オフィス移転の予算を考えるとき、「引越し業者にいくら払うか」だけを計算しても、実際に必要な金額は分かりません。
オフィス移転では、新しいオフィスの契約・内装工事だけでなく、現在のオフィスの原状回復、不要什器の処分、IT・通信工事、新旧オフィスの賃料が重なる期間など、複数の支出が同時に発生します。
さらに注意したいのが敷金・保証金です。
敷金は将来返還される可能性があるため、最終的な「費用」とは性質が違います。しかし移転時には、新オフィスの敷金を支払った後、旧オフィスの敷金がまだ返っていないという状態が起こります。
オフィス移転では「最終的にいくら使うか」と「移転時点でいくら現金を用意する必要があるか」を分けて考えることが重要です。
この記事では、オフィス移転で発生する8つの費用と、予算を作るときの考え方を整理します。
オフィス退去・移転全体の進め方については、オフィス退去・移転ガイドをご覧ください。
オフィス移転費用は3つの財布に分けると分かりやすい
移転費用は、大きく次の3つに分けます。
1.旧オフィスから出るための費用
- 原状回復
- 解約予告期間中の賃料
- 不要什器・OA機器の撤去
- 廃棄・買取
- 違約金がある場合の支払い
2.新オフィスへ入るための費用
- 敷金・保証金
- 前家賃・共益費
- 仲介手数料など契約関連費
- 内装工事
- B工事
- 家具・什器
- IT・電話・ネットワーク
3.実際に会社を移すための費用
- 引越し
- 梱包
- 什器搬出・搬入
- サーバー・OA機器移設
- PM・移転管理
- 各種届出・表示変更
この3つを別々に積算し、最後に合算すると見落としを減らせます。
オフィス移転で確認する8つのコスト
- 旧オフィスの原状回復費
- 解約予告期間・二重賃料
- 新オフィスの敷金・契約関連費
- 新オフィスの内装・B工事
- 家具・什器・OA機器
- 電話・ネットワーク・IT・セキュリティ
- 引越し・不要品撤去・買取
- PM・各種手続き・その他費用
1.旧オフィスの原状回復費
現在のオフィスを賃借している場合、退去時に原状回復が必要になります。
原状回復には、例えば、
- 間仕切り撤去
- 床・壁・天井の復旧
- 電気設備の復旧
- 空調設備の復旧
- LAN・電話配線撤去
- サイン撤去
- クリーニング
などが含まれます。
費用は、面積だけでなく、ビルグレード、工事区分、指定業者の有無、夜間工事、現在のレイアウトなどで大きく変わります。
移転予算では早い段階から原状回復見積を取る
新オフィスの内装費だけ見積を取り、旧オフィスの原状回復を後回しにすると、移転直前に予算が大きく増える可能性があります。
移転候補物件を検討する段階から、現在のオフィスについても原状回復条件を確認します。
詳しくは、オフィスの原状回復費用はいくら?をご覧ください。
指定業者の場合は早めに見積を確認する
オフィスの原状回復では、貸主指定業者による施工が必要な場合があります。
その場合、借主が自由に工事会社を選べないことがあります。
指定業者かどうか、見積がいつ出るか、工事期間がどの程度かを早い段階で確認します。
指定業者については、オフィス原状回復の指定業者とは?で整理しています。
2.解約予告期間・二重賃料
オフィス移転では、新旧両方の賃料を支払う期間が発生することがあります。
例えば、
- 新オフィスの内装工事
- 家具搬入
- ネットワーク工事
- 引越し
を行っている間も、旧オフィスの契約が続いているケースです。
この重複期間の賃料も移転予算へ入れます。
二重賃料を「無駄」とだけ考えない
新オフィスの契約開始日と旧オフィスの終了日を完全に一致させれば、賃料だけを見ると効率的です。
しかし、
- 新オフィスの内装が間に合わない
- ネット回線が開通しない
- 引越し後に旧オフィス原状回復の時間がない
となれば、業務停止や明渡し遅延につながります。
必要な移行期間を確保したうえで、重複期間を短くします。
解約時期と二重賃料については、オフィスの解約予告は何か月前?をご覧ください。
3.新オフィスの敷金・保証金・契約関連費
新しいオフィスを借りるときには、工事費とは別に不動産契約に伴う資金が必要です。
例えば、
- 敷金・保証金
- 前家賃
- 共益費
- 礼金がある場合の支払い
- 仲介手数料
- 保証会社利用料
- 保険
などです。
敷金・保証金は「費用」と「必要資金」を分ける
敷金・保証金は、契約終了時に全部または一部が返還される可能性があります。
そのため、移転プロジェクトの損益を考えるときに、全額を消費する費用として扱うのは適切ではない場合があります。
一方、契約時には実際に現金を支払います。
したがって、
- 最終的に消えるコスト
- 一時的に拘束される資金
を分けて管理します。
旧オフィスの敷金返還をすぐ当て込まない
特に注意したいのが資金のタイミングです。
旧オフィスの敷金・保証金は、
- 原状回復
- 未払賃料
- その他精算
を行った後に返還される場合があります。
新オフィス契約時には、旧オフィスの敷金がまだ返っていない可能性があります。
新オフィスの敷金を「旧オフィスから返ってくる敷金で払う」と最初から相殺して予算を作らない方が安全です。
4.新オフィスの内装・B工事
新オフィスを業務で使える状態にするためには、内装・設備工事が必要になる場合があります。
例えば、
- 間仕切り
- 床
- 壁・天井
- 会議室
- 受付
- 電気
- 照明
- 空調
- 防災
- セキュリティ
などです。
内装費は仕様による差が大きい
同じ50坪でも、
- 既存内装をほぼそのまま使う
- 会議室だけ追加する
- 内装を全面的に作り直す
では費用が大きく異なります。
そのため、「坪単価×面積」だけで最終予算を決めず、レイアウトと必要設備を確定して見積を取ります。
B工事を別枠で見る
ビルによっては、空調・防災・電気幹線などを貸主指定業者が施工するB工事があります。
内装会社の見積にすべて含まれていると思っていたのに、後からB工事見積が別で届き、予算が大きく増えるケースがあります。
物件検討時に工事区分表を確認し、
- A工事
- B工事
- C工事
のどこに費用が発生するか確認します。
B工事については、B工事ガイドをご覧ください。
5.家具・什器・OA機器
移転時には、デスク・チェア・収納・会議室家具などを新しく購入する場合があります。
例えば、
- デスク
- チェア
- キャビネット
- 会議テーブル
- 受付家具
- ロッカー
- モニター
- 複合機
です。
全部買い替える前に3分類する
既存什器を、
- 新オフィスへ持っていく
- 売却する
- 処分する
に分けます。
既存家具を再利用できれば新規購入費を抑えられます。
一方、大量の既存家具を運ぶために搬出・運搬・再設置費が高くなる場合もあります。
「持っていけば無料」ではないため、購入費と移設費を比較します。
不要什器は処分前に買取査定する
オフィス家具・OA機器の中には、中古買取できる物があります。
原状回復会社や引越し会社へ一括処分を依頼する前に、売却可能な物を分けます。
設備・什器売却については、設備・什器買取ガイドをご覧ください。
6.電話・ネットワーク・IT・セキュリティ
オフィス移転で見落としやすいのがIT関連費です。
例えば、
- インターネット回線
- LAN配線
- Wi-Fi
- 電話
- サーバー
- UPS
- 複合機
- 入退室管理
- 監視カメラ
などがあります。
工事費だけでなく移行作業も予算化する
ネットワーク機器を新しくする費用だけでなく、
- 旧オフィス機器停止
- 新オフィス設置
- データ移行
- 動作確認
- 移転当日の立会い
などに費用がかかる場合があります。
ITは「費用」よりスケジュールが問題になることもある
回線工事が遅れると、オフィスが完成していても業務を開始できない可能性があります。
結果として旧オフィスを長く借りる必要が出れば、IT工事そのものより二重賃料の方が大きくなる場合もあります。
移転日から逆算して早めに手配します。
7.引越し・不要品撤去・買取
実際のオフィス移転作業には、
- 梱包
- 搬出
- 運搬
- 搬入
- 家具設置
- PC移動
- 大型機器搬送
などがあります。
費用は社員数だけでなく、荷物量、移転距離、エレベーター、搬入時間、休日・夜間作業などによって変わります。
「1人あたり○万円」は初期概算にだけ使う
移転初期に大まかな予算を作るため、人数単価を使う方法はあります。
しかし、実際の発注額は、
- 家具をどれだけ持っていくか
- 書類量
- 大型OA機器
- 搬出経路
- 移転距離
で変わります。
最終予算では実際の物量を確認して見積を取得します。
8.PM・各種手続き・その他費用
一定規模以上の移転では、プロジェクト管理費が発生する場合があります。
例えば、
- 移転PM
- 設計管理
- 施工会社管理
- 工程管理
- B工事調整
- 引越し調整
などです。
ワンストップの移転会社へ依頼する場合は、これらが管理費として見積へ含まれていることがあります。
移転業者の比較については、オフィス移転業者はどう比較する?をご覧ください。
そのほかに発生する可能性がある費用
- 登記変更
- 名刺・封筒等の住所変更
- 看板・サイン
- 郵便物転送
- 清掃契約切替
- セキュリティ契約切替
- 倉庫・一時保管
- 社員向け案内
一つひとつは小さくても、まとめると無視できない金額になる場合があります。
オフィス移転では「費用総額」と「必要資金」を分ける
移転予算では、次の2種類の数字を作ります。
移転コスト
最終的に会社が負担する費用です。
例えば、
- 原状回復
- 内装
- 家具
- IT
- 引越し
- 仲介手数料
- 二重賃料
などです。
移転時必要資金
移転を実行するため、一時的に用意する必要がある現金です。
ここには、最終的に返還される可能性がある敷金・保証金も含めます。
必要資金の考え方
概算では、次のように考えます。
移転時必要資金 = 旧オフィス退去費 + 新オフィス契約時支払 + 内装・設備・什器 + IT + 引越し + 二重賃料 + 予備費
旧オフィスから返還予定の敷金は、返還時期が確定していない段階では、いったん別枠で考えます。
50坪オフィスの予算を作る例
以下は相場ではなく、予算の作り方を示すための仮の数字です。
例えば、50坪のオフィス移転について社内で次のように仮置きしたとします。
- 旧オフィス原状回復:400万円
- 二重賃料:200万円
- 新オフィス敷金等:700万円
- 内装・B工事:1,000万円
- 家具・什器:300万円
- IT・通信:200万円
- 引越し・撤去:100万円
- PM・諸費用・予備費:120万円
この場合、移転時に必要となる資金は、
合計3,020万円
です。
ただし、このうち700万円がすべて敷金で将来返還される契約なら、「3,020万円を完全に消費する」という意味ではありません。
このように、必要資金と実質コストを分けます。
坪単価・1人あたり単価はどこまで使える?
オフィス移転費を検索すると、
- 1坪あたり○万円
- 1人あたり○万円
という目安が見つかります。
初期段階の概算には便利ですが、最終予算には向きません。
坪単価が向いている費用
- 内装工事
- 原状回復
など、面積との関係が比較的大きい費用です。
人数単価が向いている費用
- デスク・チェア
- 引越し物量
などです。
坪数・人数だけでは読めない費用
- 敷金
- B工事
- ネットワーク
- サーバー
- 二重賃料
- 違約金
などがあります。
予算は3段階で精度を上げる
第1段階:移転検討時
坪数・人数・現在賃料などから概算予算を作ります。
第2段階:移転先候補決定時
候補物件ごとに、
- 敷金
- 賃料
- 工事区分
- 内装
- B工事
を確認します。
第3段階:契約前
原状回復、新オフィス工事、IT、引越しなど主要見積を取得し、実行予算へ更新します。
オフィス移転費用を抑える順番
小さな項目を値切る前に、大きな費用から見直します。
1.必要面積を見直す
必要面積が小さくなれば、
- 賃料
- 敷金
- 内装
- 家具
など複数の費用へ影響します。
2.既存内装を活用する
セットアップオフィスや居抜きオフィスなど、既存内装・什器を活用できる物件なら、新規工事を減らせる場合があり
