店舗やオフィスを閉店・移転するとき、「契約期間がまだ残っているが退去したい」という状況は珍しくありません。
ただし、事業用テナントは、閉店日や引越し日を決めればその日で賃貸借契約も終わるわけではありません。
確認する必要があるのは、現在の賃貸借契約に契約期間途中で借主から解約できる権利があるかです。
契約書に中途解約条項があれば、その予告期間や通知方法に従って終了できる場合があります。一方、期間の定めがある契約で中途解約に関する条項がない場合は、借主が一方的に好きな時期で契約を終了できるとは限りません。
テナントの中途解約では、「何か月前に伝えるか」だけを見るのではなく、契約形態、中途解約条項、違約金、原状回復、明渡し日までを一つの退去計画として確認する必要があります。
テナントは契約期間の途中でも解約できるのか
まず確認するのは、賃貸借契約に期間の定めがあるかどうかです。
店舗・オフィスなどの事業用賃貸借では、契約期間が定められているケースが多くあります。
期間の定めがある契約では、契約書に借主から期間途中で解約できる旨の条項があれば、その条件に従って中途解約を進めます。
一方、そのような中途解約権を定めていない場合は、「退去したい」と通知しただけで当然に契約を終えられるとは限りません。
したがって、閉店・移転が決まったら、最初に契約書の「解約」「中途解約」「解約予告」「契約期間」などの条項を確認します。
中途解約条項とは
中途解約条項は、契約期間の途中で賃貸借契約を終了させる条件を定めた条項です。
たとえば、次のような事項が定められます。
- 借主から中途解約できるか
- 何か月前までに通知するか
- 書面・指定書式など通知方法
- 予告期間を短縮できるか
- 即時解約する場合の支払条件
- 中途解約違約金の有無
- 短期解約時の追加条件
- フリーレント等の返還条件
「6か月前までに書面で通知する」「予告期間相当額を支払えば即時解約できる」といった内容が契約に置かれている場合があります。
ただし、予告期間や支払条件は全国共通ではありません。
テナントの解約予告期間についてはテナントの解約は何か月前かで詳しく整理しています。
普通借家でも契約期間途中なら自由に解約できるとは限らない
「普通借家ならいつでも退去できる」と考えるのも注意が必要です。
普通借家契約であっても、契約期間が定められている場合には、中途解約条項の有無を確認します。
契約書に期間途中の解約を認める条項があれば、それに従って解約できます。
逆に、中途解約条項がない期間の定めのある契約では、一方的な中途解約が認められないのが基本です。
その場合でも貸主と借主が合意すれば、契約期間途中で賃貸借を終了する合意解約は可能です。
定期借家はさらに中途解約条項の確認が重要
定期建物賃貸借は、原則として契約で決めた期間の満了によって終了する契約です。
事業用の店舗・オフィスで定期借家契約を結んでいる場合、「定期借家でも1か月前に言えば解約できる」と考えないよう注意してください。
法律上の1か月前申入れによる特別な中途解約制度は、一定の居住用建物を対象とした制度です。
通常の事業用店舗・事務所では、まず契約書の中途解約特約を確認します。
事業用定期借家については契約・退去手続きから関連情報を確認できます。ART-286では、事業用定期借家の中途解約をさらに詳しく扱います。
中途解約条項がない場合はどうするか
契約期間が残っており、中途解約条項も見当たらない場合でも、物理的に店舗やオフィスから荷物を出せば問題が終わるわけではありません。
貸主と契約終了について協議します。
合意する内容として考えられるのは、
- 契約終了日
- 終了日までの賃料・共益費
- 中途解約に伴う支払
- 原状回復工事の範囲
- 工事完了日
- 明渡し日
- 敷金・保証金の精算
などです。
貸主が合意解約に応じる義務が当然にあるという意味ではありません。
そのため、閉店や移転の必要性が高い場合は、できるだけ早い段階で相談することが重要です。
後継テナントを見つければ中途解約できるとは限らない
店舗では、居抜きで後継テナントを探し、「次の借主が見つかれば自分の契約もすぐ終わる」と考えることがあります。
しかし、後継テナント候補が現れたことと、現在の賃貸借契約が終了することは別の問題です。
後継者への引継ぎには、通常、貸主側の承諾や新しい賃貸借契約などが関係します。
また、後継テナントが決まった場合でも、既存契約に定めた解約予告期間相当額などが自動的になくなるとは限りません。
居抜きを使う場合は、
- 貸主へ居抜き承継が可能か確認する
- 現在の契約終了条件を確認する
- 後継テナントとの関係を整理する
- 造作・設備の譲渡範囲を決める
- 原状回復免除・変更があれば書面化する
という順序で進めます。
居抜きについては居抜き・造作譲渡も確認してください。
解約予告期間分を払えば必ず即時解約できるわけではない
事業用賃貸借では、「6か月前までに解約予告する」などの条項と合わせて、「6か月分の賃料相当額を支払うことで即時解約できる」と定めている契約があります。
しかし、契約にそのような即時解約条項がないのに、借主が予告期間分を一方的に支払えば必ず契約を終了できるという全国共通ルールがあるわけではありません。
確認するのは、契約書に、
- 予告期間
- 予告期間に代わる支払
- 即時解約
- 違約金
がどのように規定されているかです。
中途解約で確認する費用は一つではない
契約途中で退去するときは、「違約金」だけを見ても全体費用は分かりません。
| 費用 | 確認する内容 |
|---|---|
| 解約予告期間中の賃料 | 契約終了日まで通常賃料を支払うのか |
| 即時解約予告金 | 予告期間を待たずに終了する場合の条項 |
| 中途解約違約金 | 契約期間途中の終了に別途違約金があるか |
| 残存期間賃料 | 契約で残期間に関する定めがあるか |
| フリーレント等 | 途中解約時の返還条項があるか |
| 原状回復 | 内装・設備をどの状態へ戻すか |
| 残置物撤去 | 明渡しまでに家具・什器・設備等を処理する費用 |
これらは同じ性質の費用ではありません。
違約金の確認についてはオフィス退去の違約金で詳しく整理しています。
違約金が高額でも「必ず無効」「必ず有効」とは判断しない
事業用賃貸借では、契約で違約金や残存期間に関する条項を定めている場合があります。
その一方で、非常に長い残存期間の賃料相当額などについて、個別事案で条項の効力が争われた裁判例もあります。
そのため、
「事業用だから書いてあれば何でも全額有効」
あるいは、
「高額だから払わなくてよい」
と一律には判断できません。
金額が大きい、契約文言の意味が分かれそう、貸主との認識が一致しない場合は、契約書を持って弁護士等へ確認する方が安全です。
閉店日・退去日・契約終了日は同じとは限らない
店舗を9月30日に閉店しても、賃貸借契約が9月30日に終了するとは限りません。
オフィスを新拠点へ移転した日と、旧オフィスの契約終了日も同じとは限りません。
退去計画では、少なくとも次の日付を分けます。
- 営業終了日・業務終了日
- 引越し日
- 残置物撤去日
- 原状回復工事開始日
- 原状回復工事完了日
- 貸主検査日
- 明渡し日
- 賃貸借契約終了日
特に原状回復を契約期間内に終える必要がある場合、解約通知を出してから工事を考え始めると退去期限に間に合わないことがあります。
店舗の原状回復については店舗閉店時の原状回復、オフィスではオフィス原状回復の見積もあわせて確認してください。
解約通知を出す前に確認する7項目
1.普通借家か定期借家か
契約書の名称だけでなく、契約期間、更新・再契約の記載も確認します。
2.契約期間はいつまでか
満了まで何か月残っているかを確認します。
3.中途解約条項があるか
「解約」「中途解約」「期間内解約」などの条項を探します。
4.解約予告は何か月前か
3か月、6か月など契約ごとに異なります。
テナントの解約予告期間も参照してください。
5.即時解約・違約金の条項があるか
予告期間相当額、短期解約違約金、残存期間賃料、フリーレント返還などを確認します。
6.通知方法は何か
メールだけでよいのか、指定の解約通知書が必要なのか、貸主・管理会社のどこへ提出するのか確認します。
7.原状回復と明渡しをいつまでに終えるか
契約終了日から逆算して、残置物撤去、解体、原状回復、貸主検査の日程を組みます。
中途解約を進める実務の流れ
- 賃貸借契約書と特約を確認する
- 契約期間と中途解約条項を確認する
- 解約予告期間・即時解約条件を確認する
- 中途解約時の支払額を整理する
- 原状回復・明渡し条件を確認する
- 閉店・移転・工事工程を作る
- 契約指定の方法で解約通知を提出する
- 貸主・管理会社と退去工程を調整する
- 原状回復・残置物撤去を進める
- 完了確認・鍵返却・明渡しを行う
- 敷金・保証金等の精算を確認する
中途解約条項がない場合の相談材料
契約上の中途解約権がない場合でも、事業上どうしても退去が必要になることがあります。
貸主へ相談するときは、単に「解約したい」と伝えるより、
- 希望する契約終了日
- 退去理由
- 賃料をどこまで支払えるか
- 原状回復の予定
- 後継テナント候補の有無
- 居抜き承継の希望
- 引渡し可能日
を整理しておくと協議しやすくなります。
ただし、借主側の希望条件で貸主が合意しなければならないわけではありません。
テナントの中途解約でよくある質問
契約期間途中でも6か月前に言えば必ず解約できますか?
必ずではありません。6か月という予告期間が契約に定められている場合はその条項を確認します。中途解約条項自体がない期間の定めのある契約では、予告しただけで一方的に終了できるとは限りません。
事業用テナントの解約予告期間は法律で6か月ですか?
借主からの事業用テナント解約について全国一律に6か月と定めたルールではありません。契約書の中途解約・解約予告条項を確認してください。
契約書に中途解約について何も書いてありません
期間の定めがある契約では、一方的な中途解約が難しい場合があります。貸主と合意解約できないか相談し、必要なら専門家へ契約書を確認してもらいます。
定期借家でも途中で解約できますか?
契約に事業用の中途解約特約があれば、その条件に従える場合があります。居住用の一定の定期借家に設けられている法定の中途解約制度を通常の店舗・オフィスへそのまま当てはめないよう注意してください。
予告期間分の家賃を払えばすぐ出られますか?
そのような即時解約条項が契約にあるかを確認します。予告期間相当額を払えば常に一方的に即時解約できるとは限りません。
後継テナントが決まったら家賃の支払いは終わりますか?
自動的に終わるとは限りません。現在の賃貸借契約がいつ終了するのか、新しいテナントの契約開始との関係を貸主と確認してください。
解約通知を出した後に撤回できますか?
有効な解約通知を出した後、借主だけの判断で当然に元へ戻せるとは限りません。継続したい場合は早めに貸主へ相談し、継続を認める場合は合意内容を確認します。
中途解約の違約金と原状回復費は同じですか?
別の費用です。中途解約に伴う支払と、物件を返還条件まで戻す原状回復費用は分けて確認します。
「解約」と「解除」は同じですか?
実務では似た言葉として使われることがありますが、契約期間途中の借主からの終了申入れと、契約違反等を理由とする解除では法的な意味や条件が異なります。契約書に書かれている条項をそのまま確認してください。
中途解約では「退去できるか」を確認してから日程を決める
テナントの中途解約では、閉店日や移転日を先に決めてから契約を確認すると、想定していなかった賃料や違約金が残る場合があります。
先に確認したいのは、
- 契約期間
- 中途解約権の有無
- 解約予告期間
- 即時解約・違約金
- 契約終了日
- 原状回復・明渡し期限
です。
店舗の場合は店舗の解約予告、オフィスの場合はオフィスの解約予告もあわせて確認してください。
契約書を見ても中途解約できるのか分からない、原状回復や明渡しも含めて退去スケジュールを整理したい場合は、お問い合わせから契約形態、退去希望時期、物件種別などをお知らせください。
