店舗を閉店して営業を終えても、賃貸物件の退去はまだ完了していません。
解約通知後には、店内の設備・什器の整理、残置物撤去、原状回復工事、完了確認、貸主・管理会社との立会い、鍵やカードの返却などを進め、契約で決められた状態で物件を返す必要があります。
この最後の工程が店舗の「明け渡し」です。
特に注意したいのは、閉店日、原状回復工事の完了日、退去立会い日、明け渡し日、賃貸借契約終了日が必ずしも同じ日ではないことです。
店舗の明け渡しでは、何をいつまでに終えるのかを契約から逆算して進めます。
店舗の明け渡しとは何をすること?
店舗の明け渡しは、単に営業を終了したり、荷物を運び出したりすることではありません。
一般的には、契約上求められる返還状態まで店舗を整え、借主が店舗の使用を終え、鍵などを貸主側へ返却して物件を返す工程を指します。
ただし、何をもって明け渡し完了とするかは契約によって異なります。
たとえば、
- 原状回復工事が完了していること
- 残置物がないこと
- 貸主指定の完了検査を終えていること
- 指摘された是正工事が完了していること
- 鍵・カード・リモコン等を返却していること
- 居抜きの場合は残す設備が書面で承認されていること
などが条件になる場合があります。
「鍵を返せば必ず明け渡し完了」と一律に判断せず、賃貸借契約書、特約、貸主・管理会社からの退去案内を確認してください。
店舗の明け渡しまでの8手順
| 手順 | 行うこと |
|---|---|
| 1 | 明け渡し日と返還条件を確定する |
| 2 | 居抜き・売却・返却する設備を先に分ける |
| 3 | 残置物を撤去する |
| 4 | 原状回復工事を行う |
| 5 | 完了確認を行い、必要なら是正する |
| 6 | 明け渡し前の記録を残す |
| 7 | 退去立会いと鍵等の返却を行う |
| 8 | 明け渡し後の精算を確認する |
1.明け渡し日と返還条件を確定する
解約通知を提出したら、最初に正式な契約終了日と明け渡し条件を確認します。
確認したいのは、
- 賃貸借契約終了日
- 原状回復工事をいつまでに終えるか
- 貸主・管理会社の完了確認日
- 鍵を返却する日
- 指定業者・指定工事の有無
- 返還状態
です。
特に重要なのが返還状態です。
「原状回復」「スケルトン返し」「居抜き」などの言葉だけで工事を発注せず、実際に何を撤去し、何を残し、どこまで復旧するのかを確認します。
詳しくは店舗閉店時の原状回復も確認してください。
閉店日と明け渡し日は分けて考える
たとえば9月30日で営業を終了しても、10月1日から原状回復工事を行い、10月15日に貸主へ明け渡す契約であれば、9月30日は閉店日であって明け渡し日ではありません。
店舗閉店では、少なくとも次の日付を分けて管理します。
- 最終営業日
- 商品の搬出完了日
- 什器・厨房機器の搬出日
- 原状回復着工日
- 原状回復完了日
- 完了確認日
- 退去立会い日
- 鍵返却日
- 契約終了日
原状回復工事が契約終了日までに終わらない可能性がある場合は、店舗の退去期限に間に合わない場合の対応も確認してください。
2.壊す前に居抜き・設備買取・返却品を分ける
明け渡し準備で最初から店舗内の物をすべて撤去・廃棄するのは避けた方がよいでしょう。
先に次の5種類へ分けます。
- 後継テナントへ残すもの
- 売却するもの
- 自社で持ち出すもの
- リース・レンタル会社へ返却するもの
- 最終的に撤去・廃棄するもの
厨房機器、空調、給湯器、看板、什器などは、見た目だけでは所有者を判断できない場合があります。
貸主所有やリース品を誤って処分しないよう、契約書・資産台帳・リース契約を確認してください。
また、居抜きで引き渡せる可能性があるなら、原状回復工事を始める前に貸主の承諾を確認します。
居抜き・造作譲渡と店舗設備を買取と処分のどちらに回すかも参考になります。
3.店舗内の残置物を明け渡し前に整理する
原状回復工事が終わっていても、不要な什器・備品・在庫・ごみなどが店内に残っていれば、明け渡し条件を満たさない場合があります。
対象になりやすいのは、
- テーブル・椅子
- 棚・ラック
- 厨房機器
- 食器・調理器具
- 在庫
- 事務用品
- 看板・販促物
- 廃油・洗剤等
- 段ボール・梱包材
などです。
ただし、居抜き承継する設備や貸主所有設備まで撤去しないようにしてください。
店舗残置物については店舗の残置物撤去で詳しく整理しています。
4.契約で決めた範囲の原状回復工事を行う
残す設備と撤去する物を確定したら、原状回復を進めます。
店舗では、
- 内装・造作
- 間仕切り
- 床・壁・天井
- 照明
- 電気設備
- 給排水
- ガス
- 空調
- 厨房
- フード・ダクト
- 看板
など、業態によって工事対象が大きく異なります。
民法には原状回復義務に関する一般原則がありますが、事業用店舗の具体的な返還範囲は契約書や特約によって大きく変わります。
そのため、「店舗は必ず全部スケルトンにする」「通常損耗だから何もしなくてよい」といった一律の判断は避けます。
原状回復工事を始める前に完成状態を共有する
施工業者へ発注するときは、「原状回復一式」とだけ伝えるのではなく、貸主が求める完成状態を共有します。
できれば、
- 賃貸借契約書
- 原状回復特約
- 入居時の図面
- 入居時の写真
- 貸主・管理会社からの指示書
- 残してよい設備の承諾記録
を基に工事範囲を決めます。
口頭の「元に戻してください」だけで工事を開始すると、完成後に追加撤去・追加補修を求められる可能性があります。
5.工事完了後に確認し、指摘があれば是正する
原状回復工事が終わったら、すぐに鍵を返すのではなく、完成状態を確認します。
施工会社と確認したいのは、
- 撤去漏れがないか
- 補修漏れがないか
- 残置物がないか
- 共用部に資材・廃材が残っていないか
- 貸主から残すよう指示された設備が残っているか
- 配管・配線等の処理が指示どおりか
- 清掃が完了しているか
です。
貸主・管理会社による完了確認で指摘が出た場合は、何をどの状態まで直すのかを記録します。
「追加で直してください」という口頭指示だけではなく、箇所、内容、期限、費用負担をできるだけ明確にしてください。
是正工事と明け渡し日の関係を確認する
完了確認で是正項目が出た場合、契約上の明け渡し日までに是正完了が必要なのか、軽微な工事を後日行うことが認められるのかは、物件ごとに確認します。
貸主・管理会社が未完了と判断している状態で、借主側だけが「工事はほぼ終わったから明け渡し済み」と判断しない方が安全です。
退去期限が迫っている場合は、指摘内容と残工事日数をその場で確認します。
6.明け渡し直前の状態を写真・動画で記録する
明け渡し前には店舗全体を撮影しておくと、後から状態を確認しやすくなります。
最低限、
- 店舗入口
- 客席・売場
- 厨房・バックヤード
- 床
- 壁
- 天井
- トイレ
- 給排水
- 分電盤
- 空調
- 看板跡
- メーター
などを撮影します。
工事前・工事中・完了後の写真を残しておくと、どこまで撤去・補修したのかも確認できます。
電気・ガス・水道は工事と検査に合わせて停止する
閉店したからといって、すぐすべてのライフラインを止めると、原状回復工事や完了確認に支障が出る場合があります。
たとえば、
- 工事用の電源
- 照明
- 空調設備の動作確認
- 給排水設備の確認
- 清掃時の水道
が必要になることがあります。
施工会社と貸主・管理会社へ確認し、工事・検査が終わる日から逆算して停止日を決めます。
明け渡し当日は、必要に応じてメーター値を写真で残しておくと最終請求の確認にも使えます。
7.退去立会いで店舗の状態を確認する
退去立会いでは、貸主・管理会社と店舗の現況を確認します。
主な確認項目は、
- 契約上の返還状態になっているか
- 原状回復工事の未完了箇所がないか
- 残置物がないか
- 残す設備が合意内容どおりか
- 共用部に損傷・残置物がないか
- 鍵・カード等の返却物がそろっているか
- 追加是正の有無
です。
立会いは「その場で言われた費用をすべて承諾する場」とは限りません。
確認書などへ署名する場合は、何について確認した書面なのか、未確定事項や追加費用まで合意した内容になっていないかを確認してください。
居抜きで明け渡す場合は設備一覧を残す
居抜きの場合は「何も撤去しない」のではなく、残してよい設備を明確にします。
たとえば、
- 厨房機器
- カウンター
- 空調
- 照明
- 給湯器
- ダクト
- 看板
- 家具・什器
について、誰の所有物で、誰へ引き継ぎ、貸主が残置を承諾しているのかを確認します。
後継テナントとの造作譲渡だけ成立していても、貸主がその状態での明け渡しを承諾していなければ問題になる可能性があります。
鍵・カード・リモコンは本数まで記録して返却する
明け渡し時には、店舗入口の鍵だけでなく、借りていた返却物を一覧化します。
- 店舗入口の鍵
- 裏口・搬入口の鍵
- シャッターキー
- ポストキー
- ゴミ置場等の共用部キー
- カードキー
- 警備タグ
- シャッター・空調等のリモコン
- 管理会社から貸与された備品
「鍵一式」とだけせず、種類と本数を記録すると確認しやすくなります。
返却時は、誰が、いつ、何を受領したか分かる記録を残します。
鍵を返せば必ず明け渡し完了とは限らない
鍵の返却は、店舗を貸主へ返すうえで重要な工程です。
ただし、契約上必要な原状回復や残置物撤去が終わっていない状態で、借主が一方的に鍵だけ返せばすべて完了するとは限りません。
反対に、工事がすべて終わっていても、鍵を借主が保持し続けて自由に店舗へ出入りできる状態では、返還状況について問題になる可能性があります。
原状回復、立会い、鍵返却をセットで管理してください。
貸主が退去立会いに来ない場合
すべての物件で対面の退去立会いが行われるわけではありません。
管理会社から、
- 写真提出
- 完了報告書提出
- 指定場所への鍵返却
- 郵送による鍵返却
- 施工会社による完了報告
などを指示される場合があります。
貸主側が立会いを行わない場合でも、借主判断で鍵をポストへ入れるなどせず、正式な返却方法と受領確認方法を事前に確認してください。
8.明け渡し後に敷金・保証金などの精算を確認する
明け渡しが終わった後は、敷金・保証金等の精算を確認します。
確認する項目は、
- 未払賃料・共益費
- 原状回復費
- 契約上の償却
- 違約金・解約予告不足分
- その他契約上の債務
- 返還額
- 返還予定日
などです。
敷金・保証金は、店舗を明け渡した当日に必ず全額返ってくるとは限りません。
契約に返還時期や償却条件が定められている場合があるため、退去前から確認しておきます。
詳しくは店舗の敷金返還、保証金については店舗の保証金返還も確認してください。
店舗明け渡し前の最終チェックリスト
- 契約終了日を確認した
- 明け渡し日を確認した
- 返還状態を書面等で確認した
- 居抜き・残置承諾の有無を確認した
- 売却する設備を搬出した
- リース・レンタル品を返却した
- 残置物を撤去した
- 原状回復工事を完了した
- 追加是正が残っていない
- 店舗内・共用部を撮影した
- ライフラインの停止・精算を手配した
- メーター値を記録した
- 鍵・カード・リモコンを一覧化した
- 立会い日時を確認した
- 返却物の受領記録を残す準備をした
- 敷金・保証金の返還条件を確認した
店舗の明け渡しでよくある質問
店舗を閉店した日が明け渡し日ですか?
必ずしも同じではありません。閉店後に設備搬出や原状回復工事を行い、その後に明け渡すケースがあります。契約終了日・明け渡し日を確認してください。
原状回復工事は退去立会いの前に終わらせますか?
完了状態を立会いで確認する運用もあれば、工事前の立会いで範囲を決め、その後施工・完了確認する運用もあります。物件ごとの退去フローを管理会社へ確認します。
店内を完全に空にしなければなりませんか?
契約上の返還状態によります。通常は借主所有の不要物を撤去しますが、居抜き承継や貸主承諾済みの設備は残す場合があります。
原状回復完了後に追加工事を求められたら?
何が契約・合意した返還状態と違うのか、対象箇所、工事内容、期限、費用負担を確認します。指摘内容が不明確なまま追加工事へ進まない方がよいでしょう。
鍵を返却すれば明け渡し完了ですか?
鍵返却は重要な工程ですが、それだけで一律に判断できません。契約上の原状回復・残置物・検査等の条件も確認します。
電気や水道は閉店日に止めればよいですか?
原状回復工事や完了確認で必要になる場合があります。施工会社と管理会社へ確認して停止日を決めてください。
退去立会いには誰が参加すべきですか?
物件によりますが、貸主・管理会社、借主担当者、必要に応じ施工会社などで確認します。工事範囲を説明できる人が参加すると進めやすくなります。
貸主が立会いをしない場合はどうしますか?
写真・完了報告・鍵返却方法など、貸主・管理会社が指定する手順を確認します。返却日時と受領記録を残してください。
敷金は明け渡し当日に返ってきますか?
必ずではありません。契約上の返還時期、原状回復費・未払賃料等の精算状況によって後日返還となる場合があります。
明け渡しは「工事完了」ではなく「物件を返すところ」まで管理する
店舗退去でありがちな失敗は、原状回復工事が終わった時点で作業がすべて完了したと思ってしまうことです。
実際には、その後にも完了確認、是正、残置物確認、ライフライン、立会い、鍵返却、精算があります。
店舗の明け渡しでは、
- 契約上の返還状態を決める
- 残す物と撤去する物を分ける
- 残置物を処理する
- 原状回復する
- 完了状態を確認する
- 記録を残す
- 立会い・鍵返却を行う
- 明け渡し後の精算を確認する
という順序で進めると整理しやすくなります。
閉店全体の流れから確認したい場合は店舗閉店の進め方もあわせて確認してください。
明け渡し期限が迫っている、原状回復・残置物撤去・鍵返却までの日程を組めない、どこまで工事すればよいか分からない場合は、お問い合わせから物件種別、明け渡し期限、現在の店舗状態などをお知らせください。
