店舗やオフィスを退去するときは、契約書や原状回復の見積書だけでなく、物件の状態を写真で残しておくと後から確認しやすくなります。
特に、傷や汚れがいつからあったのか、どこまで工事したのか、明け渡し時にどの状態だったのかは、退去後になると現地で再確認できません。
ただし、傷のアップ写真を何枚か撮るだけでは、「どの部屋の、どの壁の、どの位置なのか」が分からなくなることがあります。
退去時の写真は、全景から位置を特定できる状態で撮り、工事前後・立会い時の記録や契約書と紐づけて残すことが重要です。
退去写真は法的な必須手続きではないが残しておく価値がある
店舗・オフィスの退去時に写真撮影そのものを義務付ける一般的なルールがあるわけではありません。
一方、原状回復や追加請求について後から確認する場合、写真があれば「その時点で物件がどの状態だったか」を確認する資料になります。
ただし、写真だけで誰の負担かが自動的に決まるわけではありません。
実際の原状回復範囲は、
- 賃貸借契約書
- 原状回復特約
- 入居時の状態
- 工事区分
- 貸主・管理会社との合意
などを合わせて確認します。
退去時の写真は5段階で残すと整理しやすい
退去写真は、最後の日にまとめて撮るより、工程ごとに記録した方が状態の変化を追いやすくなります。
| 撮影時期 | 主に記録すること |
|---|---|
| 退去準備前 | 営業・使用中の状態、既存傷、設備 |
| 什器・設備搬出後 | 床・壁・天井、隠れていた傷 |
| 原状回復工事前・工事中 | 撤去前設備、隠蔽部分、追加工事箇所 |
| 工事完了後 | 原状回復後の全体状態 |
| 立会い・明け渡し直前 | 最終状態、指摘箇所、残置物の有無 |
1.退去準備を始める前の状態を撮る
最初に、什器や商品をまだ動かしていない状態で店舗・オフィス全体を撮影します。
この段階では、
- 室内全景
- 床
- 壁
- 天井
- 入口
- バックヤード
- 厨房
- トイレ
- 設備
などを広く残します。
入居時から存在していた傷や汚れが分かる資料があれば、それと比較できるように撮影します。
2.什器を搬出した後にもう一度撮る
什器・棚・デスク・厨房機器などを撤去すると、今まで見えなかった場所が出てきます。
たとえば、
- 棚の裏の壁
- 什器下の床
- 冷蔵庫裏
- デスク下のOAフロア
- パーティション固定跡
などです。
工事を始める前にこの状態を撮っておくと、「工事前から存在していた状態」と「工事中に変わった状態」を区別しやすくなります。
3.原状回復工事前の写真を残す
原状回復工事を始める直前の状態は特に重要です。
工事を始めると、既存の状態が失われるからです。
施工会社にも、着工前の写真を残してもらえるか確認してください。
追加工事が発生した場合は、その原因となった箇所を工事前に撮影してもらうと確認しやすくなります。
4.工事中に見えなくなる部分も撮る
工事途中でしか確認できない場所があります。
たとえば、
- 天井裏
- 床下
- 壁内部
- 撤去前の配管
- 電気配線
- アンカー跡
- 漏水・腐食箇所
などです。
工事後に壁や床で隠れてしまう箇所について追加費用が発生するなら、施工会社から写真を共有してもらう方法があります。
5.原状回復工事完了後を撮影する
工事完了後は、施工会社だけに任せず、借主側でも最終状態を記録します。
特に、
- 床
- 壁
- 天井
- 扉
- 窓まわり
- 設備
- 撤去跡
- 配線・配管
を確認します。
原状回復の完了検査と同じ日に撮影してもよいでしょう。
6.貸主・管理会社との退去立会い時にも撮る
貸主・管理会社との立会いで指摘された箇所は、その場で写真を残します。
たとえば、
- 補修不足とされた場所
- 残置物とされた設備
- 追加撤去を求められた箇所
- 清掃不足とされた場所
などです。
「南側壁面の傷」「入口右側の巾木」など、立会い記録の記載内容と写真を対応させます。
立会いについてはテナント退去の立会いで確認することも参考になります。
写真は「全景→中景→アップ」の順で撮る
傷だけを大きく撮った写真では、後から場所が分からないことがあります。
同じ箇所について、次の3段階で残すと位置関係を確認しやすくなります。
- 部屋や壁面全体が分かる全景
- 対象箇所の位置が分かる中景
- 傷・汚れ・設備を確認できるアップ
全景写真を省略しない
アップ写真は傷の程度を見るには便利ですが、場所を特定できないことがあります。
「この傷が店舗のどこにあるのか」を第三者が見ても分かるように、全景から連続して撮影します。
同じ壁・床を一定方向で撮る
店舗やオフィスが広い場合は、撮影順序を決めておくと整理しやすくなります。
たとえば、入口から時計回りに、
- 北側壁面
- 東側壁面
- 南側壁面
- 西側壁面
- 床
- 天井
という順番で撮ります。
傷・汚れは大きさが分かるように撮る
傷を撮る場合は、アップだけでは実際の大きさが分かりにくいことがあります。
必要に応じて定規やメジャーなどを一緒に写し、寸法を確認できるようにします。
ただし、対象を隠してしまわない位置で撮影してください。
設備は「ある・ない」だけでなく状態を残す
設備については、設置されていることだけでなく状態を確認できる写真を残します。
たとえば、
- エアコン
- 照明
- 分電盤
- 給湯器
- 換気設備
- 厨房設備
- トイレ
- 防犯設備
- 通信設備
などです。
借主設備なのか建物設備なのかが問題になりそうなものは、型番や設置場所も記録しておきます。
店舗では看板・厨房・ダクトも撮る
店舗退去では、室内だけでなく外部設備も確認します。
- 袖看板
- ファサード
- シャッター
- 室外機
- 厨房フード
- ダクト
- グリストラップ周辺
- 給排水設備
など、撤去・残置の判断が必要な設備を撮影します。
オフィスではOAフロア・配線・パーティションを撮る
オフィスでは、
- OAフロア
- 床下配線
- LAN配線
- 電源
- パーティション
- 天井設備
- サーバーラック周辺
などを確認します。
借主工事で追加した設備がどこにあったかを確認できる写真を残します。
撮影日が分かる状態で保存する
後から写真だけを見ると、「工事前なのか工事後なのか」「いつ撮ったのか」が分からなくなることがあります。
撮影日を確認できる元データを残し、フォルダ名にも日付を入れます。
たとえば、
2026-09-01_什器搬出後
2026-09-10_原状回復着工前
2026-09-25_工事完了後
2026-09-30_退去立会い
のように分けます。
ファイル名に撮影場所を入れる
大量の写真がある場合、連番だけでは後から探しにくくなります。
たとえば、
2026-09-30_店舗入口_全景.jpg
2026-09-30_南側壁面_傷01_全景.jpg
2026-09-30_南側壁面_傷01_アップ.jpg
のようにすると整理しやすくなります。
LINEやチャットに送った写真だけを保存場所にしない
貸主や施工会社との連絡で写真をLINEやチャットへ送ることがあります。
ただし、それだけを正式な保存先にすると、
- 退職者のアカウントで見られなくなる
- 圧縮された画像しか残らない
- 撮影順序が分からなくなる
- チャット履歴が削除される
可能性があります。
元の写真ファイルを会社管理のクラウドストレージや共有フォルダへ保存してください。
加工前の元ファイルも残す
見やすくするために写真へ矢印や文字を入れることがあります。
その場合も、加工済み画像だけにせず、加工前の元ファイルを残します。
「元画像」と「説明用画像」を分けると後から確認しやすくなります。
動画も補助的に残す
店舗・オフィス全体を歩きながら動画で撮影すると、部屋同士の位置関係を把握しやすくなります。
ただし、動画だけにすると特定箇所を確認する際に時間がかかります。
動画は全体把握用、写真は個別箇所確認用として併用する方法が使いやすいでしょう。
写真と立会い議事録を紐づける
写真だけでは、「この場所について当事者が何を話したのか」は分かりません。
立会いで指摘された内容は、
- 指摘番号
- 場所
- 貸主側の主張
- 借主側の確認内容
- 対応する写真番号
を記録します。
たとえば「指摘03=南側壁面傷=IMG_031〜033」と紐づけます。
貸主・管理会社と写真をメール共有しておく方法もある
重要な指摘箇所については、撮影した写真をメール等で貸主・管理会社へ共有し、認識を確認する方法があります。
たとえば、
「本日の立会いで確認した3箇所について写真を共有します」
と送付し、その後の対応内容を書面で残します。
写真だけではなく、その写真が何を示すのかという説明も残るため、後から確認しやすくなります。
入居時写真が残っているなら退去時と同じ角度で撮る
入居時の写真が残っている場合は、可能な限り同じ位置・同じ方向から退去時写真を撮ります。
比較しやすくなり、
- 入居前から存在した傷
- 入居後に追加した設備
- 変更された内装
などを確認できます。
入居時写真がなくても退去写真は残す
入居時の写真が存在しないからといって、退去時の写真まで諦める必要はありません。
退去時の状態、原状回復工事前後、立会い時の状態を残しておけば、少なくともその時点以降の変化は確認しやすくなります。
また、入居時資料として、
- 契約書
- 内装図面
- 引渡し図面
- 以前の工事写真
- 管理会社保管写真
がないか確認します。
施工会社にも工事写真を依頼する
原状回復工事では、施工会社が工程写真を撮っている場合があります。
発注前に、
- 工事前
- 撤去中
- 隠蔽部
- 追加工事項目
- 工事完了後
の写真提出が可能か確認します。
最終報告書と一緒に写真を受け取れるようにしておくと管理しやすくなります。
追加工事は着工前の写真を確認する
原状回復中に追加工事が必要になった場合、可能であれば施工前の状態を確認します。
「床下に想定外の配線があった」「壁を開けたら補修が必要だった」など、完成後には確認できない理由があるためです。
追加費用を承認する前に、写真・工事項目・金額をセットで確認します。
写真だけで原状回復費の妥当性が決まるわけではない
写真に傷が写っているからといって、その修繕費をすべて借主が負担すると決まるわけではありません。
反対に、写真に写っていないから負担義務がなくなるとも限りません。
負担範囲は賃貸借契約書や原状回復特約、原因、工事範囲などを合わせて判断します。
写真は「その時点の状態を確認するための資料」と位置付けます。
事業用賃貸では契約書・特約も必ず一緒に確認する
店舗・オフィスなどの事業用賃貸では、住宅用の原状回復ガイドラインだけを基準に判断しないよう注意してください。
事業用物件では、スケルトン返しや指定業者、通常損耗を含む原状回復など、契約ごとの特約が設けられていることがあります。
写真を確認するときも契約書とセットで見ます。
明け渡し直前の「何もない状態」を必ず残す
最後に、鍵を返却する直前の状態を撮影します。
特に確認するのは、
- 残置物がないか
- 工事未完了箇所がないか
- 設備が契約どおり残っているか
- 不要設備が撤去されているか
- 清掃状態
- 床・壁・天井
- 入口・外部
です。
店舗の明け渡しについては店舗の明け渡し手順、オフィスの場合はオフィスの明け渡し手順も確認してください。
退去写真は契約書などと同じ案件フォルダへ保存する
写真だけをスマートフォンの写真アプリへ残すのではなく、退去案件の資料として保存します。
たとえば、
- 01_賃貸借契約
- 02_解約通知
- 03_原状回復見積
- 04_工事前写真
- 05_工事中写真
- 06_工事完了写真
- 07_退去立会い
- 08_退去精算
のようにまとめます。
契約書等の保存については退去後の契約書・見積書の保管方法を確認してください。
退去写真の撮影チェックリスト
- 退去準備前の全景を撮った
- 各部屋・区画を一定方向で撮った
- 什器搬出後を撮った
- 工事着工前を撮った
- 傷・汚れは全景とアップを撮った
- 寸法が必要な箇所は大きさを記録した
- 設備の設置状態を撮った
- 工事中に隠れる箇所を撮った
- 追加工事箇所を工事前に撮った
- 工事完了後を撮った
- 退去立会いの指摘箇所を撮った
- 明け渡し直前の全景を撮った
- 撮影日が分かる状態で保存した
- 場所が分かるファイル名を付けた
- 加工前の元画像を保存した
- 重要写真を立会い記録と紐づけた
- 会社管理の共有フォルダへ移した
退去写真についてよくある質問
店舗退去時の写真は必ず撮らなければいけませんか?
一般的に写真撮影そのものが法的な退去要件というわけではありません。ただし、物件状態を後から確認できる資料として残しておくと実務上役立ちます。
傷だけアップで撮れば十分ですか?
アップだけでは場所が分からなくなるため、全景・中景・アップの順で撮る方法がおすすめです。
原状回復工事前と工事後の両方を撮りますか?
両方を残すと、工事によってどのように状態が変わったか比較しやすくなります。
動画だけでもよいですか?
動画は全体の位置関係を把握する補助資料として便利ですが、特定箇所を確認しやすい静止画も併用した方が管理しやすくなります。
スマートフォンの日付が残っていれば十分ですか?
元データの撮影日時に加え、フォルダ名やファイル名にも日付・場所を入れておくと、後から第三者が確認しやすくなります。
LINEに送った写真が残っていれば元写真は不要ですか?
チャット上の画像は圧縮されたり、履歴・アカウントが失われたりする可能性があります。元ファイルも会社管理の場所へ保存してください。
入居時の写真がありません。退去写真を撮っても意味がありますか?
あります。少なくとも退去時、工事前、工事後、立会い時の状態変化を記録できます。入居時については管理会社の写真や工事図面等も確認してください。
写真があれば原状回復費を払わなくて済みますか?
写真だけで負担が決まるわけではありません。契約書、特約、傷の原因、工事範囲などと合わせて判断します。
貸主・管理会社にも写真を送った方がよいですか?
立会いで重要な指摘があった場合などは、該当写真と確認内容をメール等で共有して記録を残す方法があります。
退去後、写真はいつまで残しますか?
契約書や退去精算資料と一緒に管理し、少なくとも税務上・契約上必要な資料を保存している期間や、未精算・紛争が続いている期間は残しておく方が管理しやすいでしょう。具体的な保存期間は退去後の契約書保管も確認してください。
退去写真は「たくさん撮る」より後から説明できる形で残す
退去時の写真で重要なのは、枚数を増やすことだけではありません。
後から、
- いつ撮ったか
- 店舗・オフィスのどこか
- 工事前か工事後か
- 何を確認するための写真か
- 契約書や立会い記録のどの項目に対応するか
を説明できる状態にしておくことが重要です。
退去立会いについてはテナント退去の立会い、最終精算についてはテナントの退去精算書もあわせて確認してください。
原状回復工事や追加請求の内容を整理したい場合は、お問い合わせから契約書、見積書、退去時写真、立会い記録など現在ある資料を整理したうえでご相談ください。
