飲食店を閉店・移転するとき、厨房機器や内装をすべて撤去して原状回復する前に、居抜きで次のテナントへ引き継げないか確認する余地があります。
飲食店は、冷蔵冷凍設備、製氷機、厨房フード、排気ダクト、グリストラップ、ガス・給排水など、開業時に大きな工事費がかかる設備が多い業態です。
次の出店者が同じ設備を利用できれば、現在の店舗に残っているものが造作譲渡の対象になる可能性があります。
ただし、「設備が残っているから居抜きで退去できる」というわけではありません。
貸主が居抜き状態での退去を認めるか、設備を現在の借主が譲渡できるか、後継テナントが貸主の審査を通るか、営業に必要な行政手続きをどうするかなど、複数の条件を揃える必要があります。
飲食店の居抜き退去では、厨房設備の価値だけを見るのではなく、物件・契約・設備・後継者・退去期限を一つの工程として整理することが大切です。
飲食店の居抜き退去とは
居抜き退去とは、店舗内の内装・造作・設備などを残した状態で、次のテナントへ引き継ぐことを前提に退去する方法です。
飲食店では、例えば次のようなものが残されることがあります。
- 厨房機器
- 厨房フード・排気ダクト
- グリストラップ
- 冷蔵・冷凍設備
- 製氷機
- シンク・作業台
- ガス設備
- 給排水設備
- 空調
- カウンター
- テーブル・椅子
- 照明
- 看板設備
これらを残せれば、現在の借主は撤去・廃棄や原状回復の一部を回避できる可能性があり、後継テナント側も新規開業時の設備投資を抑えられる可能性があります。
設備等に価値があれば、造作譲渡代金を受け取れる場合もあります。
ただし居抜きと造作譲渡は同じ意味ではありません。詳しくは居抜きと造作譲渡の違いで整理しています。
飲食店は居抜きと相性がよい一方、設備確認も多い
飲食店は居抜きとの相性が比較的よい業態です。
理由は、次の出店者が一から整備すると費用や工期がかかる設備が多いからです。
特に、厨房機器単体だけでなく、排気・給排水・ガス・電気・グリストラップなどのインフラが次の業態に適合すれば、既存店舗を利用する意味が大きくなります。
一方で、設備が多いからこそ確認事項も増えます。
古い厨房機器が大量に残っていても、故障している、電気容量が足りない、排気能力が次の業態に合わない、貸主所有やリース品が混ざっている、といった場合には、そのまま造作価値とは評価されません。
飲食店の居抜きでは「何が残っているか」より「次の人がそのまま使えるか」を確認することが重要です。
飲食店を居抜きで退去するときの8つの確認
1.現在の賃貸借契約と原状回復条件
最初に確認するのは、現在の賃貸借契約です。
契約上はスケルトン返しでも、貸主との個別合意によって後継テナントへ居抜きで引き継げることがあります。
反対に、現在の借主と後継者が居抜きに合意していても、貸主が認めなければその状態で返還できるとは限りません。
契約書では、次の項目を確認します。
- 解約予告期間
- 原状回復の範囲
- スケルトン返しの有無
- 造作・設備の撤去条項
- 貸主指定業者の有無
- 後継テナント・賃借権譲渡等に関する条項
居抜きで退去できなかった場合に必要となる通常の原状回復範囲を、先に把握しておくことが大切です。
詳しくは居抜き店舗の原状回復義務も確認してください。
2.貸主・管理会社が居抜き退去を認めるか
飲食店の居抜きは、厨房や排気設備だけの売買ではありません。
後継テナントが同じ物件へ入居することまで含めて成立させる必要があります。
そのため、貸主・管理会社とは早めに、
- 居抜き募集を認めるか
- 残してよい設備は何か
- 撤去が必要な設備は何か
- 後継テナントの業種制限
- 重飲食・軽飲食などの用途制限
- 営業時間や臭気・排気に関する条件
- 後継テナントの審査方法
を確認します。
「次の飲食店が見つかればよい」というだけではなく、貸主がその業態・条件で新たな賃貸借契約を結ぶかが重要です。
貸主との進め方は居抜き退去で貸主の承諾を得る際の確認事項で整理しています。
3.厨房機器・設備の所有者
店内にある厨房機器をすべて造作譲渡できるとは限りません。
飲食店では、自社所有品に加えて、貸主所有設備、リース品、レンタル品、メーカー・仕入先等からの貸与品などが混在していることがあります。
設備ごとに、
- 自社購入品
- 前テナントから取得したもの
- 貸主所有
- リース・レンタル
- 所有者不明
へ分類します。
現在の借主が譲渡する権限を持っていない設備を造作価格に含めると、後で条件を変更することになりかねません。
居抜き設備の所有権の確認方法と居抜き店舗にリース品がある場合の処理もあわせて確認してください。
4.厨房・排気・給排水などの状態
飲食店の造作価値では、厨房機器単体の中古価格だけでなく、店舗全体が次の業態に使えるかが重要になります。
例えば確認したいのは、
- 冷蔵庫・冷凍庫・製氷機等の年式と動作
- 厨房フードの状態
- 排気ダクトの経路・能力
- グリストラップの有無・状態
- 給水・排水能力
- ガス容量
- 電気容量
- 空調能力
- 厨房防水・床の状態
などです。
ラーメン店からラーメン店、居酒屋から居酒屋のように近い業態へ引き継ぐ場合は既存設備を再利用しやすい一方、業態が大きく変われば不要設備の撤去や追加工事が必要になります。
5.造作・設備がいくらで評価されるか
造作譲渡価格は、開業時にかかった内装費をそのまま基準にするものではありません。
買い手から見て、現在の設備をどの程度再利用できるかが重要です。
飲食店では、
- 厨房設備の年式・状態
- 排気・給排水・ガス等のインフラ
- 内装の汎用性
- 席数・厨房レイアウト
- 物件の立地
- 賃料などの賃貸条件
- 後継業態との適合性
- 退去までに残された時間
などが評価へ影響します。
査定については造作譲渡の査定で見られる項目、価格設定については造作譲渡価格の決め方で詳しく整理しています。
6.後継テナントをどう探すか
設備の価値があっても、期限までに次の借り手が見つからなければ居抜き退去は成立しません。
後継者探しでは、単に「飲食店募集」とするのではなく、どの業態なら現在の設備を利用しやすいかを考えます。
例えば、
- 重飲食に対応できるか
- カフェ向け設備なのか
- 居酒屋・焼肉等でも排気能力が足りるか
- ラーメン店向けのガス・排気・給排水があるか
- 席数や厨房面積が候補者の業態に合うか
などです。
募集では、厨房・客席・設備の写真、設備一覧、坪数、賃料、引渡し希望時期、造作譲渡条件などを整理しておくと候補者が判断しやすくなります。
居抜きで後継テナントを探す方法も参照してください。
7.飲食店の営業許可等をどう扱うか
居抜きで厨房や内装を引き継ぐことと、食品衛生上の営業者の地位を引き継ぐことは、同じ問題ではありません。
厨房設備を造作譲渡しただけで、現在の営業許可が当然に次のテナントへ移るとは考えない方が安全です。
一方、食品衛生法では、営業そのものの事業譲渡が行われた場合に、一定の手続によって許可営業者等の地位を承継できる制度があります。
その取引が、単なる内装・設備の造作譲渡なのか、営業自体の事業譲渡に当たるのかで扱いが異なります。
後継者側では、営業開始前に所管の保健所へ相談し、必要な許可・届出・地位承継手続きを確認します。
消防関係についても、後継者の業態や内装工事、設備内容によって必要な届出・確認が変わるため、所轄消防機関への確認が必要になる場合があります。
8.居抜きが成立しない場合の原状回復期限
居抜き退去で最も大きな失敗の一つが、後継者探しを続けすぎて原状回復工事の時間がなくなることです。
候補者が見つかっても、
- 内見
- 条件交渉
- 貸主の審査
- 賃貸条件の調整
- 造作譲渡条件の調整
- 新しい賃貸借契約
などが残っています。
そのため、「候補者がいる=居抜き成立」とは考えません。
退去期限から原状回復工期・検査・是正期間を逆算し、この日までに後継者との条件が固まらなければ通常退去へ切り替えるという期限を設定します。
必要期間については居抜きの後継テナント探しに必要な期間で整理しています。
飲食店の居抜きで評価されやすいもの
飲食店では、設備の中古価格だけでなく、次の開業者が工事を減らせる設備・造作に価値が出やすくなります。
| 設備・造作 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 厨房機器 | 年式、状態、動作、メーカー、型番 |
| 排気ダクト・厨房フード | 経路、能力、次業態への適合性 |
| グリストラップ | 容量、状態、清掃状況 |
| ガス設備 | 容量、配管、次業態で必要な能力 |
| 電気設備 | 契約容量、動力設備、厨房機器との適合 |
| 給排水 | 厨房配置、排水能力、漏水等の有無 |
| 客席内装 | 汎用性、席数、改装せず使えるか |
| カウンター | 業態との適合、劣化状態 |
| 空調 | 所有者、年式、能力、メンテナンス状態 |
特に排気や給排水などは、単体で中古売却しにくくても、物件に残すことで次のテナントの工事費を減らせる場合があります。
反対に評価を下げやすい状態
設備が多ければ高く売れるとは限りません。
例えば、
- 設備が古く動作確認できない
- 故障している
- メンテナンス履歴が分からない
- リース品が自社所有品として混在している
- 特殊すぎる厨房レイアウト
- 臭気・排気問題がある
- 次の業態では設備容量が不足する
- 賃料が高く後継者を探しにくい
- 原状回復期限まで時間がない
といった条件です。
設備の購入価格が高かったとしても、次のテナントに不要なら撤去対象になる場合があります。
飲食店の居抜き退去を進める7ステップ
- 賃貸借契約を確認する
解約予告、原状回復、スケルトン返し、造作撤去条件を確認します。 - 居抜き可能性を貸主・管理会社と確認する
募集条件、業種制限、残せる設備を整理します。 - 設備を一覧化する
厨房機器、排気、空調、什器等を自社所有・貸主所有・リース等に分けます。 - 造作を査定する
設備状態、物件条件、再利用性から現実的な譲渡条件を検討します。 - 後継テナントを募集する
現在の設備を使いやすい業態を中心に候補者を探します。 - 貸主審査・造作譲渡・新賃貸借を調整する
新旧テナント間の造作譲渡だけでなく、貸主との契約成立まで確認します。 - 不成立時は原状回復へ切り替える
契約終了日から工事期間を逆算し、切替期限を守ります。
造作譲渡と厨房機器の単体買取は比較する
すべての設備を後継テナントへ渡すことが最も有利とは限りません。
例えば、高年式で中古需要の高い厨房機器は単体買取の方が値段が付きやすい一方、排気ダクトやカウンターなどは店舗に残した方が居抜き全体の価値を高めることがあります。
反対に後継テナントが不要な設備を残すと、買い手側の撤去負担になるため造作価格を下げる要因になります。
そのため、
- 造作として残すもの
- 厨房機器買取へ回すもの
- 自社で移転先へ持っていくもの
- 返却するリース品
- 撤去・処分するもの
を分けます。
設備単品の売却については設備・什器買取も確認してください。
解約通知を出す前から確認できることがある
居抜き退去を検討している場合、何も確認しないまま先に解約通知を出すと、後継者募集に使える期間が短くなることがあります。
閉店・移転の検討段階で、契約条件、設備、原状回復範囲、居抜きの可能性を整理しておけば、その後の選択肢を比較しやすくなります。
ただし、貸主に無断で正式募集を始めたり、居抜きが確定したように買い手へ案内したりするのは避けます。
居抜き売却をいつから始めるかで、相談・査定・貸主確認・募集を始める順番を整理しています。
業態によって評価ポイントは変わる
同じ飲食店でも、カフェ、居酒屋、ラーメン店では必要な設備が違います。
カフェではエスプレッソマシンやカウンター、電気容量、給排水などが重要になりやすく、居酒屋では厨房設備、排気、席数、カウンター等が評価に影響します。
ラーメン店では、茹麺機、スープレンジ、排気ダクト、ガス容量、給排水などを確認する必要があります。
業態別の記事は以下で詳しく整理しています。
よくある質問
飲食店を居抜きで退去すれば原状回復費はかかりませんか?
必ず0円になるわけではありません。貸主がどの状態での返還を認めるか、撤去が必要な設備があるか、後継テナントが成立するかなどで変わります。居抜きが成立しなければ契約どおりの原状回復が必要になる場合もあります。
厨房機器はすべて造作譲渡できますか?
自社所有の設備だけとは限らないため確認が必要です。貸主所有設備、リース・レンタル品、貸与品などは自社所有品と分けて扱います。
飲食店の造作はいくらくらいで売れますか?
全国一律の金額では決まりません。設備状態、業態、物件条件、賃料、排気・給排水等のインフラ、後継者需要、募集期間などによって変わります。査定額と実際の成約価格も同じとは限りません。
飲食店の居抜き売却は何ヶ月前から始めますか?
必要な期間は物件ごとに異なります。後継者探しだけでなく、貸主審査、造作譲渡条件、新賃貸借契約まで必要なため、退去直前では選択肢が狭くなります。解約予告期間と原状回復工期から逆算します。
次のテナントも飲食店でなければいけませんか?
必ずしもそうではありませんが、現在の設備・内装を利用できる業態の方が居抜きの価値を活かしやすくなります。また、貸主が認める用途・業種であることも必要です。
現在の飲食店営業許可を次のテナントへ渡せますか?
単なる造作譲渡と営業の事業譲渡は分けて考える必要があります。食品衛生法には営業の事業譲渡による営業者地位の承継制度がありますが、取引形態によって必要な手続が異なるため、後継者側で所管保健所へ確認してください。
後継テナントが決まらなかったらどうなりますか?
現在の賃貸借契約で定められた返還条件へ戻ることになります。原状回復・スケルトン工事が必要になる可能性を残し、居抜き募集と並行して工事の準備を進めることが大切です。
営業中でも居抜き売却の相談はできますか?
営業中から相談・査定を受けられるサービスはあります。ただし、従業員や取引先への情報管理、貸主との調整、本格募集を開始する時期は個別に整理します。
飲食店は厨房を壊す前に、居抜きで残せる価値を確認する
飲食店の閉店では、原状回復工事を急いで発注する前に、現在の厨房・排気・給排水・内装を次のテナントが利用できるか確認する価値があります。
一度厨房設備やダクトを撤去してしまえば、その状態で居抜き譲渡することはできません。
一方で、「設備があるから高く売れる」と考えて居抜きだけに時間を使いすぎると、後継者が決まらなかった場合に原状回復が間に合わなくなる可能性があります。
契約確認 → 貸主相談 → 設備所有権整理 → 査定 → 後継者募集 → 貸主審査・契約 → 不成立時の原状回復切替の順で進めると、選択肢を残しながら退去準備を進めやすくなります。
飲食店の居抜き退去について、厨房設備をどこまで残せるか、造作として売却できる範囲、原状回復との比較を整理したい場合は、店舗・オフィスの退去について相談するから相談できます。
