大型オフィス移転はどう進める?PM・分割移転・IT切替の実務ポイント

大型オフィスの移転は、単に荷物や社員数が多い引越しではありません。

複数の部署やフロア、場合によっては複数拠点を同時に動かしながら、新オフィスの内装・設備工事、電話・ネットワーク、什器、セキュリティ、旧オフィスの原状回復まで並行して進める必要があります。

一つの工程が遅れると、引越しだけでなく、社員が新オフィスで業務を開始できる日や旧オフィスの明け渡しにも影響します。

そのため大型オフィス移転では、個別の作業を順番に処理するより、移転全体を一つのプロジェクトとして管理することが重要です。

移転全体で必要になる作業を先に確認したい場合は、オフィス移転のやること・チェックリストもあわせて確認してください。

目次

大型オフィス移転は何人・何坪から?

「大型オフィス」に全国共通の人数や坪数の基準があるわけではありません。

実務上は、面積や社員数だけでなく、移転によって発生する調整の複雑さを見た方が適切です。

たとえば、次のような条件が重なるほど、大型移転としてプロジェクト管理する必要性が高くなります。

  • 複数の部署や事業部を移転する
  • 複数フロアを使用する
  • 複数拠点を一つの拠点へ集約する
  • 内装、B工事、引越し、IT、家具など複数業者が関与する
  • 電話やネットワークを止めにくい
  • 一度に全社員を移転できず、複数回に分ける必要がある
  • 社内承認や経営判断を複数回必要とする
  • 旧オフィスの原状回復と新オフィス構築を同時に進める

逆に人数が多くても、同一ビル内で設備をほとんど変更せずに移動する案件などでは、工程が比較的単純な場合もあります。

人数や坪数だけで「大型」と決めるのではなく、関係者数、工事範囲、IT依存度、拠点数、工程の依存関係から判断します。

大型オフィス移転で最初に決める7項目

大型移転では、細かな作業を始める前にプロジェクトの前提を揃えておかないと、後から設計や見積をやり直すことがあります。

1.移転の目的と対象範囲

最初に、「何のために移転するのか」と「どこまでを今回のプロジェクトに含めるのか」を整理します。

本社移転、拠点統合、増床、縮小、働き方の変更では、必要なオフィス面積やレイアウト、IT設備、家具の考え方が変わります。

単に現在のオフィスをそのまま新しい場所へ移すのか、移転を機にフリーアドレス化や会議室構成、入退室管理なども変更するのかを早い段階で決めます。

2.新オフィスの業務開始日

引越し日だけではなく、「社員が通常業務を開始できる日」を基準にします。

家具が搬入されていても、ネットワークや電話、入退室管理、複合機などが使えなければ、オフィスとして稼働できない場合があります。

3.旧オフィスの契約終了日と明け渡し条件

新オフィス側だけを見てスケジュールを組むと、旧オフィスの原状回復や明け渡しに必要な期間が不足することがあります。

賃貸借契約書、解約予告、原状回復範囲、指定業者、明け渡し条件を早い段階で確認します。

全体の日程は、オフィス移転のスケジュールで新旧オフィスを同じタイムラインに載せて管理すると整理しやすくなります。

4.社内の意思決定体制

大型案件では、移転担当者だけでは判断できない項目が増えます。

経営層、総務、情報システム、人事、経理、各事業部などについて、誰が提案し、誰が確認し、誰が最終決定するのかを明確にします。

意思決定者が曖昧なまま設計を進めると、レイアウトや仕様が確定した後に変更が入り、工程や費用に影響することがあります。

5.一斉移転か分割移転か

全社員を一度に移すのか、部署や拠点ごとに複数回へ分けるのかを決めます。

分割移転には業務影響を分散しやすい利点がありますが、旧オフィスと新オフィスを並行使用する期間が長くなったり、ネットワークや座席を一時的に二重で用意したりする必要が生じることもあります。

6.IT・通信の切替方針

ネットワーク、電話、Wi-Fi、VPN、複合機、会議室設備、入退室管理などについて、既存設備を移設するのか、新設するのかを整理します。

物理的な引越しとIT切替を別々の工程として扱わず、業務開始日から逆算して管理します。

7.予算と承認方法

大型移転では、引越し費だけを予算として見ると不足しやすくなります。

新オフィスの内装・設備、B工事、家具、IT、引越し、旧オフィスの原状回復、不要品撤去などを含めた全体予算を管理します。

費用項目の整理は、オフィス移転費用の内訳で確認できます。

大型オフィス移転はPM・PMOで全工程をつなぐ

大型案件では、内装会社、引越し会社、通信会社、家具会社、ビル管理会社、原状回復会社など、複数の関係者が同時に動きます。

それぞれの会社が自社の担当範囲だけを予定どおり進めても、全体が予定どおり完成するとは限りません。

そこで必要になるのが、プロジェクト全体を横断して管理するPM(プロジェクトマネジメント)です。

PMまたはPMOでは、主に次の項目を統合して管理します。

  • 全体工程
  • 予算
  • 設計・仕様変更
  • 社内意思決定
  • ビル側との調整
  • 各工事会社・ベンダー間の工程
  • リスクや未決事項
  • 移転当日の運営
  • 移転後の不具合対応

社内に大型移転の経験者がいて、各ベンダーを統括できる場合は、必ずしも外部PMを入れる必要はありません。

一方、担当者が通常業務と兼務している、複数拠点を統合する、工事会社が多い、IT切替が複雑といった案件では、PM業務を誰が担うのかを早めに決めておく方が管理しやすくなります。

移転会社へまとめて依頼する場合と専門業者へ分離発注する場合の違いは、オフィス移転業者の比較・選び方も参考にしてください。

一斉移転と分割移転はどちらを選ぶ?

比較項目 一斉移転 分割移転
移転回数 少ない 複数回になる
業務への影響 影響が一度に集中しやすい 部署単位などへ分散しやすい
工程管理 移転当日の負荷が大きい 長期間の工程管理が必要になりやすい
IT切替 大規模な一斉切替になる場合がある 部署や拠点単位で段階的に切り替えやすい
旧・新オフィス並行利用 比較的短くできる場合がある 並行期間が長くなる場合がある
適しやすい案件 停止可能な時間帯を確保でき、切替条件が比較的単純な案件 業務を継続しながら多数部署を移す案件

分割移転だから業務停止を必ず防げるわけではありません。

部署間で共通利用しているシステムやサーバー、電話、会議室設備などがある場合、部署だけを分けても共通インフラの切替時に影響が出ることがあります。

一斉移転か分割移転かは、社員数よりも、業務を停止できる時間、部署間の依存関係、IT構成、新旧オフィスを並行利用できる期間から判断します。

部署別の移転計画を作る

大型オフィス移転では、「会社全体で何台の机を運ぶか」だけでは管理しきれません。

部署ごとに、社員、什器、書類、OA機器、特殊機器、移転日、新しい座席、責任者を紐づけます。

特に分割移転では、各部署について次の状態が分かるようにしておくと管理しやすくなります。

  • 移転対象者
  • 移転日
  • 旧座席と新座席
  • 移動する什器・機器
  • 廃棄または買取へ回す物
  • IT切替対象
  • 業務停止可能時間
  • 移転後の確認責任者

同じ机やキャビネットでも、移設、再利用、売却、廃棄の判断が混在します。

移転当日に判断するのではなく、資産台帳や移転リストで事前に区分します。

電話・インターネット・社内ネットワークは早めに別工程化する

大型オフィス移転で特に注意したいのがIT・通信です。

新オフィスへ荷物が届いても、インターネット、社内ネットワーク、電話、認証、会議室設備などが使えなければ業務開始に影響します。

ITについては、少なくとも次の項目を早期に棚卸しします。

  • 現在使用している回線・契約
  • 新オフィスで必要な回線
  • LAN・Wi-Fi構成
  • 電話・PBX・クラウド電話
  • VPNや社内システムへの接続
  • 複合機・プリンター
  • 会議室AV・Web会議設備
  • 入退室管理などのセキュリティ設備
  • 既存機器を移設するか新規調達するか

回線工事は建物側の設備や通信事業者との調整が必要になる場合があるため、引越し直前の手配にしない方が安全です。

また、本番切替だけでなく、切替前のテスト、切替後の確認、問題が発生した場合の対応方法まで決めておきます。

内装・B工事・IT・家具の依存関係を工程表にする

大型案件では、それぞれの工事を独立した予定として管理すると、作業順序の衝突が起きやすくなります。

たとえば、床下配線が終わらなければ家具を固定できない、家具の位置が決まらなければLANや電源位置を確定できない、といった依存関係があります。

工程表では単に「○月に工事」と書くのではなく、前工程が終わらなければ開始できない作業を明確にします。

B工事がある物件では、工事区分、指定業者、見積、承認、発注、施工時期も確認します。詳しくはオフィスのB工事を確認してください。

旧オフィスの原状回復を後回しにしない

移転担当者の意識は新オフィスへ向きやすい一方、旧オフィスでは契約終了日までに明け渡しを完了させる必要があります。

新オフィスへの引越し後に原状回復を行う場合でも、見積取得や工事範囲の確認まで引越し後に回すのは避けた方がよいでしょう。

早めに確認したいのは次の項目です。

  • 契約上の返還状態
  • 原状回復の対象範囲
  • 指定業者の有無
  • 工事可能期間
  • 貸主・管理会社による完了確認
  • 是正工事のために確保できる期間
  • 鍵返却や最終明け渡しの条件

原状回復の範囲は契約、特約、物件、入居時の状態などによって変わります。事業用オフィスでは、住宅向けの原状回復ルールだけで判断しないことが重要です。

詳しくはオフィス退去の原状回復を確認してください。

什器やOA機器は「捨てる前」に出口を分ける

大型移転では、デスク、チェア、キャビネット、複合機、モニターなどの数量も多くなります。

不要になったからといって、最初からすべて廃棄に回す必要はありません。

まず所有関係を確認し、次の順序で整理します。

  1. 新オフィスで再利用する物
  2. リース・レンタル会社へ返却する物
  3. 買取・再利用できる物
  4. 廃棄が必要な物

特に大量のオフィス家具は、搬出方法やエレベーター利用、車両台数にも影響するため、引越し会社だけでなく旧オフィスの撤去工程とも連動させます。

売却できる家具についてはオフィス家具の買取、処分が必要な物についてはオフィス不用品の処分も確認してください。

大型オフィス移転の費用は引越し代だけで比較しない

大型案件では、引越し会社の見積金額だけを比べても、プロジェクト全体の費用は判断できません。

主な費用は、新オフィスと旧オフィスの両方に発生します。

  • 新オフィスの内装・設備工事
  • B工事
  • 家具・什器
  • IT・通信設備
  • 引越し
  • PM・設計・監理
  • 旧オフィスの原状回復
  • 什器・OA・残置物の撤去
  • 必要に応じた新旧オフィスの重複利用費用

見積比較では、総額だけでなく「どこまで含まれているか」を揃えることが重要です。

一社はITや原状回復を含み、別の会社は引越しだけという状態では、金額だけを横並びにしても正確な比較になりません。

ワンストップと分離発注は大型案件ほど責任分界を見る

大型オフィス移転では、一社が全体を取りまとめる方法と、内装・引越し・ITなどを専門会社へ分けて発注する方法があります。

ワンストップ型は窓口を減らしやすい一方、実際の施工を協力会社へ再委託する範囲や、各専門分野の責任者を確認しておく必要があります。

分離発注では専門会社を選びやすい一方、会社間の工程調整や責任分界を自社またはPMが管理する必要があります。

また、B工事や原状回復については、テナントが自由に業者を選べない物件もあります。

「全部まとめて対応できる」という説明だけで決めず、誰が何を発注し、誰が工程と品質を管理するのかまで確認します。

移転当日前に確認したいこと

大型案件では、移転当日に初めて問題が見つかると影響範囲も大きくなります。

可能な範囲で、事前に次の確認を済ませます。

  • 新オフィスの工事完了状況
  • 家具・什器の配置
  • 電源・LAN・Wi-Fi
  • 電話・会議室設備
  • 入退室管理
  • 搬入経路・エレベーター・車両計画
  • 部署別の搬入順序
  • 社員への座席・出社案内
  • 移転後の問い合わせ窓口

特に分割移転では、第1回の移転で発生した問題を次の部署の工程へ反映できる運営にしておくと、同じトラブルの繰り返しを減らせます。

大型オフィス移転で起こりやすい進行上の問題

意思決定が遅れ、後工程がまとめて遅れる

レイアウト、家具、IT仕様などの決定が遅れると、それに依存する見積、発注、工事も遅れます。

「いつまでに誰が決めるか」を工程表へ入れておくことが重要です。

ベンダーごとの工程表がつながっていない

内装会社、家具会社、IT会社、引越し会社がそれぞれ工程表を持っていても、全体を統合する担当者がいなければ工程の抜けが生じます。

全社共通のマスタースケジュールを作り、各社の工程をそこへ統合します。

新オフィスだけが完成し、旧オフィスの退去が遅れる

移転日をゴールにすると、旧オフィスの撤去、原状回復、検査、是正、鍵返却が残ります。

プロジェクトの終了日は、社員が移転した日ではなく、旧オフィスの明け渡しまで含めて設定します。

ITの動作確認が移転当日になる

大型案件では、ネットワークや認証に問題があると多くの社員へ同時に影響します。

設備が完成した段階で確認できる項目は事前にテストし、本番切替後の確認手順と連絡先も用意しておきます。

大型オフィス移転のFAQ

大型オフィス移転は何ヶ月前から始めればよいですか?

一律の期間では決められません。

物件選定、現契約の解約予告、新オフィスの設計・工事、B工事、IT回線、家具調達、社内承認、旧オフィスの原状回復などによって必要期間が変わります。

大型案件では1年以上の工程になる場合もあるため、「○ヶ月あれば間に合う」と決めるのではなく、もっとも時間のかかる工程から逆算します。

大規模移転ではPM会社へ依頼した方がよいですか?

社内に移転経験者がおり、工程・予算・ベンダー・社内意思決定を管理できる場合は、自社でPM機能を持つ方法もあります。

関係者が多い、担当者が通常業務と兼務している、複数拠点統合や大規模なIT切替を伴う場合は、外部PMを含めて管理体制を比較するとよいでしょう。

分割移転なら業務を止めずに移転できますか?

業務への影響を分散しやすくなりますが、必ず無停止になるわけではありません。

共通ネットワーク、電話、サーバー、認証などの切替条件によっては、全社へ影響する作業が残る場合があります。

大型オフィスでも週末だけで移転できますか?

物量、部署数、搬入条件、ビルの作業可能時間、IT切替、家具施工などによって異なります。

引越し作業自体を週末に行えても、前後に内装工事やIT設定、確認作業が必要になる場合があります。

大型移転の業者は一社にまとめた方が安くなりますか?

一社にまとめることで社内の調整工数を減らせる場合はありますが、必ず総額が安くなるとは限りません。

管理費、再委託範囲、専門性、見積範囲を確認し、分離発注した場合の社内管理コストも含めて比較します。

大型オフィス移転は「誰が全体を管理するか」を先に決める

大型オフィス移転では、引越し会社を決めることより先に、プロジェクト全体を誰が管理するのかを明確にすることが重要です。

新オフィスの内装、B工事、家具、IT、引越しと、旧オフィスの撤去・原状回復は互いに影響します。

個別に発注する場合でも、一社へまとめる場合でも、工程、予算、意思決定、責任分界を一つのマスタースケジュールで管理してください。

特に、複数部署・複数拠点を動かす移転では、分割移転の設計、IT切替、旧オフィスの明け渡しまで含めて比較したうえで業者を選ぶ必要があります。

大型オフィスの移転・退去について、内装、B工事、原状回復、什器・OA、ITなど複数の論点をまとめて整理したい場合は、お問い合わせから相談できます。

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