店舗の閉店や移転が決まり、原状回復の範囲が見えてくると、次に問題になるのが「どの業者へ依頼するか」です。
ただし、店舗の原状回復では、最初から複数の施工会社へ見積もりを依頼すればよいとは限りません。賃貸借契約やビルの工事区分によっては、貸主・管理会社が指定した業者でなければ施工できないケースがあります。
また、自由に業者を選べる場合でも、見積総額だけを比較すると、工事範囲、廃材処理、石綿事前調査、夜間作業、追加工事、貸主検査への対応などが抜けたまま発注してしまうことがあります。
店舗の原状回復業者を選ぶときは、まず「誰が施工会社を決められる契約なのか」を確認し、そのうえで同じ工事条件にそろえて比較することが重要です。
原状回復業者を探す前に、まず契約書を確認する
業者選びより先に確認したいのが、賃貸借契約書、特約、管理規則、工事区分表などです。
特に次の記載を確認します。
- 原状回復工事を貸主指定業者が行うことになっていないか
- 指定業者を使う工事項目と、借主側で発注できる工事項目が分かれていないか
- スケルトン返しなのか、入居前の状態へ戻すのか
- 空調、電気、給排水、防災設備などに指定工事がないか
- 夜間・休日作業、搬出時間、エレベーター使用などに制限がないか
- 貸主検査や完了確認の方法が決められていないか
契約上、貸主指定業者しか使えない場合、借主が別の施工会社を選んでそのまま工事を進めることはできません。指定業者の見積が高い場合や変更できるかを確認したい場合は、原状回復の指定業者が高い場合の確認方法、原状回復の指定業者を変更できるかも確認してください。
一方、借主側で施工会社を選択できる場合は、複数の候補から比較できます。ただし、貸主・管理会社が求める完成状態が決まっていないまま相見積もりを取ると、各社の工事範囲がバラバラになり、金額だけでは比較できなくなります。
店舗の原状回復業者を選ぶ8つの比較項目
1.自店と近い業態の原状回復実績があるか
店舗の原状回復は、業態によって必要な工事が大きく変わります。
物販店であれば什器・造作・看板の撤去が中心でも、飲食店では厨房機器、給排水、ガス、排気ダクト、グリストラップなどが関係します。美容室ではシャンプー台、給湯、床下配管、セット面など、美容室特有の設備があります。
「店舗工事の実績がある」というだけではなく、自店と近い業態・設備条件の施工経験があるかを確認した方がよいでしょう。
施工事例を見る際も、完成写真だけではなく、どこまで撤去し、何を復旧し、どのような条件で貸主へ引き渡したのかまで確認できると比較しやすくなります。
2.契約書と貸主の返還条件を踏まえて工事範囲を整理できるか
原状回復業者の役割は、単に内装を壊すことではありません。
店舗ごとに違う賃貸借契約、入居時の状態、貸主の設備、借主が設置した造作、居抜きで引き継いだ設備などを整理し、「何を撤去し、何を残し、どこまで復旧するか」を施工範囲へ落とし込む必要があります。
現地を見ただけで「全部スケルトンにしましょう」と決めるのではなく、契約書や入居時資料、貸主・管理会社の指示を確認してくれる業者の方が、不要な撤去や工事漏れを防ぎやすくなります。
原状回復の範囲自体がまだ決まっていない場合は、先に店舗閉店時の原状回復はどこまで必要かを整理してから業者選定へ進みます。
3.現地調査をしたうえで見積もりを作っているか
店舗原状回復では、面積だけでは工事費を判断できません。
造作量、設備、床や壁の状態、給排水、空調、搬出経路、階数、エレベーター、作業時間、養生範囲、廃材量などによって工事内容が変わります。
そのため、本格的な発注前には現地調査を行い、少なくとも次の点を確認しているかを見ます。
- 撤去対象と残す設備
- 床・壁・天井の復旧仕様
- 電気・空調・給排水等の設備工事
- 看板や外部設備
- 搬出経路と養生範囲
- 夜間・休日等の施工条件
- 廃材・残置物の量
- 貸主検査までに必要な工期
写真や図面だけで概算を出すこと自体は問題ありませんが、正式発注まで現地調査をしない場合は、追加工事が発生する条件を特に確認してください。
4.見積書の工事範囲・除外項目・追加条件が分かるか
業者比較で重要なのは「総額が一番安い会社」ではなく、「同じ完成状態までの総額を比較できているか」です。
見積書では、解体、復旧、設備、搬出、養生、廃棄、清掃、管理費などの内訳に加え、何が見積に含まれていないかも確認します。
例えば、次のような項目が「別途」となっている場合があります。
- 石綿の分析・除去
- 図面にない設備や配管の撤去
- 貸主検査後の是正工事
- 夜間・休日作業
- 追加の養生や搬出作業
- 残置物の増加
- 設備停止・切離し工事
「一式」の項目が多い場合は、その中に何が含まれるのかを確認します。見積確認については、原状回復見積書の見方と原状回復見積の内訳も参考になります。
複数社を比較する場合は、各社へ同じ返還条件・図面・工事範囲を渡して条件をそろえます。詳しい進め方は原状回復の相見積もりで整理しています。
5.工事内容に応じた許可・登録と石綿対応を確認できるか
「建設業許可を持っていない会社はすべて依頼できない」と判断するのも正確ではありません。
建設工事を営業として請け負う場合は原則として建設業許可が必要ですが、建築一式工事以外では、請負代金500万円未満などの軽微な建設工事のみを扱う場合、建設業許可が不要となるケースがあります。
そのため、会社名だけで判断するのではなく、実際の工事内容と請負金額に対して必要な許可・登録が整っているかを確認します。
また、既存建物の解体・改修を伴う原状回復では、石綿の事前調査も重要です。
解体・改修する部分については、工事規模の大小にかかわらず石綿含有の有無を事前に調査する必要があります。建築物の事前調査は一定の資格要件を満たす者が行います。
さらに、建築物の解体部分が80㎡以上、または改修工事の請負金額が税込100万円以上など一定規模以上の場合は、事前調査結果の報告対象になります。
見積時に石綿事前調査について何も説明がない場合は、「調査対象になる工事か」「誰が調査するか」「調査費が見積に含まれるか」を確認します。
詳しくは内装解体・原状回復のアスベスト事前調査で整理しています。
6.解体廃材の処理方法を説明できるか
原状回復工事では、石膏ボード、木材、金属、ガラス、廃プラスチックなどさまざまな廃材が発生します。
建設工事から発生する廃棄物については、原則として発注者から直接工事を請け負った元請業者が排出事業者となります。元請業者は、自ら処理しない場合、適正な許可を持つ処理業者へ委託するなどの責任を負います。
業者選定時には、単に「廃材処分込み」と書かれているかだけでなく、どのような体制で収集運搬・処分を行うのか確認します。
なお、工事前から店内に置かれていた什器・在庫・備品などの残置物と、解体工事によって新たに発生する建設廃棄物では、処理の整理が異なる場合があります。
工事由来の廃棄物については内装解体の産業廃棄物も確認してください。
7.退去期限から逆算した工程と貸主検査まで管理できるか
店舗の原状回復は、工事が終われば完了とは限りません。
貸主・管理会社による確認で工事漏れや仕様違いを指摘されれば、是正して再確認する時間が必要になります。
業者へ見積を依頼するときは、次の日付を伝えます。
- 最終営業日
- 設備・什器を搬出できる日
- 原状回復工事を開始できる日
- 貸主検査予定日
- 契約終了日・明渡し期限
特に商業施設やビル内店舗では、夜間工事、搬出申請、養生、エレベーター予約、作業員入館手続きなどで自由に工程を組めないことがあります。
「工事は○日で終わります」という説明だけでなく、貸主検査と指摘事項の是正まで含めた工程になっているかを確認してください。
完了時の確認については原状回復の完了検査も参考になります。
8.価格だけでなく施工管理・再委託・説明力まで比較する
原状回復会社の中には、自社施工を中心とする会社、複数の専門工事会社を管理する会社、見積査定やプロジェクト管理を主に行う会社などがあります。
どの形態が一律に優れているわけではありません。
重要なのは、実際に誰が現場を管理し、問題が発生したとき誰が責任を持って調整するかが明確なことです。
次の点を確認しておくと比較しやすくなります。
- 窓口担当者と現場管理者は誰か
- どの工事を自社で行い、どこから再委託するか
- 施工中の事故や物損に対する保険・補償体制
- 貸主・管理会社との工事調整を誰が行うか
- 追加工事が出た場合の承認方法
- 工事写真や完了報告を残すか
- 貸主から是正指示が出た場合の対応範囲
価格差がある場合も、単価だけを見るのではなく、工事範囲、管理費、廃棄物処理、法令対応、夜間工事、追加費用条件までそろえて最終総額で比較します。
見積依頼前に業者へ渡しておきたい資料
複数業者から精度の高い見積を取るには、依頼者側が同じ条件を提示することも重要です。
- 賃貸借契約書・原状回復特約
- 貸主・管理会社から受け取った工事仕様書
- 入居時の平面図・設備図
- 入居時または内装工事前の写真
- 現在の店舗写真
- 借主設備・貸主設備・リース品の一覧
- 残す設備と撤去予定設備
- 退去日・貸主検査日
- ビルの搬出・作業時間ルール
資料が不足している場合は、分からない部分を隠すのではなく、見積上どの項目が未確定なのかを明示してもらいます。
原状回復業者を比較するときに注意したいケース
極端に安い見積
安いこと自体が問題なのではありません。
ただし、他社に含まれている工事が抜けていないか、廃材処分や養生、設備撤去、貸主検査後の対応などが別料金になっていないかを確認します。
現地をほとんど確認せず正式金額を確定する
概算見積であれば写真・図面から算出することもあります。しかし、設備が多い店舗やスケルトン返しでは、現場条件を確認しなければ分からない項目が少なくありません。
現地確認を省略する場合は、追加料金が発生する条件を明確にしておく必要があります。
「全部撤去すれば大丈夫」と説明する
店舗内にあるものをすべて撤去すればよいとは限りません。
貸主設備を撤去してしまえば、逆に復旧を求められる可能性があります。居抜きや造作譲渡が認められるなら、売却可能な設備まで解体する必要がない場合もあります。
契約・設備所有者・貸主指示を確認してから工事範囲を決める必要があります。
石綿調査や廃棄物処理について説明できない
解体・改修を伴う工事で、石綿事前調査や廃材処理について質問しても説明がない場合は、発注前に対応体制を確認した方がよいでしょう。
工事費を抑えるために、本来必要な安全・法令対応まで省くべきではありません。
業者選定はこの順番で進める
- 賃貸借契約書で原状回復範囲と業者指定の有無を確認する
- 貸主・管理会社と返還状態をすり合わせる
- 居抜き・設備売却など工事前に判断すべき選択肢を確認する
- 見積条件となる図面・写真・工事仕様を整理する
- 自由選定できる場合は候補業者へ同じ条件で現地調査を依頼する
- 工事範囲・見積内訳・追加条件・法令対応・工程を比較する
- 貸主検査・是正まで含めたスケジュールを確定する
- 発注内容と追加工事の承認方法を書面で残す
原状回復業者を選ぶ段階で最も避けたいのは、金額比較を急ぐあまり「完成状態」が会社ごとに違ったまま発注することです。
先に返還条件を固定し、その同じ条件に対して各社がいくらで、どのような体制で施工するのかを比較すると、判断しやすくなります。
よくある質問
店舗の原状回復業者は自分で選べますか?
物件によります。借主側で自由に選べる場合もあれば、賃貸借契約やビルルールで貸主指定業者の施工とされている場合もあります。業者へ問い合わせる前に契約書・特約・工事区分を確認してください。
原状回復業者は何社くらい比較すべきですか?
自由選定できる場合は複数社を比較すると、工事範囲や見積構造を確認しやすくなります。ただし、社数を増やすこと自体が目的ではありません。同じ工事条件で比較できることの方が重要です。指定業者しか使えない場合は、他社見積をそのまま発注先変更に使えないこともあります。
建設業許可がない会社には依頼してはいけませんか?
工事内容と請負金額によります。建設業許可は原則必要ですが、一定の軽微な建設工事のみを請け負う場合には許可が不要となる制度があります。自店の工事に必要な許可・登録を満たしているかを個別に確認してください。
アスベスト調査は小さな店舗でも必要ですか?
解体・改修を行う部分については、工事規模の大小にかかわらず石綿含有の有無を事前に調査する必要があります。一方、行政への事前調査結果報告は一定規模以上の工事が対象です。
店舗の不用品も原状回復業者に処分してもらえますか?
対応範囲は会社によります。原状回復工事で発生する建設廃棄物と、工事前から店舗内にある什器・在庫・備品などでは扱いが異なることがあります。売却・返却・廃棄の仕分けも含め、見積時に処理範囲を確認してください。
店舗閉店では「業者を探す」より先に工事条件をそろえる
店舗の原状回復業者を選ぶときは、施工実績や価格だけを見るのではなく、契約上の返還状態を正しく読み取り、その条件を見積・工程・施工へ落とし込めるかを確認することが重要です。
特に、指定業者の有無、設備所有者、石綿事前調査、廃棄物処理、夜間・搬出ルール、貸主検査までを発注前に整理しておくと、見積後の追加や明渡し直前のやり直しを減らしやすくなります。
原状回復の範囲がまだ決まっていない場合は、先に店舗閉店時の原状回復範囲を整理してください。工事範囲が確定しており、見積や施工会社の選定で迷っている場合は、お問い合わせから相談できます。
