美容室を居抜きで退去・売却するには?シャンプー台・給排水・保健所手続きを整理

美容室を閉店・移転するとき、シャンプー台やセット面、給排水設備などをすべて撤去する前に、居抜きで次の事業者へ引き継げないか確認する余地があります。

美容室は、飲食店とは異なる設備構成を持つ業態です。シャンプー台そのものだけでなく、床下の給排水、給湯設備、電気容量、セット面の配置などが、次の美容室にとって大きな意味を持つ場合があります。

一方で、美容室の設備が残っているだけで居抜き退去が成立するわけではありません。

貸主が居抜き状態での返還を認めるか、現在の借主がその設備を譲渡できるか、後継者が新たに物件を借りられるか、美容所として必要な行政手続きをどう処理するかまで確認する必要があります。

この記事では、美容室を居抜きで退去・売却するときに確認したい項目を、設備、契約、保健所手続、後継者探しの順に整理します。

目次

美容室の居抜き退去とは

美容室の居抜き退去では、現在の店舗にある内装・造作・設備などを残し、次の事業者が利用できる状態で引き継ぐことを目指します。

例えば、次のような設備・造作があります。

  • シャンプー台
  • セット面・鏡
  • 美容椅子
  • 受付カウンター
  • 給排水配管
  • 給湯設備
  • 空調
  • 照明
  • 電気設備
  • 収納・造作家具
  • 待合スペース

次の借主が同じ美容室・理容室・美容系サロンとして利用できれば、一から内装や設備を作り直す範囲を減らせる可能性があります。

現在の借主側でも、撤去・廃棄や原状回復の一部を行わずに済む可能性があり、造作に価値が認められれば譲渡代金を受け取れる場合もあります。

ただし、居抜きと造作譲渡は同じ意味ではありません。物件の返還条件と、設備等の所有・譲渡条件を分けて整理する必要があります。

美容室は「設備単体」より店舗全体の使いやすさを見る

美容室の居抜き価値は、シャンプー台や美容椅子の中古価格だけで決まるものではありません。

次の美容師がその店舗を使う場合、既存の給排水や給湯、電気、レイアウトをどの程度そのまま利用できるかが重要です。

例えば、状態のよいシャンプー台が残っていても、その配置を変更するために床を壊して給排水工事をやり直す必要があるのであれば、買い手側の工事負担は大きくなります。

反対に、設備自体が特別高価でなくても、次の美容室がほぼ同じ配置で使える給排水・電気・セット面が整っていれば、開業準備を減らせる場合があります。

美容室では「何円の設備が残っているか」だけでなく、「次の人がどこまで工事せずに使えるか」を見ると整理しやすくなります。

美容室を居抜きで退去するときの8つの確認

1.賃貸借契約の原状回復・スケルトン返し

居抜きで売却したい場合でも、最初に確認するのは現在の賃貸借契約です。

契約上、退去時に内装・設備を撤去してスケルトン状態へ戻すことになっている場合、借主だけの判断で設備を残して退去することはできません。

確認したいのは、次のような項目です。

  • 解約予告期間
  • 原状回復範囲
  • スケルトン返しの有無
  • 造作・設備の撤去条件
  • 貸主指定工事・指定業者の有無
  • 後継テナントに関する条項

居抜きが成立しなかった場合に必要になる原状回復を先に把握しておけば、後継者募集をいつまで続けられるかも判断しやすくなります。

居抜き店舗の原状回復義務もあわせて確認してください。

2.貸主・管理会社が居抜き退去を認めるか

次の美容師が「この内装のまま借りたい」と希望しても、貸主がその条件を認めなければ居抜き退去は完成しません。

募集を進める前後で、貸主・管理会社へ次の事項を確認します。

  • 居抜きで後継者を募集してよいか
  • 残してよい設備・撤去が必要な設備
  • 次も美容室として利用できるか
  • 美容室以外の美容系業態でも利用可能か
  • 後継者の審査条件
  • 現在の借主をどの状態で退去扱いにするか

貸主の了承を得る前に「居抜きで必ず引き渡せます」と候補者へ案内しないことが大切です。

詳しくは居抜き退去で貸主へ確認する事項で整理しています。

3.シャンプー台や美容機器の所有者

美容室にある設備がすべて現在の借主所有とは限りません。

例えば、シャンプー台、美容椅子、POS、空調などに、リース・レンタル・貸主設備が混ざっている場合があります。

設備ごとに、

  • 自社購入
  • 前テナントから譲り受けたもの
  • 貸主所有
  • リース・レンタル
  • 所有者不明

へ分けます。

造作価格を付ける前に、自社が本当に売却・譲渡できる設備か確認します。

居抜き設備の所有権の確認方法居抜き店舗のリース品の処理も参照してください。

4.シャンプー台だけでなく給排水・給湯を確認する

美容室で特に重要なのが、水回りです。

シャンプー台本体が残っていても、次の事業者が実際に利用できるかは給水・排水・給湯などによって変わります。

確認したいのは、例えば次の項目です。

  • シャンプー台の台数
  • 現在の配置
  • 給水・排水の位置
  • 床上げ・床下配管の状態
  • 排水詰まり・漏水等の履歴
  • 給湯能力
  • 配管を次のレイアウトでも利用できるか

買い手がシャンプー台の場所を大きく変更したい場合、既存の配管をそのまま使えないことがあります。

そのため、査定や募集では「シャンプー台3台」など台数だけを記載するのではなく、給排水や給湯も含めて次の美容室が判断できる情報を整理すると実務的です。

5.電気・空調・セット面の配置

美容室ではドライヤー、美容機器、照明などを同時に使用します。

設備の種類によっては、現在の電気設備が次の事業者の想定する席数・機器構成に合うかが問題になります。

また、空調能力、コンセント位置、セット面の間隔、スタッフや顧客の動線なども、次の美容室が改装せず使えるかを左右します。

居抜きの募集時には、見た目の内装写真だけでなく、

  • セット面数
  • シャンプー台数
  • 電気設備
  • 空調
  • バックヤード
  • 受付・待合
  • 収納

などを整理しておくと、候補者が判断しやすくなります。

6.美容所としての届出・行政手続

美容室では、不動産・造作の契約とは別に、美容師法上の「美容所」の手続きを確認する必要があります。

新たに美容所を開設する場合、美容所の位置や構造設備等を事前に届け出、構造設備について行政の検査・確認を受けた後でなければ使用できない仕組みがあります。

つまり、後継者が造作やシャンプー台を買っただけで、美容所として自由に営業開始できるとは限りません。

一方、後述するように、営業そのものを事業譲渡する場合には開設者の地位を承継する制度があります。

「設備だけを売るのか」「美容所の営業そのものを譲渡するのか」で行政手続が変わり得るため、売主・譲受人とも管轄保健所へ確認します。

7.造作査定と後継テナント募集

所有関係や設備状態を整理したら、造作を査定し、後継者募集へ進みます。

美容室では、次のような項目が候補者の判断材料になります。

  • シャンプー台の台数・状態
  • セット面数
  • 給排水・給湯
  • 電気・空調
  • 内装デザインの汎用性
  • 坪数・レイアウト
  • 賃料・保証金などの賃貸条件
  • 駅距離・視認性などの立地
  • 引渡し可能時期

造作譲渡価格は、開業時の内装費をそのまま基準にするものではありません。

現在の状態を次の事業者がどの程度利用できるか、物件の賃貸条件を含めて判断されます。

詳しくは造作譲渡の査定造作譲渡価格の決め方で整理しています。

8.居抜き不成立時の原状回復切替期限

美容室の居抜き募集を続けすぎると、契約終了日までにスケルトン工事が間に合わなくなることがあります。

後継者候補が見つかった後にも、

  • 内見
  • 条件交渉
  • 貸主審査
  • 新しい賃貸借条件の調整
  • 造作譲渡契約
  • 美容所関係の行政手続確認

などが残ります。

退去日から原状回復工期、貸主検査、是正期間を逆算し、「この時点までに後継者が固まらなければ通常退去へ切り替える」という期限を設定します。

居抜きの後継テナント探しに必要な期間も確認してください。

美容室の居抜きで評価されやすい設備・条件

項目 確認したいポイント
シャンプー台 台数、状態、配置、所有者
給排水 位置、状態、漏水・詰まり、レイアウト変更への対応
給湯 現在のシャンプー台数・運用で支障がないか
セット面 席数、間隔、動線、鏡・椅子の状態
電気設備 美容機器・ドライヤー等を利用する際の設備状況
空調 能力、年式、所有関係
内装 次のブランドでも利用しやすいか
賃貸条件 賃料、保証金、契約条件、貸主の業種承認

新品価格が高い設備だから高い造作価格になるとは限りません。

次の美容室がそのまま利用できるか、改装・撤去がどの程度必要かを含めて評価します。

美容師法上の「事業譲渡」と造作譲渡は分ける

美容室を居抜きで売却するとき、特に混同しやすいのが「造作譲渡」と「営業の事業譲渡」です。

内装・設備だけを譲渡するケース

現在の美容室事業は終了し、シャンプー台・セット面・内装などだけを後継者へ売却するケースです。

この場合、後継者は別の事業者として新たに美容室を始める形になることがあります。

その場合に必要となる美容所の開設届、構造設備確認等について、管轄保健所へ確認します。

営業そのものを事業譲渡するケース

2023年12月13日以降、美容師法では美容所の営業を譲渡した場合、営業を譲り受けた者が開設者の地位を承継できる制度があります。

この制度を利用する場合、譲受人は承継したことを遅滞なく届け出ます。

ただし、設備を数点買い取った、店舗の造作を譲り受けたというだけで、必ずこの「営業の譲渡」に該当するとは限りません。

顧客、従業員、屋号、営業上の権利義務等をどこまで引き継ぐかを含め、実際の取引内容によって整理します。

事業譲渡として進める場合は、契約締結前から管轄保健所へ相談しておく方が安全です。

美容室の設備基準は所在地の保健所へ確認する

美容師法では、美容所について清潔保持、消毒設備、採光・照明・換気などの措置が定められています。

さらに、衛生上必要な措置について自治体が条例で定める仕組みがあります。

そのため、ネット上で見つけた他県・他市の美容所基準を、そのまま自店舗へ当てはめないようにします。

特に後継者がレイアウト変更や設備追加を予定している場合は、工事前に所在地を管轄する保健所へ図面等を持参して相談できるか確認すると進めやすくなります。

現在の美容所を廃止する側の手続も確認する

現在の事業者が美容所を完全に廃止する場合、美容師法上の廃止届が関係します。

一方、営業そのものを事業譲渡し、開設者の地位を承継するケースでは処理が異なります。

「売主は廃止、買主は必ず新規開設」と決めつけず、取引方法を説明したうえで保健所へ必要な届出を確認してください。

美容室の居抜き売却価格に固定相場を置かない

美容室の居抜き成約事例を見ると、同じ美容室でも造作譲渡額には大きな差があります。

そのため、「美容室なら○坪で○万円」「シャンプー台1台につき○万円」といった全国共通の固定相場は設定しません。

価格を考える場合は、

  • 設備状態
  • 給排水・給湯・電気等のインフラ
  • 内装の再利用性
  • 坪数・レイアウト
  • 賃貸条件
  • 立地
  • 同業態の後継者需要
  • 退去までの残り期間

などを合わせて判断します。

高い希望価格を設定した結果、後継者募集に時間がかかり、最終的に原状回復工事へ戻るのであれば、造作代金だけでは判断できません。

美容室の居抜き退去を進める7ステップ

  1. 賃貸借契約を確認する
    解約予告、原状回復、スケルトン返し、設備撤去条件を把握します。
  2. 貸主・管理会社へ居抜き可能性を確認する
    後継者募集、残置可能設備、業種条件を整理します。
  3. 設備所有者を確認する
    自社所有、貸主所有、リース・レンタルを分けます。
  4. 美容室固有設備を整理する
    シャンプー台、給排水、給湯、電気、セット面等を確認します。
  5. 査定・後継者募集を行う
    設備と賃貸条件をセットで提示します。
  6. 貸主審査・造作契約・美容所手続を調整する
    造作譲渡だけでなく後継者の賃貸借と行政手続きを確認します。
  7. 成立しなければ原状回復へ切り替える
    退去日から工期を逆算して切替期限を管理します。

解体・撤去する前に居抜きの可能性を確認する

美容室の閉店が決まると、先にシャンプー台やセット面の撤去、内装解体を手配したくなることがあります。

しかし、一度撤去した給排水や造作を元の状態に戻すことは容易ではありません。

現在の設備やレイアウトを利用したい後継者がいる可能性があるなら、原状回復工事を確定する前に居抜き・造作譲渡の可能性を確認する方が選択肢を残せます。

一方で、居抜きだけに時間を使いすぎるのも避けます。

居抜きが成立しなかった場合に必要な工事を把握し、通常退去へ切り替えられる期限を持ちながら募集することが重要です。

美容室の内装撤去については美容室の内装解体・原状回復もあわせて確認してください。

よくある質問

美容室を居抜きで売却すれば原状回復は不要ですか?

必ず不要になるわけではありません。現在の賃貸借契約と貸主の承諾内容によります。後継者が見つからなかった場合には、契約どおり原状回復・スケルトン返しが必要になることもあります。

シャンプー台はそのまま売れますか?

現在の借主が所有している設備であれば造作譲渡の候補になります。ただし、リース・レンタル・貸主所有の場合は自社判断で売却せず、契約先・所有者を確認します。

美容室では給排水も造作価値になりますか?

次の美容室が現在の配置を利用できる場合、給排水等を新設し直す範囲を減らせるため、候補者が判断する重要な要素になり得ます。ただし、設備状態や次のレイアウトとの適合性によって評価は変わります。

居抜きで美容室を買った人は、そのまま営業できますか?

造作・内装を買っただけで美容所としての行政手続が自動的に完了するわけではありません。通常の新規開設なのか、営業の事業譲渡による開設者地位承継なのかを整理し、管轄保健所へ確認してください。

美容所の届出は次の経営者へ引き継げますか?

営業そのものの事業譲渡に該当する場合は、美容師法上、開設者の地位を承継できる制度があります。ただし、設備・造作だけの売買を当然に事業譲渡とみなすことはできないため、取引内容を保健所へ説明して確認します。

美容室を閉店する側は廃止届が必要ですか?

美容所を廃止する場合は廃止届が関係します。一方、営業の事業譲渡による地位承継として処理する場合は手続が異なるため、譲渡方法が決まった段階で管轄保健所へ確認してください。

美容室の居抜きはいくらで売れますか?

一律の相場では判断できません。シャンプー台や美容椅子だけでなく、給排水・給湯・電気、内装、坪数、立地、賃料、後継者需要、退去期限などによって変わります。

営業中から居抜きの募集はできますか?

営業中に相談・査定を受け、情報管理をしながら候補者探しを行うサービスはあります。ただし、本格的な募集をどの段階で行うかは、貸主との調整や従業員・顧客への情報管理も含めて判断します。

後継者が決まらなかった場合は?

現在の賃貸借契約に基づく通常の退去へ戻ります。原状回復工事に必要な期間を確保できるよう、居抜き募集の終了期限を事前に決めておきます。

美容室はシャンプー台を撤去する前に、店舗全体の居抜き価値を確認する

美容室の居抜き退去では、シャンプー台や美容椅子だけを見るのではなく、給排水、給湯、電気、空調、セット面、レイアウトを店舗全体として確認します。

そのうえで、賃貸借契約、貸主の意向、設備所有権、後継者の新しい賃貸借、美容所としての行政手続きを分けて整理します。

契約確認 → 貸主相談 → 設備・所有権整理 → 査定 → 後継者募集 → 賃貸借・造作・保健所手続の調整 → 不成立時の原状回復切替という順番で進めると、解体してから「残しておけばよかった」となる可能性を減らせます。

美容室の居抜き退去について、シャンプー台や内装をどこまで残せるか、造作譲渡できる設備、原状回復との比較を整理したい場合は、店舗・オフィスの退去について相談するから相談できます。

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