オフィスを退去するとき、原状回復費と並んで資金計画へ大きく影響するのが敷金の返還です。
入居時に賃料6か月分、12か月分などまとまった敷金を預けている場合、数百万円から数千万円規模の資金が旧オフィスに残っていることもあります。
そのため、
- いつ返ってくるのか
- いくら返ってくるのか
- 原状回復費は敷金から引かれるのか
- 償却と書いてあれば何が返らないのか
は、移転時の資金繰りを考えるうえで重要です。
ただし、オフィスの敷金は「退去したら預けた金額がそのまま返ってくる」とは限りません。
契約によっては、
- 償却・敷引き
- 未払賃料・共益費
- 原状回復費
- 違約金
- その他の契約上の債務
が精算され、残額が返還されます。
オフィス退去では、預けた敷金額だけではなく、「返還予定額」と「返還予定時期」を分けて確認することが重要です。
この記事では、オフィス退去時の敷金返還について確認したい7項目を整理します。
オフィスの敷金はいつ返還される?
法律上の基本的な考え方では、賃貸借契約が終了し、貸主へ物件を返還した後に、借主が負っている金銭債務を控除した残額が返還対象となります。
したがって、解約通知を提出した時点で敷金が返還されるわけではありません。
基本的な流れは、
- 解約通知
- 移転・退去準備
- 原状回復
- 貸主検査
- 明渡し
- 未払債務・原状回復費等の精算
- 敷金残額の返還
です。
「退去後3か月」「6か月」などを一律ルールにしない
オフィス関連の情報では、敷金返還について「退去後数か月」と紹介されることがあります。
しかし、全国共通で「必ず3か月以内」「6か月後」と決められているわけではありません。
事業用賃貸借では契約書に、
- 明渡し後○日以内
- 契約終了後○か月以内
- 原状回復費等の精算後
などの返還条件が定められている場合があります。
まず自社の賃貸借契約書に書かれている返還時期を確認してください。
オフィス敷金の返還で確認する7項目
- 預けている敷金額と契約上の性質
- 返還時期・返還条件
- 償却・敷引き・不返還部分
- 未払賃料・共益費等
- 原状回復費の控除
- 違約金・その他の債務
- 最終精算明細と移転時の資金繰り
1.預けている敷金額を確認する
最初に、入居時にいくら預けたのか確認します。
見る資料は、
- 賃貸借契約書
- 敷金預り証
- 保証金預り証
- 入居時の振込記録
- 契約変更時の覚書
などです。
契約期間中に敷金額が変わっている場合もある
例えば、
- 増床
- 賃料改定
- 契約更新
- 敷金積増し
- 一部返還
などが行われていれば、最初に支払った金額と退去時の預託残高が違う場合があります。
最新の契約書・覚書まで確認します。
「敷金」と「保証金」は名称だけでは判断しない
民法上、名称が「保証金」であっても、賃料その他の賃貸借に基づく債務を担保する目的で預けた金銭であれば、敷金として扱われる場合があります。
一方、事業用物件では保証金という名称の中に、敷金とは異なる性質や特別な返還条件が設定されている場合もあります。
そのため、名称だけでなく、
- 何のために預けた金銭か
- いくら返還される契約か
- 何が償却されるか
を確認します。
2.返還時期・返還条件を確認する
次に、契約書の「敷金」「保証金」「明渡し」「契約終了」などの条項を確認します。
確認する文言
例えば、
- 明渡し完了後○か月以内に返還
- 未払債務を控除した後に返還
- 原状回復費確定後に返還
- 契約終了後○日以内に返還
などです。
契約によって条件が異なるため、インターネット上の平均的な返還期間より自社契約を優先します。
解約通知日と返還日は大きく離れることがある
例えば、6か月前予告のオフィスを9月に解約通知し、翌年3月31日に明け渡す場合を考えます。
敷金返還の起点が「明渡し後」であれば、9月の解約通知から実際の返還まで半年以上空く可能性があります。
そのため、
「解約通知を出したから旧オフィスの敷金を新オフィスの契約金へ使える」
とは考えない方が安全です。
3.償却・敷引きがあるか確認する
事業用オフィスでは、敷金の一部を退去時に返還しない契約が設定されている場合があります。
契約書では、
- 償却
- 敷引き
- 不返還
- 解約時償却
などと記載されることがあります。
例:敷金600万円・償却1か月分
例えば、
- 月額賃料:100万円
- 敷金:600万円
- 解約時償却:賃料1か月分
なら、契約上100万円が返還対象外となり、ほかに控除がなければ500万円が返還候補になります。
これは計算例であり、償却額の一般相場を示すものではありません。
償却と原状回復費は同じとは限らない
注意したいのは、
「敷金を1か月分償却するので、原状回復費もその中に含まれる」
とは限らないことです。
契約によっては、
- 敷金償却
- 原状回復費
が別々に発生します。
逆に、特定費用を償却額へ含める契約も考えられます。
契約書の文言を確認してください。
4.未払賃料・共益費等を確認する
敷金は、借主が賃貸借契約に基づいて負う金銭債務を担保する目的で預けられています。
退去時に、
- 未払賃料
- 共益費
- 水道光熱費等
- その他契約上の未払金
があれば、敷金から精算されることがあります。
最終月の日割り・月割りも確認する
例えば3月15日に物理的に移転を終えても、契約上の終了日が3月31日なら3月末まで賃料が必要になる場合があります。
契約書に、
- 月途中解約の日割り
- 月末解約のみ
- 共益費の日割り
などが書かれていないか確認します。
敷金があるから最後の家賃を払わなくてもよい?
借主側が一方的に、
「敷金が預けてあるので最終月の家賃は払わない」
と決められるとは限りません。
民法上も、借主が貸主に対して敷金を債務の支払いへ充当するよう要求できるとはされていません。
通常どおり賃料を支払い、退去後に敷金を精算する契約であれば、その流れに従います。
5.原状回復費がいくら差し引かれるか確認する
オフィス退去では、敷金返還額へ最も大きく影響しやすい項目の一つが原状回復費です。
オフィスでは、
- 間仕切り撤去
- 床復旧
- 壁・天井復旧
- 照明復旧
- 電気・通信設備撤去
- 空調関連
- 看板・サイン撤去
など広い範囲の工事が発生することがあります。
原状回復費を敷金から差し引く契約
貸主側で原状回復工事を発注し、確定した工事費を敷金から差し引いたうえで残額を返還する契約があります。
この場合、敷金返還額を予測するには原状回復見積の確認が重要です。
詳しくは、オフィス原状回復の見積はどこを見る?をご覧ください。
借主が工事費を直接支払う場合
借主が原状回復施工会社へ工事費を直接支払う契約もあります。
その場合、すでに支払い済みの工事費を敷金精算でも再度控除されていないか確認してください。
原状回復費を「直接支払った金額」と「敷金から差し引かれた金額」の両方で負担していないかを見ることが重要です。
原状回復範囲を住宅向けルールだけで判断しない
オフィス・店舗など事業用物件では、賃貸借契約に原状回復特約が設定されていることがあります。
したがって、住宅賃貸向けの原状回復ガイドラインをそのまま事業用オフィスへ当てはめて、
「経年劣化だから全部貸主負担」
と判断するのは適切ではありません。
まず自社の賃貸借契約・特約・返還仕様を確認します。
6.違約金・その他の債務を確認する
敷金から差し引かれる可能性があるのは原状回復費だけではありません。
契約途中で退去する場合には、
- 短期解約違約金
- 解約予告不足分
- フリーレント返還
- その他の契約上の債務
などが問題になることがあります。
違約金については、オフィス退去の違約金はいくら?をご覧ください。
「敷金が500万円あるから追加支払いはない」とは限らない
例えば、
- 敷金:500万円
- 原状回復費:400万円
- 違約金:200万円
- 未払賃料等:50万円
なら、合計債務が650万円となります。
契約・精算条件によっては敷金500万円をすべて充当しても、さらに150万円の支払いが必要になる可能性があります。
反対に債務が200万円なら、残る300万円が返還候補です。
7.最終精算明細を確認する
敷金が振り込まれたら終わりではありません。
預託額から何がいくら差し引かれたのか確認します。
精算明細で確認する項目
- 預託敷金総額
- 償却・敷引き
- 未払賃料
- 共益費
- 原状回復費
- 違約金
- その他控除
- 最終返還額
です。
返還見込額の考え方
概算では、
返還見込額 = 預託敷金 − 契約上の償却等 − 未払債務 − 原状回復費等 − その他の契約上の債務
と整理できます。
ただし、何を敷金から控除できるかは契約・個別事情によって異なります。
原状回復見積と精算額を照合する
例えば原状回復工事について、
- 最終見積:300万円
- 借主が施工会社へ300万円直接支払い済み
- 敷金精算でも300万円控除
となっていれば、同じ費用が二重計上されている可能性があります。
見積、請求書、支払記録、敷金精算書を並べて確認します。
敷金返還額より「いつ戻るか」が資金繰りで重要な場合がある
オフィス移転では、新しいオフィスでも敷金・保証金が必要になります。
一般的な工程では、
- 新オフィス契約
- 新オフィス敷金支払い
- 内装工事
- 引越し
- 旧オフィス原状回復
- 旧オフィス明渡し
- 旧敷金精算・返還
となります。
つまり、新オフィスの敷金を先に支払い、旧オフィスの敷金は後から返ってくる可能性があります。
移転費用と必要資金を分けて考える
例えば、
- 新オフィス敷金:1,000万円
- 旧オフィス敷金返還予定:800万円
でも、800万円が新契約時点ではまだ戻っていなければ、一時的には1,000万円を別途準備する必要があります。
この800万円は最終的には戻る可能性があるため「費用」と「一時的な資金拘束」を分けます。
オフィス移転費用全体については、オフィス退去費用はいくら?も参考にしてください。
敷金返還が想定より少ない場合に確認する順番
- 契約書の償却・敷引き条項を確認する
- 未払賃料等を確認する
- 原状回復費の最終額を確認する
- 直接支払い済み費用との重複を確認する
- 違約金等の契約根拠を確認する
- 精算書の計算を確認する
「返ってこない」と感じても、まず明細を確認する
例えば1,000万円の敷金に対して300万円しか返還されなかった場合も、すぐに不当と判断することはできません。
契約上の償却、原状回復費、未払賃料等が合計700万円なら、計算自体は契約に沿っている可能性があります。
一方、控除項目の根拠が不明、同じ工事費が重複、契約にない費用が含まれているなどの場合は確認が必要です。
高額な敷金精算で争いがある場合
数百万円・数千万円規模の敷金返還について、
- 原状回復負担範囲
- 償却条項
- 契約解釈
- 控除できる債務
に争いがある場合は、金額と契約内容によって弁護士等への相談も検討します。
単なる見積比較の問題と、契約上の法的争いは分けて考えます。
オフィス敷金返還のチェックリスト
- 預託敷金額を確認した
- 最新の契約書・覚書を確認した
- 返還時期を確認した
- 返還条件を確認した
- 償却・敷引きの有無を確認した
- 償却額の計算方法を確認した
- 未払賃料を確認した
- 共益費等を確認した
- 原状回復見積を確認した
- 原状回復費の支払方法を確認した
- 指定業者の最終請求額を確認した
- 違約金を確認した
- フリーレント返還等を確認した
- 精算明細を受け取った
- 二重控除がないか確認した
- 返還予定日を資金繰りへ反映した
オフィスの敷金返還についてよくある質問
オフィスの敷金はいつ返ってきますか?
全国一律の返還期間はありません。賃貸借契約が終了し物件を明け渡した後に精算するのが基本ですが、「明渡し後○か月以内」など契約で返還時期が定められている場合があります。
敷金は全額返ってきますか?
必ずしも全額ではありません。契約上の償却・敷引き、未払賃料、原状回復費、違約金その他の金銭債務が差し引かれる場合があります。
原状回復費は敷金から引かれますか?
契約・支払方法によります。貸主が原状回復費を敷金から精算する場合もあれば、借主が施工会社へ別途支払う場合もあります。
敷金償却とは何ですか?
契約終了時に敷金の一定額または一定割合を返還しない契約条件です。原状回復費とは別に償却される場合もあるため契約書を確認してください。
敷金償却は何か月分が普通ですか?
物件・契約によって異なるため、全国共通の標準月数は設定できません。現在のオフィス募集でも償却条件が設定された物件がありますが、自社契約の条項を確認する必要があります。
敷金を最後の家賃へ充当できますか?
借主側が一方的に敷金を最終賃料へ充当するよう求められるとは限りません。通常の賃料支払を続け、明渡し後に敷金精算する契約であれば、その条件に従います。
原状回復費を別で払ったのに敷金からも引かれています
同じ費用が二重に控除されていないか、原状回復請求書・支払記録・敷金精算明細を照合してください。
敷金より原状回復費の方が高かったらどうなりますか?
敷金だけで債務を全額精算できない場合、契約・確定した負担額に応じて追加支払いが必要になる可能性があります。
新オフィスの敷金に旧オフィスの返還金を使えますか?
返還時期が間に合えば可能ですが、一般には新オフィス契約が旧オフィス明渡しより先になるため、旧敷金返還前に新敷金を支払う可能性があります。資金計画では別に準備しておく方が安全です。
オフィス敷金は「預けた金額」ではなく「返還額と返還日」で管理する
オフィスを退去するときは、
- 預託敷金額
- 返還時期
- 償却・敷引き
- 未払賃料等
- 原状回復費
- 違約金等
- 最終精算額
を確認します。
敷金は会社の資金として将来返還される可能性がありますが、明渡し時に預けた全額がすぐ戻るとは限りません。
特にオフィス移転では、新オフィスの敷金支払いと旧オフィスの敷金返還に時間差があるため、返還見込額だけを移転資金へ組み込むと資金不足になる可能性があります。
「いくら預けているか」だけではなく、「何が差し引かれ、最終的にいくら、いつ戻るのか」まで確定させて退去予算を組むことが重要です。
契約・退去手続き全体については、契約・退去手続きガイドをご覧ください。
オフィス退去費用全体については、オフィス退去費用はいくら?で整理しています。
原状回復見積については、オフィス原状回復の見積はどこを見る?をご覧ください。
現在すでに敷金精算書・原状回復見積を受け取っており、何が差し引かれているのか、二重計上がないか、退去総額をどう整理すればよいか分からない場合は、お問い合わせから敷金額、退去日、原状回復見積、精算内容をご連絡ください。
