店舗やオフィスの内装解体・原状回復を行うとき、工事規模が小さいからという理由だけでアスベスト(石綿)の確認を省略することはできません。
壁、床、天井など既存の建材を撤去・切断・破砕する工事では、工事を始める前に石綿含有建材が使われていないかを確認する「事前調査」が必要になります。
ここで混同しやすいのが、「石綿の事前調査」と「行政への事前調査結果の報告」は別の手続きだという点です。
小規模な原状回復工事でも事前調査そのものは必要になる一方、行政への電子報告は工事規模や請負金額が一定基準以上の場合に限られます。
店舗・オフィス退去では、原状回復見積を取る段階から石綿調査を工程と費用に組み込み、調査結果によって工事内容が変わる可能性まで見込んでおく必要があります。
内装解体・原状回復でもアスベスト事前調査は必要
厚生労働省は、エアコンの取付、壁紙の張替え、塗装、賃貸物件の原状回復工事などの小規模工事についても、施工業者が石綿使用の有無を事前に調査する必要があると案内しています。
元請事業者は原則として、工事の規模や種類にかかわらず、解体・改修の対象となる箇所の材料について石綿含有の有無を確認します。
そのため、次のような店舗・オフィス工事でも対象になり得ます。
- 間仕切り壁の撤去
- 天井材の撤去
- 床材の撤去
- 壁材・下地材の撤去
- 設備を取り外すための壁・天井の開口
- 原状回復に伴う内装材の切断・破砕
- 空調・電気・給排水等の改修
「建物そのものを取り壊す解体工事ではないから関係ない」とは考えないようにします。
内装解体業者そのものを選定している段階であれば、内装解体業者の選び方もあわせて確認してください。
事前調査と「行政への報告」は分けて考える
石綿関係で特に間違えやすいのが、「80㎡未満だから調査不要」「100万円未満だから調査不要」という理解です。
80㎡や100万円という数字は、主に事前調査結果を行政へ報告する必要があるかを判断する基準です。
| 工事 | 事前調査 | 行政への調査結果報告 |
|---|---|---|
| 建築物の解体工事 | 原則必要 | 解体部分の床面積合計80㎡以上 |
| 建築物の改修工事 | 原則必要 | 請負金額が税込100万円以上 |
| 一定の工作物の解体・改修 | 原則必要 | 請負金額が税込100万円以上 |
したがって、行政への電子報告基準に届かない小規模工事でも、事前調査自体を省略できるとは限りません。
店舗やオフィスで建物全体を取り壊すのではなく、既存の内装や設備を撤去・変更する一般的な原状回復では、建築物の「改修」に該当するかを元請業者が確認する場面が多くなります。
工事区分の判断をテナント側だけで決めず、元請業者に今回の工事がどの報告基準に該当するか確認します。
発注前に確認する8項目
1.今回の工事で何を撤去・加工するのか
石綿事前調査は、建物全体を漠然と調べるものではなく、解体・改修の対象となる材料を確認していきます。
そのため、原状回復範囲が決まっていなければ、どこを調査すべきかも定まりません。
まず次を整理します。
- 撤去する壁・間仕切り
- 撤去する床
- 撤去する天井
- 設備撤去のために開口する部分
- 切断・穴あけ・研磨等を行う部分
- 貸主指定工事と借主側工事の範囲
賃貸借契約上の原状回復範囲と、実際に材料へ手を加える範囲を一致させてから調査を進めます。
退去時の原状回復全体については、店舗閉店時の原状回復も参照してください。
2.事前調査を行う人の資格を確認する
建築物については、2023年10月1日以降に着工する解体・改修工事から、一定の要件を満たす者による事前調査が必要になっています。
店舗・オフィスなど一般的な建築物では、建築物石綿含有建材調査者など、法令上認められた調査者が担当するか確認します。
見積段階では、施工会社へ次の点を聞いておくと整理しやすくなります。
- 誰が石綿事前調査を担当するか
- 調査者の資格
- 自社の調査者か外部調査会社か
- 調査費用は工事見積に含まれるか
- 調査結果報告書を受け取れるか
内装解体業者を選ぶ際も、「アスベスト対応可能」と書かれているかだけではなく、誰が事前調査を行うのかまで確認します。
3.書面調査と目視調査をどう行うか
事前調査では、まず設計図書などを確認する書面調査と、現地で建材を確認する目視調査を行います。
書面調査では、たとえば次のような情報を確認します。
- 設計図書
- 竣工図
- 過去の改修図面
- 過去の石綿調査記録
- 建材の商品名・型番
- 建築物の着工時期
その後、現地で実際に使用されている材料が図面等と一致しているか確認します。
テナント入居後に複数回改装されている店舗では、竣工時の図面だけでは現在の内装材を把握できない場合があります。
過去の内装工事図面や調査報告書を持っている場合は、元請業者へ提供しておくと調査を進めやすくなります。
4.分析調査が必要になる可能性を見込む
書面と目視だけで石綿含有の有無を判断できない材料については、サンプルを採取して分析することがあります。
ただし、すべての建材を必ず分析機関へ送るわけではありません。
法令上必要なのは、対象材料について石綿含有の有無を適切に判断することです。
書面・目視で判断できず、分析も行わない場合には、石綿含有とみなして必要な措置を講じながら工事を行う方法もあります。
そのため、見積時には、
- 分析が必要になった場合の単価
- 何検体を想定しているか
- 分析結果が出るまでの工程
- 追加分析が必要な場合の扱い
を確認しておくと、調査開始後の追加費用を把握しやすくなります。
5.石綿事前調査費用の内訳を確認する
国が全国一律の「石綿調査○円」という料金を設定しているわけではありません。
調査費用は、建物や工事範囲、確認する建材数、図面の有無、分析検体数などで変わります。
厚生労働省が発注者向けに示している費用項目の例には、次のようなものがあります。
- 書面調査
- 現地調査
- 裏面確認調査
- 分析調査
- 総合調査報告書
- 交通費等の諸経費
内装解体見積を見るときは、「石綿調査一式」という金額だけでなく、分析費が含まれているのか、追加検体が発生した場合はいくらになるのかを確認します。
解体見積全体については、店舗の内装解体見積と内装解体見積の内訳も確認してください。
6.行政への事前調査結果報告が必要か確認する
一定規模以上の工事では、元請事業者等が石綿事前調査結果報告システムを使って、労働基準監督署や自治体へ事前調査結果を報告します。
代表的な基準は、
- 建築物解体:解体部分の床面積合計80㎡以上
- 建築物改修:請負金額税込100万円以上
- 一定の工作物の解体・改修:請負金額税込100万円以上
です。
ここで注意したいのは、石綿が見つからなかった場合でも、報告対象規模であれば事前調査結果の報告が必要だということです。
また、報告対象外の小規模工事でも、事前調査結果の記録や現場での掲示など必要な対応があります。
「100万円未満だから石綿対応は何もしない」という見積になっていないか確認します。
7.石綿が見つかった場合の費用と工期を確認する
事前調査の結果、石綿含有建材が見つかった場合は、通常の内装解体と同じ方法で自由に壊せるとは限りません。
石綿の種類や建材、除去方法などに応じ、飛散・ばく露防止措置が必要になります。
石綿含有吹付け材や一定の保温材・耐火被覆材・断熱材などでは、工事開始前に別途届出が必要になる場合があります。
厚生労働省の案内では、対象となる作業では工事開始14日前までの届出が必要となるケースがあります。
そのため、退去期限が決まっている店舗・オフィスでは、
- 石綿含有時の除去見積
- 届出が必要か
- 届出に必要な日数
- 除去工事の日数
- 除去後に通常の解体工事をいつ開始できるか
- 貸主検査までに間に合うか
まで確認します。
石綿調査を原状回復工事直前まで後回しにすると、含有が判明した時点で工期全体を組み直さなければならない可能性があります。
8.発注者側の情報提供・費用・工程も整理する
石綿規制は施工会社だけの問題ではありません。
解体・改修工事の発注者には、施工会社が適切に事前調査や石綿対策を行えるよう配慮することが求められています。
具体的には、保有している設計図書や過去の調査記録等を提供し、事前調査や必要な石綿除去工事の費用・工期について、施工業者が法令を守れないような条件を設定しないことが求められます。
店舗・オフィスでは、建物オーナー、管理会社、テナントのどこが工事を発注するかによって契約関係が異なります。
ここで、法令上の「発注者」と、賃貸借契約上「貸主と借主のどちらが最終的に費用を負担するか」は分けて考える必要があります。
原状回復契約、工事区分、貸主指定工事などを確認し、石綿調査・除去費を誰が負担する契約なのかも整理します。
石綿事前調査はどのような流れで進むのか
店舗・オフィスの内装解体では、概ね次の順番で確認します。
- 原状回復・解体範囲を決める
- 設計図書・過去の調査記録を集める
- 有資格者による書面調査を行う
- 現地で目視調査を行う
- 判断できない建材を分析する、または含有とみなす
- 事前調査結果報告書を作成する
- 対象規模なら行政へ電子報告する
- 石綿含有の場合は必要な作業計画・届出・除去工事へ進む
- 通常の内装解体・原状回復工事へ進む
したがって、正式な解体見積を確定する前に石綿調査が必要になる場合があります。
石綿がない前提の仮見積と、調査後の本見積を分けて提示する施工会社もあります。
2006年以前の建物だけ確認すればよいとは限らない
日本では2006年9月から石綿を含む製品の製造・使用等が原則禁止されています。
そのため、古い建物ほど石綿含有建材が使われている可能性を考える必要があります。
ただし、発注者が「2006年以降だから調査不要」と独自に判断するのではなく、建物の着工時期や使用建材を含め、元請業者が法令に沿って書面・現地確認を行います。
特に、建物そのものが新しくても、中古建材や既存部分との取り合い、工事対象となる設備・材料などを含めて確認が必要になる場合があります。
事前調査結果が「石綿なし」でも終わりではない
石綿がないと判定された場合でも、元請事業者には調査結果の記録・保存や、工事現場での調査結果掲示などの義務があります。
一定規模以上の工事では、石綿がなかった場合も行政への事前調査結果報告が必要です。
発注者側では、少なくとも次の資料を施工会社から確認しておくとよいでしょう。
- 事前調査結果報告書
- 調査者に関する情報
- 分析を行った場合の分析結果
- 行政報告対象の場合の報告状況
- 石綿含有時の工事計画・届出等
石綿調査費を削って原状回復費を下げない
閉店・移転では原状回復費をできるだけ抑えたいという事情があります。
ただし、法令上必要な石綿事前調査を「工事費削減」の対象として省略することはできません。
費用を見直すのであれば、
- 調査対象範囲が工事範囲と合っているか
- 既存の有効な調査資料を活用できないか
- 分析検体数の根拠はあるか
- 調査と解体で重複費用がないか
- 追加分析の条件が明確か
など、必要な法令対応を残したまま見積内容を確認します。
アスベスト事前調査についてよくある質問
小さな店舗の内装解体でも事前調査は必要ですか?
工事規模が小さいことだけを理由に、事前調査そのものが不要になるとは限りません。
解体・改修対象となる材料について、元請業者が法令に沿って調査します。
80㎡や100万円という基準は、主に事前調査結果の行政報告が必要になるかを判断する基準です。
原状回復工事でもアスベスト調査は必要ですか?
必要になる場合があります。
厚生労働省も小規模工事の例として賃貸の原状回復工事を挙げています。
既存材料を撤去・切断・破砕等する場合は、工事対象部分について事前調査を行います。
100万円未満なら調査しなくてもよいですか?
いいえ。
建築物の改修工事で税込100万円以上という基準は、事前調査結果の行政報告基準です。
基準未満でも事前調査自体が必要になることがあります。
誰がアスベスト事前調査をするのですか?
元請事業者が事前調査を実施する責任を負い、建築物については一定の資格を持つ調査者が調査を行います。
外部の専門調査会社へ委託する場合もあります。
分析調査は必ず必要ですか?
必ずすべての材料を分析するわけではありません。
書面・目視で石綿含有の有無を判断できない場合に分析調査を行います。
分析しない場合は石綿含有とみなして必要な措置を取る方法もあります。
石綿が見つからなくても行政へ報告しますか?
報告対象規模の工事であれば、石綿の有無にかかわらず事前調査結果を報告します。
調査費用は貸主と借主のどちらが負担しますか?
法令上の発注者には事前調査に必要な費用を適正に負担するなどの配慮が求められています。
一方、賃貸借契約上、その費用を最終的に貸主と借主のどちらが負担するかは、原状回復条項、特約、工事区分等によって変わります。
法令上の発注者責任と、賃貸借契約上の費用負担を分けて確認してください。
工事直前に調査すればよいですか?
石綿が見つかった場合には工法の変更、追加見積、届出、除去工事などが必要になる可能性があります。
退去期限が決まっている場合は、通常の解体工事より前に調査期間を確保しておく方が安全です。
内装解体では石綿調査を見積・工程の最初に入れる
店舗・オフィスの退去では、内装解体の直前になってからアスベスト事前調査を追加するのではなく、見積取得段階から調査を予定に入れておく方が実務を進めやすくなります。
発注前に確認するのは、
- 解体・改修する範囲
- 調査者の資格
- 書面・目視調査の方法
- 分析調査の条件
- 調査費用の内訳
- 行政報告の要否
- 石綿含有時の除去・届出・工期
- 発注者側の情報提供と費用・工程
です。
これらを確認してから内装解体工事を発注すれば、「工事開始直前に石綿調査が必要と分かった」「追加分析で見積が変わった」「届出のため明渡しに間に合わない」といった問題を減らしやすくなります。
内装解体業者を比較している場合は、内装解体業者の選び方もあわせて確認してください。
原状回復・解体の工事区分を確認したい場合は、B工事で原状回復・解体はどこまでかも参考になります。
