美容室・ヘアサロンを閉店するときは、営業を終了するだけではテナント退去は完了しません。
賃貸借契約の解約、美容所の廃止手続き、シャンプー台やセット椅子などの設備整理、リース品の返却、居抜き・造作譲渡の検討、原状回復、ライフライン、貸主の確認、鍵返却までを並行して進める必要があります。
特に美容室では、シャンプー台につながる給水・給湯・排水配管、床上げ、セット面、大型ミラーなど、一般的な物販店舗にはない設備があります。
閉店が決まったからといって、最初から設備を撤去・廃棄してしまうのは避けた方がよいでしょう。
貸主が居抜き退去を認める可能性や、シャンプー台・セット椅子・美容機器を売却できる可能性が残っているためです。
この記事では、美容室の営業終了からテナントの明渡しまでを、実際に確認する順番に沿って整理します。
美容室の閉店は「営業終了」と「テナント明渡し」を分けて考える
最初に分けたいのが、最終営業日と賃貸物件の明渡し日です。
最終営業日にお客様への施術を終えても、その後に次の作業が残ります。
- 店内の在庫・私物整理
- シャンプー台・セット椅子等の移設・売却・返却
- リース品の返却
- 居抜き退去または原状回復の確定
- 内装・設備の撤去
- 原状回復工事
- 清掃
- 貸主・管理会社による確認
- 指摘箇所の是正
- 鍵等の返却
そのため、営業終了日と賃貸借契約終了日を同じ日に設定すると、工事や搬出の時間が不足する可能性があります。
閉店日だけでなく、いつまでに店内を空にして、原状回復を終え、貸主へ引き渡す必要があるかから逆算します。
美容室を閉店するときの進め方
大まかな順番は次のようになります。
- 賃貸借契約書を確認する
- 解約予告と明渡し期限を確認する
- 美容所の廃止・承継手続きを確認する
- 設備の所有者とリース契約を整理する
- 居抜き・造作譲渡が可能か貸主へ確認する
- 移設・買取できる設備を先に分ける
- 原状回復範囲を確定する
- 内装解体・原状回復を行う
- ライフライン等を停止する
- 貸主確認・是正・鍵返却を行う
一般店舗の閉店全体については、店舗閉店・退去の手順もあわせて確認してください。
最初に賃貸借契約書を確認する
美容設備を撤去する前に、賃貸借契約書、特約、工事区分表、入居時の図面・写真などを確認します。
特に確認したいのは次の内容です。
- 解約予告期間
- 契約終了日
- 原状回復義務
- スケルトン返しの有無
- 指定業者の有無
- 貸主設備と借主設備の区分
- 看板・外装の撤去条件
- 居抜き・造作譲渡の可否
- 明渡し時の検査方法
「美容室だからスケルトン返し」「居抜きで借りたから居抜きで返せる」とは限りません。
退去時の状態は、契約内容と貸主・管理会社との合意を確認して決めます。
美容所を廃止するときは保健所の手続きを確認する
美容室は、美容所として保健所へ届出を行って営業しています。
店舗自体を廃止する場合は、所在地を管轄する保健所へ美容所の廃止手続きを確認します。
提出方法や必要書類は自治体によって異なる場合があるため、営業している美容所を管轄する保健所の案内を確認してください。
事業譲渡の場合は単純な「廃止」とは限らない
ここで注意したいのが、店舗を閉めて完全に営業を終了する場合と、第三者へ美容室事業そのものを譲渡する場合の違いです。
営業そのものを事業譲渡し、新しい事業者が美容所を引き継ぐ場合は、開設者の地位を承継する手続きが利用できる場合があります。
一方、シャンプー台や内装などの造作・設備だけを売却したからといって、美容所の営業上の地位まで自動的に引き継がれるわけではありません。
居抜きや事業譲渡を進める場合は、設備の譲渡と営業上の手続きを分けて確認します。
シャンプー台・セット椅子などは「誰の物か」を整理する
美容室内の設備を、すべて自社所有だと思って撤去・売却しないようにします。
例えば次のような物があります。
- シャンプー台
- スタイリングチェア
- セット面・大型ミラー
- デジタルパーマ機器
- 促進機・スチーマー
- 給湯器
- POS・レジ機器
- 空調設備
- 洗濯機・乾燥機
- 受付カウンター
- 看板
これらを、
- 自社所有
- リース
- レンタル・サブスク
- 貸主所有
- 前テナントから承継した物
に分けます。
所有関係が分からない設備は、撤去・売却する前に契約書、購入記録、リース契約、入居時資料などを確認します。
リース中の設備は勝手に売却・廃棄しない
美容室では、高額な美容機器、POS、空調などをリースで導入していることがあります。
リース会社所有の機器であれば、閉店するからといって自由に売却・処分することはできません。
契約先へ連絡して、
- 契約残期間
- 中途解約の可否
- 残リース料等の扱い
- 返却方法
- 撤去・搬出方法
- 移転先へ移設できるか
- 再リースの可否
- 後継事業者への承継可否
を確認します。
店舗閉店時のリース品については、店舗閉店時のリース品の返却・中途解約で詳しく整理しています。
設備を壊す前に「居抜き」と「買取」を確認する
美容室を閉店するときに大きな分岐になるのが、通常の原状回復を行うか、居抜きで後継テナントへ引き継ぐかです。
美容室は、シャンプー台、給排水・給湯設備、セット面、照明、受付造作などをそのまま利用できれば、後継の美容室にとって価値が残る場合があります。
そのため、解体業者へすぐに「全部撤去」と依頼する前に、貸主・管理会社へ居抜き退去の相談を行います。
美容室の居抜きについては、美容室を居抜きで退去・売却する方法を確認してください。
居抜きが難しくても設備だけ売れることがある
居抜き退去が成立しなくても、自社所有の設備・什器に中古価値が残っていれば売却できる可能性があります。
例えば、
- シャンプー台
- セット椅子
- 美容機器
- 受付什器
- 家電
- その他の業務用機器
などです。
売却できる設備まで解体・廃棄すると、買取価値が失われることがあります。
解体前に設備・什器の買取を確認し、移設・売却・返却・処分へ分けます。
美容室の原状回復で特に確認する設備
居抜き退去が成立しない場合や、契約上原状回復が必要な場合は、貸主と撤去・復旧範囲を確定します。
美容室では特に次の箇所が重要です。
シャンプー台
シャンプー台本体を撤去するだけで終わるとは限りません。
給水、給湯、排水配管が床下や床上げ部分に施工されているため、契約上どこまで撤去・閉塞・復旧する必要があるか確認します。
床上げ・床下配管
シャンプー台の配管を通すために床を上げている美容室では、床上げ自体を撤去するのか、床下配管をどこまで撤去するのかが工事範囲に影響します。
セット面・大型ミラー
大型ミラーやセット面を壁面へ固定している場合は、撤去後のビス穴・アンカー穴、壁仕上げの補修まで必要になることがあります。
スタイリングチェア
床へ固定したチェアベースがある場合は、固定部の撤去と床復旧も確認します。
給湯・電気・換気・空調
給湯器、専用電源、換気設備、空調などについても、自社設置か貸主設備かを確認してから撤去範囲を決めます。
美容室固有の原状回復については、美容室の原状回復はどこまで必要かで詳しく解説しています。
スケルトン返しならシャンプー台だけでなく配管まで確認する
契約でスケルトン返しが必要な場合も、「美容室の設備を全部外せば完了」とは限りません。
確認したいのは、
- シャンプー台
- 給水・給湯・排水配管
- 床上げ
- 床下配管
- セット面
- 大型ミラー
- 受付カウンター
- チェアベース
- 給湯設備
- 照明・電気設備
- 換気・空調
- 看板
などです。
スケルトン工事の完成状態は貸主側との認識違いが起きやすいため、口頭だけでなく図面や見積範囲を使って確認します。
詳しくは美容室のスケルトン工事を確認してください。
内装解体を発注する前に買取・リース返却を終わらせる
内装解体の前には、店内設備を次のように分けます。
- 移転先へ持っていく物
- 貸主へ残す物
- リース会社等へ返却する物
- 居抜き・造作譲渡で残す物
- 買取へ出す物
- 解体・廃棄する物
この順番を逆にして解体を先に始めると、売却できた設備や返却すべきリース品まで撤去・廃棄してしまうおそれがあります。
美容室の解体発注については、美容室の内装解体を確認してください。
美容所廃止届と原状回復工事は別の手続き
美容所の廃止届を提出しても、賃貸借契約上の原状回復義務がなくなるわけではありません。
反対に、原状回復工事を終えたからといって、美容所の行政上の廃止手続きまで完了するわけでもありません。
美容室閉店では、
- 美容所としての行政手続き
- 店舗賃貸借契約の解約・明渡し
- 設備・リース契約の終了
を別々に管理すると抜け漏れを防ぎやすくなります。
移転の場合は旧店舗と新店舗の手続きを分ける
完全閉店ではなく美容室を移転する場合は、旧店舗の退去と新店舗の開設準備を並行して進めます。
旧店舗では、
- 解約
- 設備搬出
- 原状回復
- 美容所の廃止等の手続き
を行い、新店舗側では所在地を管轄する保健所へ必要な開設手続きを確認します。
旧店舗の届出がそのまま新店舗へ移るとは限らないため、移転先を契約する前後で管轄保健所へ確認しておくと進めやすくなります。
お客様・従業者・取引先への案内も営業終了日から逆算する
テナント工事とは別に、営業終了に伴う案内も必要です。
例えば、
- 予約済みのお客様への案内
- 今後の予約受付停止日
- 移転する場合の新店舗案内
- 従業者へのスケジュール共有
- ディーラー・仕入先への連絡
- 定期サービス・契約の整理
- Webサイト・SNS・予約媒体の更新
などです。
これらはテナントの明渡し日ではなく、最終営業日を基準に準備します。
電気・ガス・水道は最終営業日に止めない
営業が終わった後も、原状回復工事や清掃、設備撤去で電気や水道を使うことがあります。
美容室の場合、シャンプー台や給排水工事、清掃などでも水を使用する可能性があります。
そのため、営業終了日だけを基準にライフラインを止めるのではなく、工事業者・貸主・管理会社と確認して停止日を決めます。
店舗のライフラインについては、店舗の電気・ガス・水道を止めるタイミングを参考にしてください。
原状回復完了後は貸主の確認を受ける
工事が完了したら、貸主・管理会社の確認を受けます。
主に確認するのは、
- 契約上の原状回復範囲が完了しているか
- 残置物がないか
- 配管等の処理が指定どおりか
- 床・壁等の復旧が完了しているか
- 看板や外装が残っていないか
- 貸主設備を誤って撤去していないか
などです。
指摘事項があれば、契約終了日までに是正できるよう余裕を持って確認日を設定します。
最後に鍵・カード等を返却して明渡しを完了する
原状回復・是正が終了したら、貸主・管理会社の指示に従って鍵などを返却します。
物件によっては、
- 店舗鍵
- 共用部鍵
- セキュリティカード
- 駐車場カード
- その他貸与物
があります。
退去立会いの確認項目については、テナント退去の立会いチェックリストも確認してください。
美容室閉店で起こりやすい順番の失敗
先にシャンプー台を撤去してしまう
居抜き・設備買取の可能性が残っているうちに撤去すると、設備の価値を失う場合があります。
リース品を自社所有だと思って処分する
閉店前に購入品・リース品・レンタル品・貸主設備を分けます。
営業終了日に電気・水道を止める
原状回復・設備撤去・清掃で必要になる場合があるため、工事工程を確認して停止日を決めます。
居抜き募集を続けすぎる
後継テナントが決まらないまま原状回復工事の発注期限を過ぎると、明渡しに間に合わなくなる可能性があります。
居抜きを続ける場合も、通常の原状回復へ切り替える最終日を決めておきます。
美容所廃止届を原状回復と同じものだと思う
美容所の行政手続きと、賃貸借契約上の原状回復・明渡しは別です。
美容室の閉店・退去FAQ
美容室を閉店するとき最初に何をすればよいですか?
最初に賃貸借契約書を確認し、解約予告期間、明渡し日、原状回復条件、居抜きの可否を把握します。
その後、美容所の行政手続き、設備所有権、リース契約を並行して整理します。
美容室を閉店したら保健所への届出は必要ですか?
美容所を廃止する場合は、所在地を管轄する保健所へ廃止手続きを確認してください。
具体的な様式や提出方法は自治体によって異なる場合があります。
美容室を事業譲渡する場合も廃止届ですか?
営業そのものを事業譲渡して開設者の地位を引き継ぐ場合は、承継手続きが利用できる場合があります。
設備・造作だけを譲渡する場合とは異なるため、管轄保健所へ確認してください。
シャンプー台はそのまま売れますか?
自社所有で、中古需要があり、取り外し・搬出可能であれば査定対象になる場合があります。
リース品や貸主所有設備は勝手に売却しないでください。
美容室は居抜きで退去できますか?
可能性はありますが、貸主・管理会社の承諾や後継テナントとの調整などが必要です。
現在の賃貸借契約上、原状回復義務がある場合は、居抜きが成立しなかったときに通常の原状回復へ戻れるスケジュールも確保します。
居抜きで借りた美容室なら原状回復しなくてもよいですか?
居抜きで入居したことだけでは判断できません。
退去時にどの状態まで戻すかは、賃貸借契約、特約、貸主との合意を確認します。
シャンプー台を外せば原状回復は終わりますか?
給水・給湯・排水配管、床上げ、床下配管、固定部などの処理が必要になる場合があります。
撤去範囲は契約と貸主側の指示を確認します。
リース中の美容機器は閉店したら返却できますか?
契約によります。
中途解約できない契約や、残期間分の精算が必要な契約もあるため、リース会社へ早めに確認します。
電気・ガス・水道は閉店日に解約すればよいですか?
原状回復工事や清掃で使用する場合があります。
最終営業日ではなく、工事と明渡しスケジュールを確認して停止日を決めます。
美容室の閉店は「撤去」から始めない
美容室の閉店・退去では、シャンプー台や美容機器が目立つため、まず店内を空にしたくなります。
しかし、撤去・廃棄を最初に行うと、居抜きで残せた設備、買取できた機器、返却すべきリース品まで失う可能性があります。
進める順番は、
契約確認 → 行政手続き確認 → 所有権・リース確認 → 居抜き・買取判断 → 原状回復範囲確定 → 撤去・工事 → 貸主確認 → 明渡し
と考えると整理しやすくなります。
美容室の原状回復範囲が分からない場合は美容室の原状回復、居抜きでの退去を検討している場合は美容室の居抜き退去・売却、実際の解体発注段階では美容室の内装解体へ進んでください。
閉店日と明渡し期限が決まっており、居抜き・設備整理・原状回復の順番をまとめて整理したい場合は、お問い合わせから相談できます。
