旧
- C工事による仕上げ復旧
- 清掃
- 貸主・管理会社検査
- 指摘事項の是正
- 引渡し
物件によっては順番が異なります。
明渡期限ぎりぎりに工事区分を確認すると、貸主承認や施工会社調整に使える時間がなくなるため、見積取得前から確認しておく方が安全です。
7.法令対応を「削減できる工事」と混同しない
原状回復・内装解体では、費用を抑えるためにB工事とC工事の範囲を見直すことがあります。
ただし、法令上必要な調査や安全対策、適正な廃棄物処理まで削減対象として扱うべきではありません。
建築物の解体・改修工事では、工事規模の大小にかかわらず、工事対象となる部分の材料について石綿含有の有無を事前に調査する必要があります。
行政への事前調査結果報告には一定の規模基準がありますが、報告対象外だから事前調査自体が不要になるわけではありません。
また、内装解体によって発生する建設廃棄物は適正に処理する必要があります。
撤去・廃棄については、撤去・廃棄の総合ガイドも参照してください。
B工事をC工事へ変更すれば必ず安くなるわけではない
B工事は貸主側指定施工会社となることが多いため、借主側では複数社比較がしにくく、見積金額が高く感じられることがあります。
そのため「できるだけB工事をC工事へ変えたい」と考えることがあります。
ただし、工事区分は借主が一方的に変更するものではありません。
設備への影響、安全管理、施工責任、保証、建物管理などを踏まえ、貸主・管理会社側の承認が必要になります。
さらに、C工事へ変更すると施工会社間の調整費用や工程管理が増えることもあります。
判断するときは、単純な施工単価だけでなく、次の条件まで比較します。
- B工事から外せる範囲
- C工事会社の見積
- 貸主側の承認条件
- B/C間の工程調整
- 工事申請・検査費用
- 管理費
- 明渡期限への影響
- 施工後の責任範囲
B工事費全体を見直す場合は、B工事費を抑える方法も確認してください。
原状回復の見積を取る前に行う順番
原状回復のB工事で失敗を減らすには、施工会社探しより先に工事区分を整理します。
- 賃貸借契約書・特約を確認する
- 入居時の状態と返還条件を確認する
- 工事区分表・ビルルールを入手する
- 現地で内装・設備の変更箇所を確認する
- B工事とC工事の対象を仮分けする
- 貸主・管理会社へ区分を確認する
- B工事見積とC工事見積を分けて取得する
- 工程・取り合い・検査を調整する
先に解体業者へ「全部撤去してください」と依頼すると、後から指定施工会社でやり直す必要が生じることがあります。
逆に、すべて指定業者へ一括で任せた後では、C工事として借主側で発注できた範囲を比較できなくなる場合があります。
店舗とオフィスでB工事になりやすい部分は違う
オフィス
オフィスでは、間仕切り変更に伴う空調、照明、防災設備、電源設備などがB工事と関係しやすくなります。
会議室や個室を多数増設している場合は、内装撤去だけでなく設備配置の復旧まで確認します。
飲食店・店舗
飲食店では、空調、防災に加えて、厨房排気、給排水、ガスなど建物設備との接続部分が増えます。
商業施設では施工会社や施工時間、搬出、養生などが施設側ルールで細かく定められている場合があります。
同じ30坪でも、物販店と飲食店ではB工事の対象範囲や原状回復工事の構成が大きく異なる可能性があります。
B工事の原状回復についてよくある質問
原状回復工事はすべてB工事ですか?
いいえ。一律には決まりません。
物件によって、原状回復をすべて貸主側指定業者が施工する場合もあれば、設備部分だけB工事、内装部分をC工事として借主側で施工できる場合もあります。
契約書と工事区分表を確認してください。
内装解体はすべてC工事ですか?
これも一律ではありません。
間仕切りや造作物の撤去をC工事として施工できても、設備との接続部分や建物側設備の撤去・復旧はB工事になる場合があります。
空調・電気・防災設備は必ずB工事ですか?
必ずとは言えません。
B工事になりやすい工種ですが、具体的な工事範囲や施工会社の指定は物件ごとの工事区分表・ビルルールで確認します。
B工事をC工事へ変更できますか?
貸主・管理会社側が承認すれば変更できる場合があります。
ただし、借主が一方的に工事区分を変更することは避け、施工責任、設備への影響、資格、安全管理、検査条件まで含めて相談します。
B工事でも相見積もりは取れますか?
指定施工会社しか実際に施工できない場合、通常の意味で複数業者から施工会社を選ぶことは難しい場合があります。
一方で、同じ工事条件による参考見積を取得し、数量や仕様、価格の確認材料として使えるケースがあります。
工事区分表が見つからない場合はどうしますか?
貸主・管理会社へ確認し、原状回復仕様、工事区分、施工会社指定について書面で確認します。
口頭で「これはB工事です」と言われただけの場合も、可能であれば根拠となる契約・規定・工事区分を確認します。
小規模な内装解体でも石綿の事前調査は必要ですか?
建築物の解体・改修では、工事規模にかかわらず、対象部分の材料について石綿含有の有無を事前調査する必要があります。
一方、行政への事前調査結果報告は別に規模基準が設定されているため、事前調査義務と報告義務を区別してください。
原状回復は「解体業者を決める前」にB工事とC工事を分ける
退去時の原状回復で確認したいのは、「B工事かC工事か」という言葉そのものではありません。
実務上は、誰が施工会社を選び、誰が費用を負担し、どこまで施工し、どの順番で工事を行うかを明確にすることが重要です。
原状回復・解体の見積を取る前に、契約、返還状態、工事区分表、設備との境界を確認し、B工事とC工事を分けてから施工会社へ依頼します。
すでにB工事見積が出ており、工事範囲や価格が妥当か分からない場合は、工事区分・数量・仕様を分けて確認すると判断しやすくなります。
