小規模オフィスの移転では、「人数が少ないから自分たちだけでできる」「荷物が少ないから引越し業者だけ頼めばよい」と考えがちです。
しかし、実際のオフィス移転では、荷物の搬送だけでなく、新オフィスの契約・内装、家具、電話・インターネット・LAN、OA機器、各種住所変更、旧オフィスの原状回復・明渡しまで複数の作業が同時に動きます。
小規模企業では移転専任担当者を置かず、経営者や総務担当者が通常業務と兼務することも多いため、工事費そのものより「誰が各業者を調整するか」が移転の負担になりやすい点にも注意が必要です。
大切なのは、すべてを一括発注することでも、すべて自社対応することでもありません。
自社で管理できる作業と、専門業者へ任せる作業を先に切り分け、移転日から逆算して進めます。
- 移転希望日と旧オフィスの明渡し日
- 現在の賃貸借契約の解約予告期間
- 新オフィスで必要な内装・電気・空調工事
- 電話・インターネット・LANの移設・新設
- 家具・OA機器を再利用するか買い替えるか
- 不要品を売却・返却・廃棄のどれにするか
- 旧オフィスの原状回復範囲
- 自社対応と外注の分担
オフィス移転全体のタスクを先に確認したい場合は、オフィス・事務所移転でやることのチェックリストもあわせて確認してください。
小規模オフィスとは何人・何坪まで?
「小規模オフィス」に全国共通の人数・面積の定義があるわけではありません。
移転実務では、人数や坪数だけでなく、次のような特徴を持つ案件を小規模移転として考える方が実用的です。
- 移転担当者が1人または少人数
- 総務専任者がおらず、通常業務と移転業務を兼務する
- 家具・OA機器・荷物の量が比較的少ない
- 内装工事の範囲が限定的
- 1フロアまたは小さい区画で完結する
- 大規模な部署別移転や段階移転を必要としない
逆に社員数が少なくても、サーバー設備が多い、特殊な内装がある、複数拠点を統合する、旧オフィスの原状回復が大規模といった場合は、工程としては単純な小規模移転とはいえません。
人数や坪数だけで「簡単な移転」と判断しないことが重要です。
小規模オフィスでも必要な作業は大規模移転と大きく変わらない
小規模オフィスでは各作業の量は少なくなりやすいものの、必要な種類そのものは一般的なオフィス移転と大きく変わりません。
| 分野 | 主な作業 |
|---|---|
| 現オフィス | 解約予告、家具・OA整理、引越し、原状回復、明渡し |
| 新オフィス | 契約、レイアウト、内装・電気・空調、家具設置 |
| IT・通信 | インターネット、電話、LAN、Wi-Fi、複合機等 |
| 引越し | 梱包、搬出入、養生、配置、動作確認 |
| 総務・管理 | 住所変更、取引先案内、各種サービス登録変更 |
「小さいオフィスだから不要」になるというより、それぞれの作業量が小さくなると考えた方がよいでしょう。
まず自社対応と外注を切り分ける
小規模移転では、全部を専門会社へ任せる必要がない場合があります。
一方で、専門知識が必要な作業を社員だけで行うと、結果的に工期の遅れや追加費用につながることがあります。
自社で対応しやすい作業
- 社内の移転条件整理
- 移転対象物の棚卸し
- 社員の私物・書類整理
- 住所変更先の一覧作成
- 家具・OA機器を再利用するかの判断
- 各業者からの見積比較
専門業者へ依頼した方がよい作業
- 大型家具・重量物の搬出入
- 内装・電気・空調工事
- 電話・LAN・ネットワーク工事
- ビル側設備に関係する工事
- 旧オフィスの原状回復
- データを含むOA・IT機器の適切な処理
どこまで社員が対応するかは、「社員が作業できるか」だけでなく、通常業務への影響も含めて考えます。
社員5人で1日作業すれば済むように見えても、その間に本来の営業・顧客対応・制作業務が停止するのであれば、外注費と機会損失を比較した方がよい場合があります。
引越し会社だけに頼めば移転できる?
荷物の搬出・運搬・搬入だけであれば、法人対応の引越し会社で対応できます。
ただし、新オフィスで次の作業が必要なら、引越し会社だけでは完結しない場合があります。
- パーティションや間仕切りの新設
- 床・壁・天井の内装工事
- コンセント・電源の追加
- LAN配線
- 電話設備
- 空調設備
- セキュリティ設備
- 旧オフィスの原状回復
小規模移転ほど「引越し」「内装」「通信」「原状回復」を誰がまとめるのかを最初に決めておくと、日程調整の手間を減らせます。
ワンストップと分離発注はどちらがよい?
小規模オフィスの移転では、複数業務を1社へまとめる方法と、専門業者へ個別発注する方法があります。
| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| ワンストップ | 担当者が少ない、複数業者を調整する時間がない | 各工種の見積内訳・外注範囲を確認する |
| 分離発注 | 自社で工程管理できる、既存の取引業者がいる | 業者間の日程・責任分界を自社で管理する |
ワンストップだから必ず安くなるわけでも、分離発注だから必ず節約できるわけでもありません。
分離発注では中間費用を抑えられる可能性がありますが、業者間調整や工程管理を自社で行う必要があります。
反対に、一括発注では担当工数を減らせる可能性がありますが、見積内容がまとめられすぎると個別費用を比較しにくくなることがあります。
業者比較の具体的な方法は、オフィス移転業者の比較・選び方で確認してください。
小規模オフィス移転の費用は何で決まる?
移転費用は、人数や坪数だけでは決まりません。
主な費用を分解すると、次のようになります。
- 新オフィスの契約時費用
- 内装・設備工事
- 家具・什器
- 電話・インターネット・LAN
- 引越し
- 旧オフィスの原状回復
- 不用品の搬出・処分
- 二重賃料等の重複期間
小規模オフィスでも、新オフィスに大きな内装工事が必要なら費用は増えます。
逆に、既存家具を再利用できる、内装付き物件へ移転する、不要品を売却できるといった条件があれば、新規購入・処分費用を抑えられる可能性があります。
したがって、「小規模なら坪単価○万円」と総額を固定するより、各費目を分けて見積を確認する方が実務的です。
移転費用全体については、オフィス移転費用の内訳と予算の組み方も確認してください。
家具・什器は買い替える前に再利用できるか確認する
小規模移転では、家具の買い替え費用が総額へ与える影響も無視できません。
既存のデスク・チェア・ロッカー・会議テーブルについて、次の4つに分けます。
- 新オフィスでそのまま使う
- レイアウトを変えて再利用する
- 買取へ出す
- 処分する
新オフィスのレイアウトを決める前に家具をすべて買い替えると、既存家具を使える余地を失います。
反対に、旧家具のサイズを前提にレイアウトを決めた結果、動線や席数に無理が出る場合もあります。
新オフィスの寸法と家具サイズを照合してから再利用・売却・処分を判断します。
売却可能性は、オフィス家具の買取で確認できます。
不要品は「捨てる」前に所有者を確認する
家具やOA機器を整理するときは、現在オフィスにあるものをすべて自社所有と考えないことも重要です。
リース品・レンタル品、ビル側の備品、取引先からの貸与品などが混在している場合があります。
所有者を確認したうえで、
- 移転
- 返却
- 買取・リユース
- 廃棄
へ分けます。
オフィス不用品全般の仕分けは、オフィスの不用品を処分する手順で整理しています。
電話・インターネット・LANは引越し直前に考えない
小規模オフィスでは、IT担当者がおらず、移転担当者が電話・インターネット・LANまでまとめて管理するケースがあります。
しかし、移転当日に机とPCが届いても、インターネットや電話が使えなければ業務を開始できません。
新オフィスが決まったら、早めに次の項目を確認します。
- 利用するインターネット回線
- 現在の回線を移転できるか、新規契約になるか
- 電話番号を継続するか
- 電話機・PBX・クラウド電話の扱い
- LAN配線とWi-Fi機器の配置
- 複合機・プリンターのネットワーク接続
- 移転日までに開通確認できるか
回線や建物条件によって必要な手続・工事期間が異なるため、移転直前まで申し込みを後回しにしない方が安全です。
「週末だけで移転」は可能でも、事前準備まで週末だけではない
小規模オフィスでは、金曜日の業務終了後に搬出し、土日に搬入・設置し、月曜日から新オフィスで業務を始める工程が組める場合があります。
ただし、これは引越し作業そのものを週末にまとめるという意味です。
それ以前に、新オフィス側では内装・電気・LAN等を完成させ、家具配置や回線開通を確認しておく必要があります。
旧オフィス側でも、引越し後に原状回復を行う場合は、別途工事期間を確保します。
つまり、「週末2日あれば移転準備のすべてが終わる」という意味ではありません。
移転初日から仕事を始めるための確認項目
小規模企業ほど、移転後の業務停止が売上や顧客対応へ直接影響することがあります。
引越し完了時には、荷物が届いたかだけでなく、次を確認します。
- インターネットにつながる
- 電話の発着信ができる
- PC・モニター・周辺機器が使える
- 複合機・プリンターが使える
- 共有サーバー・クラウド等へアクセスできる
- Wi-Fiが必要エリアで利用できる
- 入退室・セキュリティが動作する
- デスク・チェアが業務可能な状態で配置されている
「荷物の搬入完了」ではなく、「通常業務を再開できる状態」を移転完了の基準にすると抜け漏れを減らせます。
旧オフィスの原状回復を忘れない
新オフィスの準備が忙しいと、旧オフィスの退去対応が後回しになりがちです。
しかし、旧オフィスでは、
- 家具・OA機器の搬出
- 残置物の撤去
- 原状回復工事
- 貸主・管理会社の完了確認
- 必要な是正工事
- 鍵・カードの返却
まで必要になる場合があります。
引越し日と契約終了日が近すぎると、原状回復の時間を確保できません。
新オフィス側と旧オフィス側を同じスケジュール表で管理することが重要です。
原状回復範囲は、オフィス退去の原状回復はどこまで必要かで確認してください。
小規模オフィス移転の進め方
1.移転日・契約期限を確認する
希望移転日だけでなく、現オフィスの解約予告期限・契約終了日・明渡し日を確認します。
2.移転する物と処分する物を棚卸しする
家具、OA機器、書類、備品を確認し、移転・返却・買取・処分へ分類します。
3.新オフィスに必要な工事を洗い出す
内装、電気、空調、パーティション、LAN等について、入居前に終える必要があるものを確認します。
4.自社対応と外注を決める
引越し、内装、IT、原状回復などを誰に依頼するか決め、ワンストップと分離発注を比較します。
5.電話・インターネット等を手配する
移転初日から利用できるよう、工事・開通予定を移転工程へ入れます。
6.新オフィス側を先に業務可能な状態へする
家具搬入前に内装・電気・LAN等を完成させられる工程を組みます。
7.引越しを実施する
搬出・搬入・配置を行い、IT・電話・複合機等の動作確認まで実施します。
8.旧オフィスを原状回復して明け渡す
残置物撤去、原状回復、貸主確認、是正、鍵返却まで終えて退去を完了します。
何ヶ月前から着手するかは、オフィス移転のスケジュールで整理しています。
小規模でも業者を選ぶときは「対応範囲」を確認する
見積金額だけで業者を比較すると、A社は引越しだけ、B社は引越し+LAN、C社は原状回復まで含むといったように条件が異なり、正しく比較できない場合があります。
見積を依頼するときは、少なくとも次を確認します。
- 引越しの搬出・運搬・搬入
- 梱包・開梱の範囲
- 家具の解体・組立
- 不用品の買取・処分
- LAN・電話等の対応
- 内装工事
- 旧オフィス原状回復
- 移転当日の現場管理
同じ作業範囲にそろえて比較することが重要です。
小規模オフィス移転で避けたい進め方
「人数が少ないから」とスケジュールを短くしすぎる
回線工事やビル側工事、原状回復は社員数に関係なく時間が必要になる場合があります。
新オフィスだけ準備して旧オフィスを後回しにする
原状回復・明渡しが遅れると、契約上の追加費用等が問題になる可能性があります。
使える家具まで全部買い替える
新規購入前に再利用可能性を確認すると、不要な支出を減らせる場合があります。
ITを引越し前日に確認する
インターネット・電話等が間に合わなければ、移転後の業務開始に影響します。
社員だけで重量物を運ぶ
事故・破損・建物損傷のリスクがあるため、大型什器や重量機器は搬出条件を確認して専門業者への依頼も検討します。
よくある質問
小規模オフィスは何人くらいまでですか?
全国一律の定義はありません。人数・坪数だけでなく、移転担当者数、荷物量、工事範囲、IT設備、原状回復の複雑さを含めて判断した方が実務的です。
社員数が少なければ自分たちだけで移転できますか?
書類整理や軽量物の梱包など自社対応できる作業はあります。一方、重量家具の搬送、内装・電気、LAN、ビル設備、原状回復などは専門業者が必要になる場合があります。
小規模なら引越し会社だけ頼めば十分ですか?
荷物搬送だけなら対応できますが、新オフィスの内装・LAN・電話工事や旧オフィス原状回復が必要な場合は、別業者またはそれらを含む会社への依頼が必要です。
ワンストップ業者と複数業者への分離発注はどちらが安いですか?
一律ではありません。分離発注は費目を比較しやすい一方、担当者が各業者の日程と責任範囲を管理する必要があります。ワンストップは調整工数を減らせますが、見積内訳・外注範囲を確認して比較してください。
週末だけでオフィス移転できますか?
搬出・搬入を週末に集約できる案件はあります。ただし、新オフィスの内装・電気・LAN・回線開通等を事前に完了させる必要があり、すべての移転準備が2日で完了するという意味ではありません。
小規模オフィスの移転費用はいくらですか?
面積や人数だけでは決まりません。新オフィス契約、内装、家具、IT、引越し、旧オフィス原状回復、不用品処理、二重賃料等を分けて確認します。既存設備をどこまで再利用できるかでも総額は変わります。
古い家具は移転先へ持っていくべきですか?
新オフィスのレイアウトと寸法に合うか、搬送・再組立費、新品購入費、買取額等を比較して判断します。移転前に買取査定を取る方法もあります。
旧オフィスの原状回復は引越し後で大丈夫ですか?
契約終了・明渡しまで十分な工期があるかによります。貸主確認や是正工事まで必要になる可能性があるため、引越し後に着工する場合も契約終了日から逆算して工程を組みます。
小規模オフィス移転は「作業量」より「調整量」を減らす
小規模オフィスは大規模移転に比べて家具や荷物は少ないことが多いものの、内装、IT、引越し、原状回復など、必要な業務の種類は大きく減りません。
そのため、移転を効率よく進めるポイントは、すべてを社員で作業することではなく、自社で判断する部分と、専門業者へ任せる部分を早めに分けることです。
新オフィス側では業務開始日から逆算して内装・ITを完成させ、旧オフィス側では契約終了日から逆算して原状回復・明渡しを進めます。
家具・OA機器についても、すぐに廃棄せず、再利用・返却・買取・処分へ整理します。
移転担当者が通常業務と兼務しており、複数業者の調整や旧オフィス退去まで管理するのが難しい場合は、必要な業務範囲を整理したうえで移転会社や専門業者へ相談すると進めやすくなります。
