オフィスを移転・縮小・閉鎖するとき、パーテーションやデスク、チェアなどをすべて撤去して原状回復する前に、現在の内装や什器を次のテナントへ引き継ぐ「居抜き退去」を検討できる場合があります。
後継テナントが現在のレイアウトや什器を利用できれば、退去側では原状回復工事や什器処分の範囲を減らせる可能性があります。
ただし、「次の会社がそのまま使いたいと言っているから、内装を残して退去できる」というわけではありません。
現在の賃貸借契約、貸主・管理会社の了承、残す内装や什器の所有権、後継テナントの審査、新しい賃貸借契約、ネットワークやセキュリティ設備の処理などを整理する必要があります。
この記事では、オフィスを居抜きで退去するときに確認したい項目を、通常のオフィス退去との違いも含めて実務順に整理します。
オフィスの居抜き退去とは
オフィスの居抜き退去とは、現在使用している内装・造作・設備・什器等の全部または一部を残し、次のテナントが利用できる状態で引き渡す退去方法です。
例えば、次のようなものが引継ぎ対象になることがあります。
- パーテーション・間仕切り
- 会議室
- フォンブース
- 受付カウンター
- デスク・チェア
- 書庫・収納
- カーペット
- ブラインド
- 照明
- 一部の配線設備
- 造作家具
次の会社がそのまま利用できれば、現在の借主が撤去・廃棄する量を減らせる可能性があります。
ただし、何を残してよいかは現在の借主だけでは決められません。
現在の賃貸借契約上の返還条件と、貸主がどの状態での明渡しを認めるかを確認することが出発点になります。
オフィスの居抜きと通常の退去は何が違う?
| 項目 | 通常退去 | 居抜き退去 |
|---|---|---|
| 内装・造作 | 契約上の返還状態まで撤去・復旧 | 貸主が認めた範囲を残す |
| 什器 | 移転・売却・廃棄 | 後継テナントへ譲渡できる場合がある |
| 後継テナント | 現在の借主が探さない場合も多い | 退去期限までに探す必要がある |
| 原状回復 | 契約に基づき実施 | 貸主との合意で範囲を変更できる場合がある |
| 契約調整 | 現在の賃貸借終了が中心 | 現在の退去、新借主の賃貸借、造作・什器譲渡を連動させる |
居抜きが成立した場合でも、「原状回復義務が法律上なくなる」と考えるのではなく、貸主が現在の借主についてどの状態での返還を認めるのかを明確にします。
オフィスを居抜きで退去するときの8つの確認
1.賃貸借契約の原状回復条件
まず現在の賃貸借契約を確認します。
オフィスでは、入居時の基準階仕様などへ戻すことや、借主が設置した間仕切り・造作・配線等を撤去することが定められている場合があります。
確認したいのは、例えば次の項目です。
- 解約予告期間
- 原状回復範囲
- 借主造作の撤去条件
- 貸主指定業者の有無
- A・B・C工事等の工事区分
- 明渡し時の完成状態
居抜きが成立しなかった場合に通常どこまで工事する必要があるのかを、先に把握しておきます。
原状回復費用についてはオフィスの原状回復費用も確認してください。
2.貸主・管理会社が居抜き退去を認めるか
居抜きで最も先に確認したいのが貸主・管理会社の意向です。
後継テナントを自社で探してよいか、どの内装を残してよいか、新しいテナントに求める条件は何かなどを確認します。
貸主への確認前に後継者と条件を固めすぎると、最終的に物件側の条件と合わず、交渉をやり直すことがあります。
特に確認したいのは、
- 居抜き募集自体を認めるか
- 募集を開始してよい時期
- 残してよい内装・造作
- 什器を残してよいか
- 後継テナントの業種制限
- 入居審査
- 現在の借主の返還条件
です。
詳しくは居抜き退去で貸主へ確認する事項で整理しています。
3.間仕切り・造作の所有関係
オフィスでは、現在設置されているものが「借主が作ったもの」「貸主が元から設置していたもの」「前のテナントから引き継いだもの」に分かれることがあります。
例えば、
- パーテーション
- 会議室の壁
- 受付カウンター
- フォンブース
- 造作棚
- 照明
- ブラインド
などです。
見た目だけで所有者を判断せず、賃貸借契約、工事資料、入居時資料、購入記録などを確認します。
自社所有でないものを造作譲渡の対象へ入れたり、反対に貸主所有物を原状回復で撤去したりしないよう注意します。
居抜き設備の所有権の確認方法も参照してください。
4.デスク・チェアなどの什器をどうするか
オフィスの居抜きでは、内装だけでなく家具・什器も重要です。
例えば、
- デスク
- チェア
- 会議テーブル
- ロッカー
- 書庫
- ソファ
- 受付家具
- フォンブース
などを後継テナントが必要としている場合、そのまま譲渡できることがあります。
一方で、後継者が不要な什器を大量に残すと、相手側から見れば処分負担になります。
そのため、
- 居抜きで残すもの
- 移転先へ持っていくもの
- 中古買取へ出すもの
- 廃棄するもの
を分けます。
オフィス家具の売却についてはオフィス家具の買取も確認してください。
5.リース・レンタル品を譲渡品へ混ぜない
複合機、電話機、通信機器、ウォーターサーバーなどには、リース・レンタル・貸与品が含まれることがあります。
これらは現在の借主が所有していない場合があります。
後継テナントがその設備を使いたい場合でも、新旧テナントだけで「置いていく」と決めず、契約会社へ承継・返却等の手続を確認します。
居抜き退去時のリース品の扱いで詳しく整理しています。
6.ネットワーク・電話・セキュリティを什器と分ける
オフィスでは、机や椅子よりも注意が必要なのがIT・通信設備です。
例えば、
- インターネット回線
- LAN配線
- ルーター・スイッチ
- Wi-Fiアクセスポイント
- 電話・PBX
- 入退室管理システム
- 防犯カメラ
などがあります。
配線や回線設備を残せるかどうかは、設備の所有関係だけでなく、通信会社との契約や貸主・管理会社の返還条件も確認します。
インターネット回線についても、入居時に行った工事内容や管理会社の判断によって、退去時に撤去工事が必要な場合と不要な場合があります。
「次のテナントもインターネットを使うから残してよい」と自己判断せず、管理会社と回線事業者へ確認します。
7.PC・サーバー・記録媒体はデータを切り離して扱う
居抜きで什器を譲渡する場合でも、PC、サーバー、NAS、外付けストレージなどは家具と同じ扱いにしません。
顧客・取引先・従業員などの個人データが保存されている機器を譲渡・廃棄する場合には、必要なデータを移行したうえで適切に消去します。
不要となった個人データや、それを記録した機器・電子媒体を廃棄する場合は、容易に復元できない方法で削除・廃棄することが必要です。
また、紙の契約書、人事資料、顧客資料などをキャビネットごと残さないよう、書類も什器から分離します。
居抜き引渡しでは「残す家具」だけでなく、「絶対に残してはいけない情報」を先に洗い出しておくと安全です。
8.居抜きが成立しなかった場合の切替期限
後継テナントが見つかるまで待ち続けることはできません。
候補企業が見つかった後にも、
- 内見
- 申込
- 貸主審査
- 賃貸条件の調整
- 造作・什器の譲渡条件
- 新しい賃貸借契約
が残ります。
途中で条件が合わず不成立になる可能性もあります。
そのため、現在の契約終了日から通常の原状回復工事、貸主検査、是正期間を逆算し、この日までに後継者との条件が固まらなければ通常退去へ戻すという切替期限を設定します。
居抜きで後継テナントを探す期間も確認してください。
オフィスで引き継ぎやすいもの・分けて考えたいもの
| 分類 | 例 | 確認 |
|---|---|---|
| 内装・造作 | 間仕切り、会議室、受付、フォンブース | 所有者・貸主承諾・返還条件 |
| 家具・什器 | デスク、椅子、書庫、会議テーブル | 所有権・後継者が必要か |
| 設備 | 照明、空調、ブラインド等 | 貸主設備か借主設備か |
| リース等 | 複合機、電話機、各種貸与機器 | 契約会社・返却・承継 |
| 通信 | 回線、LAN、Wi-Fi、PBX | 契約・撤去・設備所有者 |
| 情報機器 | PC、サーバー、NAS、記録媒体 | データ移行・消去・セキュリティ |
造作・什器は一覧にして後継テナントと確認する
居抜きで引き継ぐものは、「オフィス内一式」とだけ決めない方が安全です。
例えば、次のような一覧を作ります。
| 品目 | 所有者 | 数量 | 状態 | 引渡区分 |
|---|---|---|---|---|
| デスク | 自社 | 20台 | 使用中 | 譲渡候補 |
| チェア | 自社 | 20脚 | 一部傷あり | 譲渡候補 |
| 複合機 | リース会社 | 1台 | 使用中 | 契約確認 |
| 会議室間仕切り | 要確認 | 一式 | 使用中 | 貸主確認 |
| PC | 自社 | 複数 | 使用中 | 移転・データ処理 |
対象物を写真と合わせて整理しておけば、引渡し時の「残すと思っていた」「持ち出すと思っていた」という認識違いを減らせます。
造作譲渡契約については造作譲渡契約書の記載事項も参照してください。
セットアップオフィスと居抜きオフィスは同じではない
オフィス物件では、「居抜き」と「セットアップオフィス」が並んで紹介されることがあります。
両者は内装が残っているという点では似ていますが、同じとは限りません。
一般に居抜きでは前テナントが使用していた内装・什器を引き継ぐ形が中心ですが、セットアップオフィスは貸主側が内装や会議室等を整備して貸し出しているケースがあります。
そのため退去時も、
- 何が貸主所有か
- 自社が追加した設備は何か
- 自社追加分をどこまで撤去するか
- 貸主内装をどの状態で返すか
を契約で確認します。
「内装付きだから原状回復不要」と一律には判断しません。
オフィス居抜き退去の進め方
- 現在の契約・返還条件を確認する
居抜き不成立時に必要な原状回復範囲を把握します。 - 貸主・管理会社へ相談する
居抜き募集の可否と残置可能な範囲を確認します。 - 内装・什器・設備を一覧化する
自社所有、貸主所有、リース等へ分類します。 - IT・通信・セキュリティを別工程にする
回線、データ、アカウント、機器の移転・撤去を整理します。 - 後継テナントを募集する
人数、会議室数、席数、レイアウトなど現在のオフィスを利用しやすい企業へ情報を提示します。 - 貸主審査と造作・什器条件を調整する
後継者との譲渡だけでなく、新しい賃貸借成立まで確認します。 - 返還条件を明確にする
何を残した状態で現在の借主の義務が完了するかを書面等で確認します。 - 不成立なら通常の原状回復へ切り替える
退去期限までの工期を確保します。
居抜きが向いているオフィス
例えば、次のようなオフィスは後継テナントが現在の環境を再利用しやすい可能性があります。
- 一般的なデスク配置で利用しやすい
- 会議室数と執務席数のバランスがよい
- 什器の状態が比較的よい
- 特殊すぎない内装・デザイン
- 移転後すぐ利用できる状態
- 貸主が居抜き募集に協力的
- 原状回復工事へ切り替えるまで十分な期間がある
反対に、特殊な専用設備が多い、什器が著しく劣化している、貸主が居抜きを認めない、退去期限直前といった場合は、通常退去と並行して準備する必要があります。
「高く売る」より退去全体の損益を見る
オフィス居抜きでは、什器や造作をいくらで売却できるかだけを追わない方が実務的です。
例えば、造作譲渡価格を高く設定して後継者決定が遅れれば、その間の賃料や、最終的に原状回復へ戻った場合の工事費が発生します。
比較するのは、
- 造作・什器の譲渡額
- 削減できる可能性のある撤去・廃棄費
- 通常必要となる原状回復工事
- 後継者募集に必要な期間
- 解約予告期間中の賃料
- 居抜き不成立時の切替コスト
です。
「造作をできるだけ高く売る」よりも、「退去全体でいくら残るか」を見て条件を決めます。
よくある質問
オフィスは居抜きで退去できますか?
貸主・管理会社が認め、後継テナントとの賃貸借や返還条件が整えば可能な場合があります。現在の借主だけの判断で居抜き状態のまま返還できるとは限りません。
居抜きなら原状回復は不要ですか?
自動的に不要になるわけではありません。現在の賃貸借契約上の返還条件を確認し、貸主との合意で原状回復範囲をどこまで変更するのかを明確にします。
デスクやチェアも後継テナントへ渡せますか?
自社所有で、後継テナントが希望する場合は譲渡候補になります。リース・レンタル品は別途契約を確認します。
パーテーションはそのまま残せますか?
貸主の承諾と所有関係の確認が必要です。また、後継テナントが現在の間仕切りを利用するかどうかも確認します。
ネット回線やLAN配線もそのままでよいですか?
一律には判断できません。回線契約、設備所有者、入居時の工事内容、貸主・管理会社の返還条件を確認します。回線の撤去が必要かどうかは管理会社と通信事業者へ確認してください。
PCやサーバーを次のテナントへ譲渡できますか?
機器の所有権だけでなく、保存されているデータを先に確認します。顧客・従業員等の個人データが含まれる場合、必要なデータを移行し、不要データを適切に消去してから機器の扱いを決めます。
後継テナントが決まれば現在の賃貸借契約をそのまま渡せますか?
典型的な居抜きでは、現在の借主との契約を終了し、後継テナントが貸主と新たな賃貸借契約を締結する形もあります。実際に賃借権自体を譲渡・転貸する場合は別の法的整理が必要になるため、契約方式を貸主・仲介会社と確認します。
居抜き募集は解約通知を出してから始めますか?
募集開始時期は物件・貸主との調整によります。解約通知後では後継者を探せる期間が短くなるケースもあるため、移転方針が固まった段階で契約確認と居抜き可能性の相談を先に進める方法があります。
後継テナントが見つからなかった場合は?
現在の賃貸借契約で定められた通常の返還条件へ戻ることになります。原状回復工事へ切り替えられる期限を事前に設定しておくことが大切です。
オフィスは原状回復を始める前に居抜きの可能性を確認する
オフィス退去では、原状回復工事を発注してパーテーションや什器を撤去した後では、現在の内装をそのまま次のテナントへ引き継ぐことはできません。
移転・縮小・閉鎖が決まった段階で、まず現在の契約上必要な原状回復範囲を確認し、その前に居抜き退去の余地があるかを貸主へ確認します。
そのうえで、間仕切り・什器・設備の所有関係、ネットワーク・セキュリティ・データ処理、後継テナント、新しい賃貸借契約を整理します。
契約確認 → 貸主相談 → 内装・什器・IT整理 → 後継テナント募集 → 貸主審査・譲渡条件調整 → 返還条件確定 → 不成立時の原状回復切替という順番で進めると、不要な撤去を先に行うリスクを抑えやすくなります。
オフィスを居抜きで退去できるか、通常の原状回復とどちらを選ぶべきかを整理したい場合は、店舗・オフィスの退去について相談するから相談できます。
