定期借家契約で借りているオフィスは、普通借家のように契約期間が来ればそのまま更新されるわけではありません。
契約で定めた期間が満了すると定期建物賃貸借はいったん終了し、その後も同じオフィスを利用する場合は、貸主と借主が合意して新たに再契約することになります。
そのため退去を検討するときは、「契約満了で退去する場合」「再契約する場合」「契約期間の途中で退去する場合」を分けて考える必要があります。
特にオフィス移転では、契約満了日だけを見ていると、新オフィスの選定や内装工事、通信回線、引越し、旧オフィスの原状回復が間に合わなくなることがあります。
定期借家の契約終了と、実際のオフィス退去・移転を一つの工程として整理しておきましょう。
定期借家オフィスの退去は3つに分けて考える
| 状況 | 基本的な考え方 | 主に確認すること |
|---|---|---|
| 契約期間満了で退去 | 定期借家は期間満了で終了 | 満了日、終了通知、原状回復、明渡し |
| 満了後も利用したい | 更新ではなく再契約 | 貸主の再契約意思、賃料・期間・条件 |
| 満了前に退去したい | 中途解約を別途確認 | 中途解約条項、予告期間、費用、合意解約 |
同じ「定期借家から出る」という話でも、期間満了と中途解約では確認する条項が違います。
契約満了が近い場合は本記事の流れで整理し、まだ契約期間が残っている段階で退去したい場合は、事業用の定期借家を中途解約する場合の確認点もあわせて確認してください。
定期借家は契約期間の満了で終了する
定期建物賃貸借は、あらかじめ定めた契約期間が満了すると、更新されることなく終了する契約です。
普通借家では契約更新という仕組みがありますが、定期借家には原則として同じ意味での「更新」はありません。
したがって、契約書に記載された期間満了日が近づいたら、まず次の3点を確認します。
- 契約期間の開始日と満了日
- 現在の契約が定期建物賃貸借として締結されているか
- 満了後に再契約する予定があるか、それとも退去するか
「何となく次も契約が続くと思っていた」という状態で満了直前を迎えないようにすることが重要です。
満了後も使う場合は「更新」ではなく再契約
現在のオフィスを引き続き利用したい場合、貸主と借主が合意すれば再契約することは可能です。
ただし再契約は、現在の契約がそのまま延長される更新とは異なります。
従前の定期借家契約を終了させたうえで、新しい契約を締結するため、賃料、契約期間、保証金、その他の条件について改めて協議する可能性があります。
「再契約相談可」は再契約の保証ではない
募集条件や現在の契約関係で「再契約相談可」とされていても、必ず再契約できるとは限りません。
貸主側の建物利用計画や賃貸条件、借主側の希望条件などによって合意に至らない可能性があります。
そのため、再契約を希望している場合でも、再契約条件が確定するまでは移転した場合のスケジュールを完全に止めない方が安全です。
再契約時に条件が変わる可能性もある
再契約は新たな契約です。
現在と同じ賃料・期間・条件になるとは限らないため、再契約の判断では、少なくとも次の項目を確認します。
- 新しい契約期間
- 賃料・共益費
- 保証金・敷金
- 原状回復条件
- 中途解約条件
- 再契約後の満了時期
移転した場合の費用と再契約条件を比較して判断すると、単純に「移転するか残るか」だけでなく総コストで検討しやすくなります。
契約期間が1年以上なら貸主側の終了通知を確認する
定期建物賃貸借の契約期間が1年以上の場合、貸主が期間満了による終了を借主に主張するためには、原則として期間満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了によって契約が終了する旨を通知する制度があります。
これは、借主が再契約の交渉や移転先探しを行うための期間を確保する趣旨です。
終了通知と借主からの解約予告は別のもの
ここで混同しやすいのが、貸主からの「定期借家契約終了の通知」と、借主が契約期間途中で出す「中途解約の通知」です。
期間満了で終了する場合の通知制度と、借主都合で契約途中に解約する場合の予告期間は別に考えます。
通常のオフィス解約予告については、オフィスの解約予告も参照してください。
終了通知が遅れた場合
契約期間が1年以上であるにもかかわらず、貸主が所定の期間内に終了通知をしなかった場合、通知が遅れたからといって単純に普通借家として自動更新される、と考えるのは適切ではありません。
貸主が遅れて終了通知をした場合は、その通知から一定期間が経過するまで、期間満了による契約終了を借主へ主張できないという扱いになります。
終了通知の有無や時期に問題がある場合は、自己判断で「契約が延長された」と決めず、契約書、通知書、通知日を確認してください。
契約期間が1年未満の場合
定期建物賃貸借の契約期間が1年未満の場合は、1年以上の契約について定められている上記の終了通知制度とは扱いが異なります。
ただし、実際の退去について別途契約上の連絡方法や明渡し手続きが定められていることもあるため、「通知制度がない=何もしなくてよい」とは考えず、契約書を確認します。
終了通知が来ていなくても移転準備は止めない
終了通知が届いていないからといって、契約満了日まで何も準備しないのはリスクがあります。
特にオフィスの場合、新しい物件を契約してから実際に業務を開始できるまでには、次の作業が発生することがあります。
- 新オフィス選定
- 賃貸借契約
- レイアウト設計
- 内装・設備工事
- B工事
- 家具・什器調達
- インターネット・電話回線
- 引越し
- 旧オフィスの原状回復
- 貸主確認・明渡し
法律上の終了通知の問題と、実務上いつ移転準備を始めるべきかは分けて考えます。
移転全体の工程については、オフィス移転のスケジュールも確認してください。
満了退去が決まったら契約終了日から逆算する
再契約をせずに退去する方針が決まったら、契約満了日に荷物を出せば終わり、とは考えない方がよいでしょう。
物件の返還条件によっては、原状回復工事、貸主や管理会社による確認、是正工事、鍵・入館カードの返却などを契約上の期限までに終える必要があります。
1.契約書と関連資料を揃える
まず確認したいのは、賃貸借契約書だけではありません。
- 賃貸借契約書
- 定期建物賃貸借に関する説明書
- 特約
- 原状回復仕様書
- 工事区分表
- 管理規則
- 入居時の図面・写真
原状回復について契約書のどこを見るべきかは、原状回復の契約書確認で詳しく整理しています。
2.再契約しないことを社内で確定する
再契約するか移転するかが社内で決まっていない状態では、新オフィス選定や原状回復発注も進めにくくなります。
経営判断が必要な場合は、契約満了直前ではなく、再契約条件と移転案を比較できる時期に判断できるようにします。
3.新オフィスの利用開始日を決める
新オフィスの開始日と旧オフィスの満了日を近づけすぎると、内装工事や通信回線の遅延がそのまま業務停止につながることがあります。
逆に重複期間を長く取りすぎると、新旧オフィスの賃料負担が増えます。
費用だけでなく、業務継続に必要な余裕も含めて日程を設計します。
4.旧オフィスの原状回復範囲を確定する
定期借家であること自体によって、原状回復範囲が一律に決まるわけではありません。
賃貸借契約、特約、入居時状態、貸主側の仕様、工事区分などを確認して、退去時にどこまで戻す必要があるかを整理します。
詳しくはオフィス退去の原状回復を確認してください。
5.什器・OA・設備を整理する
大型家具、OA機器、複合機、パーティション、サーバーラックなどについて、新オフィスへ移設する物、返却する物、売却する物、廃棄する物を分けます。
リース品や貸主所有設備を誤って処分しないよう、所有関係も確認します。
6.明渡しまでの工程を作る
引越し日だけでなく、旧オフィス側についても次の工程を設定します。
- 最終出社・引越し
- 什器・残置物撤去
- 原状回復工事
- 工事完了確認
- 必要な是正
- 貸主・管理会社との確認
- 鍵・カード等の返却
- 明渡し
旧オフィス退去全体については、オフィス退去のやること・チェックリストも利用できます。
契約満了前に退去したい場合は中途解約を確認する
定期借家契約の期間がまだ残っているのに、オフィス移転や拠点縮小などで先に退去したい場合は、期間満了による終了ではありません。
この場合は中途解約が可能かを確認します。
まず契約書の中途解約条項を見る
事業用の定期借家では、中途解約について契約で定められていることがあります。
確認する項目は主に次のとおりです。
- 借主から中途解約できるか
- 何か月前に通知するか
- 通知方法
- 即時解約できる条項があるか
- 予告期間相当の賃料負担
- 違約金
- 残存期間の賃料に関する条項
中途解約条項がない場合は、貸主との合意解約を検討することになります。
事業用オフィスに「1か月前なら解約できる」とは限らない
定期建物賃貸借には、一定の居住用建物について、転勤・療養・親族の介護などのやむを得ない事情が生じた場合に、借主から解約を申し入れられる制度があります。
しかし、この制度を通常の事業用オフィスへそのまま適用することはできません。
「定期借家なら1か月前に言えば解約できる」と判断せず、事業用契約では契約条項を確認してください。
詳細は事業用定期借家の中途解約で解説しています。
定期借家でも原状回復は別に確認する
契約が定期借家だからといって、契約満了と同時に原状回復義務が自動的に消えるわけではありません。
反対に、「定期借家なら必ずスケルトン返し」と決まっているわけでもありません。
退去時に必要な状態は、契約や特約、物件の仕様によって変わります。
特にオフィスでは、次の項目が問題になりやすいため、工事発注前に範囲を確認します。
- 床・カーペット
- 壁・クロス
- 天井
- パーティション
- OAフロア
- 電気・LAN配線
- 空調
- 消防設備
- 看板
- 貸主指定工事
原状回復工事が契約満了日までに必要なのか、工事完了後の確認期間も必要なのかを確認し、退去日から逆算してください。
原状回復の期限については、原状回復工事の期限も参考になります。
再契約と移転は何を比較して決める?
| 確認項目 | 再契約 | 移転 |
|---|---|---|
| 契約 | 新しい条件で再契約 | 新物件の契約が必要 |
| 賃料 | 再契約時に変更される可能性 | 新旧物件の条件を比較 |
| 工事 | 大きな移転工事を避けられる場合がある | 新オフィス内装・旧オフィス原状回復が発生 |
| IT・通信 | 既存環境を継続しやすい | 回線・電話・ネットワーク移設が必要 |
| 今後の柔軟性 | 新しい契約期間・条件を確認 | 面積・立地・働き方を見直せる |
再契約できるから残る、移転費用がかかるから残る、と単独の条件だけで判断せず、次の契約期間まで含めた全体コストと事業計画で比較します。
終了通知が来ていない場合に確認すること
契約満了が近いのに終了通知を受け取っていない場合は、次の順番で確認します。
- 契約書に記載された期間満了日を確認する
- 契約期間が1年以上か確認する
- 貸主・管理会社から過去に通知が届いていないか確認する
- 通知の日付・受領方法を確認する
- 再契約について協議中か確認する
- 退去する場合の移転・原状回復準備を並行して進める
通知時期に問題があり、貸主と借主で契約終了時期の認識が異なる場合は、退去工事や新オフィス契約を進める前に法的な契約関係を確認することが重要です。
オフィス定期借家の退去FAQ
定期借家のオフィスは契約満了になったら必ず退去しますか?
定期建物賃貸借は契約期間の満了で終了する契約です。ただし、貸主と借主が合意すれば、新たな定期借家契約を再契約して同じオフィスを利用することは可能です。
「再契約相談可」ならそのまま使い続けられますか?
再契約相談可は、再契約が保証されているという意味ではありません。再契約には貸主と借主双方の合意が必要です。
再契約すると契約条件は同じですか?
必ず同じとは限りません。再契約は新しい契約なので、賃料、契約期間、保証金、中途解約条件などを改めて確認します。
終了通知が来なければ自動更新になりますか?
単純に普通借家として自動更新されると判断するのは適切ではありません。契約期間が1年以上の場合には貸主側の終了通知制度があり、通知時期が遅れた場合には契約終了を主張できる時期に影響します。契約書と通知の状況を確認してください。
1年未満の定期借家でも終了通知は必要ですか?
1年以上の定期建物賃貸借に設けられている期間満了の終了通知制度とは扱いが異なります。ただし契約上の連絡・退去手続きが別途定められていることがあるため、契約書の確認は必要です。
契約期間の途中でもオフィスを退去できますか?
まず中途解約条項を確認します。事業用定期借家では、居住用定期借家に設けられている法定中途解約制度をそのまま使えるとは限りません。中途解約条項がなければ貸主との合意解約を検討します。
定期借家なら原状回復は不要ですか?
不要とは限りません。定期借家か普通借家かとは別に、契約上の返還条件、特約、入居時状態、工事区分などから必要な原状回復範囲を確認します。
定期借家の退去は「満了」「再契約」「中途解約」を分けて管理する
定期借家のオフィスを退去するときは、まず現在の状況が契約期間満了なのか、再契約を希望しているのか、期間途中の解約なのかを分けてください。
期間満了で退去する場合は、契約満了日と終了通知を確認し、新オフィス移転と旧オフィス原状回復を逆算します。
継続して利用したい場合は、更新ではなく再契約になるため、条件が確定するまで移転の選択肢も残しておく方が安全です。
契約期間途中で退去したい場合は、中途解約条項や費用を別途確認します。
定期借家の契約満了とオフィス移転、原状回復の工程をまとめて整理したい場合は、お問い合わせから相談できます。
