美容室・ヘアサロンを閉店や移転で退去するとき、原状回復は「シャンプー台と鏡を外せば終わり」とは限りません。
美容室には、シャンプー台の給水・給湯・排水、床上げや床下配管、給湯設備、大型ミラー、セット面、スタイリングチェアの固定部、受付カウンター、照明、換気・空調、看板など、一般的な店舗とは異なる設備や造作があります。
どこまで撤去・復旧する必要があるかは、美容室だから一律に決まるものではありません。
賃貸借契約書、特約、入居時の状態、設備の所有者、貸主・管理会社が求める返還状態を確認し、何を撤去し、何を残し、どこまで復旧するかを確定してから見積を取ることが重要です。
- 退去時に求められる返還状態
- スケルトン返しか、内装の一部を残せるか
- シャンプー台・美容機器の所有者
- 給水・給湯・排水配管の復旧範囲
- 床上げ・床下配管をどこまで戻すか
- セット面・大型ミラー・受付造作の扱い
- 給湯設備・電気・換気・空調の復旧
- 居抜き・設備売却の可能性
店舗全般の原状回復について先に確認したい場合は、店舗閉店時の原状回復もあわせて確認してください。
美容室の原状回復は一般店舗より設備の確認項目が多い
美容室では、水を使うシャンプー設備や給湯設備、床下配管などを設置するため、物販店などと比べて建物側へ手を加えている箇所が多くなりやすい業態です。
厚生労働省の美容所の衛生管理に関する要領でも、洗場には流水・給湯設備を設けることや、作業場で十分な換気ができる構造設備とすることなどが示されています。
ただし、これらは美容所として営業するための設備・衛生管理に関する考え方であり、退去時に「必ずすべて撤去する」と定めるものではありません。
退去時の撤去・復旧範囲は、賃貸借契約、特約、入居時資料、貸主・管理会社との確認によって決めます。
まず契約書で「どの状態へ戻すか」を確認する
原状回復工事を考えるとき、最初からシャンプー台や内装を壊し始めるのは避けます。
最初に確認するのは、退去時にどの状態で返還する契約になっているかです。
たとえば、次のような条件があります。
- スケルトン状態へ戻す
- 借主が施工した設備・造作を撤去する
- 入居時の状態へ戻す
- 貸主が指定する仕様へ復旧する
- 貸主承諾のうえ一部設備を残置できる
「原状回復する」としか書かれておらず具体的な状態が分からない場合は、特約、原状回復仕様書、入居時の図面・写真、内装工事図面なども確認します。
契約書の具体的な確認箇所は、原状回復で契約書のどこを見るかで整理しています。
美容室の原状回復で確認する8項目
1.シャンプー台
シャンプー台では、本体だけでなく、その下や背面につながる給水・給湯・排水設備まで確認します。
シャンプー台本体を外しても、床下に増設した配管や床開口が残っていれば、それらの復旧が必要になる場合があります。
一方、貸主が設備を残すことを承諾する場合や、後継テナントが美容室として使用する場合に、設備を残置できるケースもあります。
そのため、「シャンプー台は必ず全部撤去」と決めつけず、貸主との合意を先に確認します。
2.給水・給湯・排水配管
美容室では複数台のシャンプー台へ水・温水を供給するため、入居時に配管を増設している場合があります。
確認するのは、シャンプー台との接続部分だけではありません。
- 床下まで配管を撤去するのか
- 既存配管との分岐部分まで戻すのか
- 床や壁の開口部をどう復旧するのか
- 排水管の閉塞処理をどう行うのか
などを工事範囲として確認します。
見積書では「シャンプー台撤去一式」だけでなく、配管処理・床復旧が含まれているかを確認すると、後から追加工事になるリスクを減らせます。
3.床上げ・床下配管
配管を通すために、美容室の一部または全面を床上げしていることがあります。
スケルトン返しを求められる場合には、床仕上げだけでなく、床上げ材や床下配管まで撤去対象になる可能性があります。
一方で、建物本来の床や防水など、撤去してはいけない部分もあります。
工事前に「どの高さ・どの状態まで戻せば完成なのか」を貸主・管理会社と確認し、図面や写真で共有しておくと安全です。
4.セット面・大型ミラー・受付カウンター
美容室では、セット面や大型ミラー、受付カウンター、商品棚などを壁・床へ固定していることがあります。
造作物を撤去すると、アンカー穴、ビス穴、接着跡、壁面・床面の欠損などが残ることがあります。
そのため、撤去工事だけでなく、撤去後の壁・床補修まで見積範囲に含まれているか確認します。
大型ミラーなどは重量があるため、搬出経路やエレベーターの使用条件も工事費に影響することがあります。
5.スタイリングチェア・チェアベース
美容椅子が床へ固定されている場合、本体を搬出したあとに床面へ固定金具や穴が残ります。
椅子本体の撤去費用だけでなく、固定部の撤去、床材の補修・張替えなどが必要か確認します。
自社所有の椅子で、移転先で再利用する、または中古売却できる可能性がある場合は、解体・廃棄を依頼する前に分けておきます。
6.給湯器・ボイラー・ガス・電気設備
シャンプー設備のために給湯設備を増設している美容室では、退去時にその設備の所有者と撤去範囲を確認します。
給湯器本体だけでなく、給水・給湯管、ガス、電源、排気設備などが関係することがあります。
貸主設備なのか借主が設置したものなのかによって扱いが変わるため、現場に設備があるという理由だけで撤去しないことが重要です。
7.換気・空調・照明
美容室では、店舗レイアウトに合わせて空調・換気設備や照明を変更している場合があります。
天井を変更した、換気設備を増設した、空調吹出口を移設したなどの場合には、建物側設備との関係を確認します。
ビル・商業施設では、設備工事について貸主指定業者や工事区分が設定されているケースもあります。
内装解体会社だけですべて施工できると決めず、管理会社へ工事区分を確認してください。
8.看板・サイン・外装
入口サイン、袖看板、窓面シート、店名表示なども退去時の確認対象です。
看板本体を撤去するだけでなく、取付穴、配線、外壁・窓面の復旧まで求められる場合があります。
商業施設内では看板撤去の作業時間や施工会社が指定されることもあるため、早めに管理会社へ確認します。
美容室は居抜きで借りてもスケルトン返しになることがある
前の美容室からシャンプー台・鏡・配管などを引き継いで居抜きで入居した場合でも、退去時にそのまま残してよいとは限りません。
賃貸借契約上、退去時はスケルトンへ戻す条件になっていれば、前テナントから引き継いだ設備まで現在の借主が撤去する条件になっている場合があります。
反対に、貸主の承諾を得て後継の美容室へ造作・設備を引き継ぐことができれば、撤去工事を減らせる可能性があります。
重要なのは、入居時の状態だけでなく、退去時の返還条件を確認することです。
原状回復とスケルトン返しの違いは、原状回復とスケルトン工事の違いも確認してください。
スケルトン返しの場合に確認すること
美容室でスケルトン返しを求められた場合は、内装仕上げや造作を大きく撤去することになります。
ただし、「スケルトン=室内のものを何でもすべて壊す」という意味ではありません。
建物の躯体、貸主設備、共用設備など、借主が撤去してはいけないものもあります。
特に美容室では、
- シャンプー台
- 給水・給湯・排水
- 床上げ
- チェア固定部
- 大型ミラー・セット面
- 受付カウンター
- 給湯設備
- 換気・空調
などについて、どこまで撤去した状態を「スケルトン」とするのかを確認します。
美容室のスケルトン工事に限定した撤去境界は、美容室のスケルトン工事で詳しく整理しています。
原状回復と内装解体は同じではない
内装解体は、造作物や設備などを撤去する工事です。
一方、原状回復は、契約で求められる状態へ物件を戻して貸主へ引き渡すまでの広い概念です。
そのため、シャンプー台、鏡、造作壁などを解体しても、床・壁の補修や配管処理、清掃、貸主確認が残っていれば原状回復は完了していません。
実際に何をどの順番で解体するかについては、美容室の内装解体で確認してください。
美容機器・什器をすぐ廃棄しない
美容室を閉店するとき、設備を一括で解体・廃棄する前に、自社所有の機器や什器を整理します。
たとえば、スタイリングチェア、シャンプー設備、美容機器、ワゴン、什器などは、状態や型式によって移転・再利用・売却できる可能性があります。
一方、リース・レンタル品、貸主設備、前テナントから引き継いだ設備などは、自社判断で売却できません。
設備ごとに所有者を確認し、次の4つに分けます。
- 移転先で再利用するもの
- 売却・買取査定へ回すもの
- 貸主・リース会社へ返すもの
- 撤去・廃棄するもの
解体後に売却可能だったと気付いても元に戻せないため、買取可能性は工事前に確認します。
店舗設備の買取については、店舗設備・什器の買取も確認してください。
美容室の原状回復費用は何で変わる?
美容室の原状回復費用を、「美容室なら坪○万円」と一律に決めることはできません。
特に費用差が出やすいのは、次の条件です。
- スケルトン返しか部分的な原状回復か
- シャンプー台の台数
- 給排水・給湯配管の範囲
- 床上げ・床下配管の量
- セット面・大型ミラー・造作の量
- 給湯設備・空調・換気・電気工事
- 看板・外装の復旧
- 廃材量
- 搬出経路・エレベーター・夜間作業などの制約
- 貸主指定業者・工事区分
同じ面積の美容室でも、シャンプー台1台の小型サロンと、多数の設備や床上げを持つ大型店では工事内容が大きく異なります。
店舗原状回復の費用構造については、店舗の原状回復費用も確認してください。
見積では「シャンプー台撤去一式」の中身を確認する
美容室の見積では、設備撤去や配管工事が「一式」とまとめられることがあります。
総額だけを比較するのではなく、何が含まれているかを確認します。
たとえば、次の項目を分けて確認すると判断しやすくなります。
- シャンプー台本体の搬出・処分
- 給水・給湯管の切離し・撤去
- 排水管の処理
- 床上げ撤去
- 床開口・床仕上げの復旧
- ミラー・セット面の撤去
- 壁面・床面の補修
- 給湯器・電気・換気等の設備工事
- 養生・搬出
- 廃材処分
- 清掃
また、貸主から提示された見積の場合は、契約上必要な工事と、次の入居者向けの改修工事が混在していないかも確認します。
見積書全体の読み方は、原状回復の見積書の見方で整理しています。
美容室の原状回復はこの順番で進める
- 賃貸借契約書・特約・原状回復条件を確認する
- 入居時図面・写真・工事履歴を確認する
- 設備・美容機器の所有者を確認する
- 貸主へ居抜き・設備残置の可否を確認する
- 再利用・売却できる設備を先に分ける
- 貸主・管理会社と撤去・復旧範囲を確定する
- 現地調査を行い、同じ条件で見積を確認する
- 原状回復工事・完了確認・明渡しを進める
原状回復で重要なのは、「まず解体してから考える」のではなく、撤去する必要があるものを確定してから工事することです。
美容所の廃止届と原状回復は別に進める
美容室を閉店する場合、原状回復工事だけでなく、美容所としての廃止手続も確認します。
届出の様式や具体的な手続は自治体によって確認が必要です。所管保健所へ確認し、原状回復・明渡しの工程とは別に管理してください。
設備を撤去したから美容所の廃止手続が自動的に完了するわけではなく、反対に廃止届を出したから原状回復義務がなくなるわけでもありません。
よくある質問
シャンプー台は本体だけ撤去すればよいですか?
本体だけで終わるとは限りません。借主が増設した給水・給湯・排水管、床上げ、床開口なども原状回復対象になる場合があります。契約と貸主・管理会社の返還条件を確認してください。
床下の配管も全部撤去する必要がありますか?
一律ではありません。どこからが借主施工部分か、入居時にどの状態だったか、スケルトン返しなのかによって異なります。見積前に配管経路と撤去境界を確認します。
居抜きで借りた美容室なら設備を残したまま返せますか?
必ずしもそうではありません。居抜きで入居していても、退去時はスケルトン返しという契約になっている場合があります。設備を残す場合は貸主の承諾を確認します。
大型ミラーやセット面は撤去が必要ですか?
借主が設置した造作として撤去対象になることがあります。撤去する場合は、ミラー・造作本体だけでなく、壁の固定跡・アンカー穴などの補修範囲も確認してください。
美容室の原状回復はいくらかかりますか?
面積だけでは判断できません。シャンプー台の台数、床上げ・配管、造作、設備量、スケルトン返しの有無、搬出条件、指定工事などで変わります。坪単価だけではなく、工事項目と数量を確認します。
美容所を廃止したら原状回復工事を始めてよいですか?
行政上の美容所廃止と、賃貸借契約上の原状回復は別の手続です。工事は契約・貸主条件を確認して進め、美容所の廃止届については所管保健所へ確認してください。
美容機器を原状回復前に売却できますか?
自社所有で、貸主との返還条件や居抜き交渉に影響しない設備であれば、売却できる可能性があります。ただし、リース品・貸主設備・後継テナントへ譲渡する設備などを誤って処分しないよう、所有関係を確認してから進めます。
美容室の原状回復は、シャンプー台を外す前に返還状態を確認する
美容室の原状回復では、シャンプー台、給排水・給湯、床上げ、セット面、大型ミラーなど、建物へ固定・接続した設備が多いため、工事範囲を曖昧にしたまま解体を始めると追加工事や不要な撤去につながりやすくなります。
まず賃貸借契約書、特約、入居時資料、設備所有者、貸主・管理会社の返還条件を確認します。
そのうえで、居抜き・設備残置・買取の可能性を整理し、必要な撤去・復旧だけを見積へ落とし込みます。
シャンプー台や床下配管を含めて原状回復範囲が複雑になっている場合は、工事発注前に契約条件と現地設備をあわせて確認することで、不要な工事や退去直前の追加費用を減らしやすくなります。
