店舗を閉店・移転するとき、内装や設備を撤去して原状回復する前に「このまま居抜きで売却できないか」と考えることがあります。
居抜き売却が成立すれば、原状回復・撤去・廃棄費を抑えながら、内装や厨房設備などを造作譲渡によって現金化できる可能性があります。
ただし、店舗の居抜き売却は、単に内装や設備の買い手を見つければ完了するものではありません。
貸主・管理会社の確認、譲渡対象の所有権整理、価格査定、後継テナント募集、貸主審査、造作譲渡契約、後継者の新しい賃貸借契約、引渡しが連動して初めて成立します。
また、居抜き売却が成立しなければ、現在の賃貸借契約に基づく原状回復義務が残る可能性があります。
この記事では、店舗を居抜きで売却するときの流れと、売却前に確認したい8項目を整理します。
居抜きと通常の原状回復のどちらを選ぶか迷っている段階なら、先に居抜き退去と原状回復の比較を確認してください。
店舗の居抜き売却とは?
店舗の居抜き売却とは、閉店・移転する借主が、店舗内の内装、造作、厨房機器、什器、設備などを残した状態で、後継テナントへ譲渡する方法です。
実務では、主に、
- 店舗内装
- 厨房設備
- 空調
- 給排水設備
- カウンター
- 造作家具
- 照明
- 一部の什器・備品
などが造作譲渡の対象になります。
ただし、「店舗そのもの」を売るわけではありません。賃貸店舗では建物の所有者は貸主であり、現在の借主が売却できるのは、自ら所有する造作・設備等が中心です。
居抜き売却と事業譲渡・M&Aは違う
| 方法 | 主な譲渡対象 | 主な評価軸 |
|---|---|---|
| 居抜き・造作譲渡 | 内装・設備・什器等 | 設備状態、再利用性、立地、賃貸条件、後継需要 |
| 事業譲渡 | 事業に必要な資産・契約等 | 収益、顧客、ブランド、事業資産等 |
| 株式譲渡 | 会社の株式 | 会社全体の企業価値 |
この記事で扱う「居抜き売却」は、主に造作・設備を後継テナントへ譲渡し、居抜き状態で店舗を引き継ぐ方法です。
屋号、営業権、従業員、仕入先契約、顧客情報などまで譲渡する場合は、単なる造作譲渡ではなく事業譲渡等の検討が必要になることがあります。
店舗を居抜きで売却する流れは8段階
1.賃貸借契約書と解約予告を確認する
最初に、現在の賃貸借契約書・特約・管理規約を確認します。
- 原状回復義務
- スケルトン返し
- 造作譲渡の可否
- 賃借権譲渡・転貸禁止
- 用途変更
- 解約予告期間
- 指定業者
を確認します。
入居時が居抜きだったとしても、退去時に居抜き返還できるとは限りません。
2.貸主・管理会社へ居抜きの可否を相談する
- 居抜き募集を認めるか
- 造作譲渡を認めるか
- 募集できる業種
- 残してよい設備・造作
- 後継テナントの審査条件
- 原状回復義務をどこまで変更できるか
- 居抜き不成立時の扱い
などを確認します。
後継者が造作を買う意思を示しても、貸主の審査を通過し、新しい賃貸借契約が成立しなければ、その店舗で営業できない場合があります。
貸主承諾については居抜き退去で貸主の承諾を得る方法を確認してください。
3.売却できる造作・設備を整理する
| 区分 | 確認すること |
|---|---|
| 自社所有 | 譲渡対象にできるか確認 |
| 貸主所有 | 勝手に売却しない |
| 前テナントから承継 | 取得経緯・所有権を確認 |
| リース・レンタル | 返却・承継条件を契約確認 |
| 所有関係不明 | 契約・購入記録等で確認 |
設備所有関係が曖昧なまま売却すると、引渡し後のトラブルにつながります。
4.造作・設備を査定する
居抜き売却価格は、内装にかかった当初の工事費や帳簿上の簿価だけでは決まりません。
- 設備の年式・状態
- 内装の状態
- 次の業態でそのまま使えるか
- 立地・賃料等の物件条件
- 厨房・給排水・排気等の設備力
- 後継テナント需要
- 残りの募集期間
- 原状回復を回避できる価値
などで評価します。
造作価格は造作譲渡価格の決め方、査定項目は造作譲渡の査定方法を確認してください。
5.後継テナントを募集する
- 居抜き専門仲介
- 店舗専門不動産会社
- 貸主・管理会社ルート
- 業界ネットワーク
- 既存の取引先・知人
などがあります。
営業中に募集する場合は、従業員・顧客・取引先へ閉店情報が広がるリスクもあるため、情報公開範囲を決めておきます。
後継テナント募集は居抜きで後継テナントを探す方法を確認してください。
6.申込・貸主審査・賃貸条件を調整する
- 業種
- 法人・個人の信用
- 事業計画
- 保証会社
- 賃貸条件
- 建物側の用途制限
などを貸主側が確認します。
造作譲渡と新しい賃貸借の成立条件を連動させて進めます。
7.造作譲渡契約を締結する
- 譲渡対象
- 対象外の設備・備品
- 譲渡価格
- 支払時期
- 引渡し日
- 設備の状態
- 故障・不具合の扱い
- 現状有姿の範囲
- 契約解除条件
- 新しい賃貸借が成立しなかった場合の扱い
を整理します。
造作譲渡契約だけで、現在の借主が貸主へ負っている原状回復義務が自動的に後継者へ移るわけではありません。
契約書は造作譲渡契約書の確認事項を参照してください。
8.新賃貸借成立・引渡し・旧契約終了を確認する
- 後継テナントと貸主の新しい賃貸借契約
- 造作譲渡代金の支払い
- 設備・鍵等の引渡し
- 現借主の賃貸借終了
- 原状回復免除・残置範囲
- 残る撤去工事
を確認します。
居抜き売却の相場はいくら?
店舗の造作譲渡額に全国一律の相場はありません。
例えば「飲食店ドットコム 居抜き売却」が公開する東京23区の売却成功事例530件では、平均売却額は約221万円、売却までの平均日数は87日とされています。
一方、同サービスの地域別「造作譲渡募集額」は、募集時の希望額であり、実際の成約額とは異なると明記されています。
- 募集価格
- 査定価格
- 実際の成約価格
は分けて考えてください。
居抜き売却価格を左右する8つの要素
- 立地:駅距離、通行量、商圏、視認性
- 賃料・契約条件:後継者が継続負担できる条件か
- 業態:同じ設備を使える後継候補が多いか
- 設備状態:年式、故障、メンテナンス状況
- 内装状態:改修せず使えるか
- 設備力:電気、ガス、給排水、排気等
- 退去期限:売主に交渉時間が残っているか
- 原状回復回避価値:売主側で回避できる撤去・工事費
高く売るために閉店前から準備すること
解約通知を出す前後に契約条件を確認する
閉店・移転を検討し始めた段階で、解約予告と原状回復条件を確認します。
設備を撤去する前に査定する
原状回復を発注する前に、居抜き査定・設備買取・撤去のどれが有利か比較します。
設備資料をそろえる
メーカー、型式、年式、購入時期、メンテナンス履歴などを整理します。
希望額を高くしすぎない
造作価格だけでなく、後継者が負担する保証金、礼金、賃料、追加工事、設備更新等も含めて成立可能性を考えます。
「高く売る」より最終手残りで考える
最終手残り = 造作譲渡代金 + 回避できる原状回復・撤去費 − 募集等の費用 − 追加賃料 − 残る工事費
という形で比較します。
居抜き売却できないものに注意する
- リース品
- レンタル品
- 貸主設備
- 前テナント所有のままになっている設備
- 第三者所有物
自社に処分・譲渡権限がないものを売却しないようにしてください。
無償譲渡でも得になることがある
造作譲渡代金が0円でも、原状回復費や設備撤去・廃棄費を大きく回避できるなら、居抜きが成立する方が有利なケースがあります。
後継テナントが決まらない場合はどうする?
居抜き売却では、原状回復への切替期限を必ず決めておきます。
契約終了日 → 貸主検査・是正 → 原状回復工事 → 発注・見積
を逆算して、居抜き募集を終了する日を決めます。
期間設計は居抜きの後継テナント探しに必要な期間で詳しく整理しています。
居抜き売却で起こりやすいトラブル
貸主へ相談する前に売却条件を確定する
造作の買い手が決まっても、貸主が後継テナントを認めなければ成立しません。
リース品を譲渡対象に入れる
リース・レンタル品は契約上返却が必要な場合があります。
設備故障の責任範囲が曖昧
引渡し後すぐに故障した場合の扱いを、造作譲渡契約で確認します。
造作譲渡だけ先に成立させる
新しい賃貸借が成立しなかった場合に、造作譲渡契約をどう扱うか決めておきます。
居抜き不成立なのに原状回復準備をしていない
通常退去へ戻す時間がなくなることがあります。
店舗居抜き売却のチェックリスト
| 確認項目 | 確認 |
|---|---|
| 賃貸借契約・特約を確認した | □ |
| 貸主・管理会社へ居抜き可否を確認した | □ |
| 原状回復条件を確認した | □ |
| 譲渡対象の所有権を確認した | □ |
| リース・レンタル品を分けた | □ |
| 造作・設備を査定した | □ |
| 後継テナントを募集する期間を決めた | □ |
| 貸主審査・新賃貸借の成立条件を確認した | □ |
| 造作譲渡契約書を作成した | □ |
| 居抜き不成立時の原状回復切替日を決めた | □ |
店舗の居抜き売却FAQ
店舗を居抜きで売却するには何から始めますか?
賃貸借契約の原状回復・造作譲渡・解約予告条件を確認し、貸主・管理会社へ居抜き募集が可能か相談するところから始めます。
造作譲渡の相場はいくらですか?
全国一律の相場はありません。地域、業態、設備状態、賃貸条件、募集期間によって大きく変わります。公開データを見る場合も、募集額と成約額を分けて確認してください。
居抜き売却は貸主の承諾が必要ですか?
居抜き状態で返還すること、後継テナントの入居、原状回復条件の変更等について貸主・管理会社との確認が重要です。賃借権の譲渡・転貸を行う場合は民法612条も関係します。
造作譲渡契約を結べば後継者が必ず入居できますか?
できません。後継者が貸主の審査を通り、新しい賃貸借契約が成立する必要があります。
居抜き売却したら原状回復しなくてよいですか?
自動的には免除されません。貸主がどの造作・設備を残すことを認め、現在の借主の原状回復義務をどこまで変更・免除するのか確認してください。
リース中の厨房機器も売却できますか?
自社所有でない場合は自由に売却できません。リース契約を確認し、返却・承継・買取等の扱いをリース会社へ確認してください。
買い手が決まらなかった場合はどうなりますか?
契約上の原状回復義務が残る場合があります。原状回復工期・貸主検査・是正から逆算し、事前に居抜き募集の終了日を決めておきます。
営業中でも居抜き募集できますか?
可能な場合がありますが、貸主・管理会社との調整と、閉店情報の公開範囲に注意が必要です。
造作譲渡と事業譲渡は同じですか?
同じではありません。造作譲渡は主に店舗内装・設備等の譲渡です。営業権、顧客、契約、従業員等を含めて事業を引き継ぐ場合は、事業譲渡等の別スキームを検討します。
店舗の居抜き売却は「造作価格」だけでなく退去全体で設計する
貸主承諾 → 譲渡対象整理 → 査定 → 後継テナント募集 → 貸主審査 → 造作譲渡契約 → 新賃貸借 → 引渡し
を一つの流れとして管理し、居抜き不成立時には原状回復へ切り替えられるようにしておくことが重要です。
後継テナント探しは居抜きで後継テナントを探す方法、貸主承諾は貸主承諾の確認手順、造作価格は造作譲渡価格の決め方、契約書は造作譲渡契約書へ進んでください。
店舗の閉店・移転で、居抜き売却・設備買取・原状回復のどの方法が最終手残りを残しやすいか整理したい場合は、お問い合わせから相談できます。
