飲食店を閉店・移転してテナントを返すとき、原状回復は「厨房機器を運び出して内装を解体すれば終わり」とは限りません。
飲食店には、厨房機器のほか、給排水・給湯、ガス、電気、排気フード・ダクト、グリストラップ、厨房土間、防水、空調、消防設備など、建物側と接続した設備が多くあります。
どこまで撤去・復旧する必要があるかは、業態だけでは決まりません。賃貸借契約書、特約、入居時の状態、設備の所有者、工事区分、貸主・管理会社との合意を確認してから工事範囲を決めます。
- 退去時に求められる返還状態
- スケルトン返しか、一定の内装を残せるか
- 厨房機器・設備の所有者
- 給排水・ガス・電気の復旧範囲
- フード・排気ダクトの撤去範囲
- グリストラップ・厨房土間・防水の扱い
- 居抜き・造作譲渡が可能か
- 売却できる厨房機器を先に分けられるか
店舗全般の原状回復について先に確認したい場合は、店舗閉店時の原状回復もあわせて確認してください。
飲食店の原状回復は一般店舗より確認する設備が多い
物販店や一般的な事務所と比べ、飲食店では厨房を中心に建物へ固定・接続された設備が多くなります。
厨房機器を搬出したあとにも、床下・天井内・壁内には給排水管、ガス管、電気配線、排気ダクトなどが残っていることがあります。
また、厨房では水や油を日常的に扱うため、厨房土間、防水層、グリストラップ、排気設備、油汚れや臭気なども原状回復範囲の確認対象になりやすくなります。
そのため、客席から見える内装だけで見積を取るのではなく、厨房区画と建物設備との接続部分まで現地調査する必要があります。
最初に「どの状態へ戻す契約なのか」を確認する
工事会社へ見積を依頼する前に、賃貸借契約書と特約を確認します。
特に見るべきなのは、退去時の返還状態です。
たとえば、スケルトン状態で返す契約なのか、借主が設置した設備・造作だけを撤去すればよいのか、貸主承諾のうえで居抜き退去が可能なのかによって、必要な工事は大きく変わります。
「原状回復」とだけ記載されていて具体的な範囲が分からない場合は、原状回復仕様書、入居時図面・写真、工事区分表なども確認し、不明点を貸主・管理会社へ確認します。
契約書の具体的な確認方法は、原状回復で契約書のどこを見るかで整理しています。
飲食店の原状回復で確認する8項目
1.厨房機器・厨房什器
冷蔵庫、冷凍庫、製氷機、食器洗浄機、ガスレンジ、フライヤー、シンク、作業台などについて、撤去するものと残せるものを確認します。
ここで重要なのは、室内にある設備をすべて自社所有と考えないことです。
前テナントから引き継いだもの、貸主設備、リース・レンタル品などが混在している場合があります。
所有者を確認せずに撤去・廃棄すると問題になるため、設備一覧を作り、所有関係を整理します。
また、買取できる厨房機器を解体工事の中で先に壊してしまう必要はありません。売却可能性があるものは、閉店時の厨房機器買取を先に確認します。
2.給排水・給湯・ガス・電気
厨房機器を外しても、接続していた配管や配線が残ります。
どこまで撤去・閉塞・復旧するかは、契約と物件条件によって異なります。
たとえば給排水管についても、機器との接続部分だけ処理すればよい場合と、借主が増設した配管まで撤去する必要がある場合があります。
ガス・高容量電源などは安全面も関わるため、自己判断で切断・撤去せず、対応可能な施工会社と貸主・管理会社の指示を確認します。
3.排気フード・厨房ダクト
飲食店の原状回復で範囲が分かりにくい設備の一つが、排気設備です。
厨房フードだけを外せばよいのか、店内ダクト、排気ファン、外壁・屋上まで伸びるダクトまで撤去するのかは物件によって異なります。
共用部や建物側設備へ接続している部分を借主の判断だけで撤去してはいけません。
また、外壁や屋上のダクトを撤去する場合は、撤去後の開口部、防水、外装などの復旧まで見積範囲を確認します。
排気系統の詳細は、厨房ダクトの撤去範囲で確認できます。
4.グリストラップ
グリストラップも「必ず撤去」「必ず残置」と一律には決められません。
借主が設置した設備なのか、建物にもともと設置されていたものなのかを確認し、貸主から求められる返還状態を確認します。
撤去する場合だけでなく、清掃して残す場合や、周囲の床・配管を含めて復旧する場合もあるため、見積書ではグリストラップ本体だけを見るのではなく、その周辺工事まで確認します。
5.厨房土間・床・防水
厨房では、排水のために床を上げたり、土間や防水層を設けたりしていることがあります。
スケルトン返しを求められた場合でも、防水層をどこまで撤去するのか、床をどの状態まで戻すのかは契約・貸主指示を確認して決めます。
不要な範囲まで壊すと復旧工事が増える一方、必要な撤去が不足すると完了確認で追加工事になる可能性があります。
厨房区画全体の撤去範囲は、店舗の厨房撤去も参照してください。
6.空調・換気・消防設備
飲食店では厨房排気だけでなく、客席・厨房の空調、給気設備、感知器、スプリンクラー、非常灯などが内装レイアウトに合わせて変更されている場合があります。
これらは建物側設備との関係が強く、貸主指定業者や工事区分が設定されていることもあります。
内装解体会社だけに一括して依頼できると決めず、工事区分表や管理規則を確認します。
7.客席内装・看板・造作
カウンター、客席造作、間仕切り、床、壁、天井、照明、入口サイン、外部看板などについても原状回復範囲を確認します。
飲食店では店舗デザインに合わせた造作が多いため、解体対象が増えやすくなります。
ただし、後継テナントへの造作譲渡が認められる場合には、これらを残せる可能性があります。
8.油汚れ・臭気・清掃
飲食店では、造作物を撤去した後も、油脂汚れや臭気が残ることがあります。
特に厨房周辺、ダクト、壁・天井、床などは、通常の清掃だけで貸主が求める返還状態に達するか確認が必要です。
どこまでの洗浄・脱臭・仕上げ復旧を原状回復に含めるかも、工事仕様と見積に明記しておくと追加工事を減らしやすくなります。
居抜きで入居した飲食店もスケルトン返しが必要?
居抜きで入居したからといって、必ず居抜きのまま退去できるとは限りません。
前テナントの内装や厨房設備を引き継いで入居した場合でも、賃貸借契約上は退去時にスケルトンへ戻す条件になっているケースがあります。
反対に、契約上は原状回復義務があっても、貸主が承諾し、後継テナントへの居抜き・造作譲渡が成立すれば、撤去範囲を変更できることがあります。
重要なのは、「入居したときが居抜きだったか」だけではなく、退去時にどの状態で返す契約になっているかです。
居抜きと原状回復の比較は、居抜き退去と原状回復はどちらを選ぶかも確認してください。
スケルトン返しなら全部壊せばよいわけではない
飲食店でスケルトン返しを求められた場合、内装・厨房設備・造作を大きく撤去することになります。
しかし、建物の構造体、貸主設備、共用設備まで借主の判断で撤去してよいわけではありません。
特に、排気ダクト、空調、消防、給排水などは、専有部から共用部へつながっている場合があります。
スケルトン工事の完成状態については、工事前に貸主・管理会社と図面・現地で確認してください。
飲食店に特化したスケルトン返しの詳細は、飲食店のスケルトン工事で整理しています。
原状回復前に厨房機器の買取・居抜きを確認する
退去が決まったからといって、すぐに厨房機器や内装をすべて解体・廃棄する必要はありません。
まず、貸主へ居抜き退去や造作譲渡が可能か確認します。
居抜きが難しい場合でも、冷蔵庫、製氷機、食器洗浄機、調理機器、作業台などは買取対象になる可能性があります。
先に解体業者へ一括撤去を依頼すると、本来売却できた設備まで処分対象になることがあります。
基本的には、契約確認→居抜き可能性確認→設備所有者確認→買取可能品の選別→必要な撤去・原状回復、という順番で進める方が整理しやすくなります。
飲食店の原状回復費用は何で変わる?
飲食店の原状回復費用を、坪数だけで正確に判断することはできません。
同じ面積でも、厨房設備や造作の量、排気ダクトの経路、グリストラップ、厨房土間・防水、配管・ガス・電気、指定業者、搬出条件などによって工事内容が大きく変わるためです。
特に費用へ影響しやすいのは、次のような条件です。
- スケルトン返しか部分復旧か
- 厨房設備・造作の量
- 排気ダクトの長さ・経路・高所作業
- 給排水・ガス・電気の復旧範囲
- グリストラップ・厨房土間・防水の工事
- 搬出経路・エレベーター・作業時間の制約
- 指定業者・工事区分
- 廃材量や追加調査の有無
店舗原状回復の費用全体は、店舗の原状回復費用で確認してください。
原状回復の見積で確認するポイント
見積を受け取ったら、総額だけで比較するのではなく、工事範囲を確認します。
特に飲食店では、厨房・客席・設備工事が混在するため、「内装解体一式」「厨房撤去一式」のような記載だけでは、何が含まれているのか判断できないことがあります。
次の項目が分かるように確認します。
- 厨房機器・什器の撤去
- 給排水・ガス・電気の切離し・復旧
- フード・排気ダクト
- グリストラップ
- 厨房土間・防水
- 客席内装・看板
- 空調・消防等の設備工事
- 養生・搬出・廃材処理
- 清掃・油汚れ・臭気対応
- 追加工事となる条件
見積書全体の確認方法は、原状回復の見積書の見方も参照してください。
飲食店の原状回復はこの順番で進める
- 賃貸借契約書・特約・返還条件を確認する
- 入居時図面・写真・設備所有者を確認する
- 貸主へ居抜き・造作譲渡の可否を確認する
- 厨房機器などの買取可能品を選別する
- 貸主・管理会社と撤去・残置範囲を確定する
- 厨房・設備・内装を含めた現地調査を行う
- 同じ工事範囲で見積を確認する
- 工事・完了確認・明渡しまでの工程を確定する
飲食店内装を実際に撤去・解体する段階については、飲食店の内装解体へ進んでください。
よくある質問
飲食店の厨房機器は全部撤去する必要がありますか?
一律ではありません。退去時の返還条件、設備所有者、居抜き・造作譲渡の可否によって変わります。撤去前に契約と所有関係を確認してください。
グリストラップは必ず撤去しますか?
必ずとは限りません。借主設置か貸主・建物側設備か、退去時にどの状態へ戻す契約かを確認します。清掃して残す場合と撤去・復旧する場合があります。
厨房ダクトは店内部分だけ撤去すればよいですか?
物件によって異なります。排気ダクトが外壁・屋上・共用部まで続いている場合は、どこまで借主側の撤去対象なのかを貸主・管理会社と確認します。
居抜きで借りた店舗なら居抜きで返せますか?
入居時が居抜きでも、退去時にスケルトン返しを求める契約になっている場合があります。賃貸借契約書と特約を確認してください。
厨房機器を先に売っても大丈夫ですか?
自社所有で、原状回復や後継テナントとの取り決めに支障がない設備であれば売却できる可能性があります。ただし、貸主設備、リース品、造作譲渡対象などを誤って売却しないよう、所有者を確認してから進めます。
原状回復の見積に「一式」が多い場合はどうしますか?
厨房撤去、ダクト、配管、グリストラップ、内装など、何が一式に含まれているかを確認します。数量・範囲・施工内容を分けてもらうと、不要な工事や重複を確認しやすくなります。
飲食店の原状回復は「何を壊すか」より先に返還状態を確定する
飲食店の原状回復では、厨房・ダクト・配管・グリストラップなど工事項目が多いため、解体を始めてから範囲を確認すると追加工事や不要な撤去につながりやすくなります。
先に契約、入居時状態、設備所有者、貸主・管理会社の条件を確認し、居抜きや設備買取の可能性も整理したうえで、必要な撤去・復旧だけを見積へ落とし込みます。
厨房設備や排気系統を含めて原状回復範囲が複雑になっている場合は、工事を発注する前に契約条件と現地の設備をあわせて確認することで、過剰工事や明渡し直前の追加費用を減らしやすくなります。
